日々流れてゆく膨大な情報量の中からおいしいネタを敏感に察知し、ネット界隈を賑わせてくれるWeb業界の異端児・村上福之氏。同氏独自の経験と価値観から、「キャラ立ちエンジニア」の思考回路を紐解いていく。
禅寺修行に想う~プライドを叩き潰されないと、人もコードも成長しない【連載:村上福之】
この連載の担当編集のコロクさんと、禅寺で3泊4日の禅修業をしてきました。完全にプライベートです。
禅寺の修行はかなりつらく厳しかったですが、学ぶことが多かったです。やっている時は「無意味だ」と感じることばかりで腹が立ちましたが、終わってみると、人生の一つのターニングポイントになったように思います。
「作法は人の性格を表すもの」
修行の内容(http://www.zazen.or.jp/schedule.html)は朝5時に起きて、太極拳をして、座禅を1時間組んで、かなり複雑な作法に基づいて無言で音を立てず皆に合わせて食事をして、その後、マイナス3度という気温の中、裸足で雑巾がけしてお寺の掃除をするなどでした。昼は休憩して、午後4時半くらいから再び座禅を組んで、また作法に基づいて食事をして、最後に1時間半ほど座禅をして、マイナス3度の中、暖房のない本堂で午後10時に寝るという毎日です。
寒すぎて、耳と手と足が痛かったです。FacebookやLINEから隔離された4日間でした。ネットに隔離されたのは、むしろ精神衛生上良かったように思います。
ぼくはもともと、動きに無駄が多いためか、非常に指導を受ける機会が多かったです。禅の作法によると「音が鳴るというのは動きに無駄が多い」らしいです。ぼくは物を食べるのも、箸を置くのも、食器1つ持つのも音が鳴るので、よく指導を受けました。
「作法は人の性格を表すもの」だと和尚さんから常々言われ、反省することが多かったです。
食事の所作にしても、座禅の組み方にしても、一度、知識として教えていただいても、実際にやってみると全く身に付いておらず、結局のところ、隣の人や目の前の上級の修行者の方の所作を一つ一つまねをして身に付けていたように思います。
新卒時代がプログラマーとして一番成長したと感じるワケ
一つ一つまねをして身に付けて、血となり肉となりとしていく経験が、本当に大事であると思いました。
よくよく考えてみると、人生で成長のポイントになる時、非常につらい思いをして、ひたすら何かをまねて身に付け、厳しい指導を受けて、血となり肉となりとしていたことが多かったように思います。最近、そういった機会がなく、全く怠惰で成長のない日々を送っていたと痛感しています。
例えば、英語を勉強した時です。ぼくは12年前にオーストラリアの永住権を取るにあたり、オーストラリアで生活ができるレベルの英語力、つまりは、人並みの読解力と、手紙や文書を書いたり、会話や議論が一通りできるかなどなどの試験がありました。
だいたい現地の高校生程度の英語力が必要なのですが、ぼくには全くその英語力がありませんでした。結局のところ、最も効果があったのは、人の手紙や、うまい人の文章を1カ月、毎日毎日、一字一句、写経してまねて覚えたことでした。
時々、自分で何か長い文章を書いてみて、現地の方に添削していただき、真っ赤になって返ってきた時が、最も効果があり、言い回しも、血となり肉となったように思います。
また、プログラミングに関しても、ネットや本で少し覚えたつもりでも、身に付いてないことが多かったです。結局のところ、僕が一番成長したのは、新入社員の時パナソニックの上司のコードを一行一行見て、読んで、写して、少し仕様に合わせて書き直して、怒られて……とやっていた時でした。そこで血となり肉となり、身に付いたことが、最も自分の成長につながったように思います。
一晩必死で考えたコードが次の日に全部コメントアウトされて、「処理もメモリも無駄です」と書かれていた時は、非常にプライドを叩き潰された気分でつらかったです。当時、新入社員の中では最もコードが書けたと思っていたので、なおさらつらかったです。
でもその後、何度も怒られて、処理の無駄とメモリの無駄の少ない禅のようなコードを書くようになりました。
インターネットが普及し、多くの知識が人に教えを請うことなく得られるようになりました。しかし、知識は得られても、血となり肉となっていないことが非常に多いです。
やはり、人生において、大きな成長をするには、人から教えを請い、愚鈍に上級者の所作のまねて、指導を受けて、プライドを叩き潰されないと、血となり肉となりとなっていかないのだと心から思いました。
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