キャリア Vol.955

組込み業界で需要高まる“ゼネラリスト”人材。中年・シニア採用が活発化する背景とは?

家電や自動車、産業機器のデジタル化が進む中、ソフトウェアの重要性が高まりを見せている。とりわけハードウェアを制御する組込みソフトウェアの品質は、プロダクトの使い勝手や性能を直接左右する重点領域と言っても過言ではない。

なぜなら、組込みソフトウェアの開発は、情報処理を目的とした業務アプリケーションなどに比べてCPU性能やメモリ容量、消費電力などの面で制約がある上に、開発環境より実際の利用環境が過酷な場合が多く、制御対象となるハードウェアが設置される場所にも気を配りながらプログラミングする必要があるからだ。

そのため組込みソフトウェアの開発には、長らく職人的な「経験」や「勘」、開発者同士の「あうんの呼吸」が重視されてきた。しかしこうしたイメージは、この10年足らずの間に大きく変わりつつある。

自身もエンジニアとしての経験を持ち、現在は組込みソフトウェア専門の受託開発会社を経営する古川和幸さんは、「職人芸的な世界が完全になくなったわけではないが、開発の大規模化が進み、状況が大きく変わってきた」と話す。

組込みソフトウェアの開発体制が大きく変化する中、古川さんは「今後ますますゼネラリストタイプのエンジニアの重要性が増す」と断言する。その理由を伺った。

株式会社ジャパンプランニング 代表取締役社長 古川和幸さん
株式会社ジャパンプランニング
代表取締役社長 古川和幸さん
1994年4月、新卒でジャパンプランニングに入社。エンジニアとして組込みソフトウェア開発を手掛けた後、管理部門を経て2018年に代表取締役社長に就任。現在同社は、主に車載機器やデジタルカメラ、鉄道車両装置向け組込みソフトウェアや、各種アプリケーションソフトウェアなどを提供している

大規模化、分業化が進む組込みソフトウェア開発の今

「この10年で、組込みソフトウェア開発の規模は格段に大きくなりました。一つの案件に携わるエンジニアの数も、ソースコードの行数も、ざっと2桁ほど上がった印象です。デジタルテクノロジーの進歩によって、かつてハードウェアが担っていた機能を、生産効率の高いソフトウェアで代替するようになっていることが背景にあります」

身近な例だと、自動車のスピードメーターなどの計器類。一昔前は針と目盛りによるアナログメーターだったものが、液晶パネルなどに直接数値を表示するデジタルメーターに変わってきている。

「こうした変化は、自動車だけでなく鉄道を含む輸送機器、家電や情報機器など、あらゆる分野で起こっています。世の中のデジタル化に伴って、カバーすべき領域は拡大する一方です」

今後、多様なセンサーや機器を搭載する自動運転車やドローン、ロボットが普及すれば、この勢いが加速するのは間違いないだろう。

株式会社ジャパンプランニング 代表取締役社長 古川和幸さん

「組込みソフトウェアは、AIほど脚光を浴びることはないものの、重要度が低い技術領域ではありません。AIによって構築された高度なアルゴリズムも、制御すべき機器や装置の特性を熟知した組込みソフトウェアの存在無しには、パフォーマンスを引き出すことはおろか、動かすことすらできないからです」

だがその分、組込みソフトウェアエンジニアにより高度な専門性が求められるようになっているのも事実だ。

「かつては一つのプロダクトに必要な機能も限られていたため、組込みソフトウェアエンジニアも数名いれば十分でしたが、今ではそれぞれのモジュールで高度な制御技術が求められるようになり、撮影や表示、記録、通信に特化したスペシャリストの需要が非常に高まっています」

例えば、デジタルカメラで被写体を撮影する場合、レンズを動かし焦点を合わせ、適切な露出、シャッタースピードを割り出すだけではなく、撮影画像のモニター表示やメディアへ記録する機能が必要だ。さらに手ぶれ補正や顔認証、カメラをスマホやクラウドに無線接続する機能を実現するには、より高度な組込みソフトウェア技術が必要になる。これだけでも、各技術分野に精通したスペシャリストが求められる理由が分かるはずだ。

しかしこうした状況が、新たな課題を顕在化させる理由にもなっていると古川さんは明かす。

「スペシャリスト化する組込みソフトウェアエンジニアに対し、彼らを横串で統括できる“ゼネラリストタイプ”のエンジニアの数が圧倒的に足りないのです」

株式会社ジャパンプランニング 代表取締役社長 古川和幸さん

ゼネラリストタイプの人材を、採用や社内育成で獲得できるかどうかが、組込み専業ソフトウェア開発会社の浮沈を握る鍵になりつつあるのだという。

真の「ゼネラリスト」が好待遇で迎えられる理由

一般的に、ゼネラリストはスペシャリストに比べて知識の深さこそ劣るものの、“一定レベルの業務知識を幅広く持っている人”だと認識している人が多いだろう。しかし古川さんが考えるゼネラリストは、その定義からは少し外れる。

