グリーCTO藤本真樹が実感する、優れたWebサービスを生み出す難しさと面白さ
失敗の積み重ねで得た、マネジメントの教訓
竹内 藤本さんはグリーに来られるまで、“サムライ”みたいな会社におられたそうですね?
藤本 “サムライ” と言えるかどうかわかりませんが、個人事業主が集まってできたような会社にいましたね。それぞれが仕事を取ってきて稼いで、稼いだお金を集めて山分けしましょう、みたいな。
竹内 そういう個人事業主が集まったような会社から、グリーのように若手エンジニアをマネジメントしなければならない立場になった時、相当苦労されたんじゃないですか?
藤本 ええ、慣れない仕事でしたから、やっぱり大変でしたよ。一番大変だったのは、メンバーが10~20人くらいの時でしょうか。今、竹内さんがおっしゃったように、グリーに入るまでは自分のためだけに働いてきてたところがあったので。マネジャーとして、メンバーが自然と頑張れるような環境をどう作るべきかなんて、そもそも考えたことなかったですから。
竹内 それを乗り越えたきっかけは?
藤本 乗り越えたというより、失敗して学んだという方が近いかも知れません。少人数でフラットな組織がピラミッド化していく過程では、メンバーからいろんな不満を言われたこともありましたしね。そうした失敗を含めた経験から、徐々にCTOとして何を考え、どう振る舞えばいいか考えるようになった気がします。
竹内 やはりそうしたご経験があったんですね。
藤本 その直後から社員が急激に増えてきて、一人一人と密なコミュニケーションを取ることがいっそう難しくなっていきましたから。今にして思えば、当時新米マネジャーとして感じていた悩みは、わたしにとってある種のマイルストーンだったのかもしれないですね。
竹内 小規模な組織と大規模な組織では、求められるマネジャー像も違ってくるでしょうしね。
藤本 ええ。ですから、今もあの時同様、CTOとして、マネジャーとしてどう振る舞うべきか、みんなにどう思われるべき存在であるべきかについては常々考えているんです。
竹内 完全に乗り越えられたわけではないと?
藤本 現在進行形です。
竹内 では今、かつての藤本さんと同じように、マネジャーとして最初の一歩をどう踏み出せばいいかわからず悩んでいるエンジニアにアドバイスをするとしたら、どんな声をかけますか?
藤本 大事なのはやっぱり経験だと思うんですよ。失敗も含め、体験してみないと分からないことって多いし、本で読んだことや人から聞いたことだけで上手くいくものではないですから。あえて辛い思いをした方が身に付くことは多いと思います。
竹内 「失敗を乗り越えろ」ってことですかね?
藤本 ですね。「失敗を乗り越え」、「視点を変えて視野を広げろ」というのは、アドバイスとしてはアリかもしれません。
今のご時世、「後はよろしく」では優れたサービスは生み出せない
竹内 ではちょっと視点を変え、技術の話しをお聞かせください。グリーが大きくなる過程で、もっとも大変だったことって何でしたか?
藤本 うーん。 課題は常にありますから、一つに絞るのは難しいですね。でも、あえて言えば、変わり続ける課題に対してチャレンジし続けることですね。
竹内 なるほど。
藤本 最近よく思うのですが、3年くらい前までは、単にWebアプリケーションを作っていればよかったのに、今ってHTML5が書けないといけないし、CSS3やJavaScriptも知らなければ、良いWebサービスは作れなくなっているじゃないですか。フィーチャーフォン全盛のころは、技術的にもインターフェース的にも制限が多くて選択肢は少なかったですよね。でもかえってその制約があったからこそ、楽ができていた面もあった。
竹内 そうですね。
藤本 世の中が一気にスマートフォンにシフトしたことで、やれることが増えた反面、エンジニアに負担がかかってしまっている。個人がフォローすべき技術も増えていますし、しっかりとこだわり抜いて開発しないと使ってもらえない。大変な時代です。
竹内 同感ですね。
藤本 その結果、特定の技術だけに強いエンジニアというポジショニングも難しくなってきています。関連技術を網羅的に理解しているエンジニアでないと、なかなか「良いモノ」は作れませんし、開発スピードだって上がりません。「ここから先は分からないから、後はよろしく」なんていうエンジニアは、もはや通用しなくなっていますよね。
竹内 そうですね。どんな会社でもそうでしょうが、あり余るリソースを投入して開発しているわけじゃないですから、どうしてもエンジニア個人に負担がかかってしまう面はあると思います。わたしも2年ほど前、サービスを大きくリニューアルするという時、1週間、独りきりで開発するような強烈な経験をしたことがありました。藤本さんもかつてはそういう修羅場をご経験したこともあったんじゃないですか?
藤本 言われてみれば、2006年後半くらいはそんな感じだったかもしれません。ちょうどKDDIさんと提携したころで、社運をかけたような状態だったので。
竹内 でも辛かった分、乗り越えると楽しかったと思えたりするのでは?
