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もう「仕事中のとっさの会話」で困りたくないエンジニアへ。コミュニケーションの瞬発力を鍛える三箇条【澤円解説】

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「この部分、君はどう思う?」
「ところであの件ってどうなってる?」

プロジェクトを進めていく中で、突発的に意見や説明を求められるシーンは少なくない。落ち着けばいいだけなのに、どうしてもうまく話せない……という課題感を抱えているエンジニアもいるだろう。

そんなコミュニケーションの悩みに対して、“プレゼンの神”と呼ばれる澤 円さんは「うまく話そうとする必要はないんですよ」と説く。事実、澤さんは11月18日に新著『うまく話さなくていい ビジネス会話のトリセツ』を上梓したばかりだ。

では一体、コミュニケーションに苦手意識を抱えるエンジニアたちはどう対処したらいいのか。今回は、多くの人が苦い経験を持つであろう「とっさのコミュニケーション」にフォーカスして打開策を探った。

プロフィール画像

株式会社圓窓 代表取締役
澤 円(@madoka510)

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社) Voicyチャンネル:澤円の深夜の福音ラジオ オンラインサロン:自分コンテンツ化 プロジェクトルーム

ビジネス会話の成否に関わる「何がうれしいかというと」構文の罠

ーー「コミュニケーションが苦手」と思っているエンジニアは少なくないと思うのですが、そもそも仕事をする上で「良いコミュニケーション」とはどんなものなのでしょうか?

端的に言うと「相手主体であること」だと思います。

エンジニアリングは、本来ビジネス上の課題を解消するための手段です。コミュニケーションもそれと同じ。会話をすることで互いに共通理解を持ち、ビジネスを推し進めるアクションにつなげることがビジネス会話の目的です。会話を通じて相手のアクションを引き出すことが必要だとすると、自分主体でいいはずがないんです。

例として、先日Xでこのポストが話題になっていました。

「何がうれしいかというと」という言葉の主語が自分ではなく、あくまでも「このモデル化があなたに何をもたらすかというと」を話せるといいですね。

その際に大切なのは、想像力を働かせることです。分からないなら聞いてしまえばいいだけなので、話し方や表情といった「うまく話す」ためのテクニックはあくまでも副次的なものと考えてOKですよ。

ーーただ、相手のことを思えば思うほどに「自分の考えを伝えなければ」という方にばかり意識が向いてしまうことはありそうです。

それだけだと、ビジネス会話で重要な「合意」と「定着」に至りにくいかもしれないですね。

ーー「合意」と「定着」?

ビジネスを進めていくうえでは、「契約する・しない」「やる・やらない」といった合意が必要です。そして、「こういう背景で、こう合意した」という前提があれば、ゴールに向けたマイルストーンが作りやすく、ビジネスの進捗状況のチェックが容易になる。つまり、プロセスの定着です。

この時に気を付けてほしいのが、ビジネス会話をする上では全員が「フラットな立場」であるということ。エンジニアも、クライアントと折衝することもあれば、ベンダーの担当者と話すこともあるでしょう。そういったシーンで、技術のプロとしてその場にいるからといって専門領域についてだけ議論すればいいわけではないし、技術の話であれば強く出ていいなんてことはありません。

ーー確かに、専門知識がある話題だとつい強気になってしまうこともあるかも……。

相手との関係性はその場を離れた瞬間に入れ替わる可能性があるということを意識するといいですよ。

クライアントだった企業から営業を受けることになるかもしれないし、プロジェクトが変わればベンダーが顧客にもなり得る。ビジネスは思いもよらないところでつながっているので、油断は大敵です。

フラットに話し合いしているイメージ

とっさの会話でつまづく理由は、エンジニアの仕事の特性にある?

ーー仕事上の会話の中でも「とっさのコミュニケーション」について具体的に聞かせてください。例えば、何の前触れもなく「あの件ってどうなってる?」とプロジェクトの状況を聞かれたり、会議で「開発チームとしてはどう思う?」と意見を求められたりすると、思うように話せないエンジニアもいそうです。なぜ言葉に詰まってしまうのでしょう?

エンジニアという仕事の特性上、「全てを構造的に説明しなければ」と思ってしまうケースは多そうですね。

システムでも、全体を考慮せずに部分的に対処するとエラーが出るじゃないですか。それと同じで、「前後のコンテキストって何なの?」「他のパラメーターとの兼ね合いがあるしな」と考え込んでしまい、とっさの反応がしにくくなっているのかもしれません。

もしくは逆に「全部話しても伝わらないだろうから」と、説明を諦めてしまうパターンもありそうです。

ーー仕事の特性がコミュニケーションに影響しているとは思いませんでした。

あと、これは職種問わずいえることですが、とっさのコミュニケーションが苦手な人の多くは、自分への期待値が高すぎるんだと思います。「うまく話さなきゃ」という気持ちが先に立ってしまうんですよね。

