TechトレンドVol.760

話題のIoTベンチャー代表が語る、異色のものづくり哲学

※この記事は2017年11月に作成された記事を、内容を変えずにタイトルのみ変更して転載しています。また岩佐氏は2018年4月にCerevoを退社し、現在はShiftall社のCEOに就任しています。


プログラミングを学んで作れるようになるものと言えばスマホアプリやWebアプリといった画面上で動くもの・・・というイメージがある人も多いでしょう。

しかし実はプログラミングを身につけると、家電をはじめとするハードウェアをインターネットに接続し、いままでどの家電メーカーも作っていなかったような「全く新しい家電製品」を作ることも出来るようになります。

そんなコネクテッド・ハードウェアもしくはInternet of Things(IoT、モノのインターネット)と呼ばれる分野にいち早く着目し、2008年の創業以来、超個性的な製品を次から次へと世に送り出しているのが株式会社Cerevo(セレボ)です。

CAMPFIREで2016年9月、史上最多支援額となる3045万5500円を集めたBLEラジオ「Hint」の製造や、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場するドミネーターを本当に商品化したことでも話題を呼びました。

そんなセレボの代表が岩佐琢磨さん。パナソニックを退職後に「大手ではできないことを」という思いで起業。実はWindows 95の登場以前からPCに夢中になり、ゲームやプログラミングに打ち込んでいた経験の持ち主です。

今回のインタビューではIoTやプログラミングスキルの重要性などについて、お話を伺いました。記事は前後編にわたってお送りします。前編となる今回は、「Cerevoはパティシエ」と語る異色のものづくり哲学に迫ります。

岩佐琢磨さん
<プロフィール>
岩佐 琢磨(いわさ たくま)
1978年生まれ、立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年からパナソニックにてネット接続型家電の商品企画に従事。2008年より、ネットワーク接続型家電の開発・販売を行なう株式会社Cerevo(セレボ)を立ち上げ、代表取締役に就任。世界初となるインターネットライブ配信機能付きデジタルカメラ『CEREVO CAM live!』や、PCレスのライブ配信機器『LiveShell』シリーズなどを開発し世界50カ国以上で販売。2016年にはフル可動式ドミネーターを発売するなどその業務範囲を広げている。

「PSYCHO-PASS」のドミネーターを本当に商品化!ネタで作っただろうと各所から突っ込み。売れ行きは?

PSYCHO-PASS サイコパス DOMINATOR SPECIAL EDITION
ドミネーターは無線LANでスマートフォンと接続。アニメ登場時と同様に自動変形が可能。音声再生機能、LED、タッチセンサー搭載。

――岩佐さんは「本当に自分が作りたいものを作っている方」というイメージがありますが、実際のところはどうでしょう。経営者として、作りたいものではなく「売れるもの」を作らなくてはという苦しみもあるのでは、と思うのですが。

いやいや、僕としては作りたいものばかり作っているという感覚は無いですよ。

例えば、Cerevoではアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場するドミネーターを商品化して販売しているんですけど「あれは完全に趣味で作っただろう。やたらバリエーションもあるし!」と色んな人から突っ込まれるんです。

でも、ドミネーターはCerevoの商品の中でも非常に大きな売り上げをたたき出してる商品の1つです!けっして趣味で作ったわけじゃない(笑)

岩佐さん
Consumer Electorinics(家電)をREVOlution(革新)するという志の下、2008年に創業したCerevo。来年、同社は創業10周年を迎えます。

――ドミネーターって、そんなに沢山売れているんですね!

おかげさまで、うちの商品としてはかなり売れてます。

正直に言って、いまは「どの商品が売れるか」なんてことは作って売ってみないと分からない時代ですよ。どのメーカーの人も、きっと同じことを思ってるはずです。

もちろん、ベタベタの鉄板商品は売れます。大手メーカーが新しいテレビを現行価格の半値で出したら、それは間違いなく売れますよね。

でも「現行価格の半値のテレビ」くらい確実に売れる商品というのはそうそう無いですし、そもそも新しいテレビを半額で販売することは難しい。

こういった事情は、おそらく家電でもメディアでも同じですよね。うちでもハードウェアに関する新しいメディア「カデーニャ」を立ち上げましたが、どの記事が広く読まれるかなんて分かってないです。

――ただメディアと比較してハードウェアは非常にコストがかかります。経営者としてその課題を、岩佐さんはどのように解消しているのでしょう。

うちは「とりあえず実際にローンチしてみて、お客さんからどれくらい反応が返ってくるかを見る」ということが少なくないです。

プレローンチでデモ機を展示会に出したり予約を受け付けてみたりして、事前にお客さんの反響をチェックすることもあります。ただ、プレローンチすると商品発売時の驚きは小さくなるので、話題作りという点から考えると悩みどころです。

