“ビジネスを加速させる技術屋”のヒントを探れ!
CTO's BizHack技術領域でビジネスを支えるCTOが、他社のCTOを指名して「聞きたいこと」を聞いていく本連載。彼らの対談から、「プロダクトとビジネスをハックする」ための視点や思考を学んでみよう
“ビジネスを加速させる技術屋”のヒントを探れ!
CTO's BizHack技術領域でビジネスを支えるCTOが、他社のCTOを指名して「聞きたいこと」を聞いていく本連載。彼らの対談から、「プロダクトとビジネスをハックする」ための視点や思考を学んでみよう
ビジネスSNSを運営するウォンテッドリーのCTO川崎禎紀さんが今回対談相手に指名したのは、料理レシピサービスでお馴染みの、クックパッドCTO・成田一生さん。
かつて、同じビルにオフィスを構えていた両社。ウォンテッドリーは技術的な面でもクックパッドの背中を見てきたという。
ローンチ10周年を迎えるWantedlyと、サービス開始から20年あまりとなるクックパッドで、共にサービス成長期からメジャーな事業となるまでを技術で支えた二人。
スタートアップが「次の10年」を見据えた時、CTOに必要とされる役割は何かを語り合った先に見えてきた「答え」とは――。
クックパッド株式会社 執行役CTO 成田一生さん
名古屋大学大学院を修了後、2008年にヤフー入社。Yahoo! メールのバックエンド開発に従事する。 10年にクックパッドに入社。サーバサイドのパフォーマンス改善や画像配信を担当後、インフラストラクチャー部部長や技術本部長などを務める。現在は、執行役 CTOとしてエンジニア全体を率いている
ウォンテッドリー株式会社 取締役CTO 川崎 禎紀さん
東京大学理学部情報科学科を卒業後、同大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻の修士課程を修了。2006年にゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングスに入社、テクノロジー部門VPを経て、12年4月にウォンテッドリーの開発・運営にCTOとして参画。13年10月より現職
――本日は、川崎さんのご指名でクックパッドCTOの成田さんにお越しいただきました。なぜ、成田さんを指名されたのでしょうか?
川崎:実は、ウォンテッドリーが入居している白金台のビルは、以前クックパッドが入居していたんですよね。
成田:そうですね! ウォンテッドリーや川崎さんとは、その後も何かとご縁があります。
川崎:成田さんは長年クックパッドのCTOをされて、Twitterでも@mirakuiさんとして情報発信されていますが、あまりメディアには登場されない。なので、ここで一度、出てもらいたいなと(笑)。私としても一度ちゃんとお話をしてみたかったので、お願いしました。
成田:光栄です。よろしくお願いします。
川崎:われわれはスタートアップとはいえ、クックパッドは約20年、Wantedlyもローンチからちょうど10年を迎え、それなりの規模になりました。そのような段階のCTOの役割とはどういうものであるのか、成田さんの考えを聞きたいと思っています。
まず伺いたいのが、クックパッドでの成田さんのCTOとしてのミッションは、ある程度固定されたものですか? それとも流動的なものでしょうか?
成田:僕はCTOである前に執行役という立場でもあるので、その時々の最も重要な経営課題に対して技術の力で解決を目指すことが、役割として求められています。とはいえ、この「経営課題」というのはどんどん移り変わっていくので、必然的に毎年全然違うことをやっている。その意味ではまったく固定されていません。
川崎:昨年は人事本部長も兼務されていたんですよね?
成田:はい。今はその肩書きは外れていますが、9カ月ほど兼務していました。というのも、昨年5月にクックパッドが恵比寿から横浜のみなとみらいへオフィスを移したんです。
大規模な移転プロジェクトにおいて、社歴が長く、CTOとしてエンジニアの立場も分かるから僕が担当するのがベストだろうということで、担当することになりました。
川崎:具体的にはどのようなことをされたのですか?
成田:それこそ住宅手当をどうするかという制度作りから、会議室やモニターは何がいいかといった設備面まで一通り関わりました。
ただ、一番重要なのは、新しいオフィスでどのようなプロダクトを作っていくのか、何のために移転するのか、というメッセージを発信して、メンバーとコミュニケーションをとることでした。
川崎:兼務となると、CTOとしてのミッションが十分に果たせなくなるということはありませんでしたか?
成田:正直言えば、ありました。人事としての立場とCTOとしての立場は、どうしても両立しないところがあるんですね。
CTOとしては、エンジニア組織を盛り上げるためには、ある種の「えこひいき」が必要な時もある。一方、人事本部長としては、会社の制度を社員に公平に適用しなければならない。そういうジレンマは、感じていました。
ウォンテッドリーの場合、川崎さんのCTOとしてのミッションや役割はどうなっているんでしょうか?
川崎:僕も入社直後から9年くらい取締役CTOの肩書きで、成田さんと同じように、毎年やることは変わりますね。
エンジニア採用に力を入れていたこともあれば、新規事業担当としてコードを書いている時もあるし、組織づくりに専念することもある。本来的には、やはり組織全体を見ることに集中したいと思っていますが、バランスは難しいですね。
成田:そもそも、バランスをとることが「正解」ではないような気がしますよね。
僕の例でいえば、CTOは攻めの立場で、人事は守りの立場。両方大切ですが、組織の成長を決めるのは攻めのリーダーシップをとっている人だと思います。だから、その人がバランスをとろうとしてしまうと、どうしても会社の推進力が落ちる。
……こう言いながら、すべて去年の自分にブーメランとして返ってくるのですが(笑)
川崎:(笑)。今回のような大きな経営判断って、良い影響がすぐに出てくることの方がめずらしいですよね。3年後、5年後に良い効果が出てくると信じて、決断をしなければならない難しさがあるのかなと思います。
成田:そうですね。即効性のあるものばかりを狙うと、どうしても小粒になってしまいますから。今ベストではなく、3年後にベストであるような判断をする必要があります。
オフィス移転もそうですが、事業や組織に大きなインパクトを与えるような経営判断にはデメリットを伴うことも多いわけです。全員が幸せになるような意思決定なんてほとんどないので、そこからあぶれた人の不満をどうするかは、いつも考えていますね。
川崎:チームメンバーの不満をどうするか、はCTOとして常に抱える課題ですよね。例えば、クックパッドもウォンテッドリーも、軸となる事業がある中で、数年後のための新規事業や海外への展開などを模索しています。
その時、収益的には既存事業に頼りながら、リソースは新規に振り分けることになりますが、特に既存事業メンバーのモチベーション管理などに難しさを感じることはありませんか?
