エンジニアが磨くべきは「信頼される力」!? 次の10年で市場価値が高まる人・仕事を失う人、その違いとは?
最新の技術に精通していること。先端案件の経験が豊富なこと。そうしたハイスペックエンジニアこそが市場価値の高い人材だと信じられていた。だがこれからの転職市場は、スキルや実績だけではエンジニアの価値は測れない。むしろ重要なのは、「信頼」ではないだろうか。そう提唱するのが、副業・転職のリファラル採用プラットフォーム『YOUTRUST』を立ち上げた岩崎由夏さんと山田昌弘さんだ。
「10年後には今の『転職活動』という概念自体が大きく変わる」と予測する岩崎さん。世の中の仕組みや人々の価値観が急速に変わっていく中、エンジニアは自分自身をどのようにアップデートしていくべきなのだろうか。今後、市場価値が高まるエンジニア像と合わせて聞いた。
企業の採用担当が知りたいのは
技術力だけでなく、その人が信頼できるかどうか
新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、人事として数々の採用に携わってきた岩崎さん。当時から転職、採用のあり方には疑問を抱いていたと言う。
岩崎 「優秀なエンジニアほど引く手あまたで転職市場に出てくる前に転職先が決まっているのが現実。友達に誘われたとか、技術ブログやSNS経由で素敵な方を見つけて、その人がいる会社に入ったとか、優秀な方ほど意外と地道な方法で転職されるんですよね。私も採用担当をやっていたころは転職サイトや紹介会社の方に『優秀な人をなんとか紹介してほしい』と毎日連絡していたのですがあまり応募は集まらず……。毎日連絡してくるので先方からすると面倒なやつだったと思うのですが、今思うと優秀な方ほどいわゆる『転職市場』にはいなかったのかもしれないと気付きました」
一方で、岩崎さん自身が転職を検討した時も、ある違和感にぶち当たったという。
岩崎「当時、自分は一通りの経験を積ませてもらって、それなりに仕事ができる自信がありました。きっと今の自分を必要としてくれる会社はどこかにあるはずだと思う一方、今さら履歴書を作って書類選考からエントリーするのには違和感があって。できれば紙面から判断するのではなく、私のことを実際に知っている誰かに『うちで働かない?』って誘ってほしいと思っていました。その頃から信頼している一部の人にだけ転職意欲を伝えられるサービスがあったらいいのにと考えるようになったんです」
そこで立ち上げたのが、『YOUTRUST』だ。『YOUTRUST』では、採用担当がユーザーの副業意欲や転職意欲を確認することができるが、閲覧できる範囲は、自身の友人あるいは友人の友人までと限定されている。よく知らない第三者経由ではなく、信頼のおける友人を介することで互いにミスマッチを防げるのが特徴だ。
実際、岩崎さん自身も会社を立ち上げ、一緒に働くエンジニアを探した時、このサービスの実用性を再確認したのだそう。
岩崎「サービスをつくるにあたって20人ぐらいのエンジニアと会わせていただきました。でも、私自身がエンジニアではないので、彼らのスキルを正しく評価できなかったんです。そうしたときに、最終的には自分が直接知っている、もしくは共通の知人が優秀と言っている『信頼』できる人を探すしかありませんでした」
一般的な採用活動は、経歴書と面接とスキルテキストでそのエンジニアの技術力と人間性を審査し、採用するか否かを決めなければいけない。だが、限られた接触機会で会社の価値観やカルチャーにマッチしているかまで適正に判断するのは困難だ。
岩崎「最終的に声を掛けたのが、前職の同期である山田でした。一緒に働いてみたことはなかったものの、人柄が良いことは知っていましたし、社内での評判も聞いていて信頼できると感じていたんです。実際に副業で仕事を手伝ってもらったところ、いろいろなことが一気に進み『彼しかいない!』と思うようになりました。一律には数値化できない信頼も、『友人』からのリファレンスがあれば見えるようになる。それはまさに『YOUTRUST』の目指す世界。自分自身が実際にリファラル経由のエンジニア採用をしてみたことで、この方向で進んでいこうという確信が持てました」
