一般社団法人日本PMO協会 事務局長
十返文子(とがえり・あやこ)さん
大学在学中から携帯電話向けコンテンツ開発に携わり、卒業後も大手クライアントや公共系案件などでのWebディレクションやPMを経験。Web制作会社でWebディレクターとして様々なプロジェクトに携わり、PMOとしての知識・経験・技術を得る。その過程でプロジェクトマネジメントに出会い、PMP資格を取得。PMI日本支部の事務局に従事し、Webサイトの運用やコミュニティ活動の支援を担当した後、現職
2017年3月5日、新宿にあるグロースエクスパートナーズのラウンジ内にて、プロジェクトマネジャーとプロダクトマネジャーの在り方を考えるイベント、『プロダクトマネジメント × プロジェクトマネジメント 再入門 ~Webディレクター・SIer・スタートアップ・事業会社の垣根を越えて~』が開催された。
グロースエクスパートナーズにてITアーキテクトを務める関満徳氏(現グロース・アーキテクチャ&チームス株式会社 プロダクトオーナー支援スペシャリスト)を筆頭に、一般社団法人日本PMO協会にて事務局長を務める十返文子さんなど、多くの講師陣が登壇。それぞれの立場からプロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントに対する見解を述べた。
本記事では、当イベントの中でプロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントの違いについて語った十返さんと関氏の話を中心に取り上げる。似て非なるものである両者について、それぞれの在り方を紹介しよう。
一般社団法人日本PMO協会 事務局長
十返文子(とがえり・あやこ)さん
大学在学中から携帯電話向けコンテンツ開発に携わり、卒業後も大手クライアントや公共系案件などでのWebディレクションやPMを経験。Web制作会社でWebディレクターとして様々なプロジェクトに携わり、PMOとしての知識・経験・技術を得る。その過程でプロジェクトマネジメントに出会い、PMP資格を取得。PMI日本支部の事務局に従事し、Webサイトの運用やコミュニティ活動の支援を担当した後、現職
グロース・アーキテクチャ&チームス株式会社 プロダクトオーナー支援スペシャリスト
関 満徳(せき・みつのり) 氏
エンタープライズ領域の企業にDX化のコンサルティングサービスを提供。プロダクトマネジメント・デジタルサービスデザイン領域にてハンズオンでの事業支援や教育を行なっている。「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント」(日本能率協会マネジメントセンター/2019)監訳
この日最初に登壇した十返さんはまず、「プロジェクト」と「プロダクト」をマネジメントする上で知っておくべき、それぞれの差異を以下のように語った。
「語源から紐解きますと、それぞれをマネジメントするうえで、持っておかなければいけない視点が違うように思います。プロジェクトをマネジメントするうえでは“目的や目標”を意識した視点が必要となり、プロダクトをマネジメントするうえでは“顧客や市場”を見据えた視点が重要になると考えます」(十返さん)
また、「マネジメント」という言葉については、その意味をこう説明した。
「マネジメントはよく『管理』と日本語に訳されるのですが、そうすると英語でいうAdminとControlの要素が入ってしまいます。だから、私は『やりくりする』という言葉のニュアンスが一番近い気がしています」
十返さんによると、マネジメントとはあくまですべてを管理するわけではなく、目標や目的を達成するために何が必要かを的確に判断し、その状況に合った行動をすることだという。
「プロジェクトは期限内に独自の目標を達成する活動のこと。そのため、プロジェクトには例えば“ダイエット”など、対象となる顧客が存在しないものもあります。こうした『目的や目標』を達成させるための行動をやりくりするのが、プロジェクトマネジャーとしての役割と言えます」(十返さん)
それでは、プロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントは現場ではそれぞれ具体的にどのような役割を求められているのだろうか。
十返さんによると、プロジェクトマネジメントとは、品質やコスト、納期などの制約がある中で、プロジェクトの目標を実現するために実施される活動だと語る。そして、プロジェクトマネジメントの国際標準の1つであるISO21500に示されているプロジェクトマネジャーが向き合うべき10個の課題(サブジェクト・グループ)を説明した。
① スコープマネジメント
② 品質マネジメント
③ コストマネジメント
④ タイムマネジメント
⑤ 調達マネジメント
⑥ 資源マネジメント
⑦ リスクマネジメント
⑧ コミュニケーションマネジメント
⑨ ステークホルダーマネジメント
⑩ 統合マネジメント
中でも、プロジェクトマネジメントを行う上では、それぞれの優先順位とバランスを考慮しながら総合的に『目的や目標の達成』に近づいているのかを見極めることが一番重要だと語った。
続いて登壇した関氏は、「プロダクトマネジメント」という言葉はITの分野のみならず、様々な業界で使用されていることを前置きしつつ、ITの分野におけるプロダクトマネジメントについて、以下のように説明した。
プロダクトマネジメントの仕事は大きく2つのフェーズに分かれており、それぞれのフェーズで必要とされる役割が異なってくるという。
「プロダクトマネジメントは、製品やサービスの市場投入を境として、市場投入までに行うべきことを『上流』、市場投入後に行うべきことを『下流』として分類しています。上流ではプロダクトやサービスそのものおよびロードマップをどうするか、また、何をどう作るかなどを考えるフェーズになります。それに対して下流は、マーケティングなどを行い、そのプロダクトをどうやってもっと広めていくか、または撤退するか、ということを考えるフェーズになります」(関氏)
ITの分野におけるプロダクトマネジャーには、上記のような2つのフェーズでの役割を求められるが、プロダクトマネジャーを取り巻く現状の課題として、開発系出身のプロダクトマネジャーが顧客とビジネス視点の話を求められるケースや、経営経験のないプロダクトマネジャーが経営層に刺さる言葉遣いを求められるケースがあると続けた。
「プロダクトマネジメントの対象領域にかかわるステークホルダーは、顧客、経営層、現場部門、開発部門など多岐にわたるが、それぞれ全部使う言語(説明すべきポイント)が違う。同じことを伝えるために、それぞれに伝わる言葉で話せなければいけないんです」(関氏)
十返さんは、経営学者のピーター・ドラッカーやAirbnb のディレクターであるIan McAllister氏の言葉を引用しながら、両者の違いを以下のように語った。
「ドラッカーは著書の中で“マネジメントとは物事を正しく行うことであり、リーダーシップとは正しい事を行うことである”と述べています。さらに、Ian McAllister氏は“プロジェクトマネジャーは『How and When=どうやって、いつ』を所有し、プロダクトマネジャーは『What and Why=何を、どうして』を所有する”と述べています。これらを私なりに解釈してみると、『どう作るか』がプロジェクトマネジャーの仕事で『何を作るか、また、なぜ作るべきなのか』を判断するのがプロダクトマネジャーの仕事なのではないかな、と思っています」(十返さん)
なお、当日の各講演の資料は、セミナー公式ページで公開されている。
これからマネジメントという領域に関わることがあるであろうエンジニアたちが、「マネジメント」という業務の内容や範疇について悩んだ際には、上記のポイントを今一度整理し、自分のなすべきことを確認してみてほしい。
取材・文/撮影 羽田智行(編集部)
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