ソニー「ソフトウェアスペシャリスト認定コンテスト」が伝える時代の変化~開発者の想像力が未来を支える~
先日ソニーは、2013年新卒技術者の採用において、「『ソフトウェアスペシャリスト』選考コース」の設置を明らかにした。
そして本日2月6日、「ソフトウェアスペシャリスト認定コンテスト GO FOR IT」(以下、『GO FOR IT』)の具体的な問題5問がいよいよ発表された。
これは、サイト上で公開された問題を解き、優秀な成績を収めた人に、ソニーのソフトウェアエンジニアとディスカッションする機会などが与えられる企画だ。
「あのソニーが、新卒採用で面白い取り組みをしている」というニュースは、IT業界で大きな話題を呼んだ。ソニーはなぜ、新たな方向性を打ち出したのか? そこから垣間見えてくる「これからの時代に求められる技術者像」とは何か? ソニーの人事担当者と、『GO FOR IT』で重要な役割を担っているエンジニアに話を聞いた。
ハードウェアで差異化しづらい今、カギはソフトウェア開発に
ソニーと言えば、数々のエレクトロニクス製品を世に送り出してきた企業だ。そのソニーが新たに「『ソフトウェアスペシャリスト』選考コース」を設置したのは、ソフトウェアの重要性が高まりつつあるからだという。
「ここ数年、ソニーでは『ネットワーク』や『3D』に関連した新商品・サービスに力を入れています。これらを生み出すためにはハードウェア・ソフトウェアの双方の開発が必要ですが、このところ、ソフトウェアの重要性が非常に大きくなっているのです」(遠山もとこさん)
「昔なら、ハードウェアそのもので差異化することが容易にできたでしょう。例えば広告でも、『世界最小の~』や『世界ナンバーワンの高画質』などと、性能をアピールするケースが多かったはずです。でも今は、性能より機能やユーザー体験で特徴を際立たせることが増えました。その結果、ソフトウェアの競争力が以前よりクローズアップされてきたのだと思います」(大谷陽明氏)
また、ソニーにおける人材採用・育成の方向性も、時代の流れに合わせて変わりつつあるようだ。年齢をはじめとした採用においての枠組みを、徐々に取り払おうとしているのである。
「これまでソニーでは、新卒者は全員同じスタートラインに立たせ、イチから育てる方針でした。しかし、ソフトウェアの開発力は、年齢と必ずしも比例しません。中学生でも、プログラミング能力の高い人はいますからね。ですから、若くても十分に高いスキルを持った人であれば、『ソフトウェアスペシャリスト』という特別枠で採用しようと考えているのです」(遠山さん)
「答え」ではなく「アプローチ方法」を重視する『GO FOR IT』
今回『GO FOR IT』という採用イベントが開催されるのも、「ソフトウェアで世界を変えたい」と考える若い人材を数多く見いだすためだ。では、コンテストではどのような点に注目して選考を行うのだろうか?
「素晴らしいハードウェアは、見ればすぐに『これはすごい』と分かるじゃないですか。コードも同様だと思うんです。書かれたコードを見れば、問題に対するアプローチの方法や、技術の高さなどが伝わってきます。今回出された問題は、時間をかければ多くの人が解けるはず。ただ、解答が一つにとどまらない問題を出題したつもりです。やりようによっては、いくらでも非効率なコードにもなるし、洗練されたコードにもなり得る。当然、後者を書いた人の方が、ずっと高く評価されます」(長谷川倫也氏)
「誰にも解けないような問題を出すのは無意味。特定の言語やOSに依存せず、いろいろな人のチャレンジ心をくすぐられるような問題づくりを心掛けています。ここで強調しておきたいのは、わたしたちが求めているのは『ただの解答』ではないということです。短い時間で、いかにエレガントな解き方をするのか。コードを書く際に、どれだけもがいたか。選考では、そのあたりに注目したいですね」(大谷氏)
最初にサイト上で「例題」を発表した際、ネットなどではさまざまな反響があった。その中で目立ったのが、「問題が簡単なのでは?」という意見。しかし、このコンテストでは、単に正解を導けば良いわけではない。むしろ、正解に至るプロセスや、コードの洗練度が問われていると言えるだろう。
もう一つ、ネットで多く見られた反応があった。それは、「意図がよく分からない」というもの。しかし、問題の意図を図りかねるような人は、もしかしたらソニーのエンジニアには向いていないのかもしれない。
「わたしたちは、まだ見ぬ未来に向けて商品・サービスを作っています。ですから、仕様が完全に固まっていなければ何もできないというタイプの方は、入社後に苦労するかもしれません。あれこれと工夫しながら問題を解くことに楽しみを見いだせる方に来てほしい。そういうエンジニアは、混沌とした状況の中でも、アイディアを形にしていく力を持っている。わたしたちとしても、一緒に仕事をしたいと思わせてくれる人ですね」(長谷川氏)
コンテストで「このコードは良い」と評価された人は、問題を出したソニーのエンジニアと会う機会を与えられる予定だ。
「若い方から見れば、現役のエンジニアの考え方や、ソニーの開発の進め方・社風などに触れられるチャンスだと思います。こちらとしても、ソニーのソフトウェア開発は楽しいということを、ぜひ若い方に伝えたいですね」(川合潤氏)
ハードの制約がなくなる中、問われるエンジニアの想像力
Facebookが生まれる前に、それと似たような仕組みを思い付いていた人はいたかもしれない。しかし、最初に実現したのはFacebookの開発者だった。それが、現在の大きな差を生み出したのだ。
今、モノづくりの世界でも同様に、ハードウェアの開発と同時並行してソフトウェアのプロトタイプを開発していくくらいのスピード感が求められている。
「一昔前なら、良い商品を思い付いても、ハードウェアの試作品を作ってから、それを動かすソフトウェアを書くという手順を踏んでいました。
しかし今なら、コードを書けば、すぐに人に見せることができる環境がそろってきました。技術開発のスピード感が、格段に高まっています」(長谷川氏)
「『ソニー=ハードウェアメーカー』というイメージは、もはや過去のものです。ソニーのデジタル家電にはたくさんのソフトウェアが詰め込まれていて、その開発は本当に面白くて刺激的。そのことを、今回のコンテストを通じて多くのエンジニアに知ってもらいたいですね」(大谷氏)
現在、Web系企業のエンジニア採用においては、選考の過程で『Github』や個人ブログに公開しているコードを見て採用時に参考にするスタイルがよく見られる。しかし、ソニーという日本を代表する大企業でもこの手法が取り入れられたのは、大きなインパクトをもたらす出来事だ。
これからの時代は、ハードウェア・ソフトウェアという垣根を越えた発想が求められるだろう。そして、制約のない中で想像力を働かせ、アイデアを素早く形にできるエンジニアの価値がますます高まるはず。今回取り上げたソニーの新しい新卒技術者採用のスタイルは、そうした未来を象徴する動きだと言えそうだ。
取材・文/白谷輝英 撮影/小禄卓也(編集部)
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