キャリアVol.173

なぜ、クリエイティブ界はエンジニアを熱烈歓迎するのか?アートとプログラミングの学校『Bapa』仕掛人に聞く

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写真右:PARTY クリエイティブディレクター
中村洋基氏
1979年生まれ。電通でインタラクティブキャンペーンを手掛けるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとPARTYを設立。代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機『GAGADOLL』、トヨタ『TOYOTOWN』、トヨタのコンセプトカー『FV2』、ソニーのインタラクティブテレビ番組『MAKE TV』などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。近著に『Webデザインの「プロだから考えること」』(共著・インプレスジャパン)

写真左:株式会社バスキュール クリエイティブディレクター
馬場鑑平氏
慶應大学総合政策学部卒業後、2002年にバスキュールへ入社。プログラミンングからクリエイティブ・ディレクションまで幅広く手掛ける。インタラクティブコンテンツを中心に、教育、アート、広告など、さまざまなジャンルで活躍する。主な仕事に、サムスン『SPACE BALLOON PROJECT』、文部科学省Webサイト『プログラミン』など

今、エンジニアのスキルをクリエイティブに活用する人が増えてきている。

弊誌でも、Perfumeのステージ演出など、プログラミングとアートを融合させた作品で評価を得てAppleの30周年記念ページに登場した真鍋大度氏や、広告クリエイティブの世界で活躍するプログラマーたちをたびたび取り上げてきた。

そして2013年12月、その流れを象徴するかのような、新しいコンセプトの学校『Bapa』がクリエイティブ業界をけん引する2社の手によって立ち上げられた。

Bapaには29歳以下であれば誰でも応募できる。定員は30名、受講料は全12回で8万8000円
Bapaには29歳以下であれば誰でも応募できる。定員は30名、受講料は全12回で8万8000円

その2社とは、良品計画『MUJI to GO』の世界キャンペーンなど、広告を中心としたクリエイティブ・ディレクションを手掛けるPARTYと、『TOKYO CITY SYMPHONY』などのインタラクティブなコンテンツ制作を得意とするバスキュールだ。

『Bapa』のコンセプトとは、アート、デザインとプログラミング、エンジニアリングの二つのスキルを持つ人材を育てること。約3カ月間のカリキュラムの中で、グループワークと現役クリエイターによる講義などを交え、一つの作品を作っていくという形式だ。卒業作品はヒカリエでの展示が決定している。

「とは言っても、3カ月でアートもプログラミングも両方習得できるなんて、最初から思っていないです」と話すのは、PARTYでクリエイティブディレクターを務める、中村洋基氏。

さらに、バスキュールで同じくクリエイティブディレクターを務める馬場鑑平氏はこう付け加える。

「それでも、クリエイティブの世界で戦える術を学ぶ場所として『Bapa』を立ち上げました」

7年来の盟友同士であるという彼らもまた、エンジニアのスキルを活かしてクリエイティブの世界で活躍する2人だ。共に、Flashコーダーとして、キャリアをスタートさせている。

クリエイティブの現場でエンジニアのスキルはどのように活かせるのか? そして、エンジニアが、クリエイターになるには何が必要なのか?

プログラミングとアートを掛け合わせた、新しい人材の育成を目指す、『Bapa』の2人に聞いてみた。

フラットに意見を言い合えるチームから、いい作品は生まれる

―― 『Bapa』では、どういった人材を求めているのでしょうか?

中村 理想を言えば、インターフェースデザイナーとして活躍する中村勇吾さんのように、アート&プログラミングを1人でこなせる人を育てたいと思っています。そのため、現在アート、デザインもしくはプログラミング、エンジニアリングに関する何かしらのスキルを持っている人が生徒の対象者となっています。入学試験(※1)もそうした人たちに向けた課題にしています。

「Bapaを卒業したことが、その人にとってのブランドになることを望んでいます」と語る中村氏
「Bapaを卒業したことが、その人にとってのブランドになることを望んでいます」と語る中村氏

馬場 ただ、中村勇吾さんのような人になるには、才能も必要。それに、デジタルでカバーすべき技術領域は爆発的に増え続けていて、全てをフォローすることは実際不可能。そこで、『Bapa』では、アートとプログラミングという両面を学びつつも、実際の現場で絶対的に必要となる、グループワークのスキルも習得できるようにしたいと思っています。

