サイトオープン10周年特別企画
エンジニアのキャリアって何だ?技術革新が進み、ビジネス、人材採用のボーダレス化がますます進んでいる。そんな中、エンジニアとして働き続けていくために大切なことって何だろう? これからの時代に“いいキャリア”を築くためのヒントを、エンジニアtype編集部が総力取材で探る!
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優秀なテック人材を採用するべく、日々数多くのエンジニアと接しているテックカンパニーの人事たち。彼らの目に留まるエンジニアとは、一体どんな人たちなのだろうか?
今回お届けするのは、メルカリ エンジニア採用担当チームマネジャーの橋本真帆さん、グッドパッチHRBPの小山清和さん、LayerX人事・広報担当執行役員の石黒卓弥さんによる人事座談。
最近のエンジニア採用で新しく始めた試みや、エンジニア採用で重視しているポイントを本音で語ってもらった。
株式会社メルカリ
Talent Acquisition Team マネジャー 橋本真帆さん
Talent Acquisitionチーム。2018年11月にメルカリへ入社。コーポレートの採用担当を4カ月ほど担当したのち、エンジニア採用担当に。Diversity & Inclusion推進のイベントも企画運営中
株式会社グッドパッチ
コミュニティープランナー 小山清和さん
飲食チェーンの店長からキャリアをスタートさせ、6度の転職の後2016年10月にグッドパッチへジョイン。主に採用面で2020年6月の東証マザーズ上場に貢献し、2021年1月からはHRBP(Human Resource Business Partner)としてデザイン組織づくりに取り組んでいる
株式会社LayerX
執行役員 石黒卓弥さん
2015年1月、当時60人規模だったメルカリに入社し人事部門の立ち上げ、組織拡大を牽引。20年5月にLayerXに参画。人事・広報担当執行役員に。同年12月よりデジタル庁(仮称)設立に関するデジタル改革関連法案検討推進委員
小山:グッドパッチの新しい取り組みとしては、2月ごろにClubhouseで新卒向けのトークセッションを実施しました。今は諸事情から行っていませんが、「声」を使った発信の良さを感じましたね。候補者がオフィスに来る機会がほとんどなくなった今、少しでも社風を知ることができる場が求められているように思います。プラットフォームは検討しつつも、「声の採用」にはまた何かのかたちで挑戦してみたいと考えています。
石黒:Clubhouseに関して言うと、私が今でも覚えているのが、山田進太郎さんと鶴岡裕太さん、家入一真さんが盛り上がっていた1月24日の配信です。あの当時はかなり熱気がありましたね。LayerXではその2日後にClubhouseでの採用イベントを立ち上げて、それからさまざまなトライをし続けていますが、今も毎週木曜日にイベントを配信しています。最近はポッドキャストを立ち上げるなど、音声の配信チャネルを複数に増やしました。
橋本:メルカリでは『メルカリトーク』という採用イベントを開催しています。CHRO(人事最高責任者)の木下がホストとなってさまざまな部署のメンバーとClubhouseで話すコンテンツです。エンジニア職中心に海外採用も行っているので、英語で発信するケースもありますね。最近はYouTubeライブなどでイベントを行うこともあります。
石黒:ええ。小山さんの言うように、音声発信が応募者にとって良い体験になると気付いたので、今も継続しています。面談の時に応募者から、「Clubhouseで石黒さんの声を聞いていたので、今日は落ち着いて話ができそうです」と言われたことがあって。「声」を用いた発信は応募者にとって安心につながるのだと実感しました。
また、「メンバー同士の会話」を聞けるのも、音声発信ならではのメリットです。例えば、LayerXのClubhouseでスピーカーをやっている取締役の手嶋浩己さんは、われわれの業界ではかなり先輩なのですが、ルームを聴くと他のメンバーとの距離感含め、気軽に交流しているのが分かると思います。話す内容だけでなく、笑いの間やトークのテンポなどからも、メンバー同士の距離感を感じ取ってもらえるのではないでしょうか。
小山:グッドパッチも社員同士の距離感は近くて、代表の土屋の話に対してメンバーが突っ込むようなこともあります。そんなやり取りを聞いてもらえると、より社風を理解してもらえますよね。
石黒:LayerXに限らず、今まではトップ「だけ」が話す機会はかなりあったと思うんです。弊社の場合、代表の福島はstand.fmで番組を持っていますし、イベントに登壇する機会も多々ある。でも、トップとメンバーの「関わり方」を社外の人に見せる機会はあまりありませんでした。
社風はお互いの呼び方からも伝わりますよね。メルカリなら、山田進太郎さんのことをメンバーが「進太郎さん」と呼んでいる、みたいな。
