Techトレンド Vol.849

テクノロジーで政治家が動いた――Webサービス『issues』がリリース8カ月で「使用済み紙おむつの持ち帰り廃止」を実現できたワケ

保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名ブログを覚えているだろうか?

世の中はいつも“困りごと”で溢れている。しかし、いくら愚痴をこぼしたところで、“変えてくれる誰か”のもとにその声が届き、適切に動いてもらえなければ、社会の仕組みは変わらない。

では、ある日突然、自分が困りごとの当事者になったとしたら……?

そのときに地元の政治家に直接メッセージを送ることができる仕組みがあれば、人々と政治家が困ったことを話し合い、課題解決へとつなげていけるかもしれない。

それをテクノロジーの力で形にしたWebサービスが、『実現につなげる政策アンケートissues』。政治家と地域住民が手を組み、困りごとを解決する政策を実現する仕組みだ。

2018年8月にissuesの前身となるプロトタイプとして、東京・武蔵野市で「保育園における使用済み紙おむつの持ち帰り廃止」を要望するキャンペーンサイトが立ち上がった。この要望は、市長の強いリーダーシップや、以前から取り組んでいた市議の努力もあり、2019年4月から実際に実現することになったという。

参考:武蔵野市の保育園おむつ持ち帰り問題についての #LobiLobi キャンペーンの結果報告とお礼

“政治家を動かす” という難題に挑む『issues』誕生までの経緯や開発時のこだわりを、UX設計やフロントエンドの開発を担当する代表の廣田達宣さんに聞いた。

株式会社LobiLobi 代表取締役 
廣田達宣さん
(@TatsunoriHirota)
1988年生まれ。2013年慶應義塾大学経済学部卒業。在学中の12年5月に株式会社マナボ(現:SATT AI ラボ株式会社)を共同創業。『スマホ家庭教師manabo』の立ち上げに5年間従事(同社は駿台予備校グループに売却)。結婚を機に、保育問題へ関心を持ち17年3月からフローレンスへ入社。文京区と「こども宅食」事業を立ち上げ、また半年間にわたり保育士としての勤務を経験。翌年3月に退職。18年8月に「実現につなげる政策アンケートissues」を運営する株式会社LobiLobiを設立

きっかけは、奥さんへのプロポーズ

政策実現プラットフォーム『issues』は、さまざまな政策についてユーザーの賛否を募り、その声を地元の政治家に届けるWebサービスだ。その内容は「小学校の欠席届をオンライン化すべきか」「子どもの虐待予防のため、行政が全未就学児と面談すべきか」など多岐にわたる。

以前は中高生向けの教育アプリを提供するスタートアップを経営していた廣田さんの転機となったのは、妻へのプロポーズを決意した時のこと。2016年に話題となった、『保育園落ちた日本死ね!!!』(※)の匿名ブログを見て、他人事とは思えないと感じたのだそう。

(※)『保育園落ちた日本死ね!!!』…2016年に書かれた匿名ブログ。子どもが保育園に入れず職場復帰できなかった女性が日本社会に対する不満を吐露し、話題になった

「結婚して子供が出来たら、二人とも子育てと仕事をなんとか両立していきたい。プロポーズ前からそう妻と話していたんです。そんなタイミングで『保育園落ちた日本死ね!!!』を読み、待機児童をはじめ子育て支援の領域には課題がたくさんあることを知りました。なんとかしなくちゃ僕たち夫婦が幸せに生きていくのは難しいぞと思うようになったんです」

そこで、結婚式の翌月に自身が共同創業したスタートアップを退職し、子育て支援を行うNPO法人フローレンスに入社。フローレンスで1年間を過ごして気付いたのは、「子育ての困りごとを解決したいなら、政策を変えるのが一番インパクトが大きい」ということだった。また、この時にロビイング(民間からの政策提言)の現場を経験したこともあり、それが、市民の声が直接政治家に届く『issues』の構想へとつながっている。

廣田さんが18年8月に『issues』の前身となるプロトタイプをリリースすると、フローレンス代表の駒崎弘樹さんも、「これこそ、市民のための地上戦ポリテック」と感嘆の声をブログに掲載。本格リリースを期待する声が、SNSなどでも多数寄せられた。

>>参考:【悲報】部下が退職した後にすごいWEBサービスを始めてしまった件について

廣田さんは、『issues』により、「普通の人」の声を政策に反映する仕組みをつくることを目指していると話す。

「オンラインで署名を集めるサイトはありますが、それを使いこなして政策を実現できる人は限られています。なぜなら、発起人が適切な相手に署名を届け、そして実現するまで適切に働きかけ続けないといけないからです。確かに、フローレンスの駒崎さんならそれが出来るかもしれない。でも「普通の人」には難しいですよね。その部分をテクノロジーの力で解決しようと考えました」

