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2014年のITサービス市場データから考える、業務系SEの新しいキャリア「3つの選択肢」

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    2014年のITサービス市場データから考える、業務系SEの新しいキャリア「3つの選択肢」

    クラウドベースの業務アプリケーションが市民権を得始め、ユーザー企業のビジネスニーズに柔軟に対応できないオンプレミスのシステム導入は時代遅れとなる――。この1~2年、エンタープライズ開発は、このような言説で語られることが多かった。

    だが、特に大規模プロジェクトともなれば、メディアやベンダーが喧伝する「最先端」だけが求められるわけではない。現実として、こういった変化を受け入れつつも、従来型のシステム開発が続いている。

    そんな過渡期の中、各種業務系システムの開発に携わるSEたちは、どうやってキャリアメイクしていくのがベターなのか。調査会社ガートナー ジャパンの主席アナリストである海老名剛氏に、2014年の国内ITサービス市場の動向と「変化の兆し」を聞いたところ、3つのポイントが浮かび上がった。

    今後、業務系SEや、企業内の情報システム部門のエンジニアに求められるであろうスキルや視点は以下だという。

    【1】「CIOの代弁者」としてのファシリテーション能力/目利き力を鍛える
    【2】クラウド+αの「ハイブリッド」でシステム構成を考える力を磨く
    【3】視点としての「フルスタック」を目指す

    その背景にある事象を詳しく紐解いていこう。

    「デジタル化」への過渡期を生きるために必要なバランス感覚

    「デジタル化」への過渡期を生きるために必要なバランス感覚

    ガートナー ジャパンのリサーチ部門ソーシング&ITマネジメントの主席アナリスト海老名剛氏

    その前に、簡単にだが2014年の振り返りをしておこう。

    ガートナー ジャパンが今年10月に発表した調査(※2014年3Q版日本のセグメント別ITサービス市場規模予測)によると、2013年に約10兆6800億円だった国内ITサービスの市場規模は、2014年に約10兆8800億円程度に達する見込み。

    この数字からも、国内IT市場が成熟期にあるのは確かなようだ。「今後もゆるやかな成長が続くと見ている」と海老名氏は言う。

    その中心を担うのは、「リプレースやアップグレードなど、ユーザーのコスト削減ニーズに応えるような案件」(海老名氏)で、世間で思われているほどの急速なクラウドシフトはまだ起きていないという。

    それでも、システム投資のテーマはこれまでとは趣を異にし始めていると海老名氏は続ける。2014年のITサービス市場は、「前向きなシステム需要が戻り始めた1年」でもあったと語る。

    「いまだに既存システムのリプレースに大きな需要がある一方で、ソーシャルやモバイル、IoT、アナリティクスといったエッジな分野で、事業の収益性を高めるためのデジタル化を進めたいという前向きなニーズも同時に高まりつつあります」

    ガートナーの発表によると、すでにグローバルではIT予算の支出全体の38%が販売や企画・マーケティングといった非IT部門から生まれており、その割合は2017年までに全体の50%に達すると見込みだという。

    クラウドベースで手軽かつ安価に利用できるITサービスやインフラの普及が、現場主導のデジタル化を後押しているのは間違いない。

    >> 参考情報:アナリストが提言「CIOは、自社内のデジタル・スタートアップを推し進めよ」

    「だからと言って情報システム部の存在意義がなくなるわけでも、ITベンダーがユーザー企業のIT部門を無視して現場部門と直接仕事をするようになるべきだとも思いません。現状はすべての業務をクラウドサービスで代替できるわけではありませんし、パッケージや手組みのシステムでなければならない場合もあるからです。当面、システムのあり方は必要に応じてハイブリッド化していくことが予想されます」

    前段で、今後、この領域のエンジニアに求められるであろうスキルに

    【1】「CIOの代弁者」としてのファシリテーション能力/目利き力を鍛える
    【2】クラウド+αの「ハイブリッド」でシステム構成を考える力を磨く

    の2つを挙げたのは、こうした背景からだ。

    デジタル化のニーズが高まっている今、現場部門の思いや意向を汲みつつも、コストや優先順位をきちんと説明し、情報システム部門と共に全体最適を追求するファシリテーション能力が求められるようになっている。

    「全体最適を志向するには、エンドユーザーの事情を踏まえてなお、標準化の意味を説かなければならないようなケースも出てくるでしょう」

    また、ユーザー企業がITシステムの導入時に求めるスピードも年々速まっているため、状況に応じてクラウドやパッケージを用いつつ、コアとして守るべき部分はオンプレミスや手組みで開発する、といった判断が必要になってくる。

    「今まで以上に幅広い守備範囲でシステム構築をしていくエンジニアが、開発現場では強く期待されるようになると思います」

    イノベーションは長期的な関係からしか生まれない

    イノベーションは長期的な関係からしか生まれない

    海老名氏によると、デジタル化に加えてもう一つ、盛り上がりを見せているシステム需要があるという。これまで国内のみに留まっていたデータ連携を、海外拠点にも広げたいというニーズだ。

    こちらも、ITベンダーやSIerの強力なリーダーシップとプロジェクト遂行力が問われる領域になる。

    「企業のCIOに対して『優先的に取り入れたいテクノロジー』をヒアリングした結果では、グローバル調査では1位が『BI・アナリティクス』、2位『インフラストラクチャー・データセンタ』、3位『クラウド』となるのですが、日本では1位の『クラウド』に続く2位に『ERP』が入ってきます。そして3位は『BI・アナリティクス』。不況下で先送りされていた海外拠点との連携を完遂し、BIやアナリティクスに活用したいというニーズが顕在化しています。それがERPへの関心につながっているようです」

    グローバルでのデータ連携システムの構築ともなれば、当然ながら社内外の連携が必要不可欠となる。また、前述したような各種技術を「目利き」する力も問われるだろう。

    そのため、現場のエンジニアレベルでは

    【3】視点としての「フルスタック」を目指す

    ことが重要性を増すわけだ。

    「大規模案件で必要になる技術領域を、1人のエンジニアがすべてフォローすることは現実的に難しい。ただ、特定分野の専門家として関連する技術や製品を学び、その上で自分とは異なる専門性を持ったエンジニアと協業していく姿勢はよりいっそう大切になっていくと考えられます。視点のフルスタック化とはそういう意味です」

    こうして、2015年以降のエンタープライズ開発で現場エンジニアやITコンサルタントに求められる能力は多岐にわたる。そのすべてを一度に習得しようと思っても、無理があるのではないか?

    そんな疑問に対して、海老名氏はこんなエピソードを交えて答える。

    「ある企業のCIOに言われたことで印象的だった言葉があります。それは、『イノベーションは長期的な関係からしか生まれない』という言葉です。企業がイノベーションを継続するためには、目の前にあるシステムを守りながら、同時にエッジな取り組みも進めなければならないことを意味します。つまりユーザー企業のIT部門は、最適なポートフォリオを組み立て提案から実行までを担えるパートナーを求めているのです」

    日本のITサービス市場は北米に次ぐ規模があるが、まだまだデジタル化が行き届いていない領域も多い。また、万全の備えでグローバル展開している企業も一部に限られるだろう。多様化するニーズをいかに把握し、ハイブリッド化するシステムに応じた最適なポートフォリオと提示できるか、すべてはエンジニアの双肩にかかっている。

    取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)

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