アライドテレシス株式会社
ソリューションエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 コンサルティンググループ マネージャー
佐藤令隆さん
前職はサーバーエンジニア。金融系プロジェクトをメインに手掛ける。2017年、サーバーからネットワークまでシームレスに手掛けられる環境に引かれ、アライドテレシスに入社。現在はSIプロジェクトにおいて、プリセールスからインフラ設計・構築まで幅広く担う
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2018年に経済産業省がDX推進ガイドラインを打ち出して以降、あらゆる業界でデジタル化が進められている。DX需要の高まりに比例して、ITインフラを手がけるエンジニアの需要も増すばかりだ。
一方で、必要とされるインフラ技術の幅も広がっており、時代に適応し続けていくことに不安を覚えるエンジニアもいるかもしれない。
では、これからの時代に求められるインフラエンジニアとは、どのような人材なのか。
この疑問に答えてくれたのは、世界20カ国で事業を展開するネットワーク機器メーカー・アライドテレシスで、インフラエンジニア兼プリセールスとして働く佐藤令隆さんだ。
同社は、国内屈指のネットワーク機器メーカーでありながら、老舗メーカーならではの信頼とノウハウを生かしたSIプロジェクトも手掛けている。現在はネットワークのみならず、サーバーやセキュリティーまで俯瞰した一気通貫のインフラサービスを手掛ける、いわば「インフラ領域のプロフェッショナル企業」だ。
インフラDXプロジェクトの最前線に身を置く佐藤さんに、プロジェクトの最新動向と第一線で活躍できるインフラエンジニアの特徴について聞いてみた。
アライドテレシス株式会社
ソリューションエンジニアリング本部 システムインテグレーション部 コンサルティンググループ マネージャー
佐藤令隆さん
前職はサーバーエンジニア。金融系プロジェクトをメインに手掛ける。2017年、サーバーからネットワークまでシームレスに手掛けられる環境に引かれ、アライドテレシスに入社。現在はSIプロジェクトにおいて、プリセールスからインフラ設計・構築まで幅広く担う
アライドテレシスがSI事業にも着手するようになったのは、約7年前。
ネットワーク事業で取引のある顧客から「インフラまわりを丸ごとお願いしたい」という相談が増え、そのニーズに応えるかたちでスタートした。需要は年々高まり、現在では事業開始時の10倍以上の売り上げに成長している。
「インフラ関連のプロジェクトには、ネットワーク事業者、サーバー事業者と、さまざまなベンダーが入ることが多いです。でも介在する企業が増えると、連携がうまくいかなかったり、責任の所在があやふやになったりすることも珍しくありません。
こういったボトルネックを解消するために、同じメーカーにネットワークからサーバー、セキュリティー……とインフラまわりを全て一気通貫で任せたい企業が増えているんです。
最近ではクラウドをはじめ、HCIやSDNなどが普及して、ネットワークインテグレーターに求められる範囲も広がっています」
既存顧客から相談が増えたのは、もともと取引をしていたからというだけではない。長年ネットワーク事業で培ってきた実績と知見が買われて相談されるプロジェクトが大半だ。
「クラウド化するにしてもクラウドに接続するためにはネットワークの設計が必要ですし、接続の際のセキュリティーなども長年ネットワークを手掛けている当社だからこそ持つ知見が生かせます。
また、エンタープライズのITインフラにおいては、サーバー基盤やネットワークが仮想化されることが一般的になりつつありますが、ITインフラの観点で言えば、仮想だからと言って、内部で動くプロトコルやネットワークの考え方は、大きく変わっていません。そのため、ネットワークに強みを持つ当社にインフラ全般を任せることに安心感を抱いてもらえているのだと思います」
トレンドの案件を依頼されることも多い中で、佐藤さんが今後注目が高まっていくと考えるインフラDXプロジェクトとはどのようなものなのか。大きく3つあるという。
「一つ目は、ネットワークとセキュリティー機能を包括的に提供するクラウドサービス『SASE(Secure Access Service Edge)』関連のプロジェクトです」
今後クラウド化がさらに進み、ネットワークセキュリティーもクラウド化していく中で、オンプレとクラウドが混在するようになっていくのは間違いない。オンプレでないとうまく運用できないものもあれば、クラウドにした方が効率がいいものもあるだろう。
その「接続部分」の悩みを解決していけるSASE関連のプロジェクトのニーズは高まっていくのではないかと、佐藤さんは話す。
「SASE自体は新しいサービスではありませんが、プロジェクトにうまく生かしていきたいという相談は増えていくように思います。当社に寄せられる相談件数の多さからも、注目度の高まりは感じますね」
二つ目は、マルチクラウド・ハイブリッドクラウド構築のプロジェクトだ。
現在政府主導で推進し始めていることもあり、今後ニーズが加速していくのは間違いないだろうと佐藤さんは予測する。
「今は、オンプレに残すものとクラウドに上げるものを切り分けていく過渡期にあります。最近依頼が多いのは公共系ですね。例えば中央省庁では、もともとオンプレの大きな基盤を持っていましたが、政府クラウドやパブリッククラウドへの移行が急速に進んでいます。セキュリティーのあり方も従来の境界型防御ではなく、ゼロトラスト型に変わっていますし、クラウド戦略の提案から求められるケースは増加していくでしょう」
そして三つ目は、医療DXプロジェクト。
医療機関は個人情報の取り扱いが厳しかったり、システム化にコストを掛けづらかったりと、なかなかDXが進んでこなかった。しかし最近では、医療DXのグランドデザインをしてほしいという依頼が急増している。
「DXが難しかった医療業界ですが、最近は一気にニーズが高まっています。仮想基盤の構築とセキュリティー対策に頭を悩ませている医療機関が多いので、全体を俯瞰したグランドデザインから入らせていただいています」
