東大AI博士 カリスさん
1993年、韓国生まれ。16歳で東京大学に合格。日本政府から天才認定(学生としては初めて、研究業績だけで永住権を取得)を受ける。博士(情報理工学/東京大学)。⽇本トップレベルの医療AI研究者として国内外の医療AI/ビッグデータの研究施設・企業・病院で勤務。現在は独立し「みんな健康かつ笑顔で暮らせる社会」を実現すべく、カリスト株式会社を創業
韓国出身のAI博士・カリスさん。2009年に16歳で東大に合格し、日本政府から「天才認定」を受けたことで一躍有名人になった人物だ。
彼の過去は、まさに壮絶そのもの。学校でのいじめ、家庭内での虐待――。子ども時代のカリスさんに安心できる場所はなく、悲惨な環境から抜け出したい一心で、たった一人で勉強を続けてきた。
抜け殻のような過去を持つが故に、「みんな健康かつ笑顔で暮らせる社会を実現したい」という思いから、現在は医療AIの研究者の道に。医療AIの研究開発に向けた医用画像データプラットフォーム事業を手掛けるカリスト株式会社を立ち上げた。
「16歳での東大合格も、世界で通用する医療AIの研究者になったことも、こうして起業家になったことも、どれも自分が思い描いた未来を実現してきただけです」
「まるで大したことはない」とでもいうように、これまでに成し遂げたことを飄々と話すカリスさん。なぜ彼は逆境の中にいながらも、自分の“思い描いた道”をまっすぐ生きてこられたのだろうか。
東大AI博士 カリスさん
1993年、韓国生まれ。16歳で東京大学に合格。日本政府から天才認定(学生としては初めて、研究業績だけで永住権を取得)を受ける。博士(情報理工学/東京大学)。⽇本トップレベルの医療AI研究者として国内外の医療AI/ビッグデータの研究施設・企業・病院で勤務。現在は独立し「みんな健康かつ笑顔で暮らせる社会」を実現すべく、カリスト株式会社を創業
韓国に生まれたカリスさんは、アルコールに溺れる父親から日常的に暴力を振るわれ、学校ではいじめにあう過酷な環境の中で小中学生時代を過ごした。
中学3年生になった時、この環境から自力で飛び出そうと決意。不登校だった彼は、高校に進学する代わりに大検を受けて、たった一人で海外の大学進学のための勉強を始めた。
「ある雨の日に、泥酔した父親に刺されそうになって、僕は裸足でずっと逃げ隠れてたんです。その時に『僕って死んでるみたいに生きてるな』と思って。
でもこの状況って良く考えれば、これ以上のどん底なんてないし、何をしても失うものがない無敵状態。
それなら自らの意志で、ここから人生を好転させたっていいんじゃないかと思って。全てをリセットできる海外で、大学進学することを本気で考えるようになりました」
そこでカリスさんが選んだのが、日本の最高学府・東京大学に進学してITとAIを学ぶことだった。
「僕がなぜ東大を選んだかというと、まずは韓国を出たかったから。あとは、試験の形式です。例えば、アメリカの大学は課外活動の評価が入試に影響するので、不登校かつ高校非進学の僕には不利なんですよ。
でも、東大はペーパーテストの結果だけで合否が決まると知って『ここだ』と思い狙いを定めました。“無敵の人”である自分は、頭脳でも覚悟でも誰にも負けるわけがないと、思いこんでいましたから。
そして理工系、さらにはIT、AIの分野を選んだのは、明らかに『これからの社会の舵を切る主体はここ』だと察したからです。
AIはきっと、人類にとって最後にして最大の発明になる。それ以外の結論は考えられない。だったら、その専門性を身に付けることこそが『自分が勝てる可能性が高い筋書き』なんじゃないかって」
外国人入試(※日韓理工系学部留学制度。現在は廃止されている)制度を通じて、16歳で東大に合格したカリスさん。東大進学後は、数多あるAIの中でも「医療AI」を専門にした。
その理由を「自分の市場価値を最大化するためだった」と続ける。
「どういう領域なら、自分がその第一人者になれるのかを考えたんです。そこで周囲を見渡してみると、僕の知る限りでは医療AIを研究している人はいなかったですし、この分野なら意義を感じながら研究に取り組めそうだとも思えました」
