キャリア Vol.785

「エンジニア不要」の時代をどう生き抜くか? 『AI化する銀行』著者が示す道筋

AIやロボティクスの急速な進化によって、大失業時代の到来が危惧されている。では今後これらのテクノロジーの作り手であり、担い手でもあるエンジニアの立場はどうなるのか? 「標準的な技術力しか持たないエンジニアの“退場”は避けがたい」と指摘するのは、金融業界へ各種AIシステムを提供しているオメガ・パートナーズ代表の長谷川貴博さんだ。

長谷川さんに、今後エンジニアが直面するであろう厳しい現実と、この現実に抗えるエンジニアの条件を聞いた。

株式会社オメガ・パートナーズ
代表取締役社長 長谷川 貴博さん
東北大学大学院 理学研究科 数学専攻修了。京都大学MBA(金融工学コース)修了。 大学院修了後、富士通に入社。金融系SEとして、銀行勘定系システム開発プロジェクトや証券取引システム開発プロジェクトなどに参画。みずほフィナンシャルグループに転籍後は、クオンツ・アナリストおよびクオンツ・ディベロッパーとして、プライシングシステム開発、リスク管理システムの開発、仕組債プライシングEUCの開発、および海外プライシングパッケージの導入支援などに従事。その後、金融システムベンチャーのSound-F(現、Sound-FinTech)に移り、金融工学ビジネス部門の事業責任者などの要職を歴任。2015年、オメガ・パートナーズを創業し現職。著書に『AI化する銀行』(幻冬舎)

普通のエンジニアが直面する「暗い」未来

「これから開発業務の大半は自動化されます。すでに私どもが開発しているAIソフトウェアでは、データを集め、Pythonでわずかなコードさえ書きさえすれば、効率的に予測モデルを作れるまでになりました。当社でも確実にエンジニアがコードを書く時間は減っています」

コーディング時間の短縮に貢献しているのが、優れたクラウドサービスの登場だ。長谷川さんが代表を務める金融系AIシステムベンチャーのオメガ・パートナーズでは、AmazonやMicrosoftなど大手クラウドサービスプロバイダーが提供しているMLaaS(Machine Learning as a Service)を活用することによって、大量データを効率的に処理する必要があり、かつ精度の高い予測モデルを必要とするAIソフトウェアの開発効率が格段に向上しているという。しかし、話は「効率化」レベルの話では終わらない。

「この先にあるのは、データを投げ込みさえすれば、一行もコードを書かずに予測モデルをつくれる時代です。無論、これはAIや金融システムの開発だけに留まる話ではありません。今後、誰もがコーディングをせずに必要な機能を手にすることができるようになれば、エンジニアの存在意義が薄れるのは必然と言えます」

株式会社オメガ・パートナーズ <br />代表取締役社長 長谷川 貴博さん

テクノロジーの「民主化」により、コーディング技術を持たない人でも容易にシステム開発ができるようになれば、新たなビジネスが生まれる可能性が高まる。だがそれは、事実上エンジニアの独占業務だったコーディングという「既得権益」がなくなることをも意味する。

「その上、今後は銀行の勘定系システムに代表される重厚長大なシステム開発の現場においても、従来のウォーターフォール型開発モデルから機動性が高いアジャイル型開発モデルへ移行が進みます。これはある意味でエンジニアの少数精鋭化が進むということでもある。いずれにしても、ごく標準的な技術力しか持たないエンジニアにとって厳しい時代になるのは間違ありません」

エンジニアにとって最強のライバルは「ユーザー企業」にいる

株式会社オメガ・パートナーズ <br />代表取締役社長 長谷川 貴博さん

今後、全ての業種があまねくIT化されていけば、“IT企業”という言葉に特別な意味がなくなる。同じように、誰もが自由にシステムを利用・開発できるようになれば、ビジネスサイドとエンジニアサイドといった区分けも無意味になり、受注側、発注側という線引きさえも曖昧になっていくだろうと長谷川さんは言う。

