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GMOペパボ・栗林健太郎が語る“逆算型キャリアデザイン”の落とし穴「人生の時間軸は人それぞれ違う」

働き方

    この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!

    日々目まぐるしく変化するWeb業界。その中で「エンジニアは変化に歩調を合わせ、学習し続けるべき」だと説く人物がいる。

    ハンドメイドマーケット『minne』やレンタルサーバー『ロリポップ!』などを提供するGMOペパボの取締役CTO、栗林健太郎さんだ。

    栗林さんは、新卒で奄美市役所の職員として働きながら独学で技術を身に付け、32歳でWeb業界に飛び込んだ経歴の持ち主。昨年からは仕事の傍ら、北陸先端科学技術大学院大学で情報セキュリティーやIoTを研究するなど、エンジニア界随一の勉強家としても知られている。

    冒頭で触れた通り、エンジニアに求められるものに「学び続けること」を挙げる一方で、「何歳までにこれをすべき、といった逆算的なキャリアデザイン論に惑わされてはいけない」と話す。

    それはどういうことなのか。栗林さんのキャリアをたどりながら、その言葉の真意を聞いてみた。

    プロフィール画像

    GMOペパボ株式会社 取締役CTO CTO室室長
    栗林 健太郎さん(@kentaro

    東京都立大学法学部政治学科で日本政治史および行政学を専攻。卒業後、2002年に奄美市役所に入職。08年よりソフトウエアエンジニアに転じ、はてなへ。12年からpaperboy&co.(現GMOペパボ)に勤務。Webアプリケーション開発者、マネジャー、執行役員を経て、17年に取締役CTOに。北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程に在学する社会人学生でもある。エンジニア界隈では「あんちぽさん」の愛称で知られている

    公務員から一転、32歳で“Web沼”に足を踏み入れた

    「学生時代の私は全く勉強熱心ではなく、暇つぶしの嗜好品として自分の好きな本を読みあさるような生活を送っていました。卒業後は地元に戻って市役所に就職し、社会福祉関係の仕事をしていて。その時に、本を読むだけでは飽き足らず自分で日記を書くようになりました。そのうちパソコンを買って、ブログを書くようになったんです」

    それまでノートに手書きしていた日記をネットに置き換えてみようと思い立ったのがエンジニア人生のスタート。市販のWebオーサリングツールで自身のブログを作ったのを皮切りに、見る見るうちにインターネットの深みにはまっていったという。

    「Webオーサリングツールの標準的な機能では飽き足らずHTMLを勉強し始め、そのうちデザインにも凝りたくなり、CSSを学びました。HTMLを自動生成するにはプログラミング技術が不可欠ですし、自宅でサーバーを立ち上げようと思ったらLinuxの知識が必要。『◯◯がしたいから◯◯を勉強する』という作業を繰り返しているうち、知らず知らずのうちにソフトウエアの知識やスキルが培われていったんです」

    GMO栗林健太郎

    そして市役所勤めの傍ら、6年の間にいくつものサービスを自前で立ち上げるまでになった。同時にネット上でWebエンジニアたちとの交流も生まれてきた頃、栗林さんにとっての転機が訪れた。

    「ある時、プログラミング仲間から『はてなさんが本社を京都に移して、エンジニアを募集するらしい』と聞き、心が動いたのを今でも覚えています。それまでの人生では一度も『自分でキャリアを切り開こう』『そのために、自ら行動してみよう』みたいな考えはなかったのですが、この時ばかりはすぐに応募しました。千載一遇のチャンスだと思ったからです。自分の状況と時代背景がうまくマッチしていたなとも思いますね」

    当時、2008年頃は『Web2.0』という言葉が注目されるようになり、さまざまなWebサービスが生まれ盛り上がりを見せていた時代だ。「この機に乗じて、Webの波に乗るのもアリかもしれない」と感じた栗林さんは、市役所を辞め、Webの世界に足を踏み入れた。

    変化が激しい今だからこそ「学び続ける」ことが重要

    こうして栗林さんは2008年にはてなに入社、12年には現在のGMOペパボに移り、17年からは取締役CTOという要職を務めるまでになった。これまでのエンジニア人生を振り返り、「行き当たりばったりなことも多かったが、逆にそれが良かったのかもしれない」と話す。

    「安定した職を辞めてエンジニアになったので、『よほどプログラミングが好きだったんだろう』と言われることもありました。しかし実際は、寝食を忘れるほどプログラミングにのめり込んだわけでも、『職業・Webエンジニア』になることを目的に技術を学んだわけでもありません。やりたいことを実現するために、必要な知識をその都度身に付けてきただけ、というのが事実です」

