【アバナード安間裕×曽根原春樹 対談】グローバル企業に学ぶ、エンジニアが活躍できる組織のつくり方【ECDWレポ】
成長・活躍できるエンジニア組織づくりに必要な「仕組み」や、それを実践するトップの心得とは何なのか? 今回は、4月13日(火)~17日(土)にわたってエンジニアtypeが開催したオンラインカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク』(ECDW)内のトークセッション「活躍できる環境、どうつくる?アバナード安間裕×曽根原春樹 対談」の一部を紹介する。
セッションは、アクセンチュアとマイクロソフトのジョイントベンチャー・アバナード代表の安間裕さんと、シリコンバレーの急成長企業各社でプロダクトマネジメントを担う曽根原春樹さんによる対談。グローバル企業やシリコンバレーの実情と比較しながら、日本企業の課題やエンジニアが活躍できる組織づくりの方法を語り合った。
日本の“DXの3周遅れ”なんて、すぐに取り戻る
安間:日本の経営者はITをコストとして見ているので、できるだけ使わない方がいいと考えるんですね。さらに経営者が自らDXを進めようという意識が低く、業務は担当者任せ。でも最近は少し意識が変わってきて、ITコストは投資だと捉え、自らDXを語る経営者も現れ始めました。
これまでにも、IT分野ではさまざまな革命がありましたが、もしかすると近年のDXは一番大きな革命かもしれません。ここ15年でDXに取り組んだ会社とそうでない会社を比較すると、利益率の伸びが倍も違うんです。つまり、デジタルは利益を生む。従来、大道具やメイクだったエンジニアが、初めて舞台のセンターに登場する機会を得ているのです。
安間:そうです。企業のIT予算の平均は、アメリカが売り上げのおよそ3%、日本は1%。日本はそのうち80%がメンテナンス費で、残り20%が新規IT投資。一方、アメリカは40%が新規IT投資で、60%がメンテナンス費という割合です。つまり、日本とアメリカでは新規IT投資が6倍も違います。
これは逆に言うと、今日本の企業は売り上げのわずか0.8%でITのメンテナンスしている。一方、アメリカは1.8%もかけています。つまり、日本のITはとても優秀なんですよ。経営者がITに力を与えさすれば、「DXの3周遅れ」なんて、あっという間に取り返すことができると強く思っています。
曽根原:DXという言葉は、ここ数年で日本でも一気に広がってきましたね。企業の経営陣に「DXに本気で取り組まないと、いよいよマズい。先がない」という危機感が醸成され、DXの浸透が進んでいるのは良い流れだと思います。
ただ、シリコンバレーではITやDXという言葉は聞きません。当たり前過ぎて、もはやDNAになっているからです。シリコンバレーのスタートアップは、GAFAに対抗し、投資家の求める成長スピードを実現するために「既存のソリューションやプロダクトで、どうすればより大きな、今の10倍の価値を提供できるか」というところから始めます。
それには根本的に違うことを考えて、違うアプローチをして、そのビジョンやミッションに共感できる人を集めて一気呵成に動く、というスタイルでないと到達できません。ITやDXはそのためのエンジンに過ぎないのです。
良い組織とは、変化を許容できること
曽根原:まず大事なのが、なぜその会社が存在しているかというミッションです。ミッションが人を惹きつけるテーマであったり、社会的問題を解決できるものだったり、本質的であればあるほど、集まってくる人が良質になり、モチベーションも高まり、結果的に良い組織ができます。
日本の会社のミッションは「お客さまのために最先端のテクノロジーを使って……」といった内容が多いですが、たとえばGoogleのミッションは「世界中の情報を整理する」。メッセージとして、シンプルでものすごく強いんですよ。シリコンバレー企業は、そのあたりの言葉の磨き方や選び方が上手です。強いミッションやビジョンがあり、それをきちんと言語化できている。だからこそ世界中から人が集まるんだと思います。
安間:私もミッションやビジョンは重要だと考えます。アバナードに入社する人には、会社のビジョンに賛同してほしいと思いますが、それ以上に「入社後にビジョンを一緒に進化させていく仲間になるんだ」と思ってほしいですね。「進化させる」が重要なポイントです。
曽根原:言葉としてのビジョンは変わらずとも、プロダクトやサービスへの現れ方、価値の提供の仕方などは、どんどん進化していきますからね。
