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今、スタートアップがエンジニア採用で「共感」を重視するワケとは? ミラティブ、LayerX、カミナシに聞く共感ポイントの見つけ方

転職

最近、スタートアップのエンジニア採用で「共感採用」が重視されている。

共感採用とは、企業の成し遂げたいビジョンやミッションに候補者が心から「共感していること」を重視した採用を行うこと。

エンジニア採用においては仕事の性質上スキルマッチを重視するスタートアップも多かったが、今はカルチャーフィットする人材を採用しようという動きがより顕著になっている。

そのため、各社の人事・採用担当は自社のミッション・バリューを求人で打ち出したり、カジュアル面談プラットフォーム『Meety』などを活用したりしながら候補者とのコミュニケーションを図るようになった。

では、なぜ今スタートアップではエンジニア採用で「共感」をよりいっそう重視するようになっているのか。また、これから転職に臨むエンジニアは、心からビジョンやミッションに共感できる会社とどうすれば効率的に出会えるのか。

「共感採用」を重視するミラティブのCTO横手良太さん、LayerXのエンジニア中川佳希さん、カミナシのPM後藤健佑さんに話を聞いた。

各社のミッションと事業

ミラティブ
ミッション:わかりあう願いをつなごう
事業:ゲーム&アバター配信アプリ『Mirrativ』

LayerX
ミッション:すべての経済活動を、デジタル化する。
事業:「バクラク請求書」「バクラク申請」「バクラク電子帳簿保存」の提供(SaaS事業)、アセットマネジメントを扱う合弁会社の運営(Fintech事業)、プライバシーテックのR&Dと事業化(Privacy Tech事業)など

カミナシ
ミッション:ノンデスクワーカーの才能を解き放つ
事業:工場や店舗などの現場管理業務を自動化する現場改善プラットフォーム『カミナシ』

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株式会社ミラティブ
CTO 横手良太さん

早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科を卒業後、同大学大学院へ進学。2014年、株式会社DONUTSに入社しスマートフォンゲーム開発に従事。退社後、フリーランスのエンジニアを経てミラティブに参画。21年4月、CTOに就任

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株式会社LayerX
エンジニア 中川佳希さん

新卒でエウレカに入社し、2016年よりフリーランスエンジニアを経て、20年LayerXへ入社。リードエンジニアとしてバックエンドからフロントエンドまでの開発を担当

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株式会社カミナシ
PM 後藤健佑さん

名古屋工業大学卒業後、WebエンジニアとしてEC系のバックヤードサービス開発の経験を積み、2019年10月よりカミナシに入社。エンジニア、テックリードを経て、現在はPMとして開発チームを牽引

変化が激しいからこそ、「信じられる何か」に集えるか

――最近、スタートアップのエンジニア採用で「共感採用」が主流になりつつあるのはなぜなのでしょうか?

横手:スタートアップの事業や組織は、常に状況が変わるもの。極端な話、今と3年後では全く違う組織になっていることも珍しくありません。

どの会社も創業してから数年のうちにたいてい事業をピボットしているし、それと同時に扱う技術もどんどん変えている。経営判断がスピーディーに変わることもあるはずなので、その時々でやることが違うのは当たり前なんですよね。

そうした中でも会社として何らかの結果を出すためには、その時々で「やる」と決めた事業をとにかくやり続けなければいけません。

だからこそ、その企業で何ができるか以前に、「この社会にこの会社が存在している意義」そのものに共感していないと、せっかくスキルのあるエンジニアの方を採用できてもお互い幸せになれないというところが大きいと思いますね。

ミラティブ、LayerX、カミナシ

――ピボットの話だと、LayerX代表の福島さんが自身の『note』に書かれた「LayerXはブロックチェーンの会社じゃありません、という話」がSNSでも話題になっていましたよね。

中川:実際、僕が選考を受けている時(2020年5月ごろ)はまだ「LayerXはブロックチェーンの会社」という印象が強かったし、入社課題もブロックチェーンの内容だったんですよ。現在のメイン事業となっているDXやSaaSは全くやっていなくて。

でも、ちょうど入社したくらいのタイミングで、会社の方針転換が発表されたんです。

でも、現場で見ていてもクライアントに話を聞いていても「デジタル化にはもっと細やかなステップが必要だ」ということは感じていたし、今やっているSaaS事業も「全ての経済活動をデジタル化する」という企業理念からは全くブレていないので、ブロックチェーンから離れることになっても戸惑いを感じることはなかったです。

――中川さんは入社前から「全ての経済活動をデジタル化する」というミッションそのものに共感していたのでしょうか?