「今多くのエンジニアは、仕事上のライバルを同業のエンジニアだと思っているでしょうが、今後は違います。エンジニアにとってのライバルは、自社の企画部門やサービス部門にいる人々であり、これまで発注者として付き合いのあった人々です。特にユーザー企業の人々は今後エンジニアにとって“最強のライバル”となるでしょう。なぜなら彼らは自社のビジネスを誰よりも熟知している存在だからです」

長谷川さん自身、かつて富士通の金融系SEとして銀行勘定系システム開発プロジェクトなどに携わった後、ユーザー側のみずほフィナンシャルグループに転籍した経験がある。エンジニアがユーザーのビジネスを深いレベルで理解することの難しさはよく心得ている。

「どんな企業にも固有の業務プロセスや特有の課題が存在しています。そういう部分にこそビジネスのコアとなる要素が隠れている。それは仕様書に基づいてコードを書くだけのエンジニアには見ることができない世界です」

ただ自社の業務とはいえ、複雑に入り組んだプロセスを切り分け、課題を明らかにすることはユーザー企業自身にとっても容易ではない。だが内部に優秀な人材がいれば、自ら進化するクラウドサービスを組み合わせることによって解決できることが増えていくのも確かだ。

「つまり、今エンジニアと呼ばれている人たちは、こうした人々の能力を上回らないと誰からも選ばれなくなるということです。エンジニアである以上、技術で勝負したいと思うのは自然なこと。ですが、コードさえ書ければいい、業務知識は専門外という意識がどこかにあるなら、そうした考えは早々に捨てるべきだと思います」

技術一辺倒では生き残れない。これからのエンジニア生存戦略

では、エンジニアはこれからどのような生存戦略をとるべきなのか。長谷川さんは次の4つのポイントを挙げる。

<長谷川さんが掲げる大失業時代を生き抜くエンジニアの条件>
・クラウドサービスの動向・現況・性能を熟知している
・顧客もしくは自社のビジネスモデル・プロセスに強い興味・理解がある
・ビジネスのコアとなる特定業務に深い知見がある
・自動化しがたい業務ロジックをコードに落とす技術がある

「まずはクラウドサービスを使いこなすことで何が実現できるのかを知るためには、使ってみることが第一です。それと同時に顧客もしくは自社のビジネスに強い関心を持って研究し、企業のコアとなる特定業務に強みを持つことも重要でしょう。今後、生き残れるエンジニアというのは、ビジネスとITの両面から課題にアプローチし、解決策を提示できるBA(Business Analyst)的な人物だと思います。あえて言うなら、優れたコーディング能力を備え、かつビジネス的な意味での結果を重視するタイプの人ではないでしょうか」

その上で、高度な業務知識が問われる反面、汎用性が乏しいコア業務を理解し、ロジックをコードに落とせる技術力があるなら、今後も優遇されるはずだと長谷川さんは語る。

「金融領域で言えば、ニッチな金融知識と高度な数学知識が要求されるデリバティブのプライシングシステムなどが該当します。ここまでコアな領域にまで踏み込めれば、マスを対象としたクラウドサービスに仕事を奪われる心配は少ないですし、ユーザー企業の側にもライバルは多くありません。こうした能力を持った人物なら今後も十分活躍できるはずです」

株式会社オメガ・パートナーズ <br />代表取締役社長 長谷川 貴博さん

だが、こうした能力や経験を積むのは容易ではない。どうすればいいのだろうか。

「業務知識を蓄えつつ技術力を有効に発揮するなら、ユーザー企業内に相当するポジションを見つけて入るのが近道ですが、チャンスはあまり多くありません。しかし今後ユーザー企業が開発会社を買収するケースや、当社のようにコア業務に特化した開発会社が増えていく可能性は増していきます。そうした場を選んで経験を積むのはお勧めです」

これから起こる生存競争は、限られた椅子を奪い合う椅子取りゲームに似ている。しかもプレイヤーの数は続々と増えており、向上心や能力が乏しいエンジニアのための椅子はない。

「AIは人々を淘汰するばかりではなく、新たな機会を生み出します。意思と能力ある者にはチャンスが増える時代です。ですからエンジニアの皆さんは、現状に甘んじることなく、より高度で難しい課題に挑戦し、市場から求められるスキルを身に付けてください。そうすればきっとこれからも活躍し続けられるでしょう」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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