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社長は「敏腕プログラマー」より「アンテナの多いエンジニア」と出会いたい【ベンチャーCEO座談会】

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    「作る」ことにしか目が行かない人に、権限委譲はできない

    ベンチャーのような「小さな組織」で重宝するエンジニア像について持論を語る草野氏(写真中央)

    ベンチャーのような「小さな組織」で重宝するエンジニア像について持論を語る草野氏(写真中央)

    高橋 わたしが日ごろから考えている頼もしいエンジニアの条件の一つは、先ほど話した「ビジネス面の成果を喜びだと感じる」という資質ですね。

    加藤 わたしも、先ほど挙げた「お客さま目線で考えてくれるエンジニア」という部分を重視して今も採用をしています。

    草野 当社の場合は事業内容もあって、マーケティング領域に目が行くかどうか、というのは見ています。言葉は違うけれども、高橋さんや加藤さんと同じだと思います。

    ―― どの点が「同じ」なのでしょう?

    草野 エンジニアというのは、素晴らしいもの、面白いものを作ってナンボなわけですが、「作る」ことにしか目が行かない人だと、僕らの立場としては「じゃあ任せたよ」とは言いづらい、ということです。

    高橋 きっと3人とも、そのポイントは一緒ですね。自分が満足する、というのもクリエイティブな仕事は大切だけど、同時に使い手であるユーザーが満足してくれるかどうか。そこを重要だと考えてくれるエンジニアだったら、本当に頼もしく思えますね。言い方を変えれば、それって経営とかマネジメントに関心を持っているということでもあるから。

    加藤 ただ、大手とは違って、マネジメントだけを専門にする技術者が必ずいなければいけないわけでもないじゃないですか。人数が増えてもベンチャーであることに変わりはないので、プレーイング・マネジャーで良いんだとわたしは考えています。うちの場合だと、マルチベンダー対応という難易度が高くて幅広い技術を、経験によって習得してきた者が、現場に降りていって背中を見せる。その背中を見て若手が育つ、という環境が理想だと思っているんです。

    草野 そのサイクルは素晴らしいですね。

    加藤 草野さんのところはどうです?

    草野 うちの場合は、「自分なりのアンテナをいくつも持っているエンジニア」にはすごく頼もしく感じます。ベンチャーのような小さな組織だと、全員が同じ感度のセンサーしか持っていないようでは、組織自体が危うくなってしまう。例えば、最新の技術トレンドについてわたしのセンサーには引っかからなかった情報を、力のあるエンジニアが独自に集めていて、「データマイニングでもこういうことができるんじゃないか」なんて提案をしてくれると、本当にうれしくなる。

    高橋 その逆も然りで、アメリカあたりならば、経営やマネジメントの超一流プロフェッショナルみたいな人がたくさんいて、そういう人たちがエンジニアに手を差しのべてくれるじゃないですか。だからこそ、ザッカーバーグのような若いプログラマーがのびのびと開発をしていけるんだと思うんです。

    ―― Googleでも、以前はエリック・シュミットがその役割を務めていました。彼は技術的なバックボーンを持ったプロ経営者でしたが。

    高橋 ただ、サーゲイ・ブリンもラリー・ペイジも、ザッカーバーグだって、そういうプロ経営者といるうちに、自ら経営者として覚醒していくわけですよね。

    草野 そうですね。

    Googleを「世界的企業」に成長させるのに多大な貢献をしたと言われているエリック・シュミット氏

    From TechCrunch
    Googleを「世界的企業」に成長させるのに多大な貢献をしたと言われているエリック・シュミット氏

    高橋 このプロセスがとても大事で、日本の場合は環境が違います。僕ら経営者が会社のマネジメントのみに集中できる余裕があれば違うのかもしれないけれど、起業してからの数年、わたしは現場を担当したりして、フル回転で動くしかなかった。

    ―― ベンチャー経営の難しさの一つですね。

    高橋 わたしの場合、腰をすえて社長業ができるようになったのは、ここ1~2年だけです。

    加藤 わたしも同じです。営業をしたり、新規の案件をまとめ上げたりに追われていましたから、経営に専念できるようになったのはつい最近。

    草野 わたしもですよ。だからこそ、経営とかビジネスにもちゃんと関心を持ってくれるエンジニアは、すごく頼もしいんですよね。

    「敏腕エンジニア」が必ずしも「頼れる参謀」にならない理由

    高橋 そうですね。最近のスタートアップ企業の中には、CEOもエンジニアだというところが少なくないようですが、むしろそういうところこそ、経営者はどのタイミングで現場と一線を引けるかが問われるでしょうね。企業そのものが成長していくには、しっかりと経営に専念する気持ちが必要ですから。

    草野 そもそも起業したばかりのころは、「誰が何の専門性の持ち主か」じゃなく、皆で営業したりとか、そういう毎日じゃなかったですか? そんな時に、「いや、自分はエンジニアなんで」とか言う人間とは一緒にやっていけませんよ。

    加藤 うちは社員の大多数がエンジニアですけれど、全員でやりましたよ、ビラ配り(笑)。

    高橋 究極はそこですよね。もちろん、いつまでもビラ配りはしないけれど、「わたしは技術者なので」という狭い考えのエンジニアがいて、仮に彼がスゴ腕プログラマーだったとしても、それは「敏腕」なだけで「社長の右腕」にはならない。

    加藤 そうそう。

    草野 頼りにしたいのは、その人が何屋さんなのかに関係なく、一緒に目標を目指して動ける人。そもそも「エンジニアはこうあるべき」という発想自体がおかしいんでしょうね。今日の対談の結論はそこかもしれない。

    高橋 今の日本の環境では、エンジニアが「作りたいものだけ作ればいい」なんてことは不可能だし、それを追求したい人が仮に素晴らしい技術力を持っていても、僕らのようなベンチャー経営者はその人を「頼もしい」とは思わないということですよ。

    草野 今はSIにしてもソフトウエアの開発ビジネスにしても、頭打ちになっているところが多いじゃないですか。ベンチャー企業にいるエンジニアだけでなく、大企業にいるエンジニアにしても、「自分の仕事はこれとこれ」みたいな意識を変えていかなければ、もう生き抜いていけないと思うんですね。

    ―― なるほど。今日は貴重な示唆をありがとうございました。

    取材・文/森川直樹 撮影/小林 正

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