中川:そうですね。ただ、正直なことをいえば、100%共感できていたかというとそんなことはなかったです。入社前には想像がつかなかった部分もありましたから。でも実際に働いていく中で、ミッションへの共感度はますます上がっていきました。

チームのエンジニア一人一人がそのミッションの実現に向けて技術を磨いていたし、自分もそれに感化されるように、技術者としての腕を磨いて本気で「全ての経済活動をデジタル化する」ことに取り組みたいと思うようになったんです。

他のエンジニアも多分同じで、今もブロックチェーンが好きで自主的に技術のキャッチアップをし続けている人もいますけど、目的達成のための手段や扱う技術が変わったからといって、仕事に対するモチベーションが下がった人はいないように思いますね。

――カミナシさんも2019年11月に事業をピボットしていますね。

後藤:ええ。CEOの諸岡(裕人)は、この方針転換で「既存のメンバーが半分くらい去ってしまうのでは」ということも覚悟しての決断だったようです。

ただ、実際は当時のCPO以外は一人も辞めることはなかった。そのCPOも、その決断を受け入れられなかったからというわけではなく、「彼は彼の考えるやり方でミッションを実現したい」ということで、あくまで円満退社という感じでしたね。

何の事業に注力するかは、その会社のミッションをかなえるための手段です。もちろん事業が好きになって入社するのもいいけれど、変化が多いスタートアップにおいてはピボットする可能性も大いにあります。すると、ピボットした瞬間にギャップを感じることになりかねません。

だからこそ、その会社の根底にあり、何が起きても変わらないミッションやビジョンの部分に共感できるかどうかを見極めることが大事なのかなと思います。

あとは、僕自身は会社のミッションやビジョンへの共感以上に、カルチャーへの共感が大事だなと思っていて。

会社の持つ空気感って本当にさまざまで、カミナシの場合は「優しい人ばかりだけど、みんな目が燃えている」みたいな感じなんです。やっぱり同じような価値観を持った人たちと同じところを目指していくのってめちゃくちゃアツいし楽しいんですよ。

その部分は事業が変わっても変わらないし、今後会社が大きくなったとしても変えてはいけないところだと思うんです。だから、そこに揺るぎなく集えるか。採用としては、その空気感をできるだけ言語化して同じような仲間をいかに集められるかが必要だと感じています。

ミラティブ、LayerX、カミナシ

横手:事業ピボットほど大きな話ではないにせよ、コロナ禍でリモートワークに切り替わったとか、出社に戻ったとか、働き方の変化も最近は目立つじゃないですか。

そこにアジャストできるかどうかって「リモートワークがいいか悪いか」というよりは、「環境が変わってもその会社にいたいと思えるか」なんだろうなと直近で思ったところです。

そこで働くメリット、デメリットで会社を見比べることもできますけど、最終的にはエモーショナルな部分での共感が重要になってくる。

特にスタートアップの場合は変化が激しいから、大企業よりも感情的に「ここにいたい」と思えるかどうかが大事なのかなと。

共感採用は、「正しい姿」を知ってもらうところから

――具体的には、皆さんはどうやって会社への共感度が高いエンジニアを採用しているのでしょうか?

中川:スタートアップの場合は、会社について「そもそも知られていない」もしくは「正しく知られていない」ことが大半なので、採用活動よりも前に、会社を正しく知ってもらうこと、いわゆる広報活動が欠かせません。

そこで、LayerXでは今、全員で「10月から12月まで毎日ブログを書こう」という取り組みをやっています。中で働いている人のことが伝わりやすいし、「ブロックチェーンの会社」というパブリックイメージを変えていきたいので。もっと会社を多面的に見せていきたいと考えてのことです。

特にLayerXのようなtoBサービスの場合は、一般の人の目に触れることも使われることも基本的にないので、そもそもわれわれが作っているサービスが何か、それを作る面白さとはどんなものかも認知されていないことが多くて。

僕自身は、『バクラク請求書(クラウド請求書受領ソフト)』の開発にめちゃくちゃ熱を持って取り組んでいるんですが、「請求書処理の業務システム開発って、なんか地味そう」と言われた時はちょっとショックでしたね(笑)

