「孤独が疲れを増幅させる」コロナ禍の“しんどい疲れ”解消する脳の使い方とは? 産業医・大室正志さんからエンジニアへの助言
この数カ月で、「コロナ疲れ」という言葉が注目されるようになった。
コロナのことばかり考えてしまって……というストレスの他、ネット疲労、デジタル疲労などの問題も、以前に増して顕著になりつつある。
「特にエンジニアは、こうした疲労を慢性化させてしまいがち。疲労を放置してしまうと、体のあらゆる不調を招きますし、ゆくゆくはうつ病などにつながりかねません」
そう指摘するのは、IT企業を含む30社以上で産業医を務める大室正志さん。
現在のリモートワークは場所を選ばず働ける本来のそれとは違い、“強制在宅勤務”だとし、コロナ禍の「疲労」を軽視しないようエンジニアに呼び掛ける。では、疲労に適切に対処するにはどうすれば? 大室先生に聞いた。
脳とパソコンは同じ。稼働し続けると重くなる
ネット疲労やデジタル疲労に悩んでいるエンジニアの方は多いと思いますね。
ネット疲労は、オンライン上で人とつながり過ぎることによって脳が感じる疲労のこと。例えば、パソコンをイメージしてみてください。一旦シャットダウンして再起動したパソコンと、ずっと電源を付けっ放しにしているパソコン。すぐ動きがにぶくなるのは後者ですよね。脳もこれと同じです。
エンジニアの方は、仕事のコミュニケーションで、チャットやSlackなどを使うことが多いと思います。これらは、メール以上に「即レスが基本」のコミュニケーションツールです。
つまり、常に人とつながった状態が続き、作業中であっても相手からの呼び掛けに逐一反応しなければいけない。すると、脳はパソコン同様にオーバーヒート状態になり、作業効率も落ちていくというわけです。
即レスする人=仕事ができる人、っていう風潮もありますからね。逆に、レスが遅い人は仕事ができないという烙印を押されてしまいがち。
しかし、常に誰かとコミュニケーションを取りながら作業を進めるというのは、人間の脳の使い方としてはあまり良くありません。なぜなら、脳は基本的にマルチタスク用にはできていないんですよ。つながり続ける働き方は、脳に負荷を掛ける働き方なんです。
そうですね。「この時間は作業集中の時間です」と先に宣言しておくなどして、「レスしなくていい」状態をつくっておくといいのではないでしょうか。
そして、LINEやメッセンジャーなどのSNSの通知もなるべくオフにすること。「この時間はこれをやる」と決めたことにだけ集中できる状態をつくっておくと、疲労が軽減されて作業効率も上がると思います。
デジタル機器を長時間使用することで引き起こされる疲労の総称ですね。例えば、目が疲れる・かすむ・涙が出る・首や肩が凝る・頭痛・吐き気といった症状が表れることがあります。
エンジニアの方だと眼精疲労、特にドライアイに悩んでいるという声をよく聞きますが、エンジニアに「PCやスマホを触る時間を無くしましょう」というのは難しい話ですよね。
その場合は、遠くを見たり、近くを見たりして、「長時間同じ画面を見続けている」という状態をなるべく避けるようにしてみてください。
皆さん「中腰のままずっと立ち続けて」って言われたら、すごくきついですよね? これは、同じ筋肉を長時間使い続けるからきついんですが、目も一緒なんですよ。遠くを見たり近くを見たりして、目のピントを合わせるための筋肉を動かすと疲れにくくなります。
一般的に推奨されているのは、1時間作業したら10分くらい休憩をとること。その間、遠くを見るようにするといいですよ。
そうですね。“ゾーン”に入っている場合は、そのままやり切ってしまってもいいと思いますよ。無理に休まなくてもいい。なぜなら、2~3時間ぐっと集中して仕事を早く終わらせることができるなら、トータルとしてデジタルデバイスを見る時間は減りますから。
ええ。それには、先ほどネット疲労対策でお話ししたように、人とのつながりを強制的にオフにして、一つのことに集中する時間を設けることが大事。自分の集中を途切れさせる要因をできるだけ排除して、早く仕事を終えられる環境を整えることにこだわってみてください。
