UIEvolution Founder
中島 聡
Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ
UIEvolution Founder
中島 聡
Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ
今回は、最近メディアで目にすることが増えてきた、自動車のイノベーションについて書きましょう。
先日、AppleのM&A責任者とテスラモーターズCEOのイーロン・マスクが会談をしたというニュースが流れ、Appleによる大型買収が実現するのかという憶測も出ていました。その後、イーロン・マスク本人が「可能性は低い」と否定したようですが、これだけ話題になったのは、テスラの勢いがものすごいからでしょう。
自動車のあり方から製造法、販売方法まで、すべてをリ・デザインしてきたテスラの自動車は、いわば自動車業界のiPhone。
わたしの知り合いにも、テスラ車を買った人が何人かいます(彼らいわく、「一度試乗したら最後、乗り心地に心を奪われる」そうで、それゆえわたしは試乗を控えています)し、昨年から株価も急上昇しています。
今回のニュースがさまざまな憶測を呼んだのも、スティーブ・ジョブズ没後、目を引くようなイノベーションを生み出せていないAppleが、新たなOne More Thingとしてテスラを買収して自動車分野に乗り出すというストーリーが、多くの人をワクワクさせるものだったからだと思います。
でも、テスラの創業は2003年。10年も前の話です。なぜ、今になって急に注目を集めるようになったのでしょう。
その理由は、マーケットが「クルマのPC化」をいよいよ現実のものとして認識し始めたからと見ています。
テスラが作った電気自動車は、PCの発展の歴史で言うところの「Dellモデル」をほうふつとさせます。
昔はソフトウエアや部品をPCメーカーがそれぞれ別に作っていたため、「PCは高価なもの」だったわけですが、Dellは「Windows OSとIntellのチップがあれば格安でPCを作れる」ということを世に知らしめた。
自動車も、部品の標準化が進み、ソフトウエアの互換性を高めれば、安く、カスタマイズ可能なものとして製造できるようになります。さらに、ネット接続を前提としたシステム構成にすれば、バージョンアップも容易にできる。その先鞭をつけたのがテスラなのです。
ゆくゆくは、中国の工場に製造を委託することでオリジナルの自動車を販売するソフトウエアメーカーが出てきたり、3Dプリンタが普及すれば個人で設計図を手に入れてカスタマイズする人たちも出てくるでしょう。
実際、最近はシリコンバレーだけでなく日本でも、「スマートモービル」の実現を目指して起業する人たちがちらほら出てきています。
今のところ、その多くはダッシュボード回りやECU(電子制御ユニット)のイノベーションを志向していますが、いずれエンジン・モータに特化したスタートアップや、搭乗席のUIを高めるデザイン会社なども出てくるかもしれません。
わたしが考えるクルマのスマート化は、大きく4つのフェーズに分かれます。
【1】ネット接続による乗車中のエンタメ拡充
【2】サーバ側で車載ナビゲーションをコントロール(主にオフボード型)
【3】車載ソフトウエアで走行ビッグデータを活用
【4】自動操縦
2014年の時点で、すでに一般化しているのは【1】と【2】です。
わたしが創業したUIEvolutionでも、【2】にあたる部分で、ナビアプリケーションの『UIE Cloud Navi』や車両管理システム『Drivelytics』を提供しています。アメリカでは日本ほどカーナビが普及していませんから、まだまだ開拓の余地があるジャンルです。
加えて、UIEがコネクテッドカー実現に向けて作った自動車メーカー向け開発環境『UIEngine for Automotive』も、トヨタなどが採用しています。
そして今、スマートモービル関連のビジネスで立ち上がりつつあるのが、【3】のビッグデータ活用。
言葉としての「ビッグデータ」は眉唾ものですが、自動車メーカーが本腰を入れ始めているテレマティクスサービスと連携して渋滞解消に役立てたり、自動車間通信による事故防止を促進したりと、可能性はさまざま考えられます。
近年のスマートフォン関連ビジネスの潮流を見れば、新しいデバイスの上で走るアプリケーション開発や利用者データの活用が進むのは容易に想像できます。だから、そこにいち早く参入しようとするプレーヤーが増えているのでしょう。
ただし、スマートモービル関連のビジネスは、スマホと違ってイノベーションが起きるまで時間がかかるのも事実。理由はいろいろありますが、一つは完成車メーカーやサプライヤーとの交渉が大変だからです。
UIEでも、トヨタと協業するまでの交渉には3年ほどかかりました。一度入り込んでしまえば大きなインパクトを残せる(UIEが早期にこの分野に乗り出したのもそのためです)ものの、スマホアプリのように開かれたマーケットプレイスがあるわけではなく、「技術力」、「アイデアの奇抜さ」だけで市場参入するのは事実上不可能です。
特にエンジニア目線で考えた場合、ビジネスディベロップメントの難しさは、高い参入障壁となるでしょう。
もう一つ、この分野のイノベーションに時間がかかる理由は、自動車のような高級品は買い替えのサイクルが長いから。
これもUIEの事例として、今手掛けている自動車向け開発は2016年モデル用のものだったりと、息の長いものになっています。
さらに、Webやスマホアプリと違って、とりわけ車載システムの場合は、安全面などを考えるとリーンな開発手法では通用しません。ネット接続によるバージョンアップやサーバ側での管理によって、前ほどシステム納品時の品質が重要ではなくなっているものの、フルパッケージで完成度の高いものを提供する必要があるのです。
この点で、先に挙げた【1】~【3】のフェーズを全部すっ飛ばして【4】の自動操縦に取り組んでいるGoogleや、電気自動車のトレンドに対抗して独自の燃料電池カーの研究を進めているトヨタは、この市場の特徴をよく理解していると感じます。
「大きく人の生活を変えるモノは、技術、UX、販売網などすべてを整えてからトータルパッケージでリリースしなければならない」
というのは、AppleのiPhoneしかり、トヨタのハイブリッドカー『プリウス』しかり、過去のイノベーションの歴史が証明しています。
これは資金力のある企業でないと至難の業ですが、だからこそ、日本企業ではトヨタへの期待は大きい。事業再編の真っただ中にあるソニーやパナソニックにも、この分野で奮起してほしいと思います。
最後に、日米の生活環境の違いから、スマートモービル関連のイノベーションを考えてみましょう。
日本では、特に首都圏でクルマ離れが叫ばれています。電車を筆頭とする自動車以外の交通手段が、高度に発達しているからです。一方、アメリカはまだまだクルマ社会ですから、スマートモービルの発展もアメリカやヨーロッパを中心に起こっていくと思います。
やはり、多くの人にとって「身近な事柄」の問題を解消することが、イノベーションのきっかけですから。
日本でソシアルゲームが発達したのも、日本人のライフスタイル、つまり短い時間での移動を頻繁に行う生活環境だったからです。そう考えると、スマートモービル関連のビジネスを志す人たちは、渡米することを視野に入れて考えた方がよいかもしれません。
もちろん、UIEの日本法人に入社して米国で働く、という道もあります。優秀なエンジニアにはいつでも門戸を広げています。
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