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『融けるデザイン』の著者・渡邊恵太氏が語る、心地良いデザインに存在する“自己帰属感”とは【UI Crunch#5】

スキル

    スマートウォッチUIデザインの今

    2015年4月24日に発売となった『Apple Watch』。

    Apple初となるスマートウォッチの販売に対して、1年で販売台数3600万台に到達するというアナリストの予想もあるなど話題を集めている。

    また、2015年6月8日~14日に開催されたWWDCでは、WatchOS2が発表された。アプリケーションがネイティブで動作するなど、WatchOS1の時代と比較すると大きく可能性が広がったという声もある。

    そんな中、2015年6月17日に渋谷ヒカリエのDeNAで開催されたUI Crunch#5のテーマは、「スマートウォッチUIデザインの今」だった。

    当日のイベントでも『Apple Watch』や『Android Wear』を身に付けている参加者も多く、エンジニア・デザイナー共に、これからの市場に興味を示していると言えるだろう。

    本レポートでは、2015年1月21日に発売された『融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』(以下、『融けるデザイン』)の著者である渡邊恵太氏が語った「身体性とインタラクションデザイン」について伝えたい。

    渡邊氏は慶應義塾大学SFCでヒューマンインターフェイスを学んだ後、明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科にて専任講師を務めている人物だ。

    アカデミックな世界に身を置く渡邊氏は、自身の研究から人がなぜ、『iPhone』を使ってる時に心地良いと感じるのか?この点について迫ったという。そこには、自分の動きと連動することで生じる「自己帰属感」という感覚があったそうだ。

    ウエアラブルデバイスを筆頭にIoT時代の到来が予見される今、渡邊氏の考えを聞く。

    デザインの意味自体が変化した時代

    明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科にて専任講師を務める渡邊恵太氏

    明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科にて専任講師を務める渡邊恵太氏

    現在、ユーザーインターフェイスを設計している方々もハードウエアのことも考えなくてはならない案件が出てきていると思います。そうした時代背景の中で、これまで僕が研究をしてきた事例を踏まえながら、新しい設計論というものをまとめた本が『融けるデザイン』です。

    『融けるデザイン』はタイトルの通り、ハードウエアが前提と言いながらも、半分くらいは「自己帰属感」という言葉がテーマになっているんですね。

    例えば、『iPhone』はなぜ、使っていて気持ちが良いのか? ということ。

    『iPhone』を触っている時のサクサク感や気持ちよさ。この点について、いろいろな実験や研究開発を通じた結果、「自己帰属感」が要因になっているの考察についてまとめた本になっています。

    GUI(グラフィカルユーザインターフェース)がインターネットのブームと同時に普及しましたよね?

    デザイナーの仕事がグラフィックというよりもユーザーインターフェイスの使いやすさを含むデザインにならなければいけない。美大や新しく創設される大学でも機能も含めたデザインが講義として入ってくるようになりました。つまり、日常生活の中で使うGUIや新しい形を考えなければいけない時代になったと思います。

    『融けるデザイン』はそうした時代の流れをまとめ、考え方の基礎となるような本となるように考えました。

    『iPhone』を使っていて心地良い理由とは

    GUI上において自分で動かしているPCのマウスカーソルは、その動きから識別できることが研究の結果分かりました。ですが、隣の人は他人が操っているカーソルを識別することはできません。

    そうした点を調べていく中で、「自己帰属感」という言葉に出会いました。自己帰属感とは、この手は他人の手ではなく、自分の手であるという感覚を指します。

    『iPhone』にカーソルはありませんよね? 『iPhone』上では、人の指が直接カーソルになっているのか? と考えると、そうでもないのです。

    from Kārlis Dambrāns 『iPhone』を触っていて心地良いと感じる理由とは何か

    そこで、「カーソル並みに連動しているものは何か」について考えてみました。そこで、考察したのが『iPhone』の“画面そのものの動き”が、指と連動しているということ。画面全体がカーソルであるとも言えますね。ここが自己帰属してくる状態だと考えます。

    今でこそ見なくなりましたが、以前は、『iPhone』のような画面を真似て、アニメーションをたくさん取り入れるケースがありました。アニメーションを取り入れることと、指に連動して動くということは全く別のこと。結果、全然気持ちよくならないわけです。

    身体性とインターフェイスの同期度合いによって人の感覚は変化する。身体性との同期が高いと自分の感覚に近いものになる。が、落ちてしまうと、間接的になり気持ち悪さを感じる。そして、大きく遅延すると自分の体験ではなくなってしまうということです。

    僕は「自己帰属感」が新しい道具の設計軸になると考察しています。

    UXは上流過程での設計論が主体ですが、UIの設計そのものに関わるのに近いと思っています。

    製品を直接買うという理由にはならないかもしれませんが、使っていると気持ち悪さを感じるため、使い続けることを止める理由にはつながる。ですので、自己帰属感の高いUXを考えることが、製品作りの上で重要なファクターの1つとなると言えるでしょう。

    身体を拡張するインターフェイスが必要

    今後、ウエラブルデバイスは身近な存在になっていくと思います。が、身体に近いからと言って、物理的な距離ということではないと思っています。自分の身体の拡張となるようなインターフェイスの設計が必要だと言えますね。

    おそらく、これからコンピューターは3つになると僕は考えます。「環境側」、「身体側」、その中間となる「持ち物」。ウエラブルの現状として、僕も『Apple Watch』を使っていますが、気付きのデザインとしての「通知」は非常に良いと思っています。

    『Apple Watch』には「Taptic Engine」というリニアアクチュエータが内臓されていますが、この機能を使うことで他者を感じるコミュニケーションの方法が生まれると考えます。

    「学術とデザイン現場の乖離を埋めたい」

    (写真左から)堤修一氏、渡邊恵太氏、新谷和久氏(リクルート)、笹山健志氏、橋本泰氏(共にグッドパッチ)、坪田朋氏(DeNA)

    (写真左から)堤修一氏、渡邊恵太氏、新谷和久氏(リクルート)、笹山健志氏、橋本泰氏(共にグッドパッチ)、坪田朋氏(DeNA)

    イベント終盤の懇親会を閉めくくる挨拶を担った渡邊氏は、「今までアカデミックな世界とデザインの現場では乖離があった」と語った。

    その点を踏まえた上で、現場の人と自身が身を置くフィールドを縮めていきたいという想いも込めて、著書『融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』を執筆したと胸中を明かした。

    今後、アカデミックな世界とデザイン現場がどう融けていくのか。そして、そこで生まれる新しいデザインとは何か。今後が楽しみだ。

    取材・文・撮影/川野優希(編集部)

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