「カルチャー浸透のカギは“WHY”の明確化」ソウゾウとSmartHRにみる、成長&自立を促すエンジニア組織づくり
社会情勢や市況が目まぐるしく変わるこの時代、継続的に事業を成長させるためには、開発チームのメンバーの持続的な成長と自立心を育むことが必須。特に、まだ世にないアイデアを事業やプロダクトに据え、急ピッチで拡大させていくことの多いスタートアップやベンチャーであれば、なおのことだ。
日々、同時多発的に起こる課題に向き合いながら、継続的に事業を成長させられるエンジニア組織づくりに必要なこととは何なのか?
本記事では、2022年4月12日、13日にわたりエンジニアtypeとメルカリが共同開催したテックカンファレンス『Tech Update 2022』内のセッション、「SmartHR・ソウゾウのエンジニア組織に見る、成長&自立を後押しするカルチャーのつくり方」において語られた内容を一部紹介。
エンジニア組織で発生した課題や内情に対し、今注目のWebベンチャー2社はどう捉え、どんな施策を講じたのか。開発現場でのリアルなマネジメントを、レクター取締役 広木大地さんが聞き手となり、ソウゾウ CTO 名村卓さんと、SmartHR 代表取締役CEO 芹澤雅人さんに語ってもらった。
「100%中途採用」に舵を切った先に、見えてきた組織的な課題
広木:まず初めに、各社のエンジニア組織の構成や現状についてご紹介をお願いします。
SmartHR芹澤:当社では、入社手続きや年末調整など、人事・労務にまつわる業務をクラウド上で簡単に行えるアプリケーション『SmartHR』を開発・提供しています。
創業フェーズは経験値の高いメンバーで一気に事業をスケールさせていこうと考えていたので、その頃からエンジニアは100%中途採用。現在70名ほどが在籍しています。
採用時は当社バリューにある「自律駆動」への共感度合いも見ているので、一定の自立マインドも備わっている集団だと思っています。
ソウゾウ名村:ソウゾウは、メルカリグループで新規事業の企画・開発・運営を担っている会社です。SmartHRさんと同じく、エンジニアはほぼ中途採用で、現在エンジニアが数十名在籍しています。一定のスキルを持ったミドル層以上を採用しているので自走力のあるメンバーが多いですね。
広木:2社とも100%中途採用で、入社時点で一定のスキルや自立心を持つメンバーが多かったと。一見、何の問題もないように思えるのですが、エンジニアの自立や成長という点ではどんな課題があったのでしょうか?
ソウゾウ名村:たとえばQAチームを例にあげると、ベテラン勢で構成されている分、テストを依頼すればもちろんプロフェッショナルな仕事をしてくれるわけです。
するとエンジニアはだんだん「自分でやるより、QAに任せた方が品質も効率も良い」と思い、テスト作業を丸投げしはじめる(笑)
これは自分の仕事じゃないからと言って役割を狭めてしまうことで、つくったものの品質を自分の目で確認するという基本スキルが落ちるんです。自立という観点でみると危機感がありましたね。
広木:なるほど、名村さんの仰る自立は、当事者意識を持って何でもやるという意味だけでなく、「一つのプロダクトをお客さまに価値としてデリバリーするところまでできる人」という意味も含まれるんですね。
SmartHR芹澤:分かります、当社でもプロダクトに対して一貫してオーナーシップを持てる人が真に自立したエンジニアだと捉えています。自分で課題を見つけて、マイクロマネジメントされることなく、解決に向けてひたすらアクションできる人ですかね。
ソウゾウ名村:もう一つ課題になったのが、育成をコストだと感じる雰囲気が漂い始めたことです。「うちのチームにはジュニア層は入れないでくれ」と言い始めるチームも出てきて……。
今後さらに拡大していくことを考えると、ミドル層以上を採用し続けるのは困難です。さらに言えば、人が成長しない組織は会社もプロダクトも成長していかないですからね。
SmartHR芹澤:まさに当社もその課題に直面しています。ミドル層以上で一気にスケールさせる戦略自体は間違ってなかったと思いますが、事業が軌道に乗り、ここからジュニア層を迎えて、勢いを伸張させていこうと思った時に、彼らを受け入れる土壌がないわけです。
ベテランたちが阿吽の呼吸で気持ちよく開発するというのも、それはそれでありかもしれません。でも、サステナブルじゃないですよね。
この状態で10年、20年続くかと問われると難しくて。育成コストで生じる痛みに、いずれ向き合わなければいけないと思っています。
自立を促すカギは「コンテキストドリブン」にあり
広木:出てきた課題に対して、どのように解決してきたのでしょうか?
ソウゾウ名村:先ほどのQAチームの話もそうですが、やはり規模が大きくなれば一人あたりの担当領域が狭まってしまうのは否めません。
そうなると、狭い範囲での開発はできても、全体を俯瞰しながら「新しい機能やサービスをつくるときに何が必要か」といった観点でプロダクトをみる能力が衰えるんです。
それに、自分が決めなくとも誰かが決めてくれるという環境では結局、自立や成長が阻まれますからね。
ソウゾウでは、枠に収まりすぎないように積極的に「自分で考え行動できる機会」をつくるために時間を設けていました。
技術面だけでなく、組織や仕組みに対しても同様に、自分で決めて動いてみることを促しています。
SmartHR芹澤:当社ではカルチャーを明文化し、伝え続けることを大切にしています。特にコア人材の定義を明確にするために、「うちで大事にしているスタンスはこうで、こんな活躍をしてほしい」みたいな指標を具体的なコンテキストで共有するんです。メンバーにとっても、そこを目指せば成長できるんだ、という指針にもなりますしね。
そのコア定義の作成自体を、組織の人数が大きくなってきた時にボトムアップでやっていました。その後、半年に1回くらい見直してアップデートを重ねています。
ソウゾウ名村:バリューは得てして、包括的な言葉で表現されることが多いですからね。当社も全社のバリューにエンジニア的解釈を加えて、「このバリューは開発現場に当てはめるとこうだよね」という表現まで落とし込んで、エンジニア向けに改めて明文化しましたね。
広木:でも、バリューやカルチャーって浸透がなかなか難しいですよね?
ソウゾウ名村:はい、難しいですね。例えば、マイクロサービスをやろうとなった時に、なぜ今それをやるのかという不満が出たりするわけですが、それはやっぱりコンテキストがしっかり伝わっていないからなんです。
背景も意図も伝わらず、結果だけが降りてきて、そのコンテキストをメンバーが逆読みして、組織が良からぬ方向へ進んでしまう……みたいなことは何度か経験しました。
SmartHR芹澤:エンジニアって「人の役に立つものを作りたい」って気持ちが強い人が多いんですよね。その分、それをどう解くかというところまで関わりたいはず。だからこそ“WHY”にあたる部分をきちんと伝えていくことが重要だと感じます。
時には「WHYの定義が間違っていました」とか、説明しても皆が納得しづらいなんてこともある。その場合は基本的ですが話し合うことが大事です。“WHY”を考えた人がどうしてもこれでいきたいのなら徹底的に伝える。
間違っていたかもしれないとなれば“WHY”の部分から考え直す、といったプロセスをとることが重要ですね。
上か下かではなく、マネジャーはあくまでも「メンバーを支える人」
広木:ここで、セッションをご覧いただいている方から「少し偉そうですが、マネジャーに成長してもらうためにメンバー側からできることはありますか?」という鋭い質問がきていますが、このあたりはいかがでしょうか?
SmartHR芹澤:いい質問ですね!ただ、僕は上か下かっていう考え方はあまり好きじゃなくて(笑)。「Nobody is perfect」だと思っています。重要なのは双方相互にきちんと伝え合い、成長する関係性だと思います。
以前どこかで「説明責任とセットで質問責任がある」という話をサイボウズさんが語っていらっしゃったのですが、まさにそれかなと。
要は、メンバーもマネジャーに言われたことに疑問に思う点があるならきちんと伝えるべきです。「ここが分からなかった」ということがあれば、それをマネジャーに伝えてほしいですね。
ソウゾウ名村:私もマネジャーというだけで「メンバーより成長した人」ってイメージがありますが、それは違うと思っていて。どちらかというと「エンジニアを支える人」だと思います。
だから芹澤さんが言うように、何を支援してほしいのかメンバーはどんどん伝えるといい。「今、私にはこういうブロッカーがあって困っているから、排除するお手伝いをしてほしい」とか。
真っ当なマネジャーであれば、そのブロッカーを排除するために動いてくれると思います。
ジュニア層の「受け入れと育成」ができる組織に
広木:両社、これからの組織の課題とは何でしょうか?
ソウゾウ名村:オンボーディングの整備は遅れているかな。みんな、何でも自分でキャッチアップしちゃうので(笑)。サポートがなくても、ソースコードを見て理解できちゃうメンバーばかりですが、そんな所にジュニア層は入りづらいですよね。
広木:解決策としては何が考えられますか?
ソウゾウ名村:例えば、インターンみたいなかたちで短期スパンで新人を入れてみて、自分たちの組織のどこにどんなブロッカーがあるのかを把握し、意識的に排除していく作業が必要ですかね。新人が一つの機能を開発からリリースするまでに、つまずくポイントはどこなのか、と。
SmartHR芹澤:当社はまだジュニア層を受け入れるフェーズではないのですが、育成は組織に痛みを伴うものです。だからこそ、組織がコストを払う必要性、つまりコンテキストを説明し、育成に対する総意を形成しておくことは今のうちから始めたいと思っています。
広木:新卒やジュニア層を迎えることで、組織や事業がさらにアップデートされていければ最強ですね。皆さん、今日はありがとうございました。
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文/玉城智子
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