また、現在取り組んでいる医療AI研究テーマを決める際も「多くの人が必要としているにもかかわらず、やっている人が少ないこと」が何かを考えた。
「研究者の中には、研究テーマを周囲に合わせたり、教授から言われたものをそのまま選んだりする人も少なくはありません。
でも本当に必要な研究や、研究者から評価されるテーマって『多くの人から求められているかどうか』で決まると思うんですよ。
ですから僕は研究テーマの目的として、最大の業界課題である『医用画像データ不足の解消』を設定しました。
医用画像データは撮影装置・撮影方法・疾患・個人差などによるバラツキが大きく、患者への負担もあるため、多様なデータを十分に収集することが困難です。
そこでAIを使ってデータの水増しをしたり、正常データの分布から外れた異常(=疾患)を検出したり、複数のデータセットを汎化して検出精度を高めたりと、さまざまな研究を進めています」
実際にカリスさんが書いた論文は数100回以上引用されていたり、さまざまな医療AI関連企業において活用されたりするなど、大きな成果を生み出している。
「全ての選択において、常に自分が第一人者になるための勝ち筋を考えて行動してきたので、今の結果は『なるべくしてなった』と思っています(笑)」
そう言って笑いながら、自身のキャリアを淡々と語るカリスさん。
ただ、いくら「人生の勝ち筋」を描くことができても、それを実行できる人はごくわずかだ。
なぜカリスさんは自分の可能性を信じ、行動を起こすことができたのだろうか。
「小さい頃から『自分は特別である』と思いたい気持ちが強かったんです。本を読んだりゲームをしたりすると、その中の主人公ってみんな逆境を乗り越えて成長し、自分のなりたい姿になっていきますよね。自分もそういった存在になりたいと常に憧れていました。
それに『天才たちの成功事例』をネットや書籍などでたくさん調べて、彼らのエピソードに多く触れたことも影響しています。11歳でハーバード大学に受かったとか、25歳でノーベル賞を獲ったとか、世の中には天才がたくさんいますよね。
彼らのエピソードを調べていくと、『16歳で東大に合格する』ってそんなにハードルが高いことではないように思えてくるんですよ。彼らの成功に比べたら、100分の1くらいの難易度なんじゃないかって。
偉大な彼らと肩を並べるまでにはなれないけれど、頑張ればその中でビリくらいには入れるんじゃないかと思って(笑)。そういう思い込みみたいなものが、自分の原動力になっていますね。
根拠のない自信って、人生において物凄く大事だと思うんです。根拠のある自信は、失敗して根拠があやふやになると、崩れてしまいますから。
だから若手のエンジニアや研究者などには、成功体験なんてなくたっていいから、何度でも挑戦してほしいですね」
また、「特別な存在になる」ためには、ある法則が存在するとカリスさんは言う。キーワードは「代替可能性の低さ」と「ニーズの高さ」だ。
「キャリアの勝ち筋をつくる上で重要なのは、代替可能性が低く、周りからのニーズが高い分野を選ぶこと。この二つがかなえられていれば、周囲からの評価はおのずとついてくると思います。
例えば僕が今、力をいれているYouTubeも、『YouTuberをやっているAI研究者って他にいないんじゃないか』と考えてスタートしました。狙い通り、これを面白がってたくさんの人が声を掛けてくれましたね。
僕はそうやって『この人にしかできないことだよね』という状況をつくり続けることで、自分の価値を最大化してきたように思います」
加えてカリスさんは、「成果を見える化する」ことにもこだわっているという。
「開発や研究などの仕事ってチームとして取り組むことが多いですが、どれだけ自分が貢献できたのか、個人としての成果を目に見える形にする意識も必要です。
『チームとしてあれもこれも全部やって、全部上手くいきました』と履歴書に書かれていても、個人の成果は分かりませんから。
例えば、それをブログやTwitter、noteに書いてもいいですし、『エンジニアtype』の読者であれば、GitHubコミットやKaggle参加、競技プログラミング参加、論文執筆などにチャレンジしてもいいですよね。