こういったトレンドがある中で、アライドテレシスが最も注力しているのが医療DXだ。
ネットワーク事業で医療分野を中心に実績を重ねてきたアライドテレシスだけに、SIにおいても案件の7割を医療系のプロジェクトが占める。中でも現在増えているのが、HCIの仮想化基盤構築プロジェクトだ。
「ある大きな病院グループでは、HCI仮想化基盤の構築やセキュリティー対策から基幹ネットワークの更改、患者Wi-fiの構築、各部門ベンダーのリモートメンテナンス回線集約まで、一気通貫で対応させていただいています」
10を超える病院を抱える大きなグループだが、それまでITインフラやセキュリティーに関しては各病院に任せていたという。しかし、ランサムウェアに代表されるようなサイバー攻撃があった場合、1つの病院にセキュリティーホールがあれば、グループ全体を脅かす事態に発展することもある。
「例えば、各部門ベンダーが病院外からのリモートメンテナンスに使用する回線や通信機器は数が多く、設計ポリシーもバラバラなため不正アクセスなどの脅威にさらされやすく、ランサムウェアの侵入経路にもなり得ます。まずは、セキュリティーグランドデザインのベースラインとして、グループ内の病院で使用するリモートメンテナンス回線は、当社で集約、管理を行うサービスをご利用いただくというような提案を進めています。
また、セキュリティーポリシーを統合する際、サーバー基盤やネットワーク基盤の設計ポリシーが異なると検討すべき内容も複雑になり、対策すべき箇所が増えることで、コストや管理者の負荷が上がってしまいます。基盤の設計ポリシーに関しても徐々に統一していく方針です」
これまで医療分野のインフラDXが進んでこなかったのは、医療分野特有の難しさに起因する。
大前提として、病院のネットワークやサーバーは、患者の命に関わるものなので絶対に止めてはならない。このプレッシャーと常に隣り合わせであることは、DXを進めていく上で最大の難しさと言える。
もう一つの大きな問題が、コスト面だ。運営そのものにコストがかかる病院では、システムに大きな予算を割く余裕がない場合が多い。ゆえにDXの優先順位が下がりがちだという。
「コストをかける優先度が低いとしても、システムは更新しなければ止まってしまうし、故障率も上がります。なので、システムを放っておくわけにはいかないんです。
まず止まらないという前提のもとに、いかにコストをかけず、最適なシステムを構築できるかがDX推進の肝になります」
さらに、病院には複数のベンダーが入っているため、統合基盤を作る際にその取りまとめができる人材がいるかどうかという問題もある。
病院の情報管理者は少人数であることが多く、その分負担も大きい。目が行き届かなければセキュリティーのゆるみにつながったり、基盤に異常が出ても気付かなかったりというリスクにもつながる。そのため、アライドテレシスではベンダーの取りまとめにも積極的に対応し、現場の負荷軽減に貢献することも重要視しているという。
「当社が難易度の高い医療DXプロジェクトにおいて選んでいただけるのは、こういった顧客ファーストの姿勢を貫いている、というのも大きいかもしれません。これは当社のSI事業における大切な倫理観です」
同社の顧客ファーストの姿勢が表れている例としてあげられるのが、マルチベンダーの立場を取っていること。クライアントにとってベストでなければ他社製品を用いたソリューションを提案することも珍しくない。
「フラットな姿勢だからか、他社からの提案について、お客さまから相談を受けることも多いです。『他社さんからこういうプランを提案されたんだけど、どう思いますか?』なんていう具合に。アライドテレシスなら自分たちにとってベストな助言をしてくれるという信頼をいただけているんだなとうれしく思っています」
SASE、マルチクラウド・ハイブリッドクラウド、医療DXなど。
ニーズの高まるインフラDXプロジェクトで活躍できるエンジニアになるためにはどのような能力を身に付ければ良いのだろうか。
「こういったトレンドのプロジェクトで重宝されるのは『守備範囲の広い』エンジニアです。一つの技術を極めていくことは大事ですし、強みがあった方がいいのは確かですが、『ここだけに特化しています』では求められなくなってきているのが現実。
SASEで言えば、ネットワークもセキュリティもクラウドも分かっていて、その『接続』部分を説明し、設計できるエンジニアは今すごく貴重です。このように、複数の領域をまたいだ知見がある人材は、これからの時代より求められるようになっていくはずです」
ITインフラ構築プロジェクトは、インフラエンジニアが一人で黙々と進められるものではない。クライアント、ベンダー、インフラの上に乗るアプリケーションを開発するエンジニア。関わる全ての人たちと共通言語で話すことが求められるようになりつつある。
「インフラプロジェクトはいわば“街づくり”」と佐藤さんは説明する。ネットワークは道路、道路沿いにある建物はサーバー基盤で、その中に入るテナントがアプリケーション。道路を作るならば、周囲に建つビル、交通量、ビルに入る店舗まで必然的に考えることになるだろう。そうして全体像を見渡すことが、これからのインフラプロジェクトに求められるスキルだ。
「アライドテレシスでは、自社内でネットワークからサーバー、セキュリティーまで網羅していて、工事の部門も社内にあります。自社の中でいろいろな部門と関わっているうちに、自然と守備範囲を広げている人が多いんです。
20代のうちはより好みせずに、できることの幅を広げておくといいと思います。まずは守備範囲を広げ、幅広い分野の基礎を固めておく。そうすると視野が広がるので、自然と好奇心をくすぐられる分野が見えてくるはず。それが見えてから自分の専門分野を極めていくのでも遅くはないと思いますよ」
文/宮﨑まきこ 撮影/桑原美樹 取材・編集/光谷麻里(編集部)
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