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note・CXO深津貴之はなぜ華麗なキャリアチェンジを続けられるのか? 技術トレンドと一緒に“廃れない”エンジニアの条件

働き方

    時代の変化の中、技術革新は続き、そのトレンドもどんどん変化している。2017年には「Flashが2020年で終了する」というニュースが流れ、各方面に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。エンジニアのキャリアにおいて、「いかに世の流れを読み、移り変わる技術をモノにしていくか」は重要なポイントと言えるだろう。

    そんな中、“華麗なキャリアチェンジ”をした良い例として、BASEのえふしんさんは『エンジニアtype』の取材で、株式会社THE GUILD代表であり、『note』などのサービスを運営する株式会社ピースオブケイクのCXOを務めている深津貴之さんの名前を挙げた。

    >>「マークアップエンジニア不要論」は本当か? えふしんさんに聞いてみた【エンジニア転職ウワサの真相】

    そこで、Flashクリエイターからスマホアプリ開発、UIデザイナーを経て、現在はUXデザイナーとして活躍する深津さんに、「エンジニアのキャリアチェンジに必要な視点」を聞いてみた。

    株式会社THE

    株式会社THE GUILD代表/株式会社ピースオブケイク CXO
    深津貴之さん

    大学で都市情報デザインを学んだ後、ロンドンの芸術大学、セントラル・セント・マーチンズに留学し、2年間プロダクトデザインを学ぶ。2005年に帰国し、株式会社thaに入社。2009年に株式会社Art & Mobileを設立し、独立。以降は、活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、2013年THE GUILDを設立。17年、株式会社ピースオブケイクのCXO(Chief eXperience Officer)に就任。
    Twitter:@fladdict

    生き残れているのは結果論。興味のままに動いてきただけ

    僕自身はこれまで、特にキャリアチェンジを意識したことはありません。自分の興味ややれることの範囲で動いていくうちに、結果的にうまいこと変化できたっていうだけなんです。

    そもそもの最初は大学のゼミで、「テクノロジーで人の生活や文化がどう変わるのか」を学びつつ、個人的にプログラミングをやっていました。その後、モノのインターフェイスの概念に興味が湧いて、ロンドンに留学してプロダクトデザインを学び、ITとは全く関係ないところで椅子を作っていました(笑)

    日本に向けて、Flashなどのテクノロジーの最新情報の発信を始めたのはこのころです。同じようなことをしている人は少なかったので、プレゼンスは上がり、人とのつながりも広がっていきました。帰国後にthaに入社したのも、ブログを介して声を掛けてもらったことがきっかけです。

    そうしてFlashクリエイターとして仕事を始めた約3年後、iPhoneが登場しました。プロダクトデザインと、Flashのようなインタラクションやアニメーションのキャッチーさ、そしてテクノロジーが交錯している状態が面白かったんですよ。「今後の生活がどう変わっていくのか」に興味を持って、カメラアプリを開発しました。

    アプリのUI設計に興味を持ったのは、「総合格闘技的に自分のスキルセットが全部使える場所だ」と感じたから。当時のエンジニアはテクノロジーだけで勝負をしていましたが、僕は仕事で広告キャンペーンのコンテンツ制作などを経験する中、「キャッチーな見せ方で商品が売れる」とか「リピーターになる設計やバズらせる設計をすると良さそうだ」といった、時代に先行した元ネタを持っていたわけです。結果的に、カメラアプリは150万本も売れる大ヒットとなりました。

    株式会社THE GUILD代表/株式会社ピースオブケイク CXO 深津貴之さん

    この後フリーランスを経て、フリー同士で寄り合う組織『THE GUILD』を立ち上げましたが、設立の背景にあるのはフリーランス時代の課題意識です。フリーランスの立場では、サービスの根本の設計や思想、方向性に口を出すことが難しい。上流から携われるスキームをつくろうと考えた結果、「イケてるフリーランスの技術者を集約してスケールメリットを出そう」という発想が生まれました。

    やがて、「実装はしなくていいからアドバイザリーだけでも手伝ってほしい」という案件がくるようになり、UI設計やUXデザインをやったり、スタートアップをお手伝いしたりといった、現在の活動につながっています。

    繰り返しになりますが、僕は狙ってキャリアチェンジをしてきたわけではありません。生き残れているのはあくまでも結果論。そういう前提ではありますが、時代の変化に沿ったキャリアチェンジのポイントは2つあると思っています。

    ポイント1. 言語を極めるのではなく、抽象的で応用できるスキルセットを得る

    キャリアチェンジについて悩むエンジニアは、「テクノロジートレンドに依存したスキルセットを増やそう」という意識が強過ぎることが問題な気がします。トレンドに依存しないスキルを増やすという考えを持つとシンプルです。

    その上で、得るべきスキルセットを考えるとき、まずは「抽象的かつ応用できるもの」の優先順位を上げること。特定の言語に対する知識は、趣味や興味、常識の範囲内で十分です。個別の技術を極めようとする人もいますが、flashが使われなくなったことからも分かる通り、スキルの置き換えは可能ですから。