でも、外の人から見るとそういうふうに見えることは仕方ないし、じゃあどういう見せ方をしたら、「やってみるとこんなに面白い」と伝えることができるのか、常々考えながら発信を続けています。

ミラティブ、LayerX、カミナシ

後藤:その気持ち、めちゃくちゃ分かります(笑)。カミナシのtoB向けサービスは基幹系かつホリゾンタルSaaS(業務課題を解決するSaaS)でもあるので、各業界の構造もかなり複雑なんですよ。

エンジニアの人って難しい課題を理解したり解くのが好きな方も多いから、ここでは「こんなにハードルの高いチャレンジができる」と伝えたいんですけど、外からは分かりづらいからうまく伝わらないことも多くて。

中川:それでいうと、ミラティブさんはゲーム配信アプリ『Mirrativ』があるから、外の人から事業内容を比較的分かってもらいやすいですよね? 「世界中の何百万人が使うサービス」を開発できるイメージも湧くし、エンジニア視点でここで働くのは面白そうだと思える。

横手:でも、プロダクトがtoCとはいえ、ミラティブもエンジニア採用には苦労していますよ。「ゲーム配信のサービスなんでしょ? そんなのいっぱいあるじゃん」と言われてしまう。

いやいやそうじゃなくて、ゲーム配信のコミュニティーサービスっていうのは世界を見渡しても『Mirrativ』しかないんだよって言いたくなるんですけどね。本当に伝わらないんですよ。

ミラティブ、LayerX、カミナシ

――だから、スタートアップで働く皆さんは、ブログでの発信やカジュアル面談ツールの『Meety』などを活用して情報発信を積極的に行っているわけですね。その後の、スカウトや選考ではどうですか?

後藤:SNSなどを通して当社への共感度が高そうなエンジニアの方を見つけたら、スカウトを送る前からストーカーばりにその人のことを調べまくります。

――ストーカーばりに(笑)

後藤:ええ。僕の場合は、ですけどね(笑)。長い時は一人に対して2時間くらいかけて、その人のTwitterの投稿とかGitHubのコードを全部見つくして、スカウト文面で「この個所のGoのルーチン分岐、めっちゃイケてます」とか「ここを並列でやったのは面白いと思いました」とか具体的に書いて送る。

投稿の内容やコードの書き方でその人の志向性がよく分かるし、そこへの感想をスカウトに載せることで僕らの本気度も伝えられると思ってのことです。たまに候補者の方に「すごい見てますね」って引かれることもあるんですけど(笑)

でもそこまでやるからこそ、面談や面接は考え方や興味、フィーリングが会社と合うかどうかを見極めることに費やせて、結果的に共感度の高い仲間の採用につながるのかなと思っています。

横手:ミラティブでは面接前のカジュアル面談の数を多めにして、候補者の方の「共感度」を見たり、そこで育てたりしていますね。

当社は「わかりあう願いをつなごう」というミッションを掲げていますが、この抽象的なミッションに共感しているかとか、会社のカルチャーに共感できるかを選考中の短時間で見極めるのは難しい。

だから、手間をかけてでも候補者のエンジニアと対話する時間を増やさないといけないなと。

多い人だと面接前に3回くらい面談することもありますね。そこで会社の理念についてもお話しして、それに納得感が得られた人だけ選考に進んでもらう感じです。

中川:僕がLayerXに入社したときに共感度が高まったのは、入社課題のフィードバックをかなり丁寧に行ってもらえた時でした。

今もWebエンジニアの選考ではコーディング試験を受けてもらっているんですが、解いてもらった後の採点で「ここがグッドポイントだった」「ここはワンモア欲しかった」など、コメントを必ず書いてお戻しすることを社内で徹底しているんです。

「技術に真摯に向き合う会社」だとお分かりいただけると思いますし、実際、僕をはじめ多くのエンジニアがそういう当社のカルチャーに共感入社してくれています。

仮にその人が内定に至らなかったとしても、この選考を通して何かプラスなことを持ち帰ってほしいし、LayerXのことをより深く知ってほしいと思っています。

――面談回数を増やしたり、情報発信の頻度を増やしたり、共感採用を大事にすると採用にかける時間やコストも増えると思います。中川さんや後藤さんはサービス開発がメインミッションのはずですが、ここまで採用にコミットするのはなぜなのでしょうか?