    戦略的にキャリアを歩んできた、というよりは「課題を乗り超えていたら、どんどん深みにはまってしまった感覚」だという。

    「Webエンジニアには、何よりもプログラミングが好きでたまらないタイプと、何らかの強い目的意識を持ってこの世界に入ってくるタイプがいます。私はそのどちらでもなくて、必要に駆られてやるべきことを粛々とやるタイプ。

    もちろん楽しいことばかりではないのですが、ネットが好きでやりたいことを続けていったら今に至っているという感じですね。今風にいうと『ネット沼にハマった』というのが近い表現だと思います(笑)」

    GMO栗林健太郎

    一方で、40代に差し掛かる数年前から、いつまでもこうしたスタイルに固執していていてもいいのか、自問するようにもなった。

    「永遠に生きられるのであればいいのですが、時間には限りがあります。事業やサービスと同じように、どこか一点にフォーカスを当てて取り組む時間がなければ、知識を体系化することはできません。これまでとは異なる環境とルールで学ぶ必要性を感じ、大学院で学び直しをしようと考えました」

    そして昨年、北陸先端科学技術大学院大学への進学を決めた。現在のGMOペパボのリソースにはない知識を得ることは、将来、ビジネスの糧になり得る可能性があるだけでなく、一度身に付けた知識を手放し、再構築するための良いきっかけになると考えたのだ。この「学び続ける」姿勢こそが、栗林さんのキャリアを支えている。

    「GMOペパボの取締役CTOに就いたとき、自分の経験を題材に『キャリアキーノート』を書きました。その中で『私たちを取り巻く環境が変化する以上、その変化に歩調を合わせ、学習し続けるべきなのは当然のこと。もし学ぶのを諦めると、周囲に悪影響をおよぼす“老害”になる可能性が高まる。そうならないために、いくつになっても学び続けよう』ということを書いたのです」

    この言葉が、今でも栗林さんの仕事における信念となっている。先に大きな目標を立てるのではなく、世の中の変化に合わせ学び続けていく姿勢こそがWeb業界に求められることだと、同社の若手社員にも伝えているそうだ。

    「まあ、『老害』という言葉選びは、今考えるといかがなものかと思いますけどね……。それはさておき、第一線で活躍したいならいくつになろうと、知識のアップデートを怠るべきではないという主張は今も変わりません」

    学びの選択に「時間軸」の観点を

    40代半ばで新たな挑戦と向き合っている栗林さん。自ら学び直しに励む中で改めて気付いたことがある。世の中に流布する「成功したければ何歳までにこれをすべき」的なキャリアデザイン論の落とし穴だ。

    「同じ年でも、アーリーリタイアを目指す人と年齢に関わらず一生働き続けたい人では、考え方やタイミングが違って当然です。私のように、働けるならいくつになっても働きたいと思う人であれば、投資回収が見込める40代で大学院に入るのは悪くない選択のはず。

    でもアーリーリタイアを目指す人にとっては、経済合理性もありませんし論理的な選択とは言えないでしょう。だからこそ、人生の時間軸の捉え方が異なる人を一緒くたに論じるのは危険だと思うようになりました」

    GMO栗林健太郎

    エンジニアにとって「学び続ける」ことが必要なのは、紛れもない事実。しかし学びのスタイルやタイミングは人によって違いや幅がある。まずは自分がどのような時間軸で生きたいのか、それを考えることが重要だと続けた。

    「何をいつ、どう学ぶかは人それぞれです。大学院だけが社会人の学びの場ではありませんし、もっと若いうちに学ぶべき人、逆にもっと成熟してから学び始める人がいたっていい。

    大事なのは自分がどのような人生を送りたいかを知ることであり、それに合う選択をすることです。それをおろそかにすると、無理を重ねて他人の人生をなぞるような生き方をせざるを得なくなってしまうかもしれません」

    そして「いつ何を学ぶとしても、頭がよく回る若いうちに、仕込めるものは仕込んでおいた方が得策という傾向はある」と、栗林さんは言う。

    「人間がこの先どれだけ進化しようとも、突然背中から羽が生えてくることがないように、学びによる変化は過去からの積み重ねで少しずつ起こるもの。だから私が若手エンジニアに言えることは『年齢や経験年数の軸ではなく、まずは自分の人生がどうなりたいかを考えて』、そして『一歩一歩着実に身の丈に合った学びを継続していく』ことが大事だということ。身も蓋もない答えかもしれませんが、結局それが真理なのだと思います」

    取材・文/武田敏則(グレタケ)

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