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「なりたいエンジニア像なんてなかった」マネーフォワードCTO中出匠哉を導いた、“何とかする人”ブランディングとは?

働き方

    この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!

    「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに掲げ、お金の見える化サービス『マネーフォワード ME』や、バックオフィスSaaS『マネーフォワード クラウド』などを展開するマネーフォワード。

    フィンテック市場を代表するスタートアップとして急成長を遂げており、2020年11月期第一四半期は連結売上高が過去最高を記録。

    直近では新型コロナ危機の影響で急速に進む企業や行政機関のDX推進への貢献が期待されている。

    SIerなどを経て2015年にマネーフォワードに入社した中出匠哉さんは、2016年のCTO就任以降、テクノロジードリブンな組織作りやプロダクト開発でリーダーシップを発揮してきた。

    プロフィール画像

    株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 CTO
    中出匠哉さん

    2001年ジュピターショップチャンネルに入社。ITマネージャーとして注文管理・CRMシステムの開発・保守・運用を統括。07年シンプレクスに入社し、証券会社向けの株式トレーディングシステムの開発・運用・保守に注力。その後FXディーリングシステムのアーキテクト兼プロダクトマネージャーとして開発を統括。15年にマネーフォワードに入社し、Financialシステムの開発に従事。16年にCTOに就任

    意外にも、「『将来CTOになろう』なんて、全く考えていなかった」と語る中出さん。

    20代の頃はあえて“炎上”と言われるような、過酷なプロジェクトの渦中に飛び込んで仕事をしてきたという。

    一体何が、中出さんを現在のポジションへと導いたのだろうか――。

    コロナショック「全ての人、企業を救いたかった」

    「マネーフォワードは『お金を前へ。人生をもっと前へ。』をミッションとし、全て人のお金に関する課題の解決を目指している会社ですが、自信を持ってその目標を達成できているとは言えません。

    なぜなら、私の周りを見渡してみても、『全くお金の悩みがない』という人は少ないですから」

    マネーフォワードのプロダクトが市場から評価され続けている理由を問うと、開口一番に返ってきたのは想像以上に謙虚な言葉だった。

    「まだまだ自分たちは力不足だと感じています。実際、ここ数カ月で新型コロナの影響を受けて倒産する企業がありましたが、もし私たちが会社のミッション通り『お金の悩みがない世界』をつくれていたならば、そうした事態にはならなかったはず。

    全ての人、全ての企業を救えなかったということを、重く受け止めています」

    中出さんは「全て」という言葉を強調する。この社会に存在するお金の課題を「全て」解決するとなれば、その難易度はかなりのものだ。

    しかし、中出さんが果てしなく高い目標を掲げるのには、理由がある。

    「例えば、過去に甲子園で優勝した野球チームは、『絶対に優勝する』と決めて試合に臨んでいたはずですよね。ビジネスも同じです。

    高い目標を掲げ、覚悟を決めてそこにチーム一丸となって向かっていく。そうしないと、実現できることも実現できない。目線は高い方がいい。私は本気でそう思っています

    炎上プロジェクトは「成長にとって良い機会」

    近年のマネーフォワードの成長を下支えしてきた中出さんだが、CTOは目指してたどり着いたポジションではないという。

    「20代の頃に『将来はこんなエンジニアになりたい』なんてビジョンは、一個もありませんでしたね。全て成り行きです

    成り行きとは、どういうことなのだろう?

    「周囲から必要とされることをただひたすらにやってきたので、あまり仕事を選んできた覚えがないんです。ただその中でも、成長できる業務にアサインしてほしいとは言ってきました。それは例えば、炎上プロジェクトとか(笑)。

    課題だらけのプロジェクトにあえて身を置き、その解決に向けて試行錯誤することは、エンジニアが成長するには良い機会だと思うんですよ」

    中出さんはかつて勤めていた会社で、いわゆる“炎上”プロジェクトに携わったことがある。

    当時の中出さんは20代後半。重要な機能のリーダーを担当しており、1カ月遅延するとさらに1億円のコストが出るというヒリヒリした状況だったにもかかわらず、「危機的な状況に身を置くことで自然と成長できた」と、淡々と当時を振り返る。

    またチームをつくる際も、必要なスキルを持つメンバーが揃わない場合には、自分がその役割を埋める役割を買って出てきたという。

    「自分の役割が増えることに対して、『損している』とは思わなかったですね。未知の領域を経験した分だけスキルは身に付きますし、それがチームのパフォーマンスを最も高める方法だったので」