成田:それはすべての会社に当てはまることですね。僕は、そういう時には「愛」が大事だと思っているんですよ。
川崎:愛……?
成田:スタートアップの既存事業は、その会社のビジョンやミッションを最も体現しているものですよね。年月が経つと技術的にも収益的にも成熟してくるわけですが、そこで数字だけを見るのではなく、プロダクトの価値やユーザーへの愛着を持っている人たちが、その既存事業を育て続けていく。それが理想的だと思っています。
そういう意味では、既存事業は少数精鋭でいいのかもしれません。
川崎:「愛着」というのは、すごくいいフレーズですね。ただ、どうしても社歴が長い人とそうでない人では、愛着に差が出てしまう。新しく入ってきた人にもそうした「愛」を伝えていくにはどうしたらいいんでしょうか。
成田:こう言うと古い人間だと思われるかもしれませんが、やっぱり「物理的な距離」は大事だと考えています。
僕がインフラエンジニアとして働いていた、10年ほど前のクックパッドでは、インフラチームとカスタマーサポート(CS)の人たちがすぐ近くの島にいたんです。何かトラブルが起きると、システムのアラートが出るよりも先に、CSの人たちがざわざわし始めることで分かるということもありました。
サービスに障害が起きた時、システムが吐いているエラーの詳細を深掘りするよりも先に、その障害がユーザーにどういう影響を与えているかを自分の目でサービスを開いてすぐに確認するという動きが大事だと考えています。
たとえば経験の浅い新人は、「サービス障害のときにクックパッドのエンジニアがすべき動き、態度」というのをまわりの先輩社員を見て学ぶのだと思います。しかしこれをオンラインで伝えるのには限界がある。
プロダクトへの愛着やユーザーへの向き合い方といったカルチャーを育むためには、こうした物理的な場の力が大事だと考えています。今回のオフィス移転でも、「物理的に集まる機会」を協調した場づくり、制度づくりを試行錯誤しています。
川崎:それは僕も同感です。ウォンテッドリーでは「留学制度」という部署横断の機会をつくっていて、例えば開発部門と事業部門で人の交流を図っています。
成田:結局、そうやって人を混ぜていくことでカルチャーを浸透させることしか、今のところの正解はないかなと思います。サービスに対して真剣に向き合っている人の隣で働くことでしか、そういうものは身に付かないのかなって。
川崎:Wantedlyとクックパッドは技術面でも近しいサービスなので、よくベンチマークにしています。最初に申し上げたように、Wantedlyがローンチ10周年を迎えたということで、「先輩」として次の10年に向けたアドバイスをいただきたいのですが。
成田:アドバイスなんて恐れ多いですが……「組織を新しくする」ことは大事だと思います。
あるサービスが打ち出した価値が、10年後も刺さり続けるということはまずありません。会社も1年ごとに平均年齢が上がっていきますから、常にユーザーに向けて新しい視点を届けるには、ある種の新陳代謝が必要になると思います。
僕も6年ほどCTOをやっていてプレッシャーは日々感じていますが、実は「CTO交代」が一番手っ取り早いのかも(笑)
川崎:僕もCTO歴が長いので、そう考えることは多いです。他の人に権限移譲してもいいのかもって。
成田:ただ、自分と同じような意思決定をする人に代わっても意味がないので、次の10年を自分よりも高い解像度で見ていけるような人がいいですよね。
川崎:そうですよね……。成田さん、僕のポジションを引き継いでくれませんか?
成田:川崎さんが僕の代わりになってくれるなら!(笑)
川崎:(笑)
成田:真面目な話をすると、僕がクックパッドで過ごしてきた10年間は、新しい技術やサービスがどんどん登場してきた時期で、ITに限っていえば「高度成長期」だったわけです。でも、これから先の10年間がどうなるかは分かりません。
そういう時代にポジティブな期待を持って、持続可能な組織にしていけるような人が望ましいですよね。幸い、クックパッドにはそういう人材がたくさん育っています。
川崎:僕は「プロダクト開発能力が拡大生産される組織」を目標にしています。仮に自分が10年後にこの会社にいなかったとしても、組織がダメになっていることは避けたい。
というのも、創業メンバーがいなくなったことでダメになってしまったスタートアップをたくさん見ているからです。
成田:あるあるですよね……。
川崎:かつてのスタートアップは、一人のエンジニアがプロダクトについて何から何まで分かっていて頑張る、といった企業も多かったですよね。でも、今は技術スタック一つでも10年前とは大きく変わりましたから、そうもいかないわけです。
そんな中で、どうしたら組織が自律的に成長していけるようになるか、今日は成田さんのお話を聞いてたくさんのことに気付かされました。
成田:こちらこそありがとうございます。次はぜひ「オフレコ」で、もっとディープな話をしましょう!(笑)
取材・文/高田秀樹 編集/大室倫子(編集部)
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