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『トイ・ストーリー4』プロデューサーが明かす、ピクサーが進化し続けられる秘密「エンジニアはリスクを取れ」
世界中を夢中にした『トイ・ストーリー』がまたスクリーンに帰ってくる。
シリーズ最新作『トイ・ストーリー4』がいよいよ7月12日(金)より公開。多くのファンがウッディたちとの再会を心待ちにしている。
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そこでエンジニアtypeでは、限られた来日期間の中、『トイ・ストーリー4』でプロデューサーを務めたピクサー・アニメーション・スタジオのマーク・ニールセン(MARK NIELSEN)さんに貴重な単独インタビューを実現。
新作を発表するたびに、過去の功績をピクサーが超えていけるのはなぜなのか。『トイ・ストーリー4』の技術的な見所とあわせて、ピクサーで働くクリエーターたちの“挑戦への原動力”を聞いた。

マーク・ニルセン(MARK NIELSEN)さん
1996年、ピクサー・アニメーション・スタジオに入社。1999年、『トイ・ストーリー2』のモデリングおよびシェーディング・コーディネーターを担当。その後、『モンスターズ・インク』ではライティング・マネージャー、『カーズ』ではストーリー・マネージャーとクラウズ・マネージャー、『カールじいさんの空飛ぶ家』ではプロダクション・マネージャー、『カーズ2』『インサイド・ヘッド』ではアソシエイト・プロデューサーを担当。本作で初めて長編映画のプロデューサーに挑戦
「1コマの撮影に5日間をかけたことも」
進化を続ける『トイ・ストーリー』のCGテクノロジー
『トイ・ストーリー』がこの世に誕生したのは、今から24年前の1995年。世界初の長編フルCGアニメーションストーリーとしてアメイジングな感動をもたらし、映画の歴史を変えた。その後、ピクサーでは1999年に『トイ・ストーリー2』を発表。
2010年に封切りされた『トイ・ストーリー3』では、アカデミー賞長編アニメーション賞含む2部門を受賞。日本でも興行収入100億円を超える大ヒットを記録した。長い歴史の中で見比べてみると、そのCGも驚異的な進化を遂げているのが分かる。
最新作『トイ・ストーリー4』では、ウッディたちの動きはより滑らかに。質感もよりきめ細やかなものとなり、バズのプラスチックの硬質感も、ボー・ピープの磁器製ならではの光沢感も、ダッキー&バニーのぬいぐるみらしい起毛感も、その手ざわりが伝わってくるほどリアリティーたっぷりに表現されている。
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『トイ・ストーリー4』に登場するキャラクターたち
それでいて、新しい持ち主であるボニーの髪の毛や眉毛、さらに肌の柔らかさもナチュラルで、そのクオリティーの高さには思わず目をみはるほど。ピクサーのCGエンジニアは、今回どんなことを意識しながら作品づくりに臨んだのだろうか。
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「どうすれば人形と人間を同じ世界の中で違和感なく存在させることができるのか、適切な表現を探すことは特に大事にしましたね。
『トイ・ストーリー』の世界には、ウッディたちのような人形もいますが、私たちと同じような人間も登場します。最新の技術を駆使すれば、人間をより実物に近く表現することもできますが、リアルならいいかというとそうではない。世界観を崩さない、適切なバランス感覚を重視しました」
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さらに驚きなのが、美麗な背景の描き込みだ。その精密さは、実写と見まがうほど。中でもマークさんは劇中に登場するアンティークショップの出来栄えに自信を覗かせる。
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「お店の中には約1万点ものアイテムが置いてあるのですが、それらのディテールもシェーディングもライティングも、技術的に極限のところまでこだわり尽くしました。
1コマをつくるために丸5日間も時間をかけたものも。エンジニアの皆さんには、ぜひ注目してほしいシーンです」
ピクサーのクリエーターに「妥協」の2文字はない
前作の発表から9年。その間に世の中のCG技術も飛躍的な進歩を遂げた。その中でなおピクサーは第一線をひた走り、まだどこも手を付けていないような新しいテクノロジーに果敢にチャレンジし続けている。
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「ピクサーは既にアニメーションづくりの世界で揺るぎないポジションを築いているとは思います。しかし、挑戦をやめることはない。それが、ピクサーで働くクリエーターたちの共通項。もちろんそこには、エンジニアも含まれています」
なぜ、挑戦を続けることができるのか。この問いに、マーク氏は非常にシンプルな言葉で答えた。
「僕らは皆、『もっといいものを』『もっと上のものを』というマインドを持っています。特に、ピクサーの技術の進化を支えるテクニカルディレクターたちは、『誰よりも良いものをつくりたい』と考えている。クリエーター同士がお互いに良い刺激を与え合うことで、ますますみんながチャレンジをするという関係がピクサーには根付いているんです」
例えば、『トイ・ストーリー4』のオープニングで見られる雨のシーン。非常にリアルな表現に目を奪われるが、やはりここにもピクサーのCGエンジニアによる強烈なこだわりが込められている。
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「雨が窓にかかったり跳ね返ったりする感じをどうやったらもっと効果的に表現できるか、エフェクトチームは最後まで諦めずに“技術的なベスト”を探し続けていました。
全クリエーターたちの妥協を許さないマインドこそが、ピクサーが進化し続ける一番の理由です」
エンジニアの“夢見る力”を最大限に引き出すピクサーの企業文化
現在、ピクサーには『トイ・ストーリー』シリーズの第1作を見てこの世界に飛び込んだ若いエンジニアも多く活躍しているという。彼らの根底にあるのは、“夢見る力”。もっと素晴らしい作品をつくり、世界中の人に感動を届けたいという想いが、彼らを突き動かしている。
「エンジニアたちの夢見る力は本当に素晴らしい。そして、それを最大限ものづくりに生かすための後押しをするのが、ピクサーの企業文化です。例えば、『リスクを取れ』というメッセージを経営層やマネジャーがクリエーターたち向けて常に発信し続けているところも特徴の一つ。失敗を恐れず、大胆なチャレンジができるように後押しをするんです」
そう言ってにこやかに胸を張った後、マークさんは茶目っ気たっぷりにこう付け加えた。
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「『トイ・ストーリー3』であれだけの大成功をおさめた後に、『トイ・ストーリー4』をつくるっていうこと自体が最大のリスクでしょう? でも、私たちは決してあそこで終わりにはしなかった。それこそが、ピクサーがリスクを恐れない一番の証明だと思います」
常に自己ベストをアップデートするマインドを、クリエーター全員が備えていること。そして、リスクに果敢に挑戦するカルチャーを企業がつくること。この2つが揃っているからこそ、ピクサーは常に世界のCGアニメの先頭を走り続けることができるのだ。
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
作品情報
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7月12日(金)全国ロードショー
監督:ジョシュ・クーリー
プロデューサー:ジョナス・リベラ
出演:トム・ハンクス、ティム・アレン、ジョディ・ベンソン、アニー・ポッツ
日本版声優:唐沢寿明、所ジョージ、戸田恵子、竜星涼
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
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