【UXエンジニアを目指すには?】クックパッドのUXエンジニアに聞いた、働き方や勉強法
スマートフォンの普及以降、Webページやアプリケーションのデザインが大きく進化してきた。同時に、快適なユーザー体験を支える(UX/User Experience)UXデザインの重要性も高まっている。そんな中、近年新しい職種として注目を集めているのが、デザイナーとエンジニアの領域を横断し、一貫してプロダクトに落とし込む「UXエンジニア」だ。
では、既存のエンジニアがUXエンジニアへのキャリアチェンジを目指そうと思った際、一体どんなことから始めたらいいのか。クックパッド株式会社でUXエンジニアとして働いている重田桂誓さんに話を伺った。
Googleマップから受けたインパクトを原点にUXエンジニアを目指す
重田さんがデザインに興味を持ち始めたのは、2005年頃のこと。まだスマホがない時代だが、Google マップがリリースされた時に衝撃を受けたという。
「それまでのインターネットの地図は読み込みに時間がかかって、とてもストレスに感じていました。でもGoogle マップは待ち時間も少ない上に、ドラッグでスムーズに地図を見ることができるという体験を実現していて、これはすごいと思ったんです。同時にデザインの面白さに気付き、『技術とデザインを組み合わせると新しい価値を生み出せるのではないか』と考えるようになりました」
学校ではデザインの勉強はしなかったため、最初はエンジニアとしてミクシィに就職。しかし、業務を行う中でより一層デザインに対する憧れが強くなり、3年後にはデザインに強いIT企業、Goodpatchに転職した。
「デザインに強い会社なら、エンジニアでもデザイン領域の仕事に関われると思ったんです。実際にGoodpatchではデザイナーの近くで働くことができ、知識もかなり付きました。そうして徐々に、デザインを考えるところから実装するまでを一気通貫してやるようにしていきました」
重田さんがUXエンジニアを名乗り始めたのもこの頃のことだった。
「GoodpatchにはもともとUXエンジニアというポジションがあったわけではありませんでした。ただ自分の求める働き方が一般的なエンジニアの仕事の領域には収まらないことも実感していて。何か良い肩書きはないものかと考えていた時に、ちょうど世の中で『UXエンジニア』という言葉が出始めてきたんです。Google社が出しているUXエンジニアのジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を見てみたら、『まさに自分のやっている仕事ややりたい仕事と同じ方向性だ』と感じて。当時の上司に相談し、正式にUXエンジニアという肩書きにしてもらいました」
さらに「自分の身近な人を幸せにするサービスに携わりたい」という思いから、2019年2月にクックパッドに転職。現在は新規サービス開発部に所属し、自分の感覚で料理を楽しめるようになる学習アプリ『おいしいたべかた学習ドリル -たべドリ-』のデザイン・開発に携わっている。
「仕様通りの実装」だけではUXエンジニアは務まらない
UXエンジニアというと“デザイナーとエンジニアの掛け合わせ”というイメージもあるが、実際はどのような仕事なのだろうか。
「業務範囲や内容はプロジェクトによって違いますが、主な仕事の一つとしてプロトタイピングがあります。それも言われたものをただつくるのではなく、サービスとしてどういうことを実現したいのか。そのためにはどういう要素が必要なのかといった全体像を考えつつ、時には文章や図にしていって。さらに具体的に形にしてみないと分からないことも多いので、素早く実装して、社内配信しています。デザイナーとコラボレーションして進めることが多いですが、自分でデザインして自分で実装することもあります」
実装したものを周囲のメンバーに触ってもらい、話し合いを重ね、「次はこうしてみよう」と改善を繰り返しながらプロジェクトを進めているという。
また、クックパッドには会社全体のデザイン指針を可視化した『citrus(シトラス)』というデザインシステムがある。この更新もUXエンジニアである重田さんの仕事だ。
「サービスのデザインは一貫性が大事なのですが、クックパッドのように大きなサービスは関わる人も多くなるので、一貫性を保つのが大変です。そのため会社としてのミッションやパーソナリティーを明確にした上で、利用するフォントや色、アイコンといったデザインのガイドラインをドキュメント化し、citrusにまとめています。これを社員みんなの共通言語とすることでデザインの一貫性を保ち、ブランドのアイデンティティーを守っているんです」
重田さんはUXエンジニアの仕事について、「任せられた範囲を超えていくこと」が大事だと話す。
「通常、エンジニアの仕事は『仕様という正解があって、それを満たす実装をすること』です。しかし、UXエンジニアの仕事はそれでは成立しません。ユーザーにとってより良い体験を届けるためには、そこから何がプラスアルファできるかを常に考えなければいけない。僕自身、言われたものだけつくるのは面白くないと感じるタイプなので、プロジェクト進行に支障のない範囲で、良いと思うものについては『こういうアニメーションつけてみましたとか』とか、勝手にやっちゃいますね(笑)」
重田さんは以前の上司に言われた「最終的なアウトプットのクオリティーを決めるのはエンジニア」という言葉によって、UXエンジニアの重要性をより実感したそうだ。
「デザイナーがどんなに良いデザインをつくってくれたとしても、最終的に実装するのはエンジニア。良いエンジニアリングができなければ、最終的なクオリティーが下がってしまうこともあります。一方でエンジニアリングがどんなにうまくできても、もとのデザインが良くなければ誰にも使われないサービスになってしまう。そのためデザインの知識を持ち、デザイナーと議論しながらサービスを高められるUXエンジニアがますます重要になってくると思います」
UXエンジニアを目指すなら、自分の仕事を「越境」してみよう
では、これからUXエンジニアを目指したいエンジニアは何から始めるべきなのか。重田さんは「技術よりもサービスが好きな人が向いている」と話す。
「ユーザーの体験をより良くするためには、考えたり試したり議論したりという時間が不可欠です。それに、技術先行じゃなくてサービスの提供価値やユーザーのことをまず考えなければなりません。ですから、『技術が好き、プログラミングが好き』という人よりも、サービスやその先のユーザーについて深く興味を持てる人が、UXエンジニアに適していると思います」
その上で、日々の業務範囲を越境していくことが大切だ。
「既にエンジニアとして基礎力がある人なら、そこから少しずつでもいいので自分がやったことのない領域にチャレンジしていくことが大事かなと。まずは議論に参加したりユーザーインタビューに同席することから始め、徐々に自分でもデザインしてみたり、ユーザーインタビューを実施するなど、少しずつ自分の業務範囲を越境してみてください」
今は本やツールが豊富なので、独学でデザインの勉強をすることも十分可能だという。最後に、UXエンジニアを目指す人におすすめの本をセレクトしてもらった。
『なるほどデザイン<目で見て楽しむ新しいデザインの本。>』
出版社:エムディエヌコーポレーション
著者:筒井美希
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『Creative Selection Apple 創造を生む力』
出版社:サンマーク出版
著者:ケン・コシエンダ
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「デザインというとビジュアルのことを指していると捉えがちですが、UXデザインとは戦略や要件、コンセプトを含めた「体験」のデザインです。仕様にはない試行錯誤を積み重ねることは大変でもありますが、その分やりがいも大きい。『デザインもエンジニアリングもやりたい』と思う人はぜひUXエンジニアを目指してほしいと思います」
取材・文/キャべトンコ 撮影/河西ことみ(編集部)
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