J CREATION 代表取締役社長
清弘文哉氏
1987年、山口県生まれ。大学在学中に休学をし、オーストラリア・カナダ・アメリカにて就労、広告代理店インターンなどを経験。大学卒業後は、事業会社にて人事として勤務。その後、タイに渡り、海外で培った経験を活かし、2014年3月J CREATIONを創業
「オフショア」と聞くと、「開発」を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし最近は、「デザイン」や「イラスト」もオフショアで制作する企業が現れ始めている。
タイの首都バンコク。ここに拠点を構えるデザイン会社J CREATIONには、日本のゲーム会社などからデザイン・キャラクター制作の依頼が相次いでいる。社長を務めるのは、27歳の清弘文哉氏だ。
J CREATION 代表取締役社長
清弘文哉氏
1987年、山口県生まれ。大学在学中に休学をし、オーストラリア・カナダ・アメリカにて就労、広告代理店インターンなどを経験。大学卒業後は、事業会社にて人事として勤務。その後、タイに渡り、海外で培った経験を活かし、2014年3月J CREATIONを創業
「これを日本のお客さんに見せると毎回驚かれるんですけど、タイのデザイナーの絵を描くスキルって本当に高いんですよ。タイにはデザイナーがたくさんいます。美術系の大学も多いですし、一般企業に勤めながら夜や週末は趣味や副業で絵を描くという人も珍しくありません。デザインが文化として浸透しているんですね」
清弘氏のもとには、これまで主にゲーム会社からのカードゲームで使用するカードのデザインの仕事が集まっていたが、最近では芸能事務所が公開する『LINE』用のスタンプなど、他業種からの多岐にわたる案件の相談が来ているという。
こうした変化の背景には、日本のデザイン・イラスト制作会社の苦しさがあると同氏は分析する。
「日本でデザイナーやイラストレーターを雇用するためには、安くても月給で20~30万円。それに社会保険料などを加えると、最低40万円近くはかかります。デザイン・イラスト制作案件の単価が下がっている中、その費用を工面するのは簡単なことではありません」
なぜ、日本では単価が下がっているのか。それは、「制作物のテイストが変わってきているから」と清弘氏は分析する。
以前は、例えば『進撃のバハムート』のようなリアルな絵を求められ、それは単価が高かった。しかし、最近需要が高まっているアニメ系の絵は単価が下がっている。どちらも絵を描く時間はそこまで変わらないのに、正当な評価を受けづらいのだそうだ。
そこで増え始めたのが海外へのオフショアというわけだが、デザインやイラストのテイストは、その人が育った国の文化にも影響を受けやすいはず。日本の顧客企業やエンドユーザーの好みにあった絵が描けるのだろうか。
「得意、不得意はあります。タイ人が得意なのは、いわゆる『リアル』、『セミリアル』と呼ばれるような、具象性の高い絵。光沢感の演出など、ディテールの書き込みが求められる絵も得意」だそうだ。
一方、これは同社にはあてはまらず、タイで現地人が経営するデザイン会社にいえる一般的なことと前置きした上で、「デフォルメさせるのに慣れていないのか、抽象度の高いアニメの絵がまだまだ不得意。また、日本の美術系の大学と学ぶ内容が異なるのか、顔など目立つパーツを描かせたら上手いが、体を描かせると手や足の長さが不自然になる」といったことも。
そこで同社では、清弘氏の視点でディレクションを行ったり、日本人のデザイナーによる講座を定期的に開催し、タイ人デザイナーのスキルを向上させするなどして、こうした点を克服しようとしている。
デザインやイラストをオフショアで制作するメリットは、なんといっても「安い人件費」だ。清弘氏いわく、タイのデザイナーの平均月給は現時点で6~8万円 。例えば、LINEのスタンプのデザイン制作を日本のデザイン会社に依頼した場合、相場は40個で25~30万円だが、同社では13万円で請け負っているという。
この価格は、タイ人が経営する現地企業に比べるとやや高いそうだが、日本の会社と比べるとおよそ半額、もしくはそれ以下だ。
プロジェクトの規模が大きくなる場合、タイにはデザイナーが多いこともメリットとなる。
同氏が現地で生活していて肌で感じるのは、良い意味でオタク気質の人の割合が日本よりも高いこと。そして感性が豊かで、絵を描いたり、写真を撮ったりして、自分を表現することが文化として根付いているという。
ちなみにこうした背景もあってか、デジタルコンテンツの人材養成スクールを運営する日本のデジタルハリウッドも、2012年8月にASEAN地域で初となる海外校をバンコクに開校している。
ただし、デザインやイラストをオフショアする際、気を付けた方がいいこともあると清弘氏は明かす。
よりコストを抑えようとタイのデザイン会社に直接委託すると、「納期が守られない」、「求めていた絵のクオリティーとはまったくセンスの異なる成果物が上がってくる」といったトラブルがまれに起こるそうだ。
「タイ人のデザイナーとコミュニケーションを図れる、日本人のディレクターを一人立てた方が、今はまだ得策でしょう」
タイ人とのコミュニケーションとは、英語もしくはタイ語での会話だけを指すのではない。彼らならではの働き方への理解も必要。これがデザインオフショアの成否を左右するという。
「注意しないといけないのは、働き方やスケジュールの意識がやはり日本人とは異なる点です。弊社では、例えば出社時間をフレックスにして1日9時間勤務すればOKとしています。また、スケジュールの管理に関しては日本人である私が行い、緊急を有する案件についても確実に納品できる納期を私が調整するなどして、彼らには制作に集中してもらえる環境を作っています」
こうした事情を踏まえると、日本と海外拠点とを結ぶ「ブリッジデザイナー」への需要も今後高まっていきそうだ。そして、デザイン・イラストのオフショアは、導入を検討する価値が十分にあるだろう。
取材・文/岡 徳之
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