

大手ゲーム開発会社から、VRベンチャーへ。 先端テクノロジーを追い求めた転職で「掴んだ」もの
VRとウェアラブルデバイスという2つの先端技術をクロスオーバーさせ、仮想現実の世界に「触覚」を再現することに成功したベンチャー。それがexiii(イクシー)だ。「触る」「掴む」を体験できる同社のウェアラブルデバイス『EXOS(エクソス)』には、エンタテインメント産業のみならず、製品開発への活用の可能性を見出した製造業からも熱い視線が集まっている。2018年4月には総額約8000万円の資金調達を実施するなど、さらなる事業拡大に向けた動きも活発だ。
設立以降、少数精鋭で独自のデバイスを生み出してきたexiiiに17年よりジョインした長谷川晃二氏は、誰もが知るゲーム業界のリーディングカンパニー出身だ。大企業からベンチャーへ。チャレンジングな転身にも感じるが、当人は今の仕事の醍醐味を楽しさをにじませながら語ってくれた。

イクシー株式会社(exiii Inc.) エンジニア 長谷川晃二氏
大学卒業後、新卒でKONAMIに入社。約8年間の在籍期間中、主に同社のアーケードゲーム機の筐体関連の開発に携わりつつ、ソフトウェア領域にも部分的に従事。技術者としての可能性を考え転職を決意した際、ウェアラブルデバイス『EXOS』に興味を持ち、2017年にexiiiへ入社。CADデータに触れることを可能にする3Dデザインレビューシステムを担当し、同システムを導入した大手メーカーとの折衝も行っている
リアルな「触覚」を感じられた時、皆で声を上げて喜び合った
大企業からベンチャーへの転職について、もちろん周囲からの反対や心配はあったという。それでもexiiiへの転職を決めたのは、「やりたい仕事がここでならできると思えたから」という、いたってシンプルな理由だった。

「学生時代は機械系の勉強をしていたので、ハードウェアエンジニアとしてのキャリアを描いていました。その一方で、もともとゲームが好きだったこともあり、個人的にプログラミングも勉強していたんです。なので、KONAMIでアーケードゲーム機の開発に携われることになった時は嬉しかったし、仕事も面白かった。担当していたのはあくまでも筐体部分ですが、テストを実行する際に必要となるプログラミングを手がけることもありました」
充実していたように見える、前職での仕事。長谷川氏がその先に見出した「やりたい仕事」とは何だったのだろうか。
「複雑な入力をすることでゲームが進行していくようなものが、作り手としては面白い。そんな開発経験を積み重ねながら、エンジニアとしても成長したいと思ったんです」
前職であっても、それは可能だったかもしれない。しかし、大企業を離れることで得られる体験もあるのではないか?そう考えた時、出会ったのがexiiiだった。
人づてにexiiiの存在を聞いた長谷川氏が、軽い気持ちで足を運んだオフィスで目にしたもの。それこそ、開発途中の『EXOS』だ。VRヘッドセットとEXOSを装着してデモを体感した長谷川氏は、瞬時にそのデバイスの可能性に惚れ込んだという。「もともと、ハードウェアがあってこそ実現するプロダクトに惹かれるタイプだったので、EXOSはとても魅力的でした」と語る長谷川氏。EXOSの魅力に触れたことで、長谷川氏のエンジニア魂に火が点いたのだった。
「触れるようになったら、次は掴めるようにしたい。掴めるようになったら、次は投げられるようにしたい。難しい触覚の再現に成功すると、その都度、皆で『おぉ〜!』と声を上げて喜び合えるのが、たまらなく面白いんですよね」
自動車開発にウェアラブルデバイスを活用。実現できる夢はまだたくさんある
繊細な触覚の再現に成功したEXOSには製造業からの期待が集まり、複数のオファーが舞い込んでいた。長谷川氏が正式に入社を決意する頃には、日産の新車開発への導入プロジェクトが進行していたという。
通常、1台の自動車を試作するためには数千万円のコストがかかる。しかし、EXOSが導入されれば、実体の試作車がなくとも検証・改善が可能となる。仕組みはこうだ。
CADデータを読み込み、VRヘッドセット上に製品デザインを投影。EXOSを装着した手を伸ばせば、ヘッドセット内に投影されたルームミラーやハンドルに「触った」という触覚を感じることができる。ドライバーがシートに座り、どのくらい手を伸ばした場所にハンドルやボタン類があるのか。それらの操作が、どのくらい快適に行えるのか。VR上で検証可能になれば、開発コスト・スピード共に飛躍的に効率化できるというわけだ。

「実際に人が乗って操作する自動車の開発に用いられるわけですから、視覚や聴覚だけでは不十分。触覚が加わったデバイスだからこそ、モノ作りへの活用という道が開けたんだと思います。将来的には、航空機や宇宙船の開発にも応用できるようになるでしょう。試作コストがかかり、正確性が求められる製品開発にこそ、exiiiの技術が生かされるのです」
もちろん、注目しているのは乗り物の世界ばかりではない。物件の内覧などにVRを活用してきた不動産業界でも、触覚が加わることへの期待が高まっているという。例えば、キッチンのシンクに手をついたときの高さや、頭上にある戸棚との距離感などを、実際に触って確かめることができるためだ。
これまでも、触覚を体感できるデバイスがなかったわけではないが、デバイスそのものが固定されているタイプが大半だったように思う。VR画面上の空間を自由に移動しながら触ったり掴んだりできるようになったことで、活用の可能性は無限に広がっている。とはいえ、課題もまだ残されているという。
「軽くて違和感なく装着できるデバイスを作りたいですし、触覚もよりリアルにしていきたいと考えています。そうすれば、もっと多くの産業で活用できるようになると思うんです。将来的には、私が元いたエンタメの世界にも影響力を発揮していきたいですね」
最先端領域にいるからこそ、正解のない問題との格闘は続く。だが、最先端でしか味わえない達成感もあるのだろう。それを踏まえて、長谷川氏は「EXOSは、夢を諦めないデバイスなんです」と語った。
「exiiiはまだまだベンチャーですが、すでに名だたる企業とのコラボレーションも並行して進行中です。誰も足を踏み入れていない領域だからこそ、今しかできない体験があると思います。ハードルが高く感じるかもしれませんが、『誰もやったことのない挑戦』ばかりなので、経験者なんていないも同然です。手を挙げてくれるエンジニアがいれば、ぜひ一緒にチャレンジしてほしいですね」
このデバイスで、実現できることはまだたくさんある。そんな「夢を諦めないデバイス」が、今、いくつもの夢をその手で掴む日を迎えようとしている。未来の技術に触れたいエンジニアにとっても、今こそがチャンスだと言えるだろう。
取材・文/森川直樹 撮影/赤松洋太
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