    マネーフォワードCTO中出匠哉さん

    “何とかする人”ブランディングが成長機会を呼ぶ

    「できそうにないこと」がたくさん転がっている場所に飛び込んでいけば、人よりも早く成長できる。中出さんは若くしてその法則に気付いた。

    「今よりも一つ上のポジションで仕事をするためには、それに足るスキルや経験が必要だと思っている人は多いかもしれません。でも実際はその逆です。

    自分の過去の経験を振り返ってみても、与えられたポジションに対して準備万端で臨めたことなんて一度もありません。新しいことに挑戦するとき、足りていない力は必ずあるものです

    成長できる環境に身を置きたいのなら、極端な例えだが、自分で会社をつくってCTOとなってしまえば、「会社が潰れないためにはどうしたらいいか」「社員の給料を来月も払えるか」「その上でいいサービスをつくるには」……と、そんなことまで自分ごととして考えるようになると、中出さんは言う。

    今の実力よりも上の課題をクリアすることを繰り返していけば、「この人は最終的には“何とかする人”だ」と周囲から思ってもらえる。

    すると、実力以上の仕事がどんどん舞い込んでくるようになるという。

    そうした「“何とかする人”ブランディング」を20代から意識していたからこそ、中出さんは人よりも多くの成長機会を獲得してきた。

    しかし、実力を上回る仕事に挑戦し続けるのは、かなりハードなはず。中出さんの原動力は一体何なのだろうか?

    「実際のところ、私は『プログラミングだけをして生きていければ幸せ』と思うタイプのエンジニアなんですよ。できれば黙々とコードを書いていたいタイプで(笑)。でも、それは趣味でもできるので、仕事では別の経験がしたいと思っていて。せっかくならビジネスパーソンとして、でき得る限り成長したいと考えたんです。

    そして、自分を手っ取り早く成長させる方法が、課題だらけの案件への飛び込みだったり、実力以上のポジションを引き受けることだったりしました。ほら、『ドラクエ』でスライムだけ倒し続けていても、レベルって大して上がらないでしょ。たくさんの経験値を得ようと思ったら、強い敵がガンガン出てくる洞窟にいかないと。それと同じ発想です」

    マネーフォワードCTO中出匠哉さん

    普遍的なスキルは「変化への対応力」

    マネーフォワードでは海外出身のエンジニアも多く働いている。国内外での採用活動に携わる中で、中出さんはあることに気付いたという。

    「面接などを通じて、海外出身のエンジニアは、自分がエンジニアとして世界を変えてやる、というような『野心』や『使命感』があると感じることが多い。ハードスキルだけでなく、ソフトスキルにも目を見張るものがあるんです」

    流行り廃りに左右される技術力とは異なり、ソフトスキルはどんな時代にも普遍的に求められる。中出さんは若手エンジニアにこそ、このソフトスキルを鍛えることに集中してほしいと話す。

    「『この技術で生きていく』とヤマを張ったところで、ほとんど意味がないと思うんです。実際、私が20代の頃に使っていた技術なんて、今はほとんど残っていませんから。

    これから世の中は大きく変わります。今まで課題だったことが課題でなくなったり、新たな課題が見つかることもあるでしょう。withコロナの時代には、世の中の変化に柔軟に対応し、どんな状況でも課題を解決できる力が何より大切です」

    時代の変化に左右されない、力のあるエンジニアになるためには、どんな経験を積めばよいのだろうか。最後にそう問うと、中出さんは「慣れですね」と即答した。

    「私は変化自体がそんなに怖くないんです。過去に経験してきたプロジェクトでは、全てがリセットされることは日常茶飯事でしたから。今までの努力が水の泡、みたいなことってエンジニアリングの世界にはそこかしこにあるはず。でも、そこで心折れないことが大事なんです。

    一見避けたいと思うような課題だらけの現場こそ、人を大きく育てます。『できること』に収まらず、『できそうにないこと』にも『できる』と思って飛び込んでみる。その積み重ねが新たな成長機会を運ぶ。それだけが、私の経験から言える仕事の真実です」

    取材・文/一本麻衣 写真提供/株式会社マネーフォワード
    ※この記事で使用している写真は、リモートワーク導入前に撮影されたものです。取材はオンラインで実施

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