NEXTユニコーン企業で働くエンジニアたちに体当たり取材!NEOジェネレーションなスタートアップで働く技術者たちの、「挑戦」と「成長」ヒストリーをご紹介します
物流をHackして配送革命を狙う若手集団『dely』のエンジニア採用が面白い
今回紹介するのは、レストランの料理をスマホの簡単操作で指定の場所まで届けてくれる配達代行サービス『dely』だ。平均年齢22歳の若いチームでありながら、人材の豊富さ、技術力の高さからも注目を集める。実績でも経験でもない、人が集まるチームの条件とは?
delyとは?
和食からエスニックまで、さまざまなレストランの料理をできたての状態で届ける配達代行サービス、それが『dely』だ。
スマートフォンから届け先を登録し、店と料理を選ぶだけ。20~30分で指定した場所に料理が届く。2014年7月にサービスをローンチ。現在利用できるのは渋谷を中心とした30店舗に限られるが、順次エリアを拡大していくという。
現役慶大生のCEO堀江裕介氏をはじめ、平均年齢22歳の若いチームでありながら、TED登壇経験者やRubyのコミュニティで名の通った技術者を複数抱えるなど、人材の豊富さからも今、注目を集めているスタートアップだ。
アイデアの出発点:翌日配送消滅の危機。独自の配達網が価値を生む
起業するにあたり、フードデリバリーというジャンルを選んだ堀江氏だが、その視線は立ち上げ当初から、料理に限らない物流業界全体に向けられていた。
「ECの物流量は右肩上がりに増えていて、今後2倍、3倍になっていく。一方で日本の物流業界は、毎年1万人のペースでドライバーが減っているという問題を抱えています。このままだと、今日では当たり前になっている翌日配送が、近い将来に消滅する可能性まであると考えました」
こうした現状分析の下に、「これからは独自の配達網を持つECサイトが価値を持つ」と考えた堀江氏。手始めに取り組むべきジャンルとしてフードデリバリーを選んだのは、30分で届けることを当たり前のように要求されるフードデリバリーこそが、数ある配達サービスの中でも最も難しいと考えたからだ。
「一番難易度の高いフードで最適な物流の形を実現できれば、その先は本でも服でも、同じことは絶対にできるはず。EC業界は値段の競争ではすでに底値までいっている。Amazonや楽天に本気で勝とうと思ったら、配送のところで差別化を図るしか道はないと思っています」
「日本の物流をHack」して、将来的にはEC界の巨人たちと対峙する――。こうして『dely』の挑戦は始まった。
開発のポイント:ジオハッシュを使って配達可能エリア算出を最適化
同じフードデリバリーのスタートアップでも、自社で弁当の在庫を抱える『bento.jp』のようなサービスとは性質が大きく異なる。iOS開発担当の大竹雅登氏は言う。
「『dely』がやらなければならないことは多く、複雑です。各店舗との契約もそうですし、注文~配達までのオペレーションも、まずユーザーからの注文が店舗側に通知され、調理が完了したら配達員が店舗に行って、そこからユーザーへと届けるわけです。システムを構築する上でも、店舗とユーザーとのリレーションは最も難しいポイントでした」
中でも頭を悩ませたと語るのが、配達可能エリアを決める上で、最適な範囲をどう算出するかだ。「ユーザーを中心とした半径●メートル」とすると、円形になるためにエリアの区分けが難しい。経緯度の情報をそのまま使うと、球状の座標をデカルト座標に直して距離を測らなければならず、計算コストが膨大になる。
システム構築を先導した岩永勇輝氏は、最終的に「ジオハッシュ」というジオコーディング方法の一つを計算に用いることで、この問題を解決したという。
「ジオハッシュのアルゴリズムを用いれば、座標を特定の1点ではなく、ある程度の広さを持ったエリアで表現することができます。そこで、ユーザーがいるエリアと、それを囲んだ計9エリア内にある店舗を、そのユーザーが注文できる店舗としました。エリアでざっくりと表現することで、位置情報の精度の問題も同時に解消しました」
9月末に予定しているアップデートでは、現状、上記のようなロジックで選ばれる配達可能エリアを、各店舗が恣意的に選択できるようにする。地図上の直線距離は近くても川や高速道路が邪魔をしてアクセスの悪いエリアや、人口が少なくそもそも客がいないエリアを除外するなどして、配送効率、利益効率を向上するのが狙いだ。