    株式会社THE GUILD代表/株式会社ピースオブケイク CXO 深津貴之さん

    僕は学生向けの講義で、「明日、農家に転身しても役立つことからやるといい」という話をしています。例えば、「物事をいかに抽象化してモデル化するか」「複雑になり過ぎた設計をどうスリムにするか」を考えられる力を生かせる領域は、システム設計やプログラミングに限りません。他の仕事でも役立ちますから、極端な話、エンジニアという職種がなくなったとしても生きていける。

    個別の事象を“個”として見ていると、人生の難易度は上がる気がします。抽象性を上げる視点を持てば、関係がなさそうに見える物事にも共通点はあるもの。僕はプログラミングと工作が好きな子どもでしたが、どちらも「考えたことが技術を通じて形になる」という意味では同じです。料理や音楽、写真、最近では板金も趣味でやっていますが、僕にとって根底にあるものは全て同じなんです。

    そう考えていけば、そこで得たノウハウは仕事にもフィードバックできるし、複数の領域を横断し、掛け算できれば希少性は上がります。1万人に1人のエンジニアになるのは難易度が高いけれど、「10人に1人」なら不可能じゃない。その上で、音楽についても10人に1人という存在になれば、100人に1人しかいない「音楽ができるエンジニア」になれます。加えてゲームの実装が10人に1人のレベルでできたなら、「ゲームと音楽をインタラクションにプログラミングできる」という1000人に1人のエンジニアになれますし、さらに10人に1人のディレクション能力を身につけたなら、「1万人に1人」の逸材になれるわけです。

    一つの領域を極めようとするのは大変ですが、2〜3つの分野で10人に1人の能力を持つだけで、極めて希少性の高い人材になれる。そう考えれば、人生はもっと楽になると思います。

    ポイント2.「予測できるもの」と「予測が無駄なもの」を切り分ける

    物事の行方を予測する時に、「予測できるもの」と「予測するだけ無駄なもの」があります。そこを見極め、予測できるものにヤマを張る、無駄なものは確率上の問題として処理するなど、切り分けることが重要です。

    例えば、「木の葉がどの座標にいつ落ちるか」を厳密に予測するのは無理ですが、「秋になれば木の葉は木の下に落ちる」という予測はできます。つまり、いつどこにザルをおけば、葉っぱがたくさん入るかは分かる。個々のテクノロジーも同様で、点として見れば選択肢が多過ぎて、先の予測は困難です。でも、「大きな流れがどこに向かっているのか」や「この選択肢には未来がない」ということは、ある程度判断できます。

    株式会社THE GUILD代表/株式会社ピースオブケイク CXO 深津貴之さん

    一つ例を挙げると、僕はサーバのセットアップや構築は、長い目で見れば自動化されると予測しています。すでにAmazonに要件を伝えれば設定してくれるわけで、大きな方向性で考えれば、そこに人生を賭けるのはリスキーだと判断できる。

    また、競合サービスやトレンドの行く先にも同じことが言えます。「『LINE Pay』と『PayPay』のどっちがキャッシュレス決済の分野で勝つか」よりも、「日本や世界の決済の流れはキャッシュレスに傾くのか」という大きなタームで見る方が、安定した打率的で予測ができるはずです。

    大雨の日に川の決壊場所を算出しなくても、高台にいれば安全です。もっと言えば、川に行かないだけで生存率は相当上がる。テクノロジーやトレンドの未来予想にも同じことが言えるのではないでしょうか。

    「エンジニア」という“個”から離れなければ、大局は見えない

    株式会社THE GUILD代表/株式会社ピースオブケイク CXO 深津貴之さん

    時代の変化に沿ったキャリアチェンジのポイントを2つ挙げましたが、結局はトライアルの回数を増やすことでしか打率は高まらないんだと思います。超大作のソフトを一発で作ろうとするより、毎日面白いコードを書いている人の方がヒットを出す打率は高いですよね。トライアルの回数が多ければ多いほど、平均化されてノイズや不確定要素が減り、予測もしやすくなる。自分自身の方向性や可能性も見えやすくなるでしょうし、こういう考え方ができること自体がバリューにもなります。

    僕自身、もともと仮説を立てて検証するのが好きなんです。大学生のころから、「テクノロジーで生活や文化がどう変わるか」に強い興味があって、「この技術はどう使われ、普及するのか」というテーマは、今でも最も興味があることの一つ。世の中の事象に対して、「この後はこうなるのでは?」と可能性を想定する、思考実験を常日頃からしています。

    何事も“個”に依った見方をすると、不確定要素が増え、ノイズはどんどん大きくなり、予測不能な世界に巻き込まれやすくなるものです。僕が結果的にうまいことキャリアチェンジができているのは、そもそもキャリアや職種に対する意識が希薄であることも大きいかもしれません。技術やサービス、エンジニアという職業も、全て“個”ですから、そこから離れて大きな流れを見ることが大切なのではないでしょうか。

    取材・文/上野真理子 構成・編集/天野夏海 撮影/竹井俊晴

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