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フィジカル・コンピューティングはここまで来た! 「スマホで操作できるガジェット」をアプリで自作できるkonashi.jsを知る

ITニュース

    ユカイ工学

    「機械にはアソビが大事」とはよく聞くが、開発チームにも同じことが言えると考える平山氏

    ユカイ工学が7月1日に一般リリースしたiPhone/iPadアプリ『konashi.js』を片手でポチポチ押しながら、もう一方の手に持つ外部端末のLEDがピカピカ光るのを見ていると、思わず「おぉ」と声が出る。仕組みを説明する目的で作られた簡素なサンプルだが、それでも実際目の当たりにすると感動するものだ。

    これが、フィジカル・コンピューティングのもたらす魔法なのかもしれない。

    フィジカル・コンピューティングとは、米ニューヨーク大学で生まれ、いまや世界中に広まった教育のフレームワークのこと。学術的な説明はさておき、意味を分かりやすく解説すると、

    《コンピュータをもっと身体的なもの=人の行動や生活に寄り添ったものにすることで、コンピュータと人間の意思疎通の方法に広がりが生まれるのではないか》

    という考えに基づいたモノづくりを指す。

    「コンピュータと人間の意思疎通」と書くとSF的な世界を思い浮かべる人もいるだろうが、PCを操作する際に使うマウスも意思疎通ツールの一つである。それをより身体的にする~例えば任天堂のWiiリモコンやMicrosoftのKinectなどがそれに当たる~ことで、 生活を便利にしたり、新しいユーザー体験を生み出そうというわけだ。

    konashi.jsは、このフィジカル・コンピューティングをスマートフォンやタブレットで実現してしまおうという、挑戦的なアプリなのだ。

    モノづくり経験のないWebエンジニアやデザイナーも「MAKERS」に

    konashi.jsを作ったロボットカンパニー「ユカイ工学」の松村礼央氏(写真左)と、代表の青木俊介氏(写真右)

    konashi.jsを作ったロボットカンパニー「ユカイ工学」の松村礼央氏(写真左)と、代表の青木俊介氏(写真右)

    このアプリは、面白法人カヤックが提供するJavaScript/HTML5/CSSのソースコード投稿共有コミュニティ『jsdo.it』とのコラボレーションで生まれており、もともとユカイ工学が開発していたフィジカル・コンピューティング・ツールキット『konashi(税込み9980円)』を併用すれば

    【1】jsdo.itにあるWebベースでコーディングしたJavaScript言語を用いて
    【2】konashiを通じてセンサや外部機器と接続し、
    【3】スマホアプリ(konashi.js)でガジェットやハードウエアを制御する

    ことが可能となる。Web開発の知識がそれなりにある人ならば、誰もが「スマホで操作」、「スマホと通信」するプロトタイプを生み出せる土台が完成したわけだ。

    konashiおよびkonashi.jsは、たけいひでゆき氏(アドバイザ/Beatrobo Inc, CTO)、田所祐一氏、菊谷侑平氏(開発/東京工業大学)、そして松村礼央氏(企画・開発・PM/ユカイ工学)の4名の手で作られており、開発で中心的役割を担ったユカイ工学の松村氏は「アプリ開発の要領でハードウエアを動かすことができないか」という思いで作ったと話す。

    konashiの設計思想について話す松村氏

    konashiの設計思想について話す松村氏

    フィジカル・コンピューティングのためのマイコンとしては、「エンジニアの電子工作の敷居を下げた」と言われる格安キットArduinoが有名だが、konashiはデザイナーやアーティストが利用する言語での開発に対応し、それらユーザーとエンジニアとの「かすがい」として機能するように強く志向して設計・開発されている点でスタンスを異にしている。

    また、konashiと同様に「かすがい」として機能することを強く志向して作られたマイコンにGAINERがあるが、こちらはデスクトップ・ノートPCとの関係性を重視して作られたのに対して、konashiはスマホ・タブレットとの関係性を重視している。

    「GAINERの『かすがい』として機能するという思想を受け継ぎ、Arduinoのような拡張性も持つ。そして、それらの機能を“現代のコンピュータ”としてわれわれの生活に浸透したスマートフォンやタブレットを対象に再定義する。そうすることで、スマホ・タブレットにネイティブな次の世代によって、新たなプロダクトやサービスの創造が進むと考えたのです」(松村氏)

    その仕上げとして出たのがiPhoneアプリのkonashi.jsであり、既述のようにWebベースの開発知識で簡単に「モノづくりのアイデア」をプロトタイピングできるため、Webエンジニアやデザイナーでも抵抗感なくフィジカル・コンピューティングにチャレンジできるようになった。

    実際、GAINERの開発者である小林茂氏とOpenCu、そしてユカイ工学が今年6月末に共同開催したワークショップ『konashi-Make-a-thon』では、モノづくり経験のないデザイナーやアーティストとエンジニアがグループを組み、konashiを使ったさまざまなアイデア~「トイレットペーパーとのインタラクションを擬人化するキット」など~を作り上げるなど、松村氏の思い描く世界が徐々に形となっている。

    「モノづくりのLEGO」の誕生は、新たなベンチャー創出にもつながる!?

    かつ、konashi.jsはjsdo.itで共有されたリポジトリ(プログラムコードの一元管理場所)からコードをfork(=自分用に複製)することもできるので、エンジニアリングの経験がほとんどない人たちでも、少し勉強するだけでモノづくりを始めることができる。

    ユカイ工学代表の青木俊介氏は、「コミュニティとの連携は学習時間の省略につながる」と話しながら、konashi.jsが“コード共有コミュニティ”であるjsdo.itとコラボした理由をこう説明する。

    MAKERムーブメントにおけるコミュニティの重要性を語る青木氏

    MAKERムーブメントにおけるコミュニティの重要性を語る青木氏

    「ツールを提供するだけでは、これまでモノづくりをしたことのない人たちを引き込むことはできません。本当の意味で“Webとハードの垣根”をなくすには、同じような考えを持つ人たちをつなげるコミュニティの構築が必要だと前から考えていました。コミュニティに参加すれば、ユーザーは他人の知識や経験から学んだり、マネしたりできるからです」(青木氏)

    jsdo.itとの連携で、この「ナレッジ共有」のベースをゼロから構築することなく広めることができ、しかもコミュニティが生む人のつながりはアイデアの発展やモチベーション向上に貢献するだろう。

    『MAKERS』の著者クリス・アンダーソンも、「MAKERムーブメントを広めるにはコミュニティの形成が必要不可欠」と説いており、konashi.jsはこの課題を一気にクリアしたことになる。

    「フィジカル・コンピューティングを自分なりに定義するなら『モノづくりのLEGO』」と松村氏が話すように、LEGOのように誰もが簡単にモノづくりを始められる時代が着々と来ているのだ。

    「今後はコミュニティを盛り上げるための取り組みを強化しながら、ガレージベンチャーならぬ“スマホ内で生まれたベンチャー”を輩出するくらいのムーブメントを作っていきたいと思っています」(青木氏)

    ちなみに、konashiというネーミングは和菓子の「こなし」から来ており、「和菓子職人の世界では、こなし作りが“こなせて”一人前。こなしには『必要な基礎を学ぶ題材』という意味もあるから」(松村氏)だそう。

    konashiとkonashi.jsがきっかけとなってモノづくりの基礎を学ぶ人が増えれば、世界は今よりもっと面白くなる――。ユカイ工学のkonashiとkonashi.jsに込めた思いが世の中に浸透した時、新しい形の「モノづくり大国ニッポン」が誕生しているかもしれない。

    取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/小林 正

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