「ここで言うゼネラリストとは、自らがスペシャリストとして培った経験をベースに、複数の開発プロジェクトを束ね、プロダクト全体をあるべき方向に導ける人材です。プロジェクトマネジメントには、おのずと尖った能力を持つスペシャリストをマネジメントすることも含まれるため、技術的な知見に加えて人や組織を率いる度量も必要になってきます」

これほどまでに優れた能力を持つゼネラリストが必要とされている理由は、組込みソフトウェアエンジニアの専門性が高まっていることにあるそうだ。

「逆説的な言い方に聞こえるかもしれませんが、組込みソフトウェアの専門化と分業化が急速に進んだ結果、プロジェクト全体を見通せるゼネラリストにも、それ相応の高い能力が求められるようになりました。とはいえ、非常に希少性が高い人材であるため、各社とも苦戦を強いられているのが現状です」

株式会社ジャパンプランニング 代表取締役社長 古川和幸さん

こうした希少性の高いゼネラリストになることを目指す場合、エンジニアとしての経験の差が能力や将来性を左右する。そのため「できればエキスパートとしての専門性は複数持つべき」と古川さんは言う。

「加えて、マネジメントに対する関心や興味も欠かせません。もしこれらの条件を満たしている方がいらしたら、年齢に関係なく好待遇で迎えたいという会社は少なくないでしょう。もちろん当社も例外ではありません」

技術ローテーションで“対応力”を培い、生涯活躍できるゼネラリスト人材へ

時代とともに、組込みソフトウェアエンジニアに求められる能力やスキルが変化していることが分かった。ではそのような人材を、会社はどう育てているのか。

「かつては、伝統工芸の職人が弟子に技術を伝えるような『一子相伝(いっしそうでん)』的な育成方法が主流でした。しかし現在は、国際規格に準拠した技術の習得や、要素技術トレンドにも対応しなければならないため、幅広い技術分野を網羅する専門性の高い技術教育に加え、OJTによる実務に即した経験が重視されるようになっています」

古川さんが経営するジャパンプランニングでも、eラーニングなどを活用した技術研修や、国家資格「エンベデッドシステムスペシャリスト試験」への合格に向けた学習支援にも力を入れている。だが「実践に勝る経験はない」というのが、同社の人材育成の基本方針だ。

株式会社ジャパンプランニング 代表取締役社長 古川和幸さん

「当社ではエンジニアが一定期間経験を積むと、自動車からデジカメ、デジカメから鉄道、鉄道から自動車というように、適性と希望に応じて担当領域を変える技術ローテーション制度を運用しています。たとえ開発言語や開発環境が同じであっても、それぞれの分野にはそれぞれの開発特性があり、品質に関する考え方も異なるからです。こうした違いを吸収することが、エンジニアの能力向上に一役買っているのは間違いありません」

技術ローテーションを行う利点は他にもある。知識や経験の「たこつぼ化」を防ぎ、新たな開発領域への対応力が増すのだ。そして、こうした取り組みの先に開けているのはもちろん、複数の専門性を持ったスペシャリストの育成と、スペシャリストを率いるゼネラリストへの道だ。

「同じITとはいえ、われわれの世界はソフトウェアの開発基盤が数年ごとに刷新されてしまうというような、急激な変化が起こりにくい業界構造にあります。なぜなら、開発に時間を要する機器や装置が進歩するスピードに合わせる必要があるからです。しかしそれだけに、50代、60代になってもエンジニアとして培った経験を生かしやすいという側面もあります。先ほど申し上げたゼネラリストの定義は、かなりハードルが高いように思えるかもしれませんが、長期的なキャリアプランに基づいて行動すれば、決して実現不可能なキャリアではないのです」

つまり、現在20代や30代だとしても、メンバーもしくはリーダークラスに準じる経験があれば、時間をかけてゼネラリストになることも可能だということだ。

「当社は35年を超える実績があり、受注案件のうち約半分が持ち帰り案件。これは顧客からの信頼の証です。組込みソフトウェアの世界でゼネラリストを目指す環境としては、申し分ないと自負しています」

もし組込みソフトウェアエンジニアとしてのキャリアを極めることを目標としているならば、こうした経験の幅と深さが培える環境を選ぶのが得策だ。

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取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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