橋本:そうですね。トップとメンバーの距離感が分かるメリットはもちろんありますし、それに加えて、音声発信は参加者のコミットがそこまで求められない気軽さが良いです。
採用イベントへの参加は、「強い意志がない状態で参加するのはまずいのでは」と躊躇してしまう方もいると思います。しかし、まだ検討段階の方にとってClubhouseやVoicyは、会社の中のことをラジオ的に聞ける便利なツールだと思いますね。
小山:ラジオ番組には必ず仕切り役の人がいますが、音声発信の際も同じように、トークする場にそうした役割の人がいないと、リスナーが置いてけぼりになってしまう可能性があります。求められていない方向に話が進んでしまわないように、あらかじめ登壇者間で役割分担しておく必要があると思いました。
石黒:LayerXでその役割を担ってくれているのは手嶋さんです。手嶋さんはご自身の立場は度外視した上で、常に「リスナーと同じ目線でやるから」と言っていて。リスナーにとってあまり面白くない方向に話が進みそうになったときに、「ちょっと今“電波”をキャッチしたんですけど、福島さんは週末は最近何やってるんですか?」などと言って、話の流れを変えるんですよ。このやり方なら嫌な空気になることもないし、非常に上手ですよね。仕切り役にはこうしたリテラシーが求められます。
石黒:ただ、仕切りが大事と言っても、議論を誘導しすぎると話の内容がつまらなくなってしまいます。リスナーが聴いて面白いと感じるのは、あらかじめ答えが決まっている話ではなく、その瞬間に生まれる「新鮮な話」のはずなので。他のコンテンツと違って、声は「編集不可能」だからこそ、生のものが伝わる良さがありますよね。
小山:確かに失言は許されませんが、訓練すれば人前で喋るスキルは鍛えられます。例えば、誰かの批判や中傷、会社のレピュテーションに影響する話といったテーマを避けるなど、スキルアップをすれば自然に話題の取捨選択はできるようになると思います。
石黒:それは難しい話で、私たちが「この人はまだ難しいかな」と思う人を出さずにいたら、その人は一生表に出る機会を得られません。候補者の方にはできるだけ会社を立体的に見てもらった方がいい。そのためには代表だけでなく、いろいろなポジションのメンバーが表に出る機会をつくることが大切です。
さらに、登壇者にはマーケットプレゼンスが上がるメリットもある。候補者のためにもメンバーのためにも、こうした機会は幅広く提供していきたい、そう思ってやっています。
橋本:カンファレンスに登壇されている方などはよくチェックしていますね。ただ、メルカリで選考の際に最も大切にしているのはミッションやバリューへの共感なのですが、それは実際に会わなければなかなか分からないので、面談時に必ず確認するようにしています。
石黒:大前提「SNSは好きなように使ってほしい」という思いがある上で、あえて言うとするならば、例えばTwitterで当社記事をシェアしていただいているとポジティブな印象を受けますね。嫌いな会社の記事はシェアしないと思うので。
橋本:確かに、LinkedInでメルカリをフォローしてくださっている方もいいなと思います。
小山:僕は、ミッションやビジョンに共感してくれる可能性のある方を探すために、グッドパッチや代表の発信に対していいねをしてくれた人はチェックしています。それで良さそうな方がいれば、こちらからメッセージを送ることもありますね。
小山:転職者のみなさんそれぞれで「年収〇万円以上がいい」「こういうポジションで働きたい」などの希望は当然あると思うのですが、ごくまれに、初めてのメッセージの段階で「全て自分に合わせてほしい」というスタンスの人がいて。まだ何も話していないのに最初からそうした態度をされてしまうと、コミュニケーションの継続はなかなか難しいなと感じます。
かと言って、変にへりくだる必要もないんです。入り口の段階では、とにかく“普通”に接するのがいいと思います。選考側、候補者側といった立場は関係なくフラットな態度が一番ですよ。
石黒:あとはシンプルに、「自分自身が一緒に働きたい人の行動」を意識するといいと思うんですよね。それが、働き方のスタンスがマッチするかどうかにもつながると思うので。
僕の印象に残っているのは、スカウトに対する返信が速い人や、文章がしっかりしている人です。例えば、スカウトして早く返事が返ってきたら、こちらとしてはすごくうれしい。「今は考えていない」という回答だったとしても、返事のあるなしでは印象が全然違います。忙しい中でも丁寧な対応をしてくださった方には、いつかまた絶対に声を掛けたいと思いますね。
石黒:そうですね。「気になる方リスト」は一応作成していますが、それが手元になかったとしても、本当に印象に残っている方は、何らかのリストを見なくとも空でバーっと言える。SNSアイコンと名前は大体記憶していますね。リクルーターのほとんどのがそうだと思います。
