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「新国立競技場は、最新技術と自然素材の賜物」建築家・隈研吾氏が語る有機主義的なモノづくりとは

ITニュース

    2016年7月21日、ウェスティンホテル東京にてITベンダーのドリーム・アーツが主催したカンファレンス『第4回ドリーム・アーツ エグゼクティブカンファレンス』が行われた。当カンファレンスでは、数々の文化的建造物を手掛けてきた隈研吾氏が登壇し、『持続可能な戦略⇔“Organism”<有機主義> 』と題した特別講演が行われた。

    カンファレンス冒頭で行われたセッションで、ドリーム・アーツ代表の山本孝昭氏は、「テクノロジーが発展していくと同時に、近ごろは地球の限界もリアルに感じ始めてきました。今後のモノづくりの主流テーマは『有機主義』がキーワードになってくるでしょう」と話していた。有機主義とは、生命力を有し、生活機能を有することを指す。有機主義という思想に、これからのモノづくりに対する考え方のヒントがあるのではないだろうか。

    建築家・隈研吾氏

    建築家・隈研吾氏

    隈氏が手掛ける建築は、その地域の特性に合わせた「有機主義的な建築」と言われている。

    例えば、同氏が造る新国立競技場は、屋根も全てが木でできており、太陽光電力で植物に自動で水をあげるようになっている。そして風向きをコンピュータで計算して、風通りを良くする造りだ。決してハデではないものの、人と自然が共存し合い、素材を活かして造られた「やさしい建築」である。

    2020年の東京オリンピックに使用される新国立競技場は、1964年の東京オリンピック時の工業化社会的な建築とは異なる、新しい時代のモニュメントとなるのだろう。ここで、隈氏の講演内容を一部紹介しよう。

    2020年東京オリンピックの新国立競技場は「脱工業化のシンボル」

    前回東京でオリンピックが行われたのは1964年、私は10歳で小学4年生でした。その時に、父に代々木体育館に連れてってもらったことを今でも覚えています。

    代々木体育館を初めて見た時は、「こんなにかっこいい建物があるんだ」と唖然としました。まさに、20世紀の工業化社会のシンボルみたいなもので、巨大なケーブルで屋根をつっている釣り構造の建築物。これは当時の世界の建築技術でも最先端でした。

    個人的には「これは建築家という人が作っているんだ、すごいな。私も建築家になりたいな」と思った瞬間でしたね。今振り返ってみると、代々木体育館は当時のハード技術の結晶だったと思います。

    そして、私が今建築を進めている、2020年の東京オリンピックに使われる新国立競技場であれば、1964年の建築とは対極的な哲学を反映したものにしなければならないと思っています。それを私の言葉で言うと、「有機的な建築」ということであります。

    建設予定の新国立競技場(JAPAN SPORT COUNCILのWebページより)

    建設予定の新国立競技場(JAPAN SPORT COUNCILのWebページより)

    1964年の代々木体育館が、工業・大量生産時代、コンクリートの時代のシンボルだった。それに対して2020年の競技場は、脱工業化社会、1964年よりもやわらかくてあたたかい時代のシンボルにしなければならないと思います。

    そのために、材料として国産の「木」を使うことが、日本の山・森林・川・海といった自然の体系をもう一度再生させるためのきっかけになるようなものでなければなりません。

    有機主義っていうのは、単にやわらかい有機的なカタチをしていればいいというわけではなく、そのモノ・技術が環境全体の一部にならなければいけない。環境全体のシステムを考えたものが本当の有機主義なのだ、というのを、私は強調したいと思います。

    世界の建築が、有機主義にシフトし始めている

    私が手掛けた有機的な建築物の一部を紹介します。まずは、中国の『bamboo house』。万里の長城の麓に誕生したリゾートです。

    中国のリゾートホテル『bamboo house』(隈研吾建築都市設計事務所より)

    中国・万里の長城にあるホテル『bamboo house』(隈研吾建築都市設計事務所より)

    この建築の特徴は、造成(土地に対して地盤面の形状を動かす工程)をしないということ。従来の20世紀型の技術では、造成して地盤を平らにしてフラットな上で建物を建てていました。

    しかし、有機的な建築では、建物の方を緑の斜面に合わせます。そうすることで、もともとあった緑を残して建てることができます。

    材料は地元素材の竹です。内外装すべて「竹」で覆われている造りになっていて、腐らないように加工をしています。新旧技術の組み合わせで成り立つ建築ですね。

    中国の方の中でも、こういった渋い有機主義な建物が好きな若者が増えているようです。昔ながらのディベロッパーであれば、北京や上海に超高層ビルを建てて派手にLEDをつけて、というのを好んでいましたが、今の中国の若者は、低層で緑と一体化していて、その中に新しい技術が隠されている、といった有機主義を好む人が多くいます。

    次に、太宰府天満宮の向かいの場所にあるスターバックスコーヒーの建築も手掛けています。スターバックスにとっても特別な場所となる同店舗では、日本の木組みの一番すごいところ、日本の職人にしかできないことをしようと思いました。

     スターバックス コーヒー ジャパンの太宰府天満宮表参道店(隈研吾建築都市設計事務所より)

    スターバックス コーヒー ジャパンの太宰府天満宮表参道店(隈研吾建築都市設計事務所より)

    コンピュータの解析技術を使って、骨組みを構造体にしています。最先端の技術で、いろんな太さや四点間距離の最適解を生み出しています。他のスターバックスと同じ店舗ではなく、その場所を活かした有機的な店舗を作らなければいけないと考えました。

    実際に、最近ではスターバックスも店舗ごとに違った、地元の素材などを使うようになっています。世界的なチェーン店でも、そのようなことを考える時代になってきたということですね。

    日本が誇る「有機主義的なモノづくり」を世界に示したい

    今や建築も有機主義に動いています。新国立競技場や私が日本で手掛けたその他の建物も、最新技術と日本人の職人や日本の素材の賜物です。

    皆さんが今一番興味を持たれている新国立競技場の建築ですが、今基本設計処理を出して実施設計中です。そして今年の12月にはもう着工しなければならないんです。8万人収容の、あれだけの規模のものを、これだけのクオリティで、短納期で着工まで持っていくのは、日本人だからこそできるのだと思います。

    日本的な、人間同士のコミュニケーションと技術を駆使した設計システム(私は、これも有機主義的だと思っています)のおかげで、今はスケジュール通り作ることができています。

    国立競技場が建てられるのは、明治神宮の森です。歴史のある森を主役に、「有機的な建築のシンボル」を作ろうと思いました。20世紀の場合は、建物の派手さが重視されていましたが、新国立競技場は建物を低くすることから始まっています。

    屋根も全てが木でできており、コンピュータで構造計算をしています。さらに太陽光電力で植物に自動で水をあげるようになっていたり、風向きをコンピュータで計算して風通りを良くしたりしています。

    日本の一番新しい技術を使って、有機的な建築ができているということを世界に示したいですね。まさに、1964年の工業化社会とは、全く違う価値観。新国立競技場は、これから訪れる、やさしい時代のモニュメントとなるでしょう。

    取材・文/大室倫子(編集部)

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