Cerevoの強みは、マーケティングではない。異色のものづくり哲学

――Cerevoで企画を練るときは、マーケティング分析を入念に重ねるというわけではないんですね。

あまりしないですよ。Cerevoはマーケティングではなく「普通に作ったら1億円かかるハードを、いかに5000万円で製造するか」というコスト抑制に強みを持っているので。

要は普通の企業であれば3億円用意して1回打席に立つところを、Cerevoでは3000万円で1回打席に立てるような体制を作り上げたんです。3000万円で1回打席に立てるなら、3億円あれば10回バッターボックスに立てるじゃないですか。

分析に時間をかけるよりは、まず打席で素振りをしてみるというのがうちの特徴です。他社から見れば不思議なメーカーだとは思いますけどね(笑)あんまりこういう作り方をしているメーカーは無いと思います。

CAMPFIRE史上最多の支援額を達成したBLEラジオ「Hint」成功の秘訣

Cerevo

――CerevoはCAMPFIRE史上最多の支援額を集める快挙を達成したBLEラジオ「Hint」を開発しています。Hintがこれほどまで多くの人に支持された理由は、何だったのでしょう?

ラジオというメディア自体が、僕の想像以上に盛り上がっていました。皆、とても熱心にラジオを聴いてますね!

よっぴー(吉田尚記)さんという、現代のラジオ文化を象徴する方と一緒に企画を進められたことも、本当に大きかったです。コンテンツの発信サイドの方がハードウェアの製造から深く企画に関わるなんて、そうそう無いことなんです。

よっぴーさんは常に「ラジオをより良いものにする方法」を、ハードとコンテンツの両面から考え抜いている人なんですよ。彼の熱意は刺激になりましたし、様々なメディアでの積極的な発信がプロジェクトの支えになりました。

CAMPFIREでプロジェクトに出資をする人って、まだまだ多くは無いと思います。クラウドファンディング自体が、その物珍しさから未だに週刊誌でネタにされるレベルですからね(笑)

そういう意味で、ラジオの熱心なリスナーさんが今回のプロジェクトにも興味を持ってくれたというのは本当に嬉しいです。

Cerevoはパティシエ「材料だけがあっても、良いケーキは作れない」

――Cerevoには「Hint」のほか、4回線のSIM切り替えを行う「SIM CHANGER ⊿(デルタ)」やスマート・ヨーヨー「7-Magic」などBluetooth技術を採用した商品が幾つかあります。Bluetoothに大きな可能性を見出しているのかな、という印象を受けるのですがいかがでしょう?

僕、あまりBluetoothに興味が無い方なんですけどね(笑)ぶっちゃけ単体としてのBluetooth技術はどうでも良くて、関心を持っているのは通信です。

うちの製品はBluetooth、Wi-Fi、920MHz帯無線のいずれかの形で通信技術を搭載しているケースがほとんどでして。

絶対にBluetoothを使いたいというように技術や規格ありきで企画を進めることは無いです。「こういうことを実現したいから、そのためにはこの通信方式を採用するのが一番だよね」という考え方をしています。

Bluetoothは消費電力が小さいのが最大の美点で、小さなデータをゆっくり送信することに長けているんです。物理的に小さい点も魅力ですね。

一方でWi-Fiは消費電力が増え、物理的なサイズも大きくなりますが、高速に大量のデータを送れます。

――商品企画に合わせ、最適な通信方式を選ぶのですね。

うちの会社の役割は、パティシエなんです。

世界で一番おいしいイチゴを作ることに命を懸けている農家の方は、他に存在します。世界で一番おいしいチョコレートを作ることに命を懸ける職人さんも他に居ます。そういう仕事をしている方が他に居るなら、その役割は任せてしまうのが一番です。

うちはパティシエとして技術を組み合わせ、おいしいケーキを作ります。

東京で一番おいしいケーキ屋さんが使っているのと同じ原材料を素人が仕入れたところで、分量が間違っていたり、調理手順や飾りつけが微妙だったらおいしいケーキにはなりませんよね。材料だけがあっても、良いケーキは作れない。

ハードウェアも、それと同じですね。

Cerevo
Cerevoのオフィスのデスクには「寄生獣」のミギーなど、ポップなキャラクターやアイテムが至る所に置かれています

世界60か国に商品を輸出。海外担当の社員はわずか3人!どのように販売網を広げたのか

――Cerevoの商品は、世界60か国に輸出されています。販売網はどのように広げていったのでしょう?

