【ピクサーで働くには?】日本人アート・ディレクター堤大介氏に聞く、ピクサー流の仕事術
映画『モンスターズ・インク』のシリーズ第2作として今年7月に公開され、大ヒットを記録したディズニー/ピクサーの3Dアニメーション映画『モンスターズ・ユニバーシティ』。
主人公のマイクとサリーが「怖がらせ屋」になる前日譚を描いたストーリーはもちろん、作品ごとに深みを増すピクサー・アニメーション・スタジオ(以下、ピクサー)のCGアニメーションも注目を集めた作品だ。
この作品でアート・ディレクターを務めていたのが、日本人クリエイターの堤大介氏である。
同氏は油絵を習うために入学したニューヨークの美大スクール・オブ・ビジュアルアーツで映画の世界に興味を持ち始め、卒業後の1998年、ジョージ・ルーカスが子ども向けビデオゲーム開発のために作ったルーカス・ラーニング社に就職。
その後、CGアニメーション製作会社ブルー・スカイ・スタジオに移り、『アイス・エイジ』、『ロボット』、『ホートン ふしぎな国のダレダーレ』3作のコンセプト・アートを担当してきた。
2007年に転職してから約6年働いているピクサーとは、いったいどんな職場なのか。なぜ、同社はテクノロジーとクリエーションを高度に融合させたCG作品を生み続けることができるのか。
11月20日に発売される『2007年に転職してから約6年働いているピクサーとは、いったいどんな職場なのか。なぜ、同社はテクノロジーとクリエーションを高度に融合させたCG作品を生み続けることができるのか。 11月20日に発売される『モンスターズ・ユニバーシティ MovieNEX』(※説明は文末)の告知を兼ねて、堤氏にピクサーならではの仕事術を聞いた。
作品やキャラクターの印象を左右する、細かな演出へのこだわり
『トイ・ストーリー3』の監督をやったリー・アンクリッチが僕の作品を気に入ってくれて、「一緒にやらないか」と声をかけてくれたのがきっかけです。
前職のブルー・スカイ・スタジオでも映画製作をやっていたので、僕の名前を知っていたみたいで。ピクサーといえば、過去に手掛けてきたアニメーション作品の実績・クオリティーを見ても業界最高峰の会社ですし、チャンスだと思い転職を決めました。
いや、その前に2008年の公開作品『ウォーリー』の製作にかかわってから、『トイ・ストーリー3』のアート・ディレクターをやらせてもらいました。もともとこの作品のディレクターとしてスカウトされたので。
ピクサーは製作スタッフの人選をすべて監督が決めるんですが、監督にそこまでの権限が与えられるのはこの業界では珍しいことなんです。一般には、製作総指揮であったり、さまざまな関係者の意向も踏まえてスタッフが決まるので。
僕は作品全体の色彩と照明効果を統括するアート・ディレクターとして携わりました。いわば、作品が持つ世界観を創り出す立場ですね。
監督やほかのディレクターと一緒にコンセプトとなるビジュアルづくりを行った上で、CG製作スタッフをディレクションしていく仕事でした。
モンスターズ・ユニバーシティの学長として、ディーン・ハードスクラブルというキャラクターが出てきますが、彼女の演出には個人的に思い入れがあります。
このモンスターはマイクとサリーに「怖がらせ屋になんてなれない」と忠告する悪役っぽいキャラなので、登場する全シーンで常に後ろから光を当てて、陰影をつけるという演出をしました。すごく細かい部分ではあるのですが、1体のキャラクターだけ後ろから光が当たり続けているのは、過去に例のない演出なんですよ。
「グローバル・イルミネーション」というレンダリング技法を使い、細かく光量の計算をしながら演出していったため、時間も手間も相当かかっています。
そのため、この演出の必要性を監督や製作スタッフ皆に理解してもらうまでにはけっこう苦労しました。でも、「学長のキャラクターを引き立たせるためには必要なんだ」とお願いしながら、何とかやり切った感じです。
ほかにも、『モンスターズ・ユニバーシティ』は前作の『モンスターズ・インク』より以前の物語なので、前作の世界観は残しつつ、各キャラクターは若く未成熟な雰囲気が出るように調整するなど、本当に細かいクリエーションに力を尽くしました。
ピクサーのすごさは業界常識を覆す「クリエイティブ至上主義」
そうですね。僕がピクサーに入って「すごいな」と思ったのも、この「クオリティーを追求するためならリスクを恐れず挑戦する」という点です。
例えば、製作途中の作品でクオリティーに難があると判断したら、それまでいくらコストがかかっていようと、最初から作り直そうという姿勢があります。良いもの、納得できるものができなければ、スケジュールも遅らせる。