小山:グッドパッチでは、「それぞれの職種に対するリスペクト」があるかどうかを見極めるようにしています。当社ではデザイナーはエンジニアに、エンジニアはデザイナーに対するリスペクトが必要ですが、中には「エンジニアが上でデザイナーが下」というヒエラルキーがある会社で働いてきた候補者もいて、そこで形成された価値観が面談でふと出てしまう時があるんです。
小山:言葉のチョイスですね。例えば、業務委託のことを「下請け」「作業員」と呼ぶ人もいますが、もし相手のことを対等だと思っていたら「パートナー」「チームメンバー」など、相手を配慮した言葉が出てくるはずです。こうした言葉遣いに、その人が持つ価値観が表れると思います。
橋本:メルカリではエンジニアリングマネジャーの採用を強化しているので、「バックグラウンドが多様な人たちが集まったチームでパフォーマンスを発揮できるかどうか」を重視しています。文化も言語もこれまでの経験も全く異なる人たちをきちんと育て、チーム全体のレベルを底上げできるリーダーを求めているんです。
その上で重要なのはコミュニケーションスタイルです。「言わなくても分かる」ではなくローコンテキストでの話し合いができて、落とし所をみんなで見つけていける方なのかどうかを、過去の経験から確認しています。
石黒:LayerXには、「全ての経済活動をデジタル化する」という大きなミッションがあって、その下にさまざまな事業がひもづいています。請求書AIクラウドの開発や、研究開発を担うLayerX Labs、三井物産らとの合弁会社の設立などの全てが、ミッションを達成するための取り組みです。
したがって採用では「ミッション達成のためにどこまでやれる人なのか」を重視しています。必要なことをサボらずにできるかどうかを確認する一つの要素として、学習意欲のレベルはよく見ていますね。
石黒:LayerXでは、例えば物流の会社から受託を受けてブロックチェーンのコンサルティングをするとなった場合は、「物流の本を金曜日に5冊買って、週末に勉強してきた内容を月曜日にみんなで共有しよう」っていう感じなんです。学ぶ必要があるときは、一気にそれこそアニマルに学習するんですね。
今は請求書AIクラウドの開発に力を入れていますが、経理経験のあるエンジニアがいないので、開発/ビジネスサイド双方のメンバーがみんな簿記の勉強をしています。
石黒:そうですね。そこを同じベクトルでやっていけるかは非常に重視しています。今までの候補者の中には、まだ内定も出してないのに「週末に簿記の試験受けに行ってきます」という方もいて、その人はすごいなと思いました。
小山:確かに、面談中に「デザインの本読んでます」と言ってくれたり、会話の中でデザインに関する言葉が出てきたりすると、よく分かってらっしゃる方だなと思います。グッドパッチではデザインを「課題解決の手段」と捉えているので、そういう考え方を学ぼうとしている人だとうれしいですね。もともとデザインに興味があったわけでなくても、勉強してきていてくれている人だと面談は盛り上がりますよ。
橋本:メルカリでも、情報収集をされている方はかなり好印象ですね。ある海外在住エンジニアで、日本語の記事を自分で英語に翻訳して読んできてくれた方がいたんです。「この部分に共感しました」なんて話をされたときは、この人にはぜひ入ってもらいたいなと思いました。きっと入社してからも、そうやって自分で情報を取りにいける方だと思うので。
それから、アメリカのアプリを使っていた日本のエンジニアや、日本のアプリを使っていた海外のエンジニアもいました。そういった方は会社に対する興味や情報収集力が圧倒的に異なる印象を受けますね。
橋本:どれだけ調べてきてくださったのかは、特段アピールしなくても自然と伝わるものだと思います。例えば、アサインされる可能性のあるチームの話になったとき、「そのチームのことは大体知っています。あの記事で読んだので」というような感じで。
小山:何にでも「興味がある」人はたくさんいると思うんです。でもそれを実際に「行動に移せる」人は少ないですし、「継続できる」人は相当絞られます。
石黒:学習意欲を見るのは、そこに再現性があるからでもあります。入社後も学び続ける姿を想像できる方だと、もっと話を聞きたくなりますね。
ちなみに、学習意欲が大事なのは私たち人事にも言えること。「Clubhouse面白そうだね」と言うのは簡単ですが、実際に使ってみるのは勇気がいりました。Clubhouse以外に使ってみたけど全然うまくいかなかったツールなんて山のようにありますが、それでも実際に行動に移すことが大事だと考えています。
石黒:ただ、好印象を残そうとするより、お互いに「1対1の人間だ」と思って接することができるといいですよね。「候補者と人事」とすら、あまり思わない方がいい。初めて話す人に失礼がないようにするという、当たり前のことを当たり前にやれる人が、結果的に好印象を残すのだと思います。
取材・文/一本麻衣 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)
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