CA藤田晋社長が認めた『My365』制作の内定者4人に見る、Webサービス開発チームに最も大切なこと
『ソーシャルランチ』や『Grow!』、『WishScope』、『ヒルカツ』など、最近注目を集めるヒットサービスの裏側に、優れた開発チームがあるというのは、多くの人が認めるところだろう。
では、優れた開発チームとは、どういうチームを指すのだろうか。先日、この疑問を解き明かすヒントとなりそうなニュースが、サイバーエージェントからリリースされた。それが、代表取締役社長の藤田晋氏が直々に、新子会社のスマートフォン向けアプリ開発会社シロクの創業メンバーとして新卒内定者4名を選出した、というニュースだ。
なぜ、現役大学生かつ起業経験ゼロという4人に新会社の経営を任されたのか。シロクのボードメンバーを務める彼らの話から、「優れたWeb開発チーム」としてのあるべきポイントが見えてきた。
「もう一度一緒にやりたい」と思えるメンバーとの出会い
すでにニュースでも取り上げられている通り、シロクのボードメンバーは、主力サービスであるiPhone向けカメラアプリ『My365』の開発チームでもある。『My365』は、1日1枚の写真をカレンダー型のインターフェース上で共有するアプリとして、10月のリリース以降、すでに50万ダウンロードを記録(2012年1月現在)。ツワモノぞろいのカメラアプリ分野で、大きな人気を博している。
My365 Trailer from my365 on Vimeo.
「僕たちが最初に出会ったのは、サイバーエージェントが主催する夏季インターンのグループワーク。そこで、石山と向山と偶然同じグループになったんです。インターンが行われた1週間、ほかのチームと違って僕たちのチームは毎日朝から晩までビジネスアイデアについてディスカッションしていました。たとえインターンでも、120%でぶつかっていけたチームだったからこそ、もう一度このメンバーで何か作りたい、と思えたんです」(飯塚氏)
その後、知人の紹介でエンジニアの片岡氏がチームに加わり、初めて開発した『TwitCrew』で学生アプリ開発コンテスト「Tech-On」に出場する。その翌年、「学生時代の思い出づくり」(向山氏)として作り始めたのが『My365』だった。
良いチームは、役割が自然と決まる
「新しい企画を立てようと、昨年5月に4人で2泊3日の開発合宿に行ったんです。初日は電話帳関連のアプリを作るということで話を進めていたんですが、2日目にリフレッシュするため急遽カメラアプリでブレストをしてみたら、みんなそっちの方が面白くなっちゃって(笑)」(飯塚氏)
「企画書にもまとめていたのに、それをいったん白紙にしてしまった」と向山氏が話せば、石山氏は「すでにロゴまで作っていた」と苦笑するも、切り替えは早かったという。「電話帳の企画も面白いからいずれ実現しよう」(片岡氏)ということになり、全員が夢中になって、新たなカメラアプリの企画を組み立てていった。
「僕たち4人全員で話し合って出したビジョンとして、多くのユーザーに愛されるサービスを作るということを共有していました。そんな中、どうせやるなら『Instagram』や『Snapeee』など、人気アプリがたくさんあるカメラアプリの分野で、自分たちの生み出したモノがどれだけ勝負できるのか試したいという思いも湧いてきました。そんなことを考えるうちに、4人のアイデアがどんどん醸成されていくのが楽しかったですね」(石山氏)
ブレストは、全員でやってみたいアイデアを出し合い、そのアイデアに対して実現可能かどうかをエンジニアである片岡氏が判断するというスタイルで行われた。
「プロデューサーが出す理想のイメージと、エンジニアの現実的なアイデアを、デザイナーがうまく形に落とすなど、それぞれの役割が自然に出てきたことは、とてもラッキーだったと思います」(飯塚氏)
手掛けたサービスに、愛はあるか
開発合宿から5カ月、試行錯誤を経てついにリリースを迎えた『My365』。4人のアイデアと汗を詰め込んだアプリは、ユーザーの支持を受け、利用者の数を増やし続けていった。リリース後も、『My365』のことを考えない日はなかった。
「もっとここはこうした方が良いんじゃないか? サーバの拡張はどうする? といった課題が、毎日のように誰かから挙がってきました。みんな、ゼロから作ったアプリをわが子のように育てている感覚があるんです」(飯塚氏)
だからこそ、「就職するからサービスを停止します、なんていえない状態。かといって、別の仕事をしながらサービスの運用を継続するのは難しいし、続けるにしても運用資金をどうするべきか相当悩んだ」(向山氏)という。
そんな折、サイバーエージェントの藤田晋氏から、シロク設立を打診されたのだった。
「正直言って、意外でした。でも、サイバーエージェントの力を借りられることは、自分の子どものようにカワイイ『My365』にとっても、サービスを使っていただいているユーザーのみなさんにとっても、とても良い話だと感じました」(片岡氏)
「自分はこのメンバーと一緒に『My365』を作り続けられることが何よりうれしかったし、多くの人に使ってもらうために一番良い選択肢をいただけたんだと思いましたね」(向山氏)
「こんな結果になるとは思っていなかった」と話すメンバーたち。とはいえ、藤田氏も『My365』の開発実績だけに目を向けて、この話を彼に持ちかけたわけではないだろう。
なぜなら飯塚氏は、2010年8月に行われた同社の社内新規事業プランコンテスト「ジギョつく」において、内定者でありながら、並み居る社員を抑え、応募総数359エントリーのうち堂々のグランプリに選ばれていたからだ。藤田氏が新子会社設立の経営者として、飯塚氏に白羽の矢を立てる相応の理由があったといえる。
形式上、『My365』の開発チームからサイバーエージェントが譲り受ける形で起業したシロク。目標は、一日も早くアプリダウンロード数を1000万の大台に乗せること。子会社とはいえ、サイバーエージェントから派遣された役員はいない。
「起業に関しても、この4人以外の誰かとやることは考えられなかった」と飯塚氏が話すように、このタイミングで新たなメンバーが入ることは得策ではなかったのかもしれない。なぜなら、彼らはすでに「チーム」として形ができつつあるからだ。
[共有×分担×改善×?]藤田氏が明かす良いチームの共通項
互いのビジョンを共有し、自発的に役割分担ができていて、日々機能改善についてのディスカッションも怠らない……。彼らが実践してきたのは、チーム開発におけるごくごく基本的なポイントだ。4人をシロクのボードメンバーに選出した藤田氏もこう話す。
「学生という甘えがなく、プロ意識が強かったことが挙げられます。また、若手に子会社経営を任せたのは、決してトリッキーなことを行っているわけではなく、新しい分野では素直さと貪欲さが大きな強みになるからです。シロクのメンバーは素直さと貪欲さ、そして意識が高かったことが大きいです」(藤田氏)
では、藤田氏が考える、「成功する開発チーム」が持つ最も重要な要素は何なのだろうか。
「サービスを立ち上げる本人たちが、実際にそのアイデアやサービスに熱狂できているかだと思います。そのアイデアが本当に面白い、素晴らしいものだと本人たちが入れ込んでいれば、素晴らしいものができることが多いです」(藤田氏)
藤田氏が『My365』開発チームをそのままシロクのボードメンバーとして選んだ最大の理由。それは、『My365』が優れたサービスであったこともさることながら、彼ら全員に「熱狂」を感じたからだろう。
「シロクメンバーには、まず『My365』を大きくすることに集中し、おごらずこのまま頑張ってほしいと思います」(藤田氏)
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小禄卓也(編集部)
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