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2017年7月に6周年を迎え、650万ダウンロードを超える日本最大級のオンライン家計簿Zaim。代表取締役の閑歳孝子さんは記者としてキャリアをスタートし、IT企業に転職した後、プログラミングを独学。自らエンジニアとしてZaimを開発、起業に至ったという経歴の持ち主です。
そんな閑歳さんのインタビューを前後編に分けてお届けします。
今回は人気アプリになった秘訣を探るため、Zaimが大事にしている価値観についてお話を伺いました。
※この記事にあるダウンロード数などは2017年9月7日取材時点の数値です
――Zaim6周年、おめでとうございます!
ありがとうございます!
――閑歳さんは、元々記者やディレクターをされていて、エンジニアとしては遅咲きですよね。「プログラミングスキルには自信が無い」と公言されてもいます。それでも多くの人に使われるアプリを作り出すことが出来た要因は何だと思いますか?
私だけの力によるものではないですね。今のZaimはチームとして動いているので、メンバーに支えられている部分が非常に大きいです。
ただ、あえてZaimの立ち上げ時に話を絞ると私自身がエンジニアだったことは大きかったです。
「この機能は簡単だからすぐに実装できるな」と1人で考え、1人で実装できるので事業展開のスピードが早かったですね。
サービスを作り始めた当初や、今より小さな組織で動いていた時点ではそのスピード感が役に立ちました。
――立ち上げ当時、技術的な相談を外部の方にすることはありましたか?
相談をすることもありましたが、一番参考にしていたのはユーザーからのフィードバックです。
もともと私は、サービスには作り手の「こういうサービスにしたい」、UIには「ユーザーにはこのように動いてほしい」という願いを込めるものだと思っていて。
デザインに関しても、私は正しいものと本当に使われるものは必ずしも一致しないと思っています。
たとえ定石から外れているとしても「これが良い」と感じたら、その判断を優先するということはしていました。とはいえユーザーからある一定数、指摘やクレームを受けたら「自分の判断が間違っていた」と認め、直したりもしていました。
Zaimはその繰り返しによって、徐々にサービスとしてブラッシュアップされていったんです。
――「これが良い」と判断する基準は何ですか?
社内で最重要視している価値観は「早いことと、分かりやすいこと」です。早くて分かりやすいことは「間違っていないこと」だと思うんです。
遅いサイトと早いサイトであれば、早いサイトの方が良いですよね。カスタマーサポートも、遅いよりは早い方が良いはず。
こんなふうに、早くて分かりやすいことは、どんな職種であれ正しいことだと考えているので、その価値観に沿っているか否かは何かを決めるうえで1つの判断基準にしています。
――ユーザーが増えていけばいくほど対極のフィードバックが寄せられることもあると思います。どのように対応していますか?
Zaimにも玄人のようなユーザーさんがいらっしゃいます。かなりマニアックに機能を使いこなしてくださり、とてもありがたいことです。
でも、そのような方はユーザー全体に対して1割いるか、いないかだと思うんです。フィードバックを参考にすると言いましたが、1割の声ばかりに耳を傾けていたら、9割のユーザーが混乱してしまいます。
社内では「9割のユーザーは初心者だと思え」と常に言っています。9割の人にとって、分かりづらかったり使いづらい機能やUIは常に見直すようにしています。
――Zaimを運営する上で大切にしていることは何ですか?
サービスはシンプルで在り続けることが大切だと思っています。でもシンプルって、じつは簡単ではないんです。
シンプルさを保つのは、機能を増し続けるよりも難易度が高いと思っています。
機能を拡張するのは、時間と技術さえあればいくらでもできますよね。でも、機能を減らすことは、すでにその機能を使っているユーザーが1人でもいると明確な意志がない限りは実行できません。
――実際に、一度は追加した機能を外した例ってありますか?