海外販売の肝は、商品企画です。

Cerevoは海外の展示会によく出展しているんですけど、その場にどれだけエッジの立った商品を出せるかが勝負で。しょうもない商品なんて出しても、誰も相手にしてくれないですからね。

誰も作っていないような、それでいて思わずメディアが取り上げたくなるような商品企画を考えないと意味が無いんですよ。メディアが取り上げやすいフックを、事前に色々作っておくことが、商品をプッシュしてもらうために必要です。

加えて、英語圏や中国語圏といった非日本語圏のメディア向けのフックも色々と用意しておきます。

すると、非日本語圏のメディアをウォッチしている海外のディストリビューターや販売代理店から問い合わせが寄せられるようになるんです。「僕たちウクライナで映像機器を販売している代理店なんだけど、君たちと代理店契約を結ばせてくれないか」といった具合に。

展示会などでメディアの注目を一気に集め、問い合わせを待つという一連の手法をうちでは「受け身の営業」と呼んでます。受け身というのは全く悪い意味ではなく、少ない営業人員を効率的に使うための戦略の1つです。

実際、うちの会社には海外担当の社員は3人しか居ないんですよ。60か国と販売代理店契約を結ぶのは、普通に3人で営業していたら不可能ですよ(笑)

――海外でも受け入れられる商品企画の秘訣とは何でしょう?

グローバル市場は、いま非常にフラットです。日本で流行ったものは、ある程度海外でも流行ります。

その上であえて言えば、普遍的なものを作ることが大事だと思います。

例えば、毛皮のコートって「寒いこと」に対するソリューションですよね。でも、よくよく考えたら暑い地域の人には毛皮のコートは不要じゃないですか。

寒い地域と暑い地域が地球上に半々存在しているとしたら、毛皮のコートは企画段階で地球の人口の半分を切り捨てているわけです。それって、真の意味でグローバルなものとは言えないですよね。

真にグローバルなものを作るには「ニッチだけれど、特定の国や性別に依存せずに世界中の人が共通で使うもの」という視点が必要だと、僕は考えています。

他社が目をつけていない、ある特定のニッチ市場をしっかりと押さえることができれば「その製品を作っている会社は、世界中でCerevoだけ」という状況を作り出せます。すると、商品はおのずと売れていきます。

今後、要注目の技術「サイバネティクス」の可能性

Cerevo

――いま注目している分野はありますか?

音声認識は、この1年の間に日本で爆発的に普及するでしょうね。1年後には、国内でも当たり前の技術と見なされるようになっているはずです。

それに付随し、注目しているのは自然言語処理などによるヒトの感情の推定です。AIは大変古い分野で、2000年前後にも1度ブームになりました。

が、その時には「未来が無い」と多くの企業・エンジニアが手を引いたんです。そうしたピンチを切り抜けた会社が頑張り続けた結果、またAIブームが到来したのがいまです。ある種のロストテクノロジーが再度見直されたという状況は、興味深いですよ。

また個人的には医療技術を学んでみたいです。

――医療ですか!医療分野と、IT技術やハードウェアにはどういう関係があるのでしょう。

より正確に言うなら、サイバネティックスに興味があるんです。

Cerevo
サイバネティックスとはアメリカの学者・ウィーナーによって提唱された学問。生物と機械における通信・制御・情報処理などについて、両者を区別することなく扱うことが特徴。ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)

僕には人間の身体をより高性能なものにしたいという思いがあって、社内でもよく「人体にもう1本、手が増えたら便利じゃない?」というような話をよくします。

例えば、僕は眼鏡は究極の人体改造の一種だと思っています。もし眼鏡が無かったら、視力は0.1以下という人ってごろごろいますよね。眼鏡が無くてはちょっと先の道路標識も、目の前の人の顔も見えないという人もいます。

眼鏡が存在しない世界では、道路標識が見えないくらい視力が悪い人は身体障碍者と見なされる可能性すらあると思います。車も運転できないし、対人コミュニケーションも円滑にできない。自分の手元にあるものが何なのかさえ、よく分からないのですから。

そういう人でも、レンズが2枚あれば視力を10倍から20倍にできるわけです。これってとんでもないことですよね。

人体を高機能にするという意味での人体改造は、眼鏡の例のように実は歴史が長く、これからも発展していく可能性が高いと思います。

――テクノロジーを活用して、スポーツを再発明する「超人スポーツ」ではウェアラブルデバイスやAR技術を活用したスポーツの研究と実践が進んでいますね。テクノロジーを人間の身体能力の向上にどのように活かせるかは、今後も議論の対象となりそうです。

ウェアラブルデバイスとARで実現する超人スポーツ「HADO」

そうですね。今後もサイバネティックス分野に将来的に社として進出できるかどうか、積極的な検討を続けていきたいです。

もしかしたら、そう遠くないうちに「3本目の腕ってカッコいいよね!」という未来が来るかもしれないですしね。

――岩佐さん、ありがとうございました!

※2017年11月時点での取材インタビューです。
※こちらの記事は、『TECH::NOTE』コンテンツから転載をしております。
>>元記事はこちら

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