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女子高生とのタッグ起業でアプリ誕生! エンジニアに推す「経営しない経営者」という生き方

働き方

    転職、副業、フリーで独立……キャリアの選択肢は広がっているけれど、起業という選択肢にハードルの高さはまだ残る。では、DX全盛時代に起業のカタチはどう変わる? エンジニアが会社を興すことで得られるものは? エンジニア社長への取材を通して“起業研究”してみよう。

    「会社員として“守備範囲の広いエンジニア”になれたのは、学生時代の起業経験があったからだと思います」

    そう話すのは、現在、障害者向け就労支援や教育事業などを手掛ける株式会社LITALICOでエンジニアとして働く横山賢吾さんだ。

    横山さんは筑波大学大学院に在籍していた頃に、女子高生経営者の内山恵梨香さんとタッグを組み、メイク動画アプリを提供する株式会社FirstMakeを2016年に共同創業。2人が手掛けたアプリ『FistMake』は、リリース後から順調にユーザーを増やした。

    しかし、横山さんは大学院卒業後、経営者ではなく、新卒で会社員になる道を選んだ。なぜ彼は、就職というキャリア選択をしたのだろうか。

    そして、会社員として働く中で気付いたエンジニアが起業を経験することの価値とは?

    横山賢吾さん

    横山賢吾さん

    茨城高専を経て、筑波大学大学院にて企業とのサービス開発の実装を担当。個人としてもアプリ開発を行う。2016年に株式会社FirstMakeを創業。現在は株式会社LITALICOにて、開発エンジニア、新規事業を担当している。画像はLITALICO HPより

    瞬く間に伸びた、個人開発アプリが原体験

    ――まずは、FirstMake創業前の横山さんのことを教えてください。

    昔からものづくりが好きで、将来の夢はエンジニア。高専に入ってからは、さまざまなロボットコンテストに向けたロボット製作に夢中でした。

    そしてちょうど高専在学中に、iPhoneが日本に上陸したんです。そこで当時は珍しかった「リアルタイムでカメラにフィルターをかけるiOSアプリ」を作ってリリースしてみました。

    すると、瞬く間にダウンロード数が伸びて、世界中の人からすぐに反応が来て。

    ――それはうれしいですね!

    ええ、すごく印象深いできごとでしたね。

    それからアプリ開発にハマり、世の中に広まるまでに長い時間がかかる研究よりも、すぐにユーザーからの反応が得られる実践的なことを学びたい、と考えるようになりました。

    高専卒業後は筑波大の大学院に進学したのですが、僕が在籍することを決めたのは、企業と共に実践的なプロダクト開発に取り組むコース。そこでは、日々いろいろな企業の方とサービス実装についてお話しする機会に恵まれました。

    横山賢吾さん

    大学院生時代、数々のアプリコンテストなどで入賞していた横山さん(写真は筑波大学『高度IT人材育成のための実践的ソフトウェア開発専修プログラム』HPより)

    ――研究室での経験がきっかけで、起業を意識するようになったのでしょうか?

    いえ、当時は自分で起業するというよりは、「プロダクト開発がしたい」という思いが強かったです。

    でも、ある日研究室で、「スタートアップウィークエンドに参加してみない?」と声を掛けられて。スタートアップウィークエンドとは、金曜の夜から日曜日までの54時間で、チームに分かれてアイデアのプロトタイプを作りあげる起業イベント。

    プロトタイプを作れるのが面白そうだなと思って参加してみたら、たまたま共同創業者になる内山(恵梨香)と同じチームになったんですよ。

    ――そこで『FirstMake』の構想が生まれたんですね。

    内山がその場で、「初めてメイクをするときにどうすればいいか困っていたので、それを解決するサービスがあるとうれしい」というアイデアを出したことが、起業のきっかけになっています。

    ちょうど「これから本格的に動画の時代が来るぞ」と言われていた頃でしたし、当時メイクのHow to動画サービスがほとんどなかったこともあり、内山の話を聞いて「面白そうだな」と思いました。

    それからアイデアを固めて、実際にアプリサービスとしてリリースしようという話に。

    ――これまでと同様にアプリを個人開発するのではなく、起業というかたちを取ったのはなぜですか?

    法人化したのは、内山の「会社経営をしてみたい」という思いを尊重してのことでした。

    僕としても、会社設立の経験は今後も役に立つと思っていたので、起業というかたちは賛成だったんです。

    ――そうなんですね。起業に不安はありませんでしたか?

    全くなかったです。

    研究室で企業の方とやりとりをしたり、インターンをしたりしていたので、何となくスタートアップの雰囲気が分かっていたからだと思います。

    それに、ビジネスに詳しい内山と開発の自分という役割がはっきりしていましたから。アプリ開発であれば、資金面でもそこまで掛かることはないので、不安よりもワクワク感の方が大きかったです。

    卒業後は「自分の働き方を応援してくれる会社」を選んで入社

    横山賢吾さん

    FirstMakeでは「女のコのオシャレの入り口をつくる」というビジョンのもと、初めてのメイクをサポートする動画サービスを開発

    ――FirstMakeをリリースするまでは、どのような苦労が?

