こんなEM・PMは開発チームを腐らせる?成果が出ないチームビルディングでよくある四つの勘違い【川邊健太郎 田中邦裕 及川卓也 下田紀之 尾藤正人】
バックグラウンドの違う専門性の高いメンバーが集まり、一つのゴールを目指すシステム開発チーム。
「理想のマネージャー」を目指して、何とかチームをまとめあげようと奮闘するものの、から回ってプロジェクトを迷走させてしまうEMやPMは少なくないだろう。
そこで今回はエンジニアtype編集部が、「開発チームビルディングでよくある四つの勘違い」とその解消法を、過去のインタビュー記事から一部抜粋して紹介。
自分の中に凝り固まった「マネージャー像」を見直すきっかけにしてみてはいかがだろうか。
勘違い1.「厳しい態度が、部下を成長させる」【LINEヤフー川邊健太郎×さくらインターネット田中邦裕】
今夏、LINEヤフー代表取締役会長の川邊 健太郎さんとさくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕さんが、相次いでマネジメントに関する考えをXに投稿して注目を集めた。
共通するのは「部下が安心して伸び伸びと働ける環境を作るのが上司の役目である」というメッセージだ。
「自分もそうやって育てられてきたからこそ意味もなく厳しい態度をとることが、部下を一人前にする良い方法だと本気で信じている人もいるのかもしれない」と前置きしつつも、二人とも「上司の厳しい態度はチームのパフォーマンスを下げることにつながる」と断言した。
それが許されたのは終身雇用が前提だった頃の話で、この人材不足の時代に上司がそんな態度をとれば、部下はさっさと転職するに決まっています。
特にエンジニアは引っ張りだこなので、われわれのようなIT企業は人材流出によって大きなダメージを受けてしまう。不機嫌な上司は、自分のマネジメントが会社にとって何のメリットも生んでいないことを自覚する必要があります。
(さくらインターネットが)大きくなる過程で外部からたくさん人を採用したので、中には古い価値観を持つ人もいて、次第に組織が硬直化していきました。加えて私自身も多忙すぎて不機嫌だった時期があり、起業時に思い描いたような会社はなかなか作れなかった。
だから10年ほど前に「自分が作りたかった会社を作る」という原点に戻る活動を始めて、自由でフラットな社風を実現するためのさまざまな施策を行なったんです。
過去の経験があるので、「放っておくと組織は簡単に従来型の日本的文化に染まってしまうのだ」と肝に銘じています。
勘違い2.「斬新なアイデアより、失敗しない選択」【元セガP 下田紀之】
チームリーダーであれば「絶対にこのプロジェクトを失敗させたくない」という思いから、無難で堅実な選択肢を取ってしまいたくなるもの。
そこで紹介するのが、著書『ゲーム開発プロジェクト管理の基本』(技術評論社)で、ゲーム開発の現場での失敗例からプロジェクトを成功へと導く方法を体系化した下田紀之さんのインタビューだ。
下田さん自身も、ゲーム会社でPCゲームの企画開発に携わっていた時、失敗しないためにメンバーたちのアイデアを「切り捨てた」ことが、今でも忘れられない手痛い経験だったと語る。
プロデューサーとして、メンバーたちのアイデアをとりまとめる役割を担っていた時、そこで挙がったアイデアの中に、非常に画期的なものがあったんです。
ただプロデューサーとしての経験が浅く、絶対に失敗したくないと考えていた私は、分かりやすいゲームを作ろうとして、アイデアの根幹となる尖った部分をすべて削る判断をしました。その方が、より大衆に受け入れられる人気ゲームになると考えていたんです。
結果、完成したタイトルは同ジャンルのゲームの中に埋もれてしまいました。
もちろん、アイデアが尖れば尖ったほど良いゲームができるとは限りません。ですがあの時は、どうすれば斬新なアイデアがユーザーに伝わるのかを考えようとしませんでした。新米リーダーの頃に経験した、今でも忘れられない手痛い失敗です。
勘違い3.「自分が思う正しさにだけ従う」【オープンロジCTO 尾藤正人】
多くの意見をまとめる立場であれば、最終的に自分が正しいと思うことに舵を切らざるを得ない場面も増えてくるだろう。
しかし「いくら自分の言ってることが正しくても、それで望む結果に至らないのであれば意味がない」と話すのが、ウノウ、UUUM、ReproでCTOを務めてきたオープンロジCTOの尾藤正人さんだ。
自分の位置から見た分には正しくても、視座を変えれば違う正しさがあるということでもあるでしょう。
全てにおいて自分の思う正しさだけに照らして指示することは考えてマネジメントをしていないとも言えると思っています。
「これをやりなさい」と命令・指示することには何の工夫もいらないじゃないですか。マネージャーが行動を起こすにはみんなの協力を得て物事を前に進めるのが目的です。そのための最適なアプローチは何なのかを考えて行動する、ということが必要だと考えています。
勘違い4.「課題やビジョンよりも、作りたい気持ちが最重要」【及川卓也】
エンジニアの仕事の醍醐味の一つは、「作る喜び」を感じられること。一方でマネージャーであれば「顧客課題やニーズをもとに作る」ことも無視できないはずだ。
マイクロソフト、グーグルでプロダクトマネジャーやエンジニアリングマネジャーを歴任してきた及川卓也さんも、その意見には同意しつつも、2023年にリリースした自社プロダクト『Jasmine Tea』は、「自分たちが作りたい」というところから始まったのだと話す。
私が普段多くの会社の人に偉そうに言っている「まずは顧客を理解し、顧客の課題から逆算して必要とされるものを作ろう」ということとは真逆の、いわば「悪い意味のプロダクトアウト」として始まっているんです。
しかし及川さんが『Jasmine Tea』に迷いなく進めているのは、「作りたい気持ち」だけではなく、心底信じられるビジョン・ミッションがあるからだと続ける。
新しいものをスタートする人はビジョナリーでなければなりません。ビジョナリーな人というのは、誤解を恐れずに言えば、詐欺師です。
悪いことをしない詐欺師。自分の思い通りにことが運んだならば、全ての人に良いインパクトを与えるのだ。そう人々に信じ込ませ、巻き込んでいかなければなりません。
そして大事なのは、そのビジョン・ミッションは、他ならぬ自分自身も巻き込まれるようなものでなければならないということです。心底自分もそれを信じていて、何がなんでも実現したいと思うようなものである必要がある。
思えば『Jasmine Tea』以前のわれわれのプロダクトが長続きしなかったのは、そこが足りなかったからなのかもしれません。自分たちが掲げた世界観に対して、心底心酔しきれなかったところがあったかと思います。
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