プログラミング学習で一番大切なこと~ライフイズテックとゲーム開発のプロがタッグで出した答え
近年、プログラミングに対する注目度が日に日に高まっている。
この数年で、子どもから大人向けまでさまざまな切り口のプログラミングスクールが立ち上がった。日本政府も2020年以降の義務教育化を成長戦略の一環に盛り込んでいる。最近は、起業を考える文系学生や非技術職として就職した若手社会人がスキルアップのために学ぶのもプログラミングだったりする。
こうしてどんどん一般化しているプログラミング教育に対して、白熱した議論が起こることも増えた。
体育や美術が小中学生の必修科目になっても、プロスポーツ選手やプロのアーティストになれる人は一定数を越えていないように、プログラマーという仕事にも向き・不向きがあるはずだ、とか。また、教育を受ける機会が増えても学ぶ側の意思と意欲が続かなければ身にならない、という言説もある。
これを裏返せば、プログラミング教育を提供する人や企業には、学び手の興味を引き、モチベーションを維持してもらう工夫が最も大切ということになる。そしてこの「学習のモチベーション」という点に着目した新サービスが、6月15日に誕生した。
中高生向けのプログラミングスクールを展開しているライフイズテックは、プログラミング学習にゲーム性とSNS要素を融合させたオンラインサービス『MOZER(マザー)』を発表。その第一弾となる体験学習型アドベンチャーゲーム『デイジーと秘密のメッセージ』(体験版)は、これまでの教育サービスとは一線を画す驚きを提供した。
教員免許を持つ起業家と、元スクエニCTOが考えた「学ぶ意欲」向上の決め手
元・物理教師の水野雄介氏が中心となって2011年に始まった『Life is Tech !』は、リアルな場でのプログラミングキャンプやスクール運営を通じて、のべ1万5000人の中高生に「開発」のスキルと楽しさを教えてきた。
オフラインのプログラミング教室としてはすでに世界第2位となる参加者数(同社調べ)となっており、次の事業展開として学習における「地域格差」と「経済格差」を解消するべくローンチしたのがオンライン学習のSNS『MOZER』である。
特徴は、オンライン学習で最大の課題となる「モチベーション」を維持し、高める工夫だ。
『MOZER』は基本的なSNSと同じ要素(タイムラインやメッセンジャー、いいね機能など)に加えて、Yahoo!知恵袋やStack Overflowのようなナレッジコミュニティも搭載。さらに、ユーザー1人1人が学習進捗を可視化することのできるダッシュボードのような機能も備えている。
水野氏によると、これらの機能は「6年間、リアルでのキャンプ開催やスクール運営を通じて感じてきたこととして、eラーニングは相当モチベーションが高くないと続かない」という問題意識から生まれた一つの解だという。プログラミングを学ぶ人同士がつながり、助け合い、時に励まし、競い合うような場づくりをオンライン上で具現化した。
そして、より根源的なモチベーションの向上、つまり「楽しいから学ぶ」という動機づくりのために同時発表したのが、前述のWebゲーム『デイジーと秘密のメッセージ』(体験版)となる。
開発を主導したのは、ライフイズテックのCTOで、元スクウェア・エニックスCTOでもある橋本善久氏。経歴が示す通り、ゲーム開発のプロである。共同開発にはゲーム業界の開発受託を多数手掛けるリンクトブレインが名を連ね、純粋なゲームとしてのクオリティも非常に高いものとなった。
ゲームの楽しさと学習を見事に融合させたインターフェースに
その出来については、言葉を尽くすより実際に観てもらった方が早いだろう。以下のリンクか、その下のプロモーション動画を観てほしい。
さらにこのゲームが画期的なところは、ゲームプレイとプログラミング学習を一体化させたインターフェースにある。
一例を挙げると、『デイジーと秘密のメッセージ』は次のような流れで進んでいく。
■ ユーザーは仮想空間内で自らの分身(アバター)を作り、街のさまざまな「困りごと」を解決していく
■ とあるパン屋さんが「ホームページを作りたい!」と言っているので、手伝うことに
■ ここで、Webページとはどういう構造で出来ていて、どうすればホームページを作れるのかを解説する学習ページへ。例えば「HTMLとCSSの要素ってどう切り分けられてるの?」ということを、メンターとなるキャラクターが解説してくれる
■ メンター役のキャラクターが、「最初にテキストの編集からやってみよう」、「次にCSSを書き換えて色を変えてみよう」……と課題を出すので、一つずつこなしていく
■ この際、インターフェースが柔軟に変化する(サイト全体の構造を説明する時はスクロール画面に、キャラクターが出す課題を見ながらプログラミングする場合は3画面に分割、など。イメージは下画像を参照)
こうしてミッション=ホームページ制作が終わったら、街の中の異なる課題解決へ進んでいくわけだが、「ここまでインターフェースが切り替わるシステムの開発は、ゲームはもちろん、通常のWebサービスでも難しいと言われてきた」と橋本氏は言う。それを特殊なscript制御などを駆使して解消し、「ゲーム内の同じ章なのに画面が柔軟に変化するシステム開発に成功」(橋本氏)した。
モチベーションを高める三大要素は「個別対応」、「コミュニティ」、「楽しさ」
これまでも、プログラミング学習のみならずさまざまな教育の世界ではゲームプレイの要素を取り入れた「ゲーミフィケーション」に脚光が集まっていたが、ここまで見事な「学習とゲームの融合」はあまり見たことがない。
だが、橋本氏いわく「教材づくりはゲーム開発で言うところの『レベルデザイン』と似ているところがあるので、それほど難しくはなかった」とのこと。正確に記すなら、橋本氏のようなゲーム開発のプロフェッショナルがライフイズテックに参画し、スクール運営などの仕事を体感する中で共通項を見いだしたといえるだろう。
水野氏が抱えていた「モチベーション」に対する課題を、ゲーム開発のプロがタッグを組みながら解消したのだ。
ちなみに、このゲームを内包した『MOZER』は、中高生のみならず大人のプログラミング初心者もユーザー対象にしているそうだ。「デキる子どもは大人顔負けのスピードで学んでいくので、教材は初級レベルからハイレベルなものまで取りそろえることを考えている」(橋本氏)からだ。
体験版はWebデザインの学習用だが、これから複数のプログラミング言語の学習用ゲームも用意していくという。
さらに、今後はいろんな分野とのコラボレーションで「楽しさ」を演出していく計画で、第一弾として2016年内に大ヒットマンガ『進撃の巨人』とのコラボも決定しているそうだ。
「リヴァイやエレンが先生役となってプログラミングを教えてくれるような構想なんです。学習のモチベーションを高める三大要素は『個別対応』、『コミュニティ』、『楽しさ』だと思っているので、ライフイズテックは今後もオンライン・オフライン双方で1人1人の学習ペースに寄り添いながら、より楽しい学習を提供していきたいと思っています」(水野氏)
取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)
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