―― 確かに『Bapa』では、3人1組によるチームを組織し、グループワークを通して作品を作ることをカリキュラムのメインにしていますね。

馬場 われわれの仕事はグループワークが中心。チームの中で自分ができることは何なのかを把握し、立ち位置を明確にする必要があります。

自分も学生の時にそうでしたが、若い人たちは何でも1人でやろうとしてしまう。自分の可能性を信じて、その限界の中で作品性を深めていく。それも大切なあり方です。

一方で、チームを組み、各メンバーがクリエイティブにかかわりあうことで、1人では想像できないアウトプットにたどり着けることもある。こういう方法論の違いを、若い間に身を持って体験することは、絶対その後のモノづくりに役に立つと思います。

中村 1人で考えるよりも、誰かと一緒に考えた方がいいというのは、馬場さんと仕事をしている時によく感じます。

例えば、わたしはいわゆる「捨て案」を企画書には入れないポリシーでして。「こりゃ通らんだろう」みたいな攻めのアイデアばかり出したり、馬場さんはテクニカルな見地からさらに強化されたアイデアにしたり、人の案を批判してくる(笑)。

そうやってアイデアがブラッシュアップされて、結果、いい仕事が生まれるんです。

―― そうして、ブラッシュアップされたアイデアをもとに、作品の骨組みを作っていく上でのポイントは?

中村 普通に考えると「ギリギリできないのではないか」というアイデアにこそ、その不可能を可能にすることによって、宝が隠されていたりします。実現可能かギリギリのアイデアと具体的な技術を結びつけて、現実的な構成や仕様を作る。

そのためには、プログラミングやデザインを知らなければいけない。だからアイデアが飛躍しない若い人が多いような気がします。

誰でも使える技術に頼る人は、いつか化けの皮が剥がれる

―― そうした若者が少ないと感じる理由とは?

中村 前に、広告学校や大学生のビジコンの審査員として呼ばれたことがありまして。みんな、若いのに本当に頭いいな、と思うのですが、実際に作ることを意識していない人のプレゼンは「絵に描いた餅」のように見えてしまいます。

それから、最近は高級言語&API&ライブラリで、誰でも簡便に「作品らしきもの」が作れます。C言語など、ローレベルでハードウエアに近い制御を行える言語ではなく、ある程度人間の言語に近い感覚でプログラミングができる言語を高級言語と言います。ただ、便利な反面、弊害もあって……。

馬場 Arduino(アルディーノ)がいい例ですね。高級言語で制御できるマイクロボードなのですが、ちょっとした知識があるだけでそれなりに動かすことができる。このボードにレゴとか乗っけて動かすだけで、それなりのアート作品ができるのです。でも、誰でもできるので、似たような作品が多くなってくる。

「自分がコード寄りの人間だから、アートに興味があるし尊敬もしている」と語る馬場氏
「自分がコード寄りの人間だから、アートに興味があるし尊敬もしている」と語る馬場氏

中村 基礎を理解しないでライブラリだけ使うと、その一つの使い方はできるんだけど応用が利かない。そういう人たちとしばらく一緒に仕事していると、「オレこれ、実はできないっす」などと言われて、ぜんぜん仕事に使えなかったりして。化けの皮が剥がれるんです。

意外に、それを分からないで採用しちゃったりして(笑)。わたしが気付かないのが悪いのですが。「騙されたー!」みたいな。

―― 具体的な技術を持ったクリエイターの必要性を感じ、『Bapa』を設立して人材を育てようと思い至ったわけですね。

中村 もう一つ背景があって、何といっても採用です。世の中、若いエンジニアやデザイナーの数が限られている。特にIT化、ソーシャルゲームバブルの昨今、エンジニアは取り合いです。実はPARTYって採用をかけても、エンジニアの応募が少ないんですよ。みんなそういう会社とか、「カヤックかチームラボに行きたいんですけど。PARTYってエンジニア募集してたんですか」とか言われたりして(笑)。

ウチだけではなく、Webクリエイティブとかの業界全体で、「驚くほどすごいヤツ」を見かけなくなっている気がします。待っていても良い人材が来ないなら、自分たちで探して、育てようという意図も『Bapa』にはあります。

スウェーデンのクリエイティブが面白いのは、個々の経験値が高いから

――日本に技術力のある若いクリエイターが少ない理由はなんだと思いますか?

