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Fintech企業が「現金大国・日本」で挑む、キャッシュレス比率80%実現への道

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    革新的な技術によって、人々の暮らしを格段に便利にしているFintech。世界ではすでに現金いらずの生活が実現している国が多いものの、日本ではようやく通勤やランチがスマホひとつでできるようになってきたばかりだ。今年、経済産業省は、2025年にキャッシュレス決済比率40%を目指す「キャッシュレス・ビジョン」を策定。ゆくゆくは80%を目指すことを表明した。現金大国である日本で、いかにキャッシュレス社会を実現させるのか。Fintech企業が一同に介し、ディスカッションが行われた。

    Fintech協会

    アイ・ティ・リアライズ、AnyPay、Origami、Kyash、ピクシブ、リンク・プロセシング(50音順)の他、経済産業省の海老原要氏が登壇した。

    日本が目指すキャッシュレス社会と、世界の今

    16年時点で日本のキャッシュレス決済比率は約20%。これから、爆速でキャッシュレス比率を押し上げていく計画があるという。

    経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通制作課 市場監視官 海老原要氏は、「有識者を集めたキャッシュレス検討会では、25年に誘致を目指す大阪・関西万博までに、倍の約40%までキャッシュレス比率を高める『支払い方改革宣言』を掲げました。将来的には世界最高水準の80%を目指しています」と意欲的だ。

    その背景に、日本は世界に比べて圧倒的にキャッシュレス比率が低いことがある。世界各国のキャッシュレス推進状況について海老原氏は次のように話す。

    「スウェーデンではスマートフォンを使った個人間送金システム『Swish(スウィッシュ)』が浸透し、人口の約半分が使っています。

    隣の韓国では、なんと約9割がキャッシュレス決済です。1997年の通貨危機以降、脱税防止や消費活性化のために政府主導で施策を展開し、高いキャッシュレス比率を実現しました。

    中国では、WeChatPay、Alipayなどの二次元バーコード決済が急速に広がっています。情報の利活用も進み、位置情報をもとに好きな商品のクーポンが送られてきたり、その商品にちなんだ広告が表示されるところまで実現しています」

    一方日本では、さまざまな障壁が立ちはだかり、キャッシュレス比率の拡大には時間がかかっている。

    経済産業省 海老原要氏

    経済産業省 海老原要氏

    「日本は治安が良く、現金を持ち歩いても盗難の危険性が少ないですし、紙幣の質が高いため偽札もほとんどない。なんといっても現金文化です。店舗側も、手数料や端末のイニシャルコスト、スタッフに教えるのが大変などの理由で、導入したがらないケースが多いですね」(海老原氏)

    では、これからドライブをかけてキャッシュレスを推進していくためには、どうすればよいのだろうか。

    Fintechベンチャー、インフキュリオンの代表も務める社団法人Fintech協会会長の丸山弘毅氏は、「現状、国内でシェアの高いクレジットカードだけでなく、銀行口座から直接引き落とすデビットカードや、プリペイドカード、二次元バーコード決済など新しい決済手段を積極的に模索していく必要があります。こうした新しい方法を増やし、世界を追い越すスピードでキャッシュレス化を進めていきたいと考えています」という。

    そのために、産官連携によるテクノロジーの活用も進んでいる。昨年経済産業省が立ち上げた「クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会」では、銀行口座からの直接決済を増やすために、事業者へ向けて銀行のAPIを開放する施策を施行した。今年3月までに公開された銀行APIは約30行分だが、20年までに200行のAPIが開放される予定になっている。

    バーチャルクレカや電子スタンプ、続々登場Fintechの新ソリューション

    こうしたキャッシュレス社会を実現するため、各社さまざまな取り組みを行っている。

    AnyPayが展開する「Paymo biz」は個人事業主や店舗など小規模事業者が手軽にクレジットカード決済機能を導入できるサービスだ。スマートフォンアプリ「Kyash」は無審査で、手数料・年会費無料のバーチャルVISAカードを発行し、コンビニや銀行ATMなどでチャージすることにより、送金・決済に利用できる。

    ピクシブが昨年8月にリリースした「pixiv PAY」は、コミックマーケットなど即売会専用の決済アプリ。混雑するイベント会場における金銭のやり取りをなくし、柔軟な値付けを可能にした。

    アイ・ティ・リアライズが提供する小型のプロダクト「スタンペイ」は、電気・通信設備が不要な電子スタンプだ。JTBグループと協同で行う訪日外国人向け実証実験「Japan Travel Pay」にも採用されている。

    「Origami Pay」は日本における二次元バーコード決済サービスの先駆け的存在。Alipayと連携し、国内約2万店で利用可能だ。リンク・プロセシングの決済ソリューション「Anywhere」は、乱立する決済サービスを1台のCAT端末で取りまとめ、自社で決済センターまで運営するオールインワン型。7月から沖縄県宮古島で訪日外国人向け送客トライアルを開始した。

    Fintechはこれから新しいインフラになる。みんなで手を取り合ってこそ、キャッシュレス社会は実現する

    Fintechサービスは多岐にわたり、イベント運営や観光業にまで手広く活用されるようになってきたが、事業者側としては自社だけでユーザーや加盟店を囲い込むつもりはないという。

    「自社独自のシステムやサービスにこだわっているわけではない。事業者みんなで手を取り合って業界全体を活性化していきたい」「社会のインフラとして、いたるところで使えるようにするのが事業者としての使命。そのために自社のソリューションを、さまざまな事業者に提供してオープンに利用してもらいたい」と、一同口をそろえる。

    ピクシブ 重松裕三氏

    ピクシブ 重松裕三氏

    ピクシブ クリエイター事業部 部長の重松裕三氏も「いちばん怖いのは、莫大なマーケティング費用を投下したのに選択肢がありすぎて、大きな機会損失を産んでしまうこと。それは誰も望んでいません」と強調した。

    多様化し乱立するキャッシュレス決済サービス。まずは業界が力を合わせるべき

    決済手段が急激に増えた結果、店舗側の混乱を招いているという新たな課題も見えてきた。ある家電量販店では、さまざまな来店客のニーズに対応したところ、50以上もの決済手段が利用できるようになってしまったという。

    Fintech協会の丸山氏は「新しいサービスが登場することで一見利便性が高まっているように見えますが、むしろ複雑化してしまい、店舗側の負担は増えています。今後、経済産業省を中心に統一二次元バーコードを発行するなど規格を統一し、業界標準をつくっていくことが重要です」と話す。

    Fintech協会 丸山弘毅会長

    Fintech協会 丸山弘毅会長

    キャッシュレス比率80%とは、日本全国津々浦々、どんな場所でも財布なしで行動できる状態だろう。そのためには店舗やタクシー会社など加盟店の利便性を高めなければ、テクノロジーを普及させることは難しい。新しいソリューションに否定的な地方や観光地ではなおさらだ。

    丸山氏は、「加盟店にいかにメリットを提供するかが、キャッシュレス推進の鍵となります。これからも技術の進化に伴い、新しい手段が続々と出てくるはずです。多岐にわたる決済手段を吸収するシンプルなデバイスも必要になってくるでしょう」と、業界全体の足並みをそろえることの重要性を解いた。

    文/石川香苗子 撮影/秋元祐香里(編集部)

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