本連載では、外資系テクノロジー企業勤務/圓窓代表・澤円氏が、エンジニアとして“楽しい未来”を築いていくための秘訣をTech分野のニュースとともにお届けしていきます
“日本のAIブーム”への違和感――エンジニアは自分の胸に「そのAIは全人類に貢献するか」と問い掛けよ【連載:澤円】
圓窓代表
澤 円(@madoka510)
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手テクノロジー企業に転職、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。琉球大学客員教授。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。
著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界№1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『あたりまえを疑え。―自己実現できる働き方のヒントー』(セブン&アイ出版)※11月末発売予定
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皆さんこんにちは、澤です。
人工知能、AIが話題にならない日はありませんね。
明けても暮れてもAI。猫も杓子もAI。
とにかくAIが大ブームです。
今は、第三次AIブームと言われています。
総務省のレポートによると、第一次AIブームは1950年代後半~1960年代。冷戦下の米国では、自然言語処理による機械翻訳が特に注力されたそうです。
1980年代あたりから始まった第二次AIブームについては、下記のように総務省のレポートに記されています。
「知識」(コンピューターが推論するために必要な様々な情報を、コンピューターが認識できる形で記述したもの)を与えることで人工知能(AI)が実用可能な水準に達し、多数のエキスパートシステム(専門分野の知識を取り込んだ上で推論することで、その分野の専門家のように振る舞うプログラム)が生み出された。
(引用:総務省 28年版・情報通信白書「人工知能(AI)研究の歴史」)
しかし、両方ともコンピューターの処理能力やデータストアの容量、あるいは技術的成熟度などさまざまな「限界」が露呈すると同時に、ブームは終焉したようです。
今の第三次AIブームは、2000年代から始まりました。
クラウドによって安価かつスピーディーに莫大なコンピューターリソースを確保することができるようになったことで、多くの人たちが研究を進めることができるようになり、技術的にも過去とは比べ物にならないほどに進化を遂げています。
そして、大量のデータを元に機械自身が知識を獲得する「機械学習」と、その知識を定義する要素までも機械自身が習得する「ディープラーニング」が登場してきました。
このブームはまだまだ終焉の兆しもなく、その学習能力は日に日に向上しています。
「とりあえずAI使っとけ」状態になっていませんか?
さて、日本におけるAIの位置付けはどうなっているでしょうか。
「非常に重要なテクノロジー」として認識されているのは間違いなさそうですが、なんとなく「とりあえずなんでもAIと組み合わせてみよう」といった、なんとも雑な扱いをされているように感じます。
もちろん、AIが本当の意味で力を発揮できるような領域での活用も期待はされていますが、「それって特にAIじゃなくてもいいよね」という分野でも無理やり使おう、というような事例も散見されます。
これは、今までの新しいテクノロジーで何度も繰り返されてきたことです。ダウンサイジング、グループウェア、データマイニングなどなど。
私もかなり多くの「バズワード」とともに仕事をしてきましたが、テクノロジーを本来の目的のために使うことができている事例は、必ずしも多くないように感じています。
私は特に「グループウェア」については専門だった時代が長いのですが、本来の目的である「定型データ化されていない、社員の持つ知識や経験を蓄積して、会社のビジネスに生かす」というような利用のされ方は少なく、紙と印鑑によるワークフロー業務の置き換えにしかなっていない事例をたくさん見かけました。
あるいは「社内のさまざまなデータをささっと集めて、一覧性をもって表示できるようにするためにAIを活用したい」なんていう要望をお聞きしたりもするのですが、それはAIではなくてBI(Business Intelligence)だよな~なんていう、まるでコントのようなやり取りに出くわしたこともあります。
AIがバズワードになり過ぎてしまって、「なんでもできる」という過度の期待や、「乗り遅れるとまずい」といった焦りなどが見え隠れしているように感じます。
今のAIに分かること・分からないこと、その違いとは?