藤本 それはありますね。最近だとグローバル化へのチャレンジがそれにあたると思います。CTOという立場で、世界を相手にした仕事ができるなんて、望んだってできることじゃありません。ですからその幸運を無駄にしないようにしたいですね。
「グリーは変わり続けるし、そうであるべきだと思う」
竹内 次はグリーさんにおけるCTOとしての役割についてお伺いします。ビジネスとエンジニアリングには、それぞれどんな比率でかかわっておいでですか?
藤本 もしかしたら、ほかの会社のCTOより楽をさせてもらっているかも知れません。
竹内 と言いますと?
藤本 グリーはWebサービスを作る会社なので、CTOとしての仕事に邁進しやすい環境だということです。そもそも、代表の田中を筆頭にコードを書ける取締役も多いですから、経営層に対して技術をこと細かく説明する必要もありません。わたしに求められているのは、どれだけ低コストでサービスを作り運用するか。その基盤を作ることになります。エンジニアを育てることはもちろん大変ですが、むしろそこに集中していればいいので、他社のCTOより楽をさせてもらっているかもって思うんです。
竹内 グリーさんは一般的にはソーシャルゲームの会社だと思われていますが、もっと大きな意味で“インターネットカンパニー”ですからね。
藤本 そうなんです。今でこそ「ソーシャルゲームの会社」って言われることが多いですけれど、ついこの間まではSNSの会社だって言われていましたしね(笑)。でもそれでいいんです。周囲から見えるグリーのイメージはこれからも変わり続けるでしょうし、そうでなければならないと思っています。
竹内 なるほど。ではこうした変化の激しいグリーを支えるエンジニアには、どんなタイプが多いんですか?
藤本 ゲーム業界やSler出身者もいますし、メーカーの研究所から来た人、技術開発に特化している人、公私を問わずAndroidアプリを作るのが好きな人も多いですね。多様な技術が集約される場所なので、多様なエンジニアが集まってくるんですよ。
竹内 と言うことは、グリーさんのコアコンピタンスは、どんなWebサービスに対応できる、プラットフォームを開発する事業会社とイメージした方が実像に近いかもしれませんね。
藤本 そうです。だからこそ技術的な多様性を大事にしているところはあります。Webの世界では、SNSにしろゲームにしろ、常にコミュニケーションが必要とされています。形はどうあれ、これからもグリーはWebにおけるコミュニケーションに、常にかかわっていきたいと考えています。
CTOは「すべての技術をコントロールする立場」ではない
竹内 それを今後は日本から世界へ広げていくわけですね。
藤本 はい。グリーのやり方をどこまで拡げられるかがこれからのチャレンジになるでしょうね。かつて、自動車や家電メーカーが世界の市場で成果を出したように、インターネットの世界でも日本の存在感を出していきたいと思っています。
竹内 それは頼もしい! そもそも日本人はモノづくりがうまいはずなのに、Webサービスでは世界的に広がったものは少ないですね。
藤本 日本人の能力が劣っているわけじゃないんです。アメリカは日本と比べものにならないくらい人材の流動性が高いので、さまざまな成功体験をしたエンジニアがその時勢いのある会社に集まりますよね。シリコンバレーの会社はなぜあんなに早く成功したかといえば、業界での人材流動が高く、ほかの会社からたくさんの優秀なエンジニアを惹きつけられたから。だからこそ、あれだけの大きなサービスに成長できた。これはエンジニア優劣ではなく経験の差、ノウハウの差なんです。グリーには、いまや世界8カ国に開発拠点があります。各拠点で経験やノウハウを蓄積・共有することで、この壁は破れると思いっているんです。
竹内 人材流動性のところだけで言えば、ビズリーチがお手伝いできるかもしれません(笑)。
藤本 そうですね(笑)。
竹内 では、これから会社として、どんな分野に力を入れていかれるとお考えですか?
藤本 スマートフォンにはいろんな可能性を感じますし、これから開拓すべき領域はまだたくさんあるはずです。当然、作ったサービスは国内に留まらず、世界中の人に使ってもらいたいとも思います。そうやってユーザーが増えていけば、おのずとわたしたち自身の発想も変わると思うんです。ですから、そういう世界に到達するためには、まず技術基盤を整えることが大きな課題になってきます。
竹内 やるべきことは尽きないわけですね。では最後の質問です。藤本さんにとってCTOとはどんな仕事だと思いますか?
藤本 すべての技術をオーガナイズしてコントロールする立場ではないことは確かです。その役割をもしCTOが負うとしたら、CTOの存在自体がボトルネックになってしまいますから。そういう意味では、CTOの役割は無用な制約を取り払い、全体のスピードを上げる人。ミッションに向けて最適な選択ができる人になるんでしょうね。
竹内 なるほど、とてもよく分かりました。本日はお忙しい中、お話しいただきありがとうございました!
藤本 こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました!
編集/武田敏則(グレタケ) 撮影/玄樹
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