あります。Zaimには「財布にいくら入っている」「口座にはこれくらいお金が入っている」というのを示す残高機能があるのですが、一時期UIを大きく変えました。
具体的には「クレジットカードの支払いは100万円溜まっているけれど、手元には現金で300万円ある」というような手元のお金と負債の関係を把握するため、画面にグラフを表示するようにしたんです。
私としては「これは求められている!」と思ったのですが、多くのユーザーにとってグラフの意味も見方も分からなかったようで、次々に「元に戻してほしい」という要望が相次ぎました。
最初は一時的なものと思って観察していたんです。UIを変えると、ユーザーは慣れていないことから「元のデザインの方が良かった」と思うものなんですよね。だからしばらく時間が経って、ユーザーが慣れてくれたら、そうしたご意見は自然と収まるだろうと思っていたんです。
でも、その時は収まる気配が無くて・・・。結局、ユーザーはそこまで複雑な機能をZaimに求めていなかったということだと思います。
この時はニーズを正確に捉えていなかったと判断し、機能を外しました。
私は「機能を増やすには技術が必要だが、機能を減らすには哲学が必要だ」という言葉が好きです。今は1つ機能を増やしたら、その分、別の機能を減らすというくらいの考えでやっています。
―Zaimのエンジニアの採用基準を教えてください。
GitHubはよく見ていますね。GitHubにあるコードは、志望者のスキルを測るうえで非常に参考にしています。
別にメジャーなサービスを作った経験があるかをチェックしているわけではないです。重要なのは、自分でサービスを組み立てたことがあるかどうか。
また、エンジニアの採用時にはこちらが準備したプログラミングの課題を必ず提出してもらっています。
その人が一番得意とするプログラミング言語で構わないので、簡単なタスク管理アプリや、Zaimが一般開発者向けに公開しているAPIを使った関連アプリを1つ作ってもらったりしています。
面接から採用までは、3ステップから4ステップです。まずマネージャーと会ってもらい、課題の提出を受けた後、私(社長)と会うという流れです。途中で、Zaimのメンバーとの食事会の席を設けることもあります。
――エンジニア採用に対し、かなり慎重だという印象を受けます。
そうかもしれません。確かに社内でも、選考の課題が重すぎるのではないかという声が出ることもあります。
ただ、会社にとっても応募者にとっても一番怖いのはミスマッチです。
その人がどういうエンジニアなのか。課題に対し、どれくらいのアウトプットを出してくれるのか。アウトプットから、その人の実力や人柄が見えるのではないかと思ってます。
今まで組んだエンジニアでは「仕様を正しく読み解く国語力がある」「やりたいことを論理的に説明できる」「コーディングが平易で誰にでも分かりやすい」というスキルがある人だと、とてもやりやすかった。まるっと言うと「コミュニケーション力」なのかもだけど、あまり採用基準に出てこないよなぁ
— 閑歳 孝子 (@kansai_takako) 2017年3月20日
▲2017年3月20日の閑歳さんのツイートより
――エンジニア採用のとき、最終面接で閑歳さんが見ている点はどこですか?
まず、ユーザー目線を持っているかどうかを見るようにしています。単に「自分のプログラミングスキルを伸ばしたい」というだけでなく、この機能を実装することでユーザーがハッピーになる、そういった視点で開発が楽しいと思えるかどうかを確認していますね。
あとは作ることが好きであるかどうか。この2つがベースです。
(Zaimのエンジニアは)個人でも、何かしら開発している人ばかりです。それが採用基準にも入っていますね。
――会社経営にエンジニア経験は活きていると感じていますか?
非常に活きています。
プログラミングが出来るようになったことで、サービスの立ち上げを1人という最少人数でコスト低く始められたので、私自身はその恩恵をとても受けてきたと思っています。
サービスとしてリリースするような完成品を作り上げるのが技術的に難しいとしても「こういったものを作りたい」というプロトタイプレベルだけでも作れるようになると、それだけでも世界は広がります。
他の人の手を煩わせずに、自分が思い描いているものの市場ニーズや実現可能性を検証できるようになりますから。
もし私がまったくプログラミングができないままだったとしたら、自社のエンジニアとのコミュニケーションでもっと苦労していたと思います。
技術的な難易度が分かっていないと、費用対効果の悪い機能を依頼してしまうことがあるかもしれません。実装を経験しているからこそ、開発にかかる見積りや、最小の労力で実現できる方法などをエンジニアと一緒になって考えられるのだと思います。
理想のサービス開発の体制は、営業もエンジニアもサポートも、関わる職種のメンバーが一体となり「一緒に良いものを作りましょう」という気持ちで進めるものだと考えています。そのためには、お互いに尊敬しあい、歩み寄ってコミュニケーションをすることが大事です。ほかの職種は職種で、エンジニアが絶対にできない範囲の業務をしているわけですから。
――こういった採用のこだわりがあるからこそ、Zaimはユーザーに愛されているのですね。
>>後編へ続きます
※2017年9月7日時点での取材インタビューです。
※こちらの記事は、『TECH::NOTE』コンテンツから転載をしております。
>>元記事はこちら
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