優秀な人材とは、周囲に信頼される人。
信頼こそが誰にも盗まれない固有資産になる
山田さんがYOUTRUSTにジョインすることを決めたのも、いちエンジニアとして岩崎さんの考えに共感できたからだ。
山田「エンジニアってスキルの面ではいくらでもそれらしいことを履歴書に書けるし、面接でも話せます。でも実際に働くときって、技術はもちろんですが、仕事の丁寧さとか協調性とか、経歴書や面接では見えにくい部分がチームで開発する際には結構重要だったりするんですよね。そんなこともあって“優秀な人材”ってどういう人なんだろうとあれこれ考えていました。その矢先に読んだのが、岩崎が書いたブログです。優秀な人とは『周囲に信頼される人』と書いてあり、大いに共感しました」
岩崎さんは、そのブログで「信頼」とは「唯一誰にも盗まれないその人だけの固有の資産」だと綴っている。
岩崎「最近では信頼貯金という言葉もよく聞くようになりましたが、信頼はお金よりも価値のある財産だと思います。信頼はお金に換えられますが、お金が信頼に換わることはないですから」
今の20~30代はあらゆるコミュニティーで、ゆるやかな連帯を好む世代だと言われている。気の合う人同士で働く楽しさが求められている今、「信頼」こそがその人の市場価値を決定づける重要なステータスという考え方は、非常に納得感がある。
信頼転職時代に求められるのは、
全体最適を考えて動けるエンジニア
その一方で、この価値観の転換は、ある一部のエンジニアに重大な生存危機をもたらすリスクを孕んでいる。
岩崎「『好きな人を選んで働ける』と言うと聞こえは良いですが、その裏返しは『誰からも信頼されない人は誰とも働けない』ということ。信頼されている人は面白い機会に恵まれる一方、周囲から信頼されていない人には厳しい時代がいずれやってくるかもしれないということなんです」
確かに「信頼転職」が一般化すれば、スキルもそうだが、その他何かの強みをもって信頼されているエンジニアの市場価値は相対的に上がっていくということだ。その逆も然り。
では、そんな「信頼転職」時代に必要されるエンジニア像とは、どんなものなのか。
岩崎「チームで働く力を持っている人かもしれないですね。それは決して口が上手いとかではなく。むしろ、そういったうわべのコミュニケーションスキルは枝葉の話だと思います。もっと大事なのは、根っこの部分の人としての誠実さ。相手の気持ちを慮る想像力がある人や誠実に生きている人と一緒に働きたいと思う人が多いのではないでしょうか」
山田「プロダクトづくりはチームプレーだから、困っている人に対して率先して助け船を出せたりする人は信頼されますよね。レビューにしても頭ごなしに『ここがダメ』と指摘するんじゃなく、『こういう場合はこうしたらいいよ』と相手の成長を考えて助言できる人は信頼されると思います。チーム全体の最適化を考えて動けるエンジニアは、これからどんどん市場価値が上がっていくんじゃないでしょうか」
では逆に、「信頼転職」時代に仕事を失うエンジニアの共通項は何だろうか。
山田「先ほどの話の裏返しにはなりますが、自分のことしか考えていない人には厳しい時代になるかもしれません。例えば、レビューをお願いしても『俺は関係ないから』って自分の作業に閉じてしまう人は、たとえどんなに美しいコードが書けても、もう一度一緒に働きたいとは思われないかもしれないですね」
岩崎「また、インターネット業界は狭い世界です。不誠実な仕事を重ねてしまうと、本人の知らないところで情報共有がなされ、転職しづらくなってしまうことも。地道ですが、一つ一つ周囲から信頼を積み重ねていくことが、自身のキャリアを築く近道になるはずです」
シビアな話にも聞こえるが、逆に言えば誠意ある行いが報われるのが「信頼転職」時代の美点。耳が痛いなと思う人は、日頃の仕事ぶりを見直してみよう。フリーランスであっても、会社員であっても、“一緒に働きたい”と思ってもらえるエンジニアでいられるように。
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)
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