国籍も年齢もバラバラな開発チームをどうまとめる? 29歳、LINE最年少役員が貫く多国籍チームマネジメントのポリシー
2019年2月、LINE株式会社に新たに最年少役員が誕生した。二木祥平、29歳。株式会社リクルートを経て、2015年にLINEにジョインした二木さんは『LINE Beacon』の立ち上げや『LINE Messaging API』の公開を推進するなど、これまで多くのプロジェクトを率いてきた。
LINEの開発は拠点が複数の国にまたがり、国籍・カルチャーの異なる者同士でチームを組むことも少なくない。そんな多国籍チームで実績を上げ続けるために意識していることは何か。二木さん流ダイバーシティーマネジメントの極意を聞いた。
開発チームメンバーの“やる気スイッチ”はどこにある?
LINE最年少役員なんて肩書きが付くと、なんだか仰々しいですよね(笑)。でも、マネジメントについては僕もやりながら学んでいったというのが実際のところ。それこそ初めのうちは失敗もありました。
僕は新卒でリクルートに入社したのですが、1年目で80人月くらいの大規模開発のマネジメントを任されたことがあって。SIerの出してくれた見積り通りに予算やスケジュールを組んでみたものの、全然その通りにいかなかったんです。
そこで分かったのは、当たり前のことですが、手を動かすエンジニアは「人」なんだということ。「1人月足せば必ずこれだけ働きますよ」なんてシンプルな世界ではない。風邪で休むこともあれば、恋人とケンカして仕事に熱心になれないときだってある。モチベーション次第でパフォーマンスの質は激変するんです。だからこそ、プロジェクトマネジャー(PM)はちゃんと開発チームのメンバーがどういう人間なのかを把握しておく必要があると学びました。
仕事とは、人と人とでするもの。それは、今も変わらない僕の信条の一つです。それこそLINEに転職して、多国籍チームのマネジメントをするようになって、その考えはより強くなりました。
LINEではタイ、台湾、ベトナム、韓国といろんな国々のエンジニアと一緒に働きます。国も文化も異なる彼らと一緒に仕事をしてみて、相手がどんな人なのかを知ることの重要性を改めて実感しました。特に理解しておかなければいけないのは、 “モチベーションが上がるポイント”と“フリーゾーン”。何がきっかけとなってエンジニアのモチベーションが上がるかは、国ごとに全然違うと感じます。
例えば、前職で一緒に働いていたベトナム人のエンジニアは、肩書きが付くとモチベーションが上がる。給与はそこまで変わらなくても、「開発リーダー」という役職で仕事を任せると、一気にパフォーマンスが上がるケースがありました。“やる気スイッチ”がどこで入るのか見誤るとお互いが不幸。PMはフラットな目を持って相手に接し、理解することが必要です。
あとは、フリーゾーンの調節も大事です。エンジニアの中には仕様書がかっちりしていないと手を動かしたがらない人もいれば、細かいところは決めてほしくないという人もいます。僕が一緒に仕事をしたベトナムのエンジニアは、もともと請け負いのカルチャーが強いのもあって、完璧な仕様書を求めるタイプでした。一方、LINEのエンジニアはフリーゾーンが小さいとやる気が出ない人が多い。相手がどっちのタイプなのかは人それぞれなので、そこをきちんと抑えておくのもマネジメントの重要なポイントだと考えています。
「コンテキストの共有」こそが、ダイバーシティーチームを率いる秘訣
そして、多国籍チームをまとめて実績を出すために一番重要なのは、ちゃんとコンテキストを共有すること。これは人種や世代に限らず、多様な人材が集まる組織すべてに共通して言えることですが、皆の思考レベルが合っていることって、すごく大事です。
企画側の人間から、「これをやってほしい」っていうオーダーがエンジニアにいきなり降ってくることってよくありませんか?でも、「何でこれをやらなきゃいけないの?」って思うことも多いと思います。やらなきゃいけない理由が分からないタスクをこなすことほどモチベーションが下がることはないし、それが積み重なれば現場が疲弊するのも当たり前。
そうならないように、僕は出来る限り情報の非対称性をなくすことを心掛けてきました。たとえ案件化するか分からなくても、ビジネスや企画サイドで動きがあれば、「こんな話があったよ」ってリアルタイムで開発にも共有しておく。あとは月1で今後のロードマップを共有する場も設けるようにもしています。
そうやって現在と未来のことを五月雨に共有しておくと、自然とエンジニアの方から「次この案件やらなくていいんですか?」って声が上がってくるし、「そのためにやってるなら、こういう機能があった方がいいですよね?」って追加提案も出てくる。結果、手戻りも少なくなるから効率的なんです。
組織内のコミュニケーショントラブルって、大体が認識のズレなんですよね。企画サイドの人間が何を考えているのか、その背景がちゃんと共有されていないと、開発者目線ではどうしても急な思い付きに見えてしまう。
多様な人が所属する組織であればあるほど、細かい仕様書が合っているかより、まずは皆の目的が合っているかが第一。だから、ちゃんと目的をチーム全体に浸透させることは意識してやっていますし、マネジャーは現場の皆に“やっていただく”側だからこそ、動機付けは重要な仕事の一つだと考えています。
そして、「この人に言っても仕方ない」と現場から思われてしまったらマネジャーはおしまい。そうならないためにも、エンジニアから上がってきた声には早急に対応するようにしています。
すぐ解決できなくてもいいんです。まずは「動いてくれた」と感じてもらうことが大事。だからメンバーから「これ、何の意味があるんですか?」という話が出てきたら、その意義や目的が分かるときは個別に説明するし、僕も意味不明だなと思ったら、企画サイドにすぐ上げる。で、そのやりとりをキャプチャして、メンバーに「言っておいたよ」って報告するだけで、信用度が全然違ってくると思います。
チームづくりに画一的な方法は通用しない
おかげさまでLINEに入ってから刺激的なプロジェクトをいくつも経験させてもらいました。最近手掛けた中で特に大きかったのが、『LINE公式アカウント』のバックエンドをフルリニューアルするというプロジェクト。LINEでは異例の1年半にわたる長期プロジェクトで、QAだけで100人いるような大所帯だったんですけど。そこではもちろんコンテキストの共有をしっかりやりましたし、あとはスペックのフォーマットだったり報告の手順だったり、きちんとルールを整備することを意識しました。
多国籍の人たちと仕事をしていると、想定していなかったケースに見舞われることはしょっちゅうあります。それこそタイには「ソンクラーン」という旧正月のお祭りがあって、その期間はお休みしますとか。国王の事情で、公式アカウントのアイコンを急遽黒にして欲しいとか。日本の中だけで完結する仕事をしていたらハマることのない落とし穴にアタフタさせられることはよくあること。
でも、逆に言うと、国をまたいで働いているとスケールするんですよね。日本の中だけで仕事をしていたら、リソースも競合も日本だけ。でもグローバルな環境に身を置いていると、規模も視点も知見も広がる。リソースの制限もなくなるし、より大きなことができるチャンスが増えると思います。
それに、特殊なカルチャーの違いはあれど、そこを除けば日本人だけのチームで働くのも、多国籍チームで働くのも結局は同じ。一緒に仕事をしているのは人なんだから、画一的な方法で管理しようとするんじゃなく、一人一人の顔を見て、その人のクセに合わせるという点では何ら変わりません。オーソドックスだけど、それがダイバーシティーマネジメントの正攻法なんだと思います。
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
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