なので、コミュニケーションの合格ラインを下げるといいでしょう。「相手を怒らせなかった」「最後までちゃんと話を聞けた」など、それくらいでいいんです。その一瞬のコミュニケーションで自分の評価が下がったとしても、それは誤差にすぎません。それに、「完璧な自分だけ見せる」ことを期待をしているのは、自分だけだったりするものですよ。

「とっさの会話力」鍛える三つの教え

ーーここまでのお話で、とっさに意見を求められても「うまく応えなきゃ」ということを重要視しすぎない方がいいと分かってきました。とはいえ、言葉に詰まってしまう自分をどうにかしたい……というエンジニアに向けて、「とっさの会話力」の鍛え方を教えていただきたいのですが。

三つお教えしますね。

1.最初の一言orアクションを決めておく

前提として、とっさの会話への対応はワンステップであることが望ましいです。災害時の非常持ち出し袋だって、何重ものトビラの奥に入れていては意味がないですよね? それと同じです。

なので、とっさの対応で焦らないように、最初に言うセリフを決めておくといいでしょう。「参考になります」でも「いい意見ですね」でも、なんだっていいんです。決まった一言を発するだけで、一旦は間が生まれますが、言いよどむことはなくなります。これは、「言いよどんでしまった」ということに対する自分への苛立ちを無くす効果もありますよ。

同じく、返答に困りそうな質問を投げかけられたときに取るアクションを決めておくのも効果的です。手を組む、自分の腿を触るなど、意図的にアクションを取ることでペースが整うんです。

焦ってしまう人に対して「まずは落ち着きましょう」といってもアドバイスにはならないですよね。なので、意図的に落ち着けるような一言やアクションを決めておくことがおすすめです。

2.ひたすら観察・模倣する

これはシンプルに、自分から見て「こういう風に話せるようになりたい」と思う人を観察して真似をしてみるだけです。きっと最初は上手くいかないですが、アウトプットしてみないことにはできているかどうかも確認できませんからね。

まずは、自分では理解できているつもりのものについて、口に出して説明してみるといいですよ。一人で話すだけでもいいですが、せっかくなら音声コンテンツにしてみるのも一つの手です。

3.メンターをつくる

最後は、人を巻き込む方法です。若い方であれば、自分のコミュニケーションに対してフィードバックをくれるメンターを見つけておくとよいでしょう。

中堅層になってくると周囲から求められるレベルが上がっていくので、対等に意見を言い合える相手をつくると効果的です。周囲を見渡して、フラットな関係で相談できる人を探してください。

澤円流_「とっさの会話力」鍛える三つの教え

仕事の情報収集を脳内常駐タスクに置いておこう

ーー澤さんは『エンジニアtype』でも連載を執筆いただいている「コミュニケーションのプロ」ですが、ご自身が日々のコミュニケーションで意識していることはありますか?

仕事に関するテーマについて、ずーっと意識をし続けるようにしています。カラーバス効果と呼ばれるものに近いですね。

コミュニケーションの質は、日ごろ考えている量に比例すると思っています。なので、直近仕事で扱うトピックに関しては脳内に常駐タスクとして置いておくんです。すると情報に敏感になるので、ふとした瞬間に「これ使えるかも」とつながりますし、「今この話してみようかな」というアウトプットの機会に恵まれることもあります。

アウトプットが上手い人は、総じてインプットの質も高い。アウトプットとインプットは繰り返しですからね。

ーー脳内でずっと意識しておくのは、なかなか大変そうです。

でも、ぜひトライしてみてほしいです。というのも、何かを上手くなりたいと思ったとき、最初に必要なのはスキルではなく意思だから。

とっさのコミュニケーションで後悔したくないのであれば、まずは「情報に意識を張り巡らせる」ためのやる気を出すこと。これが、上達の第一歩ですよ。

もともとエンジニアには好奇心旺盛な人が多いと思うんです。技術といった特定のジャンルにハマれるわけですから。ただ、AIなどが普及して作業者としてのエンジニアの未来が危ぶまれつつある今、エンジニアリングは総合格闘技化しています。

ビジネス会話も、必要な要素の一つ。クリエーティブな働きができるエンジニアとして、もっと面白い仕事を目指していってほしいですね。

取材/今中康達(編集部) 文・編集/秋元 祐香里(編集部)


書籍情報

澤円
『うまく話さなくていい ビジネス会話のトリセツ』(プレジデント社)

重要な会議やプレゼン、1on1、交渉に雑談……。ビジネスの場では誰しも「上手に話さなければ」と思いがちです。しかし、「話し方」を上達させようと焦る必要はありません。

ビジネスにおいて本当に大切なのは、「成果を上げる」「課題を解決する」こと。そのためには、「うまく話す」よりもずっと重要なポイントがあるのです。

本書では、旧来の“型”や“ルール”を超えた、新しいビジネス会話の思考法を提案。ただ流暢に話すのではなく、目的や意図を深く理解し、相手に届く言葉を選ぶ。AI時代だからこそ求められる、人の言葉に宿る価値と意義を明らかにする。

「あなた」の言葉で成果を上げるための考え方と実践的な運用法が詰まった一冊です。

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