後藤:自分の隣で働く仲間を採用するわけですから、入社後に噛み合わないのは自分にとっても相手にとっても不幸だし、それはなるべく避けたい。

それに、採用活動を通じて「今はこういう技術が人気なんだ」「こういう課題解決の方法もあるんだ」と、最近のトレンドとか他社の事情なんかもインプットできるので、意外と勉強になるんですよ。

ミラティブ、LayerX、カミナシ

中川:僕も、会社が掲げているミッションを一人で達成するなんて到底無理だと分かっているから、自分自身が採用に力を入れなければ、と自然に考えます。

自分の業務が回ればOKという状態では全くないから、「やるしかない」っていう感じですね。

「何に共感できるか」はどう見つければいい?

――では、スタートアップ転職を検討中のエンジニアは、どうしたら共感度の高い会社と出会えると思いますか?

横手:少しでも気になる何かがある会社の採用サイトをしっかり見るとか、技術ブログを読み込むとか、方法はいろいろあると思います。ただ、表面上の情報しか得られないケースも会社によってはありますし、結局はいろいろな人に直接会って話してみるのが一番いいと思いますね。

――転職者にとっても「足で稼ぐ情報」が大事ということですね。ただ、カジュアル面談といっても、「(その会社への)入社意欲がそこまで高くない状態で申し込んじゃってもいいの?」って感じる人もいると思うんです。採用担当としては、いかがですか?

横手:全然気にしなくていいですよ。実際、私が『Meety』を使って面談した人の中には転職活動まっただ中という人も10人中1人いるかどうかですね。「キャリアについて相談したい」とか「他の会社のCTOが何をやってるのか聞いてみたい」という内容が圧倒的に多いです。

中には「暇なので」という人もいますよ。いま、みんなリモートワークだからラフに話しやすいんですよね。

中川:出社がなくなってエンジニア同志で雑談する機会も圧倒的に減ったから、ざっくばらんに仕事やキャリアの話をすることを求めている人は結構いるのかもしれないですね。

――LayerXさんは「人生とは」みたいなテーマでもMeetyを出していましたよね。

※Meetyでは任意のテーマでカジュアル面談を募集できる

中川:若干ネタ的な部分もありますが、僕らのありのままを出していって、会社のことをもっと知ってもらえたらいいなという感じですね。

一口に「人生とは」という募集でも、応募してくれた全員と同じ人生について語るだけではありませんから。どういう会話になったとしても、何かLayerXのことを知って、持ち帰ってもらえただけでプラスになるのではと思っています。

――カジュアル面談の他にも、共感できる会社と出会うコツって何かありますか?

中川:その会社の本当の姿を知った上で共感できるかどうかを測るという意味では、時間的なコストがお互いにかかりはしますが、1週間とか1カ月とか、副業やインターンなどでお試し入社させてもらう、とかはアリだと思いますね。

百聞は一見に如かずという通り、一緒にその会社のチームと働いてみて得られる情報は多いと思います。

後藤:あとは、各社Podcastなどの音声媒体に力を入れているので、そういうのを聞いてみるのもいいんじゃないかなと。

中で働いている人の言葉を通して、彼らが何を感じているのかを知ることができれば、自分がその会社や開発チームのビジョンに共感できそうか判断するための材料になると思います。

――最終的に転職しなかったとしても、そうやって情報収集したり、他社のエンジニアや人事担当の方とお話しすることで、日々の仕事やこれからのキャリアに役立つ学びを得ることもできそうですね。

横手:いざ転職しようと思ったときに「共感できる会社」をパッと見つけようとするのは、かなり難しいと思うんですよね。だから、あまり転職を積極的には考えていないときから会社の外に出て、話を聞いてみたり、副業してみたりするのは大切だなと。

技術的なインサイトを得られることもあるし、やってみてマイナスになることは一つもない。いざ転職したくなった時には、気張って情報収集しなくても、既に自分が共感できそうな会社を知っている、みたいな、良い状況がつくれるんじゃないかなと思います。

3社のカジュアル面談はこちらから

>ミラティブのMeetyページ
>LayerXのMeetyページ
>カミナシのMeetyページ

取材・文/河西ことみ(編集部) 撮影/高橋圭司

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