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「自分の価値は、一つじゃない」復職エンジニアが見出した“最新技術キャッチアップ”以外の強み【Retty鈴木佑理さん】

働き方

    ※本記事は姉妹媒体『Woman type』の転載です。

    「メディアのインタビューに応えている女性エンジニアはみんなキラキラしていて、自分はこんな風にはなれないと思っていました」

    そう本音を語るのは、Rettyのエンジニア・鈴木佑理さん。20代で産休・育休を取得し、復職してからはバックエンドエンジニアとしてサービス開発に携わっている。

    鈴木佑理さん

    Retty株式会社
    鈴木佑理さん

    新卒でSIerに就職し、AndroidアプリやWebアプリの開発プロジェクトに参画。2015年にRettyに入社、18年には産休・育休を取得。19年5月、カスタマーサポートチームのエンジニアとして復職し、20年1月よりWebチームに配属となる

    復職直後は「育児も仕事も手を抜きたくない」と気負ってしまい、思い通りにできない自分に悩んだ時期もあったと語る彼女だが、取材に応じてくれた表情はとてもはつらつとしていた。

    一体何がきっかけで、鈴木さんは前を向いて働けるようになったのだろうか? 葛藤を乗り越えた経験を語ってもらった。

    ものづくりに対する情熱からエンジニアへ。女性の少なさは気にならなかった

    ――エンジニアになろうと思ったのは、何がきっかけだったのでしょうか?

    子どもの頃からものづくりが好きだったんです。特にハマっていたのはミニ四駆。スピードを上げるためにボディに穴を開けたり、モーターをいじったりするのが楽しかったんですよね。小学生の時にミニ四駆の大会に出たんですが、速すぎてコースアウトしてしまった思い出があります(笑)

    その後、大学生になった頃にちょうどスマートフォンが普及し始めて、iPhoneを手にしました。それをきっかけに、アプリ開発に興味を持つようになったんです。ユーザーの声を取り入れながらどんどん改善していく開発スタイルが魅力的だな、と思って。

    ――当時は、エンジニアを目指す女性は少なかったのではないでしょうか?

    ええ、ほとんどいませんでした。でも、新しいことにチャレンジしたい気持ちが強かったので、不思議と不安はなかったですね。

    なので大学卒業後はSIerに入社し、AndroidアプリやWebアプリの開発に携わりました。

    鈴木佑理さん
    ――Rettyに転職されたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

    昔から食べることが大好きだったんですが、気持ちが落ち込んでしまって、食事を楽しめなくなってしまった時期がありました。そんな時、友人がおいしい焼き鳥屋さんに連れて行ってくれて、元気を取り戻すきっかけになったんです。だから、自分もいつかは食に関わる仕事がしたいと思っていました。

    そんな時、Rettyの「食を通じて世界中の人々をHappyに。」というミッションが心に刺さったんです。

    Rettyに転職して最初に携わったのは、AndroidアプリやWebアプリの開発業務。2018年に産休・育休を取得して、翌年5月に復帰した後は、カスタマーサポートのチームで業務改善を目的とした開発業務を担当しました。

    去年の1月、Webチームに配属となってからは「Go To Eat」関連の開発などを担当したり、既存サービスの新機能開発を手掛けています。とてもスピード感のある環境ですね。

    失われた学びの時間。自問自答した「私の存在意義」

    ――エンジニアとして長く働き続けていくことに、不安を感じたことはありますか?

    あります。産休・育休を経て復職したタイミングが、一番不安が強かったです。

    鈴木佑理さん

    1年半ぶりに会ったメンバーは大きく成長しているし、新卒で入ってきた子たちもみんな優秀。自分が遅れを取っているように感じて、「私はここにいる意味があるんだろうか」と思ってしまいました。

    周囲との差を縮めようと頑張ってみたものの、とにかく時間がない。産休に入る前は、プライベートでも毎日1~2時間は勉強する習慣があったのですが、産後はそれも難しくて……。朝勉強しようと早起きしてみても、なぜか子どもも起きてくるんですよね(笑)

    そんな状況だったので、「これからちゃんと成長していけるのか」とずっとモヤモヤしていました

    ――育児をしながら勉強時間を確保するのは難しいですよね。

    そうなんです。しかも復帰したての頃は「家事も手を抜いちゃいけない」と思い込んでいました。

    料理もお掃除も毎日ちゃんとやりたいのに、どんなに頑張ってもお皿はどんどん溜まっていくし、食事が終わったらすぐに次の食事ことを考えないといけないし……。

    鈴木佑理さん

    振り返ってみると、少し完璧主義だったように思います。今は自分の中で許容範囲を決めて、多少手を抜けるようになりましたが、あの頃は本当にいっぱいいっぱいでしたね。

    同じように小さな子をもつ女性エンジニアが周囲に多くなかったこともあって、早くに人に相談できなかったことも思いつめてしまった要因の一つだったのかもしれません。

    仲間の言葉で気付いた、“技術力だけじゃない”自分の強み

    ――復職後に感じていた不安は、どのように解消していったのですか?

