売り手市場が続くエンジニアだけれど、希望の企業の内定を得られるかどうかは別の話。そこでこの連載では、転職者・採用担当者双方の視点から“理想の転職”を成功させる極意を探る
【スクウェア・エニックス】インフラエンジニアの転職成功の決め手は?「数千台のオンプレサーバーに腕が鳴る」
『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズなど、数々の名作ゲームを世に送り出しているスクウェア・エニックス。同社では近年、オンライン機能の付いたゲームを多く手掛けている。
オンラインゲームでは、「安定して遊べるインフラの提供」が肝となる。これを支えているのが、同社のインフラエンジニアだ。10年以上も続く大規模オンラインゲームを安定的に稼働させるインフラエンジニアに必要なスキルとは?
スクウェア・エニックスに中途入社し、インフラの整備・提供を担う片柳勇人さんと、彼の採用面談を担当し、現在は上司として一緒に働く中田康敬さんに聞いた。
株式会社スクウェア・エニックス 情報システム部
ITインフラストラクチャー ビジネスオンラインインフラストラクチャーシステム・グループ マネージャー
中田 康敬さん
『ドラゴンクエストX オンライン』『ファイナルファンタジーXI / FF11 ONLINE』や開発中の新規タイトルなど、オンラインゲームタイトルやその他オンラインが関わる案件のインフラの提供を担当。現在は片柳さんと同じ部署で働いている
情報システム部 システムエンジニア
片柳勇人さん
2012年にクラウド・ホスティング事業を行う会社に新卒入社し、5年間システムエンジニアを務める。主にパブリッククラウドサービスのサーバー、ストレージを担当。2017年9月にスクウェア・エニックスに転職。現在は『ファイナルファンタジーXIV』ほか、サービスの基盤となるインフラの整備・提供に携わる
採用担当者の中田さんに聞いた「内定のポイント3つ」
(1)これまでのキャリアをしっかり棚卸しできていた
(2)少人数で大規模な物理サーバーを長期運用した経験があった
(3)新しい技術について、自ら実験・検証した経験に基づく知見が豊富だった
インフラエンジニアのやりがいを求めて大規模自社サービスの会社へ
片柳:前職では新卒から5年間インフラエンジニアとして働いていたのですが、入社以来関わっていた長期のプロジェクトがちょうど終わったんです。プロジェクトが忙しかった頃はインプットもアウトプットもたくさんあったものの、最後の方は毎日同じ作業の繰り返しになって、停滞感を覚えていました。
その後、新しいプロジェクトにアサインされることになったのですが、直前で中止になってしまって。そこで転職エージェントに登録して、転職活動を始めることにしました。
その後すぐ、スクウェア・エニックスに転職した前職の同僚が僕を誘ってくれて、中田さんと面談をすることになりました。
片柳:自社サービスを提供している会社で働きたいと思っていました。前職にいた時も自社サービスを主に担当していたので、改善を繰り返していくのが楽しかったんです。スクウェア・エニックスは大規模なオンラインゲームタイトルを運営していたので、インフラエンジニアとしてのやりがいがあるんじゃないかと思いました。
片柳:私としては、運用するサーバーの台数が多ければ多いほど面白いと感じます。サーバーの台数が少ない場合と多い場合では、難易度も必要なスキルも異なるんです。著名サービスに携われることもやりがいにつながります。著名なサービスはユーザー数も多く、サーバー台数も大きい。絶対にサーバーを落としてはいけないという緊張感を持って働くことができます。
また、前職ではホスティングサービスを運営していたので、サーバーの上で動くサービスはお客さまのものでした。一方、自社サービスを持つスクウェア・エニックスの場合、サーバーの上で動くサービスも自社が開発したものです。フロントエンドの開発担当とも距離が近く面白そうだと思いました。
中田:当社では大きなゲームタイトルの場合、物理サーバーを数百~数千台ほど運用することもあります。
最近はAWSやGCPといったクラウド型のサーバーを扱うことも増えましたが、サービスのローンチからそろそろ20年になる『ファイナルファンタジーXI / FF11 ONLINE』のようなロングヒットタイトルの場合、運用開始5~6年目くらいからは物理サーバーの方が、運用コストが安くなるんですよね。
当社ではそんなふうに大規模なオンプレミスのサーバーを用意することも多いので、インフラエンジニアとしてはそこに面白さがあるかもしれません。
片柳:転職活動を始めた頃は、まだ本当に転職するか決めきれていなかったんです。だけど転職エージェントの方と最初に面談した時、「職務経歴書を書くことでキャリアの棚卸しにもなります。一度書いてみたらいかがですか?」と言われて。