業界内で閉じないサービスに。Webアプリで一般層浸透を狙う
さらに、現在は運営側が管理画面でボタンを押して行っている配達員のアサインを、新たに開発中の配達員管理専用アプリで完全自動化する構想という。既存の注文アプリとはAPI通信でつなぎ、到着までの所要時間を数字と位置情報の両方で見える化する。
配達員管理専用アプリ開発の狙いは2つある。
一つは、完全自動化することで、今後の事業規模の拡大に備えるため。もう一つは、将来的な配達員管理システムの外部提供を視野に入れているためだ。
「例えば、大手配送業者の配達時刻指定は現状、16時~19時までといった大雑把なもの。配達時刻が分かる僕らのシステムを導入することで、ああいったロスをカットできれば、それだけでおそらく数千億円規模で市場がうまく回るはずです。また、デリバリーを行う外食産業チェーンも、これからは大きな地図を壁に張ってルートを検討したり、新人教育にコストをかけたりする必要はなくなります」(堀江氏)
『dely』は現状、モバイルアプリのみで展開しているが、Webアプリの開発にもすでに着手している。その主たる目的は、一般層への認知の強化だ。
「ベンチャーのフードデリバリーはこれまで、IT業界の内輪ウケで終わっていました。僕らはそこを打破したい」と堀江氏は言う。
「最高のユーザー体験のためにはモバイルファーストは常識ですが、一般層の集客という点においてはWebのほうが上です。『渋谷 デリバリー』で検索したら、結果的に『dely』を利用していたという状況にもっていきたい。僕らはさまざまな飲食店の料理というコンテンツを抱えている分、SEO的な強さを持っているというアドバンテージもあります」(堀江氏)
技術を軸に、手段を選ばず口説き落とす
『dely』が次々と新しい展開を形にできる裏には当然、確かな技術力がある。
現在8人のエンジニアを抱える『dely』だが、そのうちの1人、gogotanaka氏は、数学用言語dydxの開発などで名の通ったRubyistだ。
シリコンバレーのスタートアップにかかわりながら、現地からリモートで『dely』にも参加している。岩永氏がgogotanaka氏のブログ記事を見て技術力の高さに目をつけ、堀江氏がメールとSkypeでの10分程度の会話で口説き落とした。
「最初に大竹と岩永という優秀なエンジニアが加わってくれたことが大きかったと思います。言い方は悪いですが、2人の技術力の高さが“エサ”になって、技術力の高いエンジニアを引っ張りやすくなったと思っています」(堀江氏)
9月に加わったWebアプリ開発担当の都井大樹氏も、技術をエサに“友釣り”された一人だ。
「話をもらった時にGitHubのリポジトリを見せてもらい、すごくきれいにRailsでコードを書く人がいるなと感じました。iOSアプリを触ってみても、すごく完成度が高い。こんな環境で働けば、自分のスキルも上がるんじゃないかと思えたのが大きかったです」(都井氏)
では、最初のエサとなった2人を動かした決め手は何だったのか。
大竹氏は『dely』に加わる直前、自分のサービスを事業化寸前で断念していた経緯があった。
「そうした経緯もあり、自分なりに考える事業のあきらめポイントがいくつかあるのですが、誘われた際にそれらの点について質問攻めにしたところ、堀江はそのすべてに流暢に答えてくれた。加えて、堀江には僕らエンジニアに不足しがちな、サービス主体、ユーザー主体の視点がありました」(大竹氏)
一方の岩永氏も「自分はデザインの仕事もしていることもあり、技術だけのエンジニアにはなりたくないと常々思っています。大きな目標を持ち、その実現のためには手段を選ばない堀江の姿勢は魅力でした」と語っている。
2人を動かしたのは堀江氏の姿勢、そして「新たなインフラを作る」というビジョンの大きさだった。
「インターネットの歴史はまだ浅く、FacebookやTwitterですら、10年後に変わらず存在するかは分からない。なくならないとすればそれは、飲食や物流といったリアルな人の生活と交わる部分だと思っています。あれがなければ成り立たないと言われるようなサービス、すなわち新たなインフラになるというのが、『dely』が目指すところです」(堀江氏)
取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴
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