では、ビジネスにおけるAIというのは、どう捉えればよいのでしょうか。
この事を端的に教えてくれたのは、AIの専門家ではなく私の所属企業の経理部門の本部長でした。私の会社では、売り上げの予想をAIによって行おうという実験を数年前から行っています。
その結果として見えてきたのは、
・AIは過去の延長線上に未来があると考える
・AIは相関関係は分かるが、因果関係はすぐには分からない
という二つのポイントでした。
例え話として教えてもらったのは、以下の二つです。
・「暑いとビールがよく売れる」というのが相関関係
・「暑い日にビジネスマンは仕事の後にビールを飲みたくなる」というのが因果関係
前者の相関関係は数字さえ分かればAIはすぐに関係性を見つけることができます。しかし、後者の因果関係はAIがビアガーデンに行って「ぷはーっ、うめー!」という経験をしていないので知りようがないのです。
なので、因果関係については人間がAIに根気よく教えてあげる必要があります。
ただ、あらゆる物事の因果関係を教えることは現実的ではありませんし、物事の因果関係を紐づけるのは、人間の感性が物を言う領域ではないかとも思っています。
例えば最近、「ビジネスの世界でもアートの感覚が大事」という論調が盛んに叫ばれています。これについては、私自身も大賛成です。
アートというのは、無から何かを生み出す行為であり、物事に新たな定義付けをすることでもあります。アートを少しでもかじった人なら知らない人はいない、マルセル・デュシャンの「泉」という作品があります。
セラミック製の男性用小便器を横に倒しただけの作品なのですが、これを「アートとして扱う」という新しい思考をインストールしたわけです。当然これは世の中にスムーズに受け入れられたわけではなく、当時のアート会では議論が沸騰したそうです。
「こんなものはアートではない」と反発する人がたくさんいたのですが、今では完全に一つのアートとしての市民権を得ています。
まさにこれは「人間が新たに因果関係を生み出した」と私は解釈しています。このような因果関係を生み出していく、というのは人間に残された一つの聖なる領域ではないかと考えています。
機械に置き変わらない、3つの仕事
AIのブームとともに、「人間が仕事を奪われる確率」というのもよく話題になります。
シリコンバレーの友人に教わったある数字では、「経理担当者の仕事がなくなる確率は97.6%」となっていました。これはかなりショッキングな数字に見えます。
「数字を集めて計算するだけ」というタスクについては、AIの方が正確ですし処理スピードも速い でしょう。そうなると、確かに置き変わるという可能性は大いにあります。
ただし、「CFO=最高経理責任者」となると、その確率は6.9%にまで下がります。これは、肩書の話ではありません。
最終的な判断をしたり、方向性を示したりするような、リーダーシップを発揮する仕事はなくならないという意味になります。
シリコンバレーのデザイン会社、btraxのCEO ブランドン・ヒルさんに教えてもらった「機械に置き変わらない3つの仕事」を紹介します。
・クリエーティブであること
・リーダーシップを発揮すること
・起業家精神を持つこと
この3つに関する仕事は、決してなくならないという見解を共有してもらいました。本当にこれには共感しました。もちろん、異論はあると思いますが、「人類の希望も込めて」この3つは人間の仕事としてこれからも残していきたいですよね。
ちなみに、マイクロソフトが外部に開示している「AIの開発原則」には、下記の6つが挙げられています。
・「置き換え」でなく「拡張」
・透明性の確保
・多様性の維持
・プライバシーの保護
・説明責任の義務
・偏見の排除
AIはあくまでも人間をサポートする位置付けのものであり、かつブラックボックス化をさせてはならないものである、と明確に謳っています。また、誰か特定の人の利益に直結するようなものではなく、全人類に貢献するようなものであるべきというのがAIの開発理念になっています。
おそらく、GAFAなどのAI開発チームも同様に考えているでしょう。そのため、AIの開発においてはMicrosoftやGoogle、Facebookなどが、ビジネスとは一線を画して議論する場を設けています。
AIの持つ大きなパワーを、いかにして人間の幸せのために使っていくのかは、テクノロジー企業だけではなく、多くの人を巻き込んで議論していく必要のある時代に突入しました。
エンジニアたるもの、この時代にAIに興味を持たないという選択肢はありません。どんな形でもいいので、AIに触れ合うような時間を積極的につくっていきましょうね。
セブン&アイ出版さんから、私の三冊目となる本が発売されました。「あたりまえを疑え。自己実現できる働き方のヒント」というタイトルです。
本連載の重要なテーマの一つでもある「働き方」を徹底的に掘り下げてみました。
ぜひお手に取ってみてくださいね。
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