言われてみればこれまで自分のキャリアをきちんと振り返ったことはなかったので、職務経歴書を書きながら、一つ一つの経験を振り返ってみることにしました。そうしたところ、「自分が思っていたよりもいろいろな経験を積んできたんだ」という自信も湧いてきましたし、「このまま今の会社で働き続けたらどうなるのだろう」と想像することもできました。これによって志望動機や自分のスキルを分かりやすく伝えることができたと思います。
スクウェア・エニックスの面談前には紹介してくれた知人と飲みに行き、仕事の仕方や扱うサーバーの台数などについて具体的に聞いて、入社して働いたときのことを具体的にイメージするようにしました。
長期にわたる大規模なサーバー運用経験が決め手
中田:20代半ば~30代前半で、先輩や同僚の手を借りることなく最初から最後まである程度一人で案件をコントロールできる中堅エンジニアを探していました。
予定以上に案件が増えてきたことと、新しく大型のオンラインタイトルがローンチするなどの事情が重なり、当初の採用計画よりも速いペースでインフラエンジニアを増やさなければならなかったんです。
当時、20人くらいの方にお会いしたのですが、長期間にわたって大規模サーバーの設計・運用を経験したことのあるエンジニアはなかなかいなくて。採用したいと思う人と巡り会えませんでした。
中田:スキルや業務経験などのバックグラウンドが、求めていたところに非常にマッチしました。かなり多くの台数のサーバーを運用し、ネットワークのことを気に掛けながら設計した経験が、当社の仕事に合うと思いました。
特に片柳さんの前職であるホスティングサービスの会社は、自社向けのサーバーではなく、お客さま向けにサーバーを運用しています。そこが大きな決め手になりましたね。
中田:当社のインフラエンジニアは「情報システム部」という部署に所属していますが、この部署は社内向けイントラを担当するチームと、オンラインゲームのユーザー向けインフラを運用するチームが一つになってできたものなんです。
そして私のチームはオンラインゲームのユーザー向けインフラ構築・運用を担当しています。ユーザーにゲームを長く楽しんでもらうためには、ユーザーからお支払いいただいた金額以上に満足いただけるサービスを提供しなければなりません。だからこそ、片柳さんの持つ「お客さま向けに提供するサーバーを設計・運用する」という経験は、当社に非常にマッチしていると感じました。
しかも上流工程の設計をして納品して終わりではなく、長期にわたって運用してきた経験があることも魅力でした。SIerにいた方の場合、上流工程がメインでその後の運用まで手掛けたことのない方もいらっしゃるんです。
少人数でかなりの台数のサーバーを扱い、規模の大きいネットワークを運用していた片柳さんは、このポジションにぴったりだと思いました。入社していただいたら、即戦力としてすぐ活躍していただけるだろうと感じました。
中田:ネットや書籍で聞きかじった知識ではなく、ご自身でさまざまな実験を繰り返して、それを実戦に応用していたところです。「前職でプライベートクラウドをつくったり、サーバーに負荷をかけて実際にどれぐらいのスピードが出るのかを試してみたりしていた」という話をしてくれたのですが、こうした経験からくる地に足のついたコメントを聞いて、実力のある方なんだと感じました。
システム構成や選択できるソリューションの幅が広がりスキルアップに
片柳:長期間運用しているサービスを安定的に稼働させながら、新しくサーバーを入れ替えるようなプロジェクトに携われることです。これはとても難しいことでしたが、新しい挑戦ができてとてもやりがいを感じています。
長期タイトルのみならず、クラウドをはじめとしたホットな技術をつかった新規開発中のタイトルにも関わることができて、新しいスキルが身に付いている手応えもあります。前職と比べてシステム構成やクラウドのソリューションの選択肢が多いところも、技術力の向上につながっていますね。
片柳:面接の段階でざっくばらんに仕事内容を伺えていましたし、これから自分が取り組みたいテーマとも通じていたので、実際の仕事内容は想像していたものとほとんどギャップはありませんでした。違和感なく現場になじむことができたと思います。
前職では一人で案件を担当していたのでもくもくと作業することが多かったのですが、今は複数名で案件を担当することが多いので、チーム内で情報交換したりフォローし合ったりしながら仕事をすることが増えました。そのおかげで、新しい技術にもキャッチアップしやすくなったと感じています。
「より多くのユーザーにオンラインゲームを楽しんでもらいたい」という共通の目的に向かって仕事ができるのはとても楽しいです。
片柳:より一層知識や経験を増やして、多くのことをできるようになりたいですね。今後も実験し、検証して試すことに継続的に取り組んでいきたいと思っています。
取材・文/石川香苗子 編集/河西ことみ
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