    思い切って、自分が抱えている不安を上司や信頼できるメンバーに打ち明けたんです。「子どもの都合で急に仕事を休むかもしれないし、技術のキャッチアップも十分にできないかもしれません」と率直に。

    すると、返ってきたのは「全然迷惑じゃないよ」という、気負っていたこちらが拍子抜けするほどまっすぐな答えでした。

    みんなが通るかもしれない道だから気にする必要は全くないし、サポートするよ」と。メンバーから迷惑に思われているかもしれないという私の心配は、杞憂に過ぎなかったと分かりました。

    そして、勉強時間が取れないこと、新しい技術についていく自信がないことに対して、上司から言われたのは「今までとは違うバリューの出し方があるんじゃない?」という言葉でした。

    鈴木佑理さん
    ――今までとは違うバリュー、とは?

    他のメンバーよりも長く勤めているからこそ持っている業務知識、そして、依頼側からの要件をきちんとヒアリングし、擦り合わせできるコミュニケーション力だと、上司は言ってくれました。

    それまで私は、エンジニアは常に最新の技術をキャッチアップしなければいけないと思い込んでいました。でも、今言った通り強みになるのは技術力だけじゃないし、業務だってプログラミングするだけではないんですよね。

    それに気付けたのも、「鈴木さんにはこんな強みがあるんだから、これからはそれを生かしていくといい」と言ってもらえたから。自分には強みがあって、日々の業務の中で生かすことができる、という意識を持てたのは、すごく大きかったですね。

    ――最新技術をキャッチアップするだけが大事なことではない、ということですね。

    そうなんです。データベース周りには普遍的な技術も多くありますし、最新技術に明るくないからといって、急にエンジニアとしての価値がゼロになるわけではありません。

    鈴木佑理さん

    とはいえ、最低限のアップデートはしていきたいので、今は業務時間内に学ぶようにしています。ソースコードを他のメンバーにレビューしてもらうプルリクエストを活用して、分からないことを質問したり、調べたりするようになりました。

    前のように勉強時間を確保することはできなくても、できることをできる範囲でやっていきたい。今はこれが、私にできるもっとも効率的な勉強法なんです。

    「私なんて」はNGワード。どんな状況でも自分の価値を信じ続けて

    ――復職後の不安を乗り越えた今、これからの目標を教えてください。

    女性エンジニアにはまだまだロールモデルが少ないので、出産前後のキャリアに悩んでしまいがちだと思います。私自身、メディアに載っている女性エンジニアのインタビュー記事を読だりしていましたが、どの方のキャリアも輝かし過ぎて「こんな風にはなれない」と感じていました。

    でも、それでエンジニアとしてのキャリアを諦めてしまうなんて悲し過ぎる。結婚しても、出産しても、長く働き続けたいと思っている女性エンジニアたちの力になりたいです。

    なので、まずは会社の制度に意見を挙げていきたいですし、自身の経験や、女性エンジニアのキャリアに関する情報を社外に向けても発信していければと考えています。

    ――社内外で女性エンジニアを支援していきたい、と。

    はい。エンジニアに限った話ではないとは思いますが、女性の場合はライフスタイルの変化によって、今まで通りのパフォーマンスを発揮するのが難しくなることもあるかもしれません。

    そのときに、「今まで通りやるんだ!」とがむしゃらになるのではなく、「自分にはまだ気付けていない価値がきっとあるから、それを見つけよう」と前向きに考えられる人が増えるといいなと思います。

    鈴木佑理さん

    私も昔は「私なんて」とか「まだまだだなあ」と頻繁に呟いていました。特に産後はその傾向が強かったかもしれません。でも、そういう言葉を口にしている間は、いつまで経っても自分のことを信じられませんでした。

    性格は人それぞれなので、必ずしも100%ポジティブになる必要はないと思います。でも、少なくともネガティブではない方がいい。どんな状況でも、「自分には価値があるんだ」と信じ続ける。それが、長く働く上で一番大切なことだと実感しています。

    取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太

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