しかし、意見を届けたところで、政治家が実際に動いてくれるかどうかは別問題なのではないか。そんな疑問をぶつけたところ、廣田さんは「政治家の方々に動いて頂くにはちょっとしたコツがある」と答えた。

「『issues』を使うユーザーさんには、名前・郵便番号・職業・支持政党など、詳しいプロフィールを登録してもらうようにしています。その情報をもとに、地元の政治家の方々から “実現に向けた進捗状況の報告” が送られてくる。これにより、“自分が望む政策を実現しようとしてくれている政治家の頑張りが可視化される”という状況を作れるんです」

地域のためにアクションを起こした政治家が一目瞭然というカタチになれば、地域住民は次回の選挙でもその政治家に期待をかける。そして、実際に “行動を起こす人” が当選し、地域はますます良くなっていく。そんなサイクルづくりに繋がるところも『issues』の特徴だ。

「自分の直感は信じない」幾度となく繰り返した仮説検証

 
さらに、廣田さんが『issues』の開発でこだわったのは、「一人よがりなサービスづくりはしない」ということだ。そのために、幾度となく仮説検証を繰り返した。

「頭の中で考えた企画・機能が、いきなりユーザーニーズにド刺さりするということはまずありえません。ですが一度コードを書いてしまうと、実装したものに愛着が湧いてニーズがなくても捨てられなくなり、技術的・デザイン的な負債も溜まっていく。だからこそ、“仮説検証を大量に繰り返すこと” を徹底しています」

実際に廣田さんは、実装に着手する前に徹底的にヒアリングによる仮説検証を行った。これまでに、80人以上の一般有権者・30人以上の政治家・20人以上のロビイスト(民間から政策提言を行う人たち)・10人以上の行政職員に会って話を聞いてきたという。また他にも、政策提言のコンサルティングを提供して4つの自治体への働きかけを自ら実践したり、10人以上の政治家の選挙活動の現場で汗水たらしてボランティアすることを通じて、当初の仮説を検証・修正していった。

また実装についても、廣田さんは2週間で10名の被験者にユーザーテストを行い、プロトタイプを操作してもらった。その様子を動画に撮影してオフィスに戻り、その日のうちに被験者が躓いたポイントを洗い出し、CTOと共に修正。それを、翌日のユーザーテストに反映するという作業を毎日続けた。

「これらの取り組みは、以前経営していたスタートアップのメンターをしていただいていたTHE GUILD代表の深津貴之さんと、Bloom&Co.代表の彌野泰弘さんの教えがすごく影響しています。二人とも事あるごとに『ユーザー10人にヒアリングしに行こう!』とか『実装せずに紙のプロトタイプを100個つくろう!』って言うんです。当時は大変でしたが、お陰で今はそのやり方が染み付いています」

ユーザー視点を元に、大量の仮説検証を繰り返したことも、『issues』が試験リリース直後から実績を上げることができた要因の一つだろう。

エンジニアの書く一行が、目の前の誰かを確実に救う

これから本格的に展開していく『issues』だが、ロビイング×テクノロジーで世の中を変えていくには、まだ大きな課題があるという。

「政治・ロビイングの領域は、テクノロジー未踏の地なんです。政治関連の産業には6兆円近くの巨大なマーケットがあるのに、全くといっていいほどITの恩恵を受けていません。そこに乗り込んでいくのは楽しくもあり、大きなチャレンジだと思います」

そのためにはポリテック領域のプレイヤー同士が手を組み、政策とエンジニアリングの両方を理解している人材を増やしていく必要がある。

また、ポリテック領域でプロダクトを手掛ける一番の喜びは、「自分の書いたコードが、困った誰かの役に立つ」ことだと廣田さんは言う。

「以前、ある自治体で “障害のある息子が市の方針により保育園を退園になりそう” と仰っていた親御さん(詳細はこちら)のロビイングをお手伝いさせていただいた事があります。そのままだと、息子さんは健常児のお友達と一緒に育つインクルーシブ保育の環境を失い、親御さんは仕事を諦めなければならないところでした。しかし、親御さん達の粘り強い取り組みの結果、市の当初の方針を覆返し、継続して保育園に通えるようになったんです。要望が実現したという一報を聞いた時、叫び出したいくらい嬉しかったです。多くのエンジニアにも、こういうしびれる経験を味わってほしいなと思います」

取材・文/石川 香苗子 撮影/君和田 郁弥(編集部)

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