アニメ作品に限らず、アメリカでの映画製作は1億ドル(約100億円)規模の製作費を使います。それでも、ヒットするかどうかはフタを開けてみないと分からないというシビアな世界です。
にもかかわらず、コストよりもクオリティーを優先して映画製作ができるのは、会社全体にクリエイティブを最重要視するポリシーがあるという証拠です。
製作のトップである監督に大きな権限が与えられるというのも、「クリエイターが最大限に力を発揮できるようにするべきだ」という考えの表れなんだと思います。
CGアニメーション作品のエンターテインメント性を上げるには、確かに日々進化するテクノロジーをキャッチアップして使いこなすことが欠かせません。
でもそれ以上に、ピクサーの現場には「どうやったらキャラクターに人間味を持たせられるか」、「どうすれば観客が『主人公』になって観られるものにできるか」という点にこだわるマインドが根付いています。映画はテクノロジーありきで作るものではありませんからね。
そのせいか、「テクノロジーを駆使してテクノロジーを超える」というか、そういうチャレンジを厭わないスタッフが多いんです。
技術的に「こんなのできるわけがない」と思うようなことでも、「じゃあどうすれば乗り越えられるのか?」と話し合える風土がある。
だから、先ほど話したディーン・ハードスクラブル学長の演出のようなチャレンジも、実現できたのだと思います。
堤氏が仕事のかたわらで自主映画を製作した理由
実は最近、自分自身が監督になって1本の短編映画を撮ったんですね。初めての自主製作で。ほかにも、以前から絵画を通して人々の暮らしを変えていこうとする慈善活動をやっていまして、この活動も続けていきたい。
こうした活動の裏側には、「自分が信じていることを世界に伝えていく」という僕なりのビジョンがあって、ピクサーはこのビジョンを具現化するための勉強の場でもあるんです。
ピクサーのようなすばらしい企業でアート・ディレクションをやらせてもらえるのはとても光栄ですが、そこで満足してしまってはダメだという思いも常にあって。だから、結果は出ないかもしれないけれど、今お話したような取り組みは今後も続けていきたいと思っています。
日本の教育って、テストありきなところが問題だと思うんですね。「合格」か「不合格」、「勝者」と「敗者」のどっちかしかなくて、不合格の烙印を押された敗者は大人になってもどこかでそれを引きずって生きている。
でも僕は、クリエイターだけでなくすべての職業人にとって、失敗や挫折から何かをつかみとって挑戦し続けることをやめない努力こそが必要だと思っています。
今回、自主映画の製作をやろうとした時も、周囲からは「お金も時間もかかるし、失敗するかもよ」などという声が上がっていました。
それでも構わず自主映画を作ったのは、今できないことをやることでしか、成長はないと思っているから。そのプロセスにこそ、価値ある発見があると信じています。
100%望む結果が出ることなんてないんだ、チャレンジこそが学びなんだと、「今できないこと」に挑戦する情熱を持ち続けていれば、人はいつだって現状を変えることができる。
そう考えて動くことが、人間としてもクリエイターとしても、成長していく糧になると思っています。
《1週間限定》堤氏が描いたコンセプト・アートが手に入る!
取材後、堤大介氏によって製作初期に描かれた本作のコンセプト・アートが、11月20日(水)発売の『モンスターズ・ユニバーシティ』MovieNEXワールドのスペシャル・コンテンツの一つとして、期間限定ダウンロードされることが決定した。ダウンロードチャンスは11月20日(水)から26日(火)までの1週間限定。この機会は見逃せない!
《ディズニーMovieNEXとは?》
『モンスターズ・ユニバーシティ』のブルーレイ/DVDは、世界初の試みである『ディズニーMovieNEX』の第1弾作品として販売される。購入者にはスマートフォンやタブレット端末でも作品を楽しめるデジタルコピー(クラウド対応)が提供されるほか、特設サイト「MovieNEXワールド」で限定コンテンツを楽しめるように。
《映画+新体験》 ディズニーMovieNEX 誕生!
ディズニー/ピクサー最新作が、早くもおうちで楽しめる! 楽しさ、モンスター級!!
2013年11月20日(水)発売
『モンスターズ・ユニバーシティ MovieNEX』(4000円+税)
公式サイトはコチラ
取材/伊藤健吾(編集部) 文/浦野孝嗣
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