中村 「クリエイティブを経験する場所」が少ないからじゃないでしょうか? それは、スウェーデンと比較すると分かりやすいです。

スウェーデンには、Hyper Islandという学校があって、そこにクリエイターの卵が集まってワークショップを行っている。授業というものがなく、作品作りをひたすら実践するスタイルの学校です。加えて、クリエイターのコミュニティがあって、シーズンごとに集まっては、今自分が携わっている作品や作ろうとしているものについて議論を交わすのです。

その結果、スウェーデンからは面白い作品が生まれています。

『Curator of Sweden』とかすごいなと思う。政府観光局が「スウェーデン」のアカウントを作って、1週間ごとに1人の国民がアカウントを管理する。よほどリテラシーが高くないと、思いつかない発想です。

国民が交代制で自国の紹介をしていく『Curators of Sweden』
国民が交代制で自国の紹介をしていく『Curators of Sweden』

馬場 人によっては、けっこうネガティブな内容もツイートされているのですが、そういうネガポジ含めて自分たちの国をリアルに伝えようとしている。お国柄もあると思いますけど、そういう発想をみんなで楽しめるという土壌があるのは、日本とは全然違うと感じました。

―― そうした発想が日本の広告やクリエイティブにも求められているのでしょうか?

馬場 まさに求められています。今はSNSやスマホなど、ライフスタイルを激変させてしまうものたちの出現が、人と広告のかかわり方をとても不安定にしている時代です。

クライアントは、デジタルと言っても何をしたら効果的なのか、判断できない状況です。わたしたちだって正直分からないですが、だからこそ新しいものやことを仕掛けていくチャンスでもあります。

そのために、「今は、これ」という大きな軸をいつでも提示できる準備をしておく必要があるし、実現できる技術力を養っておかないといけません。

作った物で人を楽しませたいという思いが第一歩

―― お2人がクライアントに提示する、「今は、これ」という軸はなんですか?

馬場 基本的には、自分たちがやりたいことになってしまうのですが、今、バスキュールが注目しているのはテレビです。もっと言うと、テレビをいかに、インタラクティブなものにするか。

実際、昨年からバスキュールが開発したダブルスクリーンシステム『M.I.E.S.(マッシブ・インタラクティブ・エンターテインメント・システム)』を使ったインタラクティブ専門番組をテレビ局の方々と一緒に制作したりしています。

中村 PARTYも似ていて、「インタラクティブでないものをインタラクティブにする」という発想を持ってたりします。最近はトヨタのコンセプトカー『FV2』の開発に、コンセプト設計からかかわり、東京モーターショー2013で展示場を作りました。

従来型の「クルマを眺めるだけの展示」をやめて、ディズニーランドの「スターツアーズ」のように、全員が主人公になって、アプリやシミュレータで、コンセプトカーをリアルタイムに操作して、物語に参加体験できるエキシビジョンにしました。モーターショーに行かなくても体験できます。

その結果、『FV2』のブースだけ人だまりができて、怒られましたけど(笑)。

―― 最後に、エンジニアからクリエイターとして一皮向けたいと思っている人たちへアドバイスをお願いします。

Bapaを卒業したクリエイターが、業界全体を盛り上げてくれることを願っている、と語る2人
Bapaを卒業したクリエイターが、業界全体を盛り上げてくれることを願っている、と語る2人

中村 最近は大手の広告代理店さんも「デジタル人員募集」採用を行っていたりする。つまり、彼らもプログラミングや新しいデザインの発想でプランニングできる人を求めているんだと思います。

でも、アイデアだけ持っている人がコードを書けるようになるのは時間がかかる。コードを書ける人が良いアイデアを出せるようになる方が、可能性が高いのではないか、というのがわたしの考えです。

だから、今、あなたがエンジニアで、広告とかクリエイティブとかの業界に興味が会ったら、大きなアドバンテージだと思います。

馬場 コードを書く楽しさから、作った物で人を楽しませることへ価値を見出せるように意識を変えることが最初の一歩だと思います。『Bapa』で、そうした意識の変化が起きたエンジニアがクリエイターとして羽ばたくことを願っています。

文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴

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