    サービスリリース前のハードさはある程度想像していましたが、やはり学業と並行しながらというのは難しかったです。

    創業した後は、同じく学生のメンバーが2人増えて、4人でサービスのリリースまで進めました。とはいえ、技術担当は僕1人。アプリのデザイン、UIUX、サーバー周りまですべてを担当していました。

    ――すべて1人で!?

    はい、正直かなり大変でした(笑)

    開発を進めている途中で新しいアプリの開発環境が登場してその対応に追われたり、リリース前にアプリのコンセプトを何度か変えたので、デザイン、機能面、すべて作り直したり……。

    でも、経営周りやコンテンツ作成は、他の3人に任せっきりだったので、開発にだけ集中できたのはありがたかったですね。

    ――サービスをリリースしてから、反響はいかがでしたか?

    リリース時にオフラインのイベントを開催したのですが、そのイベントには50名以上の人が集まってくれました。ダウンロード数も順調でしたし、想定していたよりもかなり好調な滑り出しでしたね。

    ただ、その後は動画コンテンツの量産体制が安定しなかったり、メンバーが学業や会社との両立で忙しくなってしまったりして、サービスをさらに大きくしていくことにはつながらなくなりました。

    残念ではありますが、今はFirstMakeとしての活動は、ほぼ休止しています。

    ――横山さんも、FirstMakeを創業してすぐにLITALICOに新卒入社したんですよね。新卒で働きながら、自分で起業した会社も続けるという選択をしたのはなぜでしょう?

    もちろんLITALICOのビジョンに共感したのが一番の理由ですが、1社にフルコミットするよりも常にいろいろなプロダクトに携わるという生き方を応援してもらったのも大きいです。

    もともと学生時代にも、インターンや業務委託で5〜6社との仕事を並行していたんです。座学ではなく、実際に手を動かすことで言語を学べるし、業界知識も増えるから面白いなって。

    TVCMがたくさん流れているような大企業で働いたこともあれば、マンションの一室にオフィスを構えるスタートアップで働いていたこともあります。どこの会社もすごく面白かったんですよ。

    なので、「1社にフルコミットするために会社員を選んだ」という感じではないですね。

    ――その中でなぜ、メインがLITALICOだったのでしょうか?

    全国に多くの事業所を持ち、事業横断でさまざまな面白いことができそうだなと感じたことが一つ。そして、複業することを前提に働きたいと面接時に伝えたところ、「全然OKだし、むしろ複業大歓迎です」と言ってもらえたからです。

    現在、LITALICOでは、子ども向けのアプリ開発に携わりながら、新規事業を担当しています。

    ――複業は、数が増えるとバランスよくやっていくのが難しそうですが、いかがですか?

    学生の頃は、複数の会社でサービスリリースが被ったりして大変な時期もありました。ただ、そのときに自分の限界を知ることができたので、今は適切に稼働時間をコントロールしています。

    今でも複業している会社の数に驚かれたりすることもありますが、もともと「この時間はこの作業に使おう」って頭を切り替えて働くことが得意なのかもしれません。

    “1人開発担当”の経験から得たものは大きかった

    横山賢吾さん

    写真はLITALICO HPより抜粋

    ――起業経験が会社員としての業務に生きていると感じることはありますか?

    はい。FirstMakeを開発するにあたって、デザイン、開発、サーバー周りなどをすべて1人で担当していたということもあり、エンジニアとしての守備範囲が広くなったと思います。

    今、働いているLITALICOでもいろいろなプロダクトに携わっているのですが、社内でも「ここまで守備範囲の広いエンジニアは珍しい」とよく言われます。

    もちろん、特定の分野に特化した人と比べたら、知識は劣ってしまう。でも、プロダクトを作る際に技術的にどうしたらよいか、全体像がぱっと浮かぶのは、自分の強みかなと思います。

    あとは、起業家の知り合いが増えたのも大きいですね。いまだに、何か新しいサービスを立ち上げる際に「開発に携わってほしい」と声を掛けていただけるので、すごく刺激的です。

    ――今後、再び起業する可能性はありますか?

    僕自身が経営面にも携わって事業を引っ張っていくというよりは、経営面を任せられる人と組んで、技術担当として関わるかたちだったらあり得るかなと思います。

    僕自身のスタンスは、学生起業したあの頃と変わっていなくて。経営に携わるよりも、エンジニアとしてサービスやプロダクトの開発に集中したいので。

    ――それぞれが得意なこと、やりたいことをかなえられる人とタッグを組むわけですね。

    そうですね。実際に、サービスのアイデアや経営知識はあるけど、技術に関する知識がないという方はとても多いと思います。そういう技術者を欲しがっている経営者の方と組んで起業するのはおすすめです。

    私も内山がいなかったらFirstMakeを作ることはありませんでした。自分では思い付かないようなアイデアを持っている方はたくさんいますから、そういう誰かと起業するのは思いがけない発見や経験が増えて面白いですよ。

    起業というと、「もし失敗したら」と不安に思う人も多いのかもしれません。でも、もしサービスがうまくいかなかったとしても、実装する際に得た知識や技術は自分の資産としてどんどんたまっていきますから、絶対に無駄にはならない。実際、僕自身もそうでしたから。

    会社員としてはもちろん、これから先、エンジニアとして何かを成し遂げたいと思ったときにも、必ず役に立つ経験だと思います。

    取材・文/於ありさ 編集/大室倫子

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