安間:そうです。時間は動いていくので、その変化についていかなければなりません。例えば「(ドラえもんの道具の)ほんやくコンニャクをつくりたい」と思うのもいいけれど、それだけでは大きな価値は生まれません。そうではなく、「みんながほんやくコンニャクを当たり前にポケットに持つようになったとき、必要なものは何だろう?」と想像力を働かせることが大事です。
また、半年のプロジェクトを経れば、メンバーも育ちます。その間、会社でどんな時間を過ごせるか。そして時間が経過した後、結果として自分が成長できるか。この二つに満足できるのが良い組織だと思います。
曽根原:シリコンバレーでは、チームビルディングの理論として『タックマンモデル』がよく議論されます。チームは、フォーミング(形成期)、ストーミング(混乱期)、ノーミング(統一期)、パフォーミング(機能期)という四つのステージを乗り越えて発展していくという考え方です。
チームは生き物で、人も入れ替わるし、課題の大きさよっても変化します。良い組織とは変化できること。変化がどこまで許容されているか、むしろ推奨されているかが、組織の良し悪しの分岐点になると思います。
シリコンバレーのトップの心得は「言行一致」
安間:アバナードは大切にしている四つの柱があります。一つ目は、「Respect each other(お互いを尊重し合う)」。人の意見は必ず真面目に聞く。イノベーションは一人の閉じた頭の中のアイデアや刺激では爆発できなくて、何かしらの化学反応が必要です。お互いを尊重し、人の意見を取り入れることが、自分という殻の限界を超えることにつながります。
二つ目は失敗をencourage(奨励)すること。失敗から学べて変わっていければ、何度失敗しても構いません。三つ目が、楽しいこと。やっぱり働く時間は楽しくないといけませんよね。そして四つ目は、人を大切にすること。難しい意思決定の場面でも、そこは大きくぶれないように心掛けています。
曽根原:トップの心得としてシリコンバレーでよく言われるのが、「Do what you say, say what you do」(自分が言ったことをしろ、自分がすることを言え)。日本語で言うと、「言行一致」です。
シリコンバレーではD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)にエクイティ(公平)を加えた、DEIという考え方が浸透しています。性別や人種の違う人たちが公平に働けるポリシーを掲げ、それを実践する。そしてさらに、実践できた人をセレブレートします。例えば、ハイパフォーマンスな結果を出したチームを、カリフォルニア・ナパのワイナリーツアーにつれていったり、クルーズに招待したり。
会社として何を大切にしているかを言うだけでなく、ちゃんと実践して、なおかつ実践できた人をセレブレートしてあげるサイクルですね。それによって、大切にしたい価値観やカルチャーが組織のDNAになっていく。シリコンバレーの企業はその辺りが上手です。
安間:ほめると、また、ほめられると、気持ちがいいですよね。アバナードは外資系なので国籍も多様なのですが、日本文化の「おかげさま」「お互いさま」という考え方をみんなに伝えています。たとえば育児や介護で早く帰らないといけない時、制度の壁より「私だけ先に帰るとみんなに悪い……」というマインドのバリアーがある。そういう人に「大丈夫」と言ってあげられる、次は自分が早く帰るかもしれないし、“お互いさま”という文化を醸成したいですね。
セッション後半には、Q&Aコーナーも
イベント後半では質疑応答タイムを設け、参加者から寄せられた多くの質問に回答した。いくつかピックアップして紹介しよう。
曽根原:褒められるとうれしいのは人種も国籍も関係ないので、それを会社としてどう表現するかだと思います。日本だとベタな例ですが、達成したらみんなでお寿司を食べに行く、とかでしょうか。
安間:新規IT予算を現状の0.2%から3倍の0.6%に増やし、増分の0.4%を予備費にして、思いついたことをできるようにするのも一案ではないでしょうか。クリエーティブなことをするための「予備費」を持つ考えも大事だと思います。
曽根原:シリコンバレー企業にも中期計画や年度予算の考え方はありますが、事業がそもそもイノベーティブで、何もないところから価値をつくろうとすることに抵抗がありません。一方、日本は既存のビジネスの枠がギチギチに存在する中でシリコンバレー企業的なイノベーションを求めようとするところに無理があります。
革新的な試みは失敗することが当たり前、そこから学んで次に活かす、会社は価値あるディスラプションにはきちんとサポートする、というサイクルを高速に回すという前提でいかないと、ことDXに関してはうまくいかないと思います。
曽根原:日本