社長は「敏腕プログラマー」より「アンテナの多いエンジニア」と出会いたい【ベンチャーCEO座談会】
「ビジネスにつながる喜び」を感じてくれる技術屋は貴重な存在
高橋 うちが開発しているソフトウエアは、プロジェクトマネジメントに特化した管理ツールなんですが、ある時それが大手企業に売れたんです。その時の彼の喜びようが半端じゃなかった。
加藤 そうなんですか。
高橋 もちろん、ソフトが完成した時もうれしそうでしたが、その比じゃなかった。彼はエンジニアだから、当然作る喜びが大きいけれど、それ以上に、ビジネスが大きく成長することを喜びにする人なんだって分かったんです。
加藤 経営者からすると、それはとても心強いですよね。なかなか見つからないですよ、そういう志向の技術者は。
草野 僕らの会社がベンチャーだからこそ、という面もあるのでしょうね。大手のシステム企業で開発をしていても、「自分の作ったものが売れた!」という醍醐味を感じられる環境にいないこともありますから。
加藤 それもありますが、同時にベンチャーだからこそお客さま目線でモノづくりができる、という良さもあると思います。大手と違って、作り手自身がユーザーの反応をつぶさに見て取れる。だから、より良いプロダクトを作ろうという気持ちになりやすい。
高橋 そう感じてくれるエンジニアがいてくれたら、僕ら経営者は心強いですよね。何といっても、方向性を決めるまでは一緒に考えるけれど、実際の形にしていくプロセスはエンジニアに任せるしかないですから。
草野 そこですよね、肝は。本当に信頼できる相手じゃないと、自社プロダクトの開発を任せ切るわけにいかない。わたしも過去に開発案件すべてをエンジニアに任せ切ってしまって、失敗したこともありました。
加藤 失敗といえば、わたしの場合は受託案件に手を出して大失敗をしたことがあります。
「自社開発を優先か、受託を伸ばすか」のジレンマとどう付き合う?
加藤 当社は設立当初からネットワーク監視システムの最適化を目指していたんですが、いきなり自社開発のシステムが売れまくったわけではなかったんですね。やはり、2年目3年目は会社を維持していくことに苦心していました。そんな時に、ある企業からプロジェクトマネジメントをしてくれないか、という依頼が来たんです。
高橋 どんな案件だったんですか?
加藤 わたし一人が参画して週2回ペースで現場に行き、3カ月ほどでフィニッシュすればそれで終了、という内容でした。社員に負担をかけずに資金を増やすことができるので、「助かった」と思ってすぐ請け負ったんです。結果、どうなったかというと、そのプロジェクトがまったく機能しなくなり、どんどん期限が延びてしまって。最終的には当社の技術者も全員投入して、何とか1年がかりで終了しました。もちろん、大赤字(苦笑)。
高橋 受託案件というのは、経営者にしてみればとても魅力的に映りますからね。「このコア事業を確立できたら、高収益で成長できる」と思って追いかけていても、すぐには実を結ばない。そうなれば、やはり心は動くものです。
草野 自社開発型のベンチャー企業でも、経営を軌道に乗せるまでは受託仕事で食い扶持を稼がなければいけない。高橋さん流に言うと、フロー型の仕事ですよね。でも、これって失敗以外にも恐ろしい部分があって、受託ビジネスがうまくいき続けると、社員がそれに慣れてしまうんです。
加藤 それはあるかもね。
草野 ストック型の事業になり得る自社開発が勝負どころを迎えているのに、肝心のエース級エンジニアが皆受託案件で外に行ったきり、というのでは、話にならないですから。
高橋 じゃあ、いつストック型の事業にリソースを集中させればいいのか、どの程度フロー型の事業を小さくするか。その意思決定の局面で、僕ら経営者は力を問われますよね。口で言うのは簡単だけれど、これほど難しい決断はない。
草野 当社が恵まれていたのは、企業のデータ分析を独自に行えるプレーヤーが国内では非常に少なかったこともあって、早くからプロフィッタブルな事業にしていけたこと。受託案件は、その不足分を埋める感覚で引き受けていけばよかったんです。
加藤 うちはさきほどお話した経験をきっかけに、受託案件を一切やめました。これは大きな決断でしたが、失敗を教訓にしてやってきたからこそ、今の収益があるんだと思っています。
高橋 ええ、たくさんありますね。
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