「睡眠時間は増えたはずなのに、眠れない」
基本的なことですが、今後もリモートワークを続けるなら、自宅のデスク環境を整えることですね。
本来リモートワークとは、カフェでも家でもどこでも仕事ができる「働き方の規制緩和」が趣旨のはず。しかし今回、緊急事態宣言とともに広まったのは、リモートワークという名の“強制在宅勤務”。働く場所がオフィスから家に変わっただけでした。
座り仕事のエンジニアにとっては、デスク環境は非常に大事なはずなのに、それらを用意する間もなく強制在宅勤務が始まってしまい、調子を崩してしまった人も多かったと感じます。
あとは、睡眠の質を上げることも疲労対策では非常に重要です。
大いにあると思いますよ。
実際、リモートワークに取り組む人が増えて、今までよりも「睡眠時間を確保できるようになった」という人は増えたんです。通勤に往復2時間かけていたとしたら、その2時間が浮いたことになりますからね。ところが、「眠っても疲れが取れない」という人も同じく増えたんです。
体の疲労と脳の疲労のバランスがすごく悪いんですよ。一日中PCやスマホばかり見ていて外出もしないとなると、体は疲れない。なのに、仕事や人とのコミュニケーションによって脳は酷使されている。
人間の眠りの質が上がるのは、体の疲労と脳の疲労のバランスが良くなるときなんです。体を使わない強制在宅生活を送っていては、よく眠れなくなって当然です。
ええ。人類の祖先の猿を見れば分かる通り、人間は「同じところに座って、同じところを見続ける」ようにはできていません。寝ているときに寝返りを打つのも、筋肉を固定しないため。日中ずっと座って作業をするのは、人間にとっては極めて不自然な過ごし方です。
散歩、筋トレ、できるだけ体を動かすようにして、脳だけ疲れている状態を回避していきましょう。
仕事もプライベートも一人きり。待っているのは孤独と疲労
これも先ほどお話しした“中腰理論”と共通しているんですが、脳も同じところばっかり使っていないで、いろいろな場所を働かせることが大事なんですよ。
もしもあなたが一人暮らしでずっと家にいて、PC作業ばかりしている人なら、外に出て人と話すといいです。五感をフルに使って。人と話をするのとPCで作業しているときとでは、脳の使う部分が全く異なりますから、脳疲労という観点でみるとこちらの方が良い。
意味がないことはありませんが、直接会って話した方が効果は高いです。なぜなら対面での情報量とオンラインでの情報量は、実は何倍も異なるから。写真と動画でデータの保存容量が全然異なりますよね、それと同じことです。(感染には注意が必要ですが)
あとね、孤独って人を疲れさせるんですよ。一人で家にいると、ずっと同じことばっかりしちゃうでしょ? すると、脳も同じところばっかり使ってしまうんです。
しかも、東京なんかはコンビニやスーパーに行っても店員さんと一言も話さずとも物は買えるし、宅配の人が来ても物を受け取るだけだし、効率的だけど脳には刺激の少ない環境です。
さらに、リモートワークによって仕事中も物理的には一人になれるようになった。一人になれる職場と、プライベートでも一人になれるインフラが揃うと、待っているのは単なる“孤独”と“疲労”です。
嫌いな人とずっといるのはもちろんストレスがたまると思いますけど(笑)、脳にいろいろな刺激を与えるという意味では、対面で人と会って「雑談」するのがすごく手っ取り早いんですよ。
対面コミュニケーションの場合は、終わりがしっかりあるのもいいところ。じゃあね、と言って別れれば、会話はそれで終わりますから、チャットコミュニケーションのように「レスをはやく返さなきゃ」という強迫観念に駆られることもないし。
はい。人とのつながりをコントロールし、目、体、頭をバランス良く使って、どこか一カ所に高負荷が掛かるライフスタイルを避けること。こうした工夫を一つ一つ積み重ねることで、しんどい疲れがだんだんと解消できると思います。
取材・文/一本麻衣 撮影/小林 正(スポック) 編集/栗原千明(編集部)
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