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ジョブホッパーが見落としている決定的な視点とは? freee創業者・CTO横路隆が若手エンジニアに「1社で3年働く」を勧める理由

働き方

    この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!

    クラウド会計ソフトや人事労務ソフトをはじめ、企業のバックオフィスを自動化・効率化するためのサービスを提供するfreee株式会社。その最大の特徴は、中小企業や個人事業主を主な対象としていることだ。

    同社が掲げるミッションは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というものだ。規模においてハンデを持つ小さな会社や個人であっても、優れたアイデアやパッションを持つ事例は多い。そんな人たちが本来の力を発揮し、強いビジネスを育てられるようなプラットフォームの提供を目指している。

    CTOの横路隆さんは、2012年にCEOの佐々木大輔さんと共にfreeeを創業。今では大所帯となった開発部隊を率いて、さらなる成長を目指している。その原動力となっているのが、「スモールビジネスを取り巻く環境を変えたい」という熱い思いだ。

    この大きなミッションを成し遂げるための組織づくりや人材育成に取り組むCTOとして、若手エンジニアに「まずは目の前の仕事を、全力で3年やってみてほしい」とアドバイスする横路さん。なぜ、「全力で3年」なのか。その言葉の真意を聞いた。

    プロフィール画像

    freee株式会社 CTO 
    横路 隆さん(@yokoji

    慶應義塾大学大学院修了。学生時代よりビジネス向けシステム開発に携わる。ソニーを経て、2012年に佐々木大輔CEOとfreee株式会社を共同創業

    エンジニア採用をさらに加速。開発組織は拡大フェーズへ

    創業から9年目を迎えたfreeeは、クラウド会計ソフトでシェアNo.1を独走し、多くのエンジニアを抱える組織に成長した。しかしこれは一つの通過点に過ぎない。横路さんはCTOとして、さらなるビジネスの拡大に向けて走り続けている。

    「ここ数年で経営における技術や開発組織の重要度はますます高まっています。freeeの経営戦略は、プロダクトを増やすことで事業を拡大し、売上も伸ばしていくというもの。長期的には、エンジニアの採用も積極的に行っていくつもりです。

    ただしこの規模になると、人を増やすだけでは生産性が下がってしまう。そこで今は、認証認可基盤やマスターデータの管理基盤など、プロダクト横断で必要になる基盤整備に大きく投資しているところです」

    ビジネスの拡大とともに、顧客ニーズも細分化している。freeeのユーザーとなるのは「スモールビジネス」と呼ばれる中小の事業者だが、一人で活動するフリーランスもいれば、起業したばかりのスタートアップもあり、数百名規模の中堅企業も含まれる。

    それぞれのユーザーが求めるものに応えるための組織づくりにも、横路さんは注力してきた。

    「ユーザーが多様化すると、『何をつくればお客さまの悩みや課題を取り除けるのか』もかなり複雑になってきます。

    そこで開発部隊をPM組織とエンジニア組織に分け、前者を『お客さまの悩みを特定して課題を定義する人』、後者を『その課題をベストな方法で解く人』と役割分担を明確にした上で、両者をしっかり連携させる仕組みを整備してきました。

    製品はもちろん、先ほど話した各種基盤にもプロダクトマネジャーを付けて、エンジニアが常に『自分たちが解決すべき課題は何か』という視点を持てる体制をつくっています」

    そんな中で起こった新型コロナウイルスの感染拡大。外出自粛によって飲食業や観光業など多くの中小企業が大きな打撃を受ける中、freeeは新型コロナ対策支援プロジェクト「Power To スモールビジネス」を開始。

    仕事を受注したい人と発注したい人をクラウド上でマッチングし、事業者同士の取引を活性化させる受発注サービスを無料で公開するなど、現状のニーズにいち早く対応した支援活動でスモールビジネスを支えている。

    freeeCTO横路隆さん

    突き抜けたものは、スモールビジネスからしか生まれない

    このように、freeeの事業は創業当初から「スモールビジネスを強くしたい」という思いが貫かれている。その原点にあるのは、横路さん自身の体験だ。

    「私の実家はお菓子屋さんなんですよ。ちなみにCEOの佐々木は実家が美容院で、二人とも両親が日々の事務管理で苦労する姿を間近で見てきました。高校や大学の頃は、実家のために自分でプログラミングして販売管理ツールを作ってあげたこともあります。

    でも当時は、まさか日本中でこれほど多くの人たちが同じように困っているとは思いもしませんでしたね。

    大学卒業後はソニーに就職して大企業で働く経験もしましたが、世の中ではBtoBサービスがどんどん進化して使いやすくなっているのに、スモールビジネスに携わる人たちだけがあんなに苦労をしているのはおかしいという思いがありました」

    大学時代にインターンで地方銀行向けのサービス開発に携わり、「システムでスモールビジネスを支援する」というイメージが具体化したことも、横路さんの中に強烈な記憶として残ったという。

    そのため、佐々木さんと出会って中小企業を支援するサービスの構想を聞かされた時、すぐにソニーを辞めて起業する決断をした。

    「スモールビジネスを、世界の主役に。」というfreeeのミッションには、横路さんたちの真っすぐな思いと情熱が詰まっているのだ。

    freeeCTO横路隆さん

    「中小企業のビジネスを強くするには、キャッシュフローを可視化して数字をリアルタイムで把握する仕組みが必要です。でも、人手の少ない小さな会社が日々の帳簿をつけるのは大変なので、まずはfreeeのプロダクトでそれを簡単にできるようにしたい。

    キャッシュフローが健全に回るようになれば、次は利益を最大化するのか、それとも利益を抑えて大きな投資をするのかといった成長へ向けての意思決定が可能になります。『freeeのサービスを使えば、スモールビジネスがちゃんと儲かる』、それが私たちの目指すビジョンです」

    また、自身が大企業とスタートアップの両方を経験したことで、スモールビジネスが持つ大きな可能性も実感するようになった。

    面白いものや突き抜けたものは、スモールビジネスからしか生まれない。今ではそう思っています。

    大企業では、いきなりホームランを狙いに行くのではなく、『ヒットをどれだけ量産できるか』という手堅い意思決定をしがちです。だから『この人なら8割方うまくやるだろう』と思う人にしかチャンスが与えられません。

    でも、中小企業やスタートアップは成長速度に対して常に人手が追い付かないので、『失敗の可能性が4割あるが、こいつに賭けてみよう』といったアサインも珍しくない。その中から、狂気にも近いようなパッションを持ってとんでもないことをやり切る人が出てくるんです。

    スモールビジネスからホームランがどんどん生まれれば、社会全体のイノベーションの総量も増える。そういう世界の方が面白いし、それが目指すべき未来だと信じています」

    エンジニアには“技術を愛でるセンス”が必要

    そんな未来をつくるfreeeのエンジニアたちに、横路さんが求めるものは明確だ。

    「先ほども話したように、エンジニアは課題をベストな方法で解く人、つまり“課題解決のプロ”であるべきです。そのために弊社のエンジニアには、四つのことを求めています。

    一つ目は、オールラウンダーであれ。課題の解き方のオプションをたくさん持つには、特定の技術にこだわらず何でもできるエンジニアでなければいけない。

    だから新人には『最初の3年でCTOになれ』と伝えています。これは、一つのプロジェクトで技術者が必要とされる役割を3年で全部できるようになれ、ということ。

    freeeではエンジニアをフロントエンドとバックエンドに分けず全員が両方をやるなど、意識的にオールラウンダーを育てています」

    二つ目は、チームの中で自分が一番と言えるスキルを身に付けること。三つ目は、できない理由を探すのではなく、とにかくやってみること。四つ目は、お互いに世話を焼くこと。

    かつての徒弟制度のように、新しいメンバーが入ったら先輩が面倒を見て育てていくのがfreeeのカルチャーになっている。

    freeeCTO横路隆さん

    freee株式会社でのエンジニアインターンの様子

    「それともう一つ、エンジニアとして大成するには、技術を愛でるセンスが必要だと思っています。例えば、寿司職人は誰に言われなくても毎日包丁を研ぎますよね。仕事のツールとしての包丁を愛でているから、当たり前のように続けられるし苦にならない。

    同じようにエンジニアも、まるで空気を吸うように新しい技術を日々キャッチアップし、それ自体を楽しめる人でないと、ものづくりの現場で活躍できるレベルには到達できません」

    さらに、若手エンジニアが自分の可能性を拡げるための方法として、「短期間で何かに全力で取り組み、『成長の型』をつくるといい」とアドバイスする。

    「まずは何か一つ、直感でいいなと思ったことや自分がワクワクできることに全力で2~3年取り組んでみてほしい。そこで成功体験をつくれば、『自分はこうすれば成長できる』という“型”みたいなものができる。

    成長の型を持っている人には、私もいろいろなチャレンジを任せてみたくなるし、それが成功する確率も高いと感じています」

    取り組むのは仕事以外のことでも構わない。例えば横路さんの場合、学生時代に夢中になった数学と楽器のキーボードが成長の型をつくってくれた。

    「もともと数学は苦手だったのですが、大学受験に向けて勉強し始めたらのめり込んでしまい、受験生向けの数学雑誌の巻末に付いていたコンテストに毎月応募するようになって。半年ほどすると全国トップ3に入るレベルになりました。

    大学時代はキーボードにハマってバンドを13個も掛け持ちし、30時間連続でスタジオにこもったことも。最終的には有名なミュージシャンとテレビで共演する機会をもらえるまでになりました。

    要するに、好きになったら何事も突き詰めないと気が済まないタイプなんですよ(笑)。でも短期間で高いレベルに到達できたこれらの成功体験が成長の型になり、その後のエンジニアとしての成長にもつながりました」

    「チームで成果を出す」には2~3年かかる。そのサイクルを経験せよ

    横路さんの話から伝わってくるのは、「これをやりたい」「これが好きだ」といった思いや情熱を大事にしながらキャリアを築いてきたということ。

    だからこそ、CTOになった今ではfreeeのビジョンやミッションに共感してくれるエンジニアと一緒に働きたいと話す。

    「若いエンジニアが職場を選ぶときも、その会社のビジョンに共感できるかどうかを大事にした方がいいでしょうね。今はWebプロダクトをつくる技術はコモディティー化しているので、どの会社で働いても同じようなスキルが身に付くし、そこそこの経験は積める。

    ではどこで成長に差がつくかと言えば、ビジョンを実現するために前向きなチャレンジや議論を積み重ねられるかどうかです。周囲からのフィードバックを積極的に受け入れて、自走しながら成長していこうとするモチベーションを保つには、『このビジョンを実現したい』という共感がないと難しいんじゃないでしょうか

    さらに「自分を成長させたいなら、伸びている会社を選ぶべき」とも助言する。横路さんの話にもあったように、急成長中で人が足りない会社の方がチャレンジの機会は多いからだ。そしてfreeeはまさに今、そのフェーズにある。

    「エンジニアを1000人に増やす段階で、基盤整備に大きく投資できる会社は日本でも数が限られます。基盤が整備された後で入社すると、“基盤を使ったことがあるエンジニア”にしかなれない。

    でも今のタイミングでfreeeに入社すれば、国内でも貴重な“基盤をつくれるエンジニア”になれるので、非常に市場価値の高い人材になれるし、この先10年、20年と重宝されます」

    ビジョンに共感できて、伸びている会社を見つけたら、やるべきことはたった一つ。“成長の型”をつくる時と同様、まずは目の前の仕事に全力で2~3年取り組むことだ。

    中には「3年も同じ場所で頑張らないといけないのか」と思うエンジニアもいるかもしれない。だが横路さんは、組織を率いるCTOとしての実感をこう話す。

    チームで結果を出すには、やはり2~3年はかかる。会社を経営する立場になってみて、それを身に染みて感じています。

    個人としての目先の成果はもっと早く出せるでしょうが、チームとして何らかの課題解決に取り組み、お客さまにフィードバックをもらいながら、本当に求められる価値を提供できるまでのサイクルが一回りするには、freeeのように急成長している組織でもそれくらいの時間が必要です。

    一つのタスクをうまくやれる人になりたいなら、3年も同じ会社にいる必要はないと思います。そういう人はフリーランスになって、いろいろなプロジェクトを渡り歩きながら特定の業務だけを請け負えばいい。

    でも、社会を変えるほどの大きなミッションを成し遂げたいなら、チームで成果を出せる人材になるための働き方をすべきです。自分はどちらのエンジニアになりたいのか、よく考えてほしいですね

    『この人に賭けよう』と思ってもらえてチャレンジングな仕事に携われるようなフリーランスの人は、大半がすでに過去にチームで大きな成果を出した経験がある人だということも心に留めておいてほしいですね。」

    freeeCTO横路隆さん

    技術という道具をただ使えるだけでいいのか、それとも技術を使って成し遂げたい何かがあるのか。どちらのエンジニアが世の中に大きな価値をもたらすことができるかは明らかだろう。

    エンジニアとして自分の可能性を広げたいなら、スキルを磨くだけでなく、自分の中の思いや情熱にも目を向けてみてはいかがだろうか。

    取材・文/塚田有香

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