そうやってアウトプットしていけば自分自身の信頼性を高めますし、周りからの見え方も変わってくると思います」
「特別な自分」になるために戦略を立て、うまく舵取りしている印象のカリスさんだが、実際は「はじめからすべてを決めているわけではない」そうだ。
「僕の場合、『勝ち筋を見つける』といっても、はじめは直観的に何をすればいいのかを考えているだけなんです。
そこでまずは動き出してみて、後付けで理由を探したり、仮説を立てたりしながら正しい道筋へとチューニングしていくイメージですね。
将棋棋士の羽生善治先生も語っているように、直観って理屈よりもずっと重要なはずなんです。
『勝負の場面では、時間的な猶予があまりない。論理的な思考を構築していたのでは時間がかかりすぎる。そこで思考の過程を事細かく緻密に理論づけることなく、流れの中でこれしかないという判断をする。
そのためには、堆く積まれた思考の束から、最善手を導き出すことが必要となる。直感は、この導き出しを日常的に行うことによって、脳の回路が鍛えられ、修練されていった結果であろう』と」
こういった考え方は「仕事の本質にも近しいと思う」と続ける。
「例えばエンジニアであれば、今開発に何が求められているか、それを解決するにはどうすればいいのかを、まず直観的に考えて行動にうつす。そこから徐々に理想的な形にチューニングしていく……これが仕事における『本質的なサイクル』なんじゃないかなって思うんですよね。
このようにニーズや課題から逆算していけば、ユーザーからすると、コードをきれいにするとか拡張性がどうだとかは、正直どうでもいいケースが多い。でもそういった細かいことを気にする人は少なくないですよね。それって本質的ではないと思います。何ならコードを書かないことが本質の場合だってあります」
「でも、多くの人は『従来のやり方』を変えることを嫌いますよね。仕事一つとってもそうだし、大きく見たら人生だって同じことが言えます。『普通』からはみ出すのが怖い人ばかり。
でも僕から見ると、何も行動せずに死んだように生きるくらいなら、普通からはみ出してみた方がよっぽどいいと思うんですよね。
別に一気に変わる必要はないんですよ。自分にしかできないこととか、周囲に求められている分野について考えてみる。そこに一歩近づくために、『えいや!』と飛び込んでみる。少なくとも僕は、そうやってきたからこそ今がありますから」
自分の可能性を信じ、行動を続けるカリスさん。今後は「医療AI業界にパラダイムシフトを起こす」という大きな目標にチャレンジしたいという。
「最大の業界課題である『医用画像データ不足の解消』を実現するには、研究だけでは限界があります。そこで今は、医療AIの研究開発にすぐ使える、多様な医用画像データ(前処理とアノテーション修正済み)を集約しシェアするプラットフォームをつくろうとしています。
製薬企業・医療機器メーカー・AI企業・臨床研究施設が、医療データというプロトコルをめぐって『競争ではなく、共創をしていく』パラダイムシフトを起こしたい。いわゆるWeb3.0のような発想ですね。この多重構造を解消できれば、世界中のどこにいても安価かつ最適な診療を受けられます。
『希少かつトップ』は人のキャリアデザインのみならず、日本という国のキャリアデザインにも適用できます。日本は医療崩壊が近い世界一の少子高齢大国ですが、逆に考えると医用画像データの宝庫でもあるので、それを活かせば世界に勝てるのです。
大量の医用画像データを守るにはブロックチェーン技術が重要で、それを活かすには医療AI技術(とコンサル能力)が重要だと考えています。ちょうど起業したばかりなので、僕と一緒に技術で世界中の人命を救いたいエンジニアの方はぜひTwitterなどでメッセージください(笑)」
こういった取り組みも、業界ニーズが高く自分の価値を最大限発揮できる分野だとカリスさんは話す。逆境をはねのけ自分らしい道を切り開く「医療AI界の天才」から今後も目が離せない。
取材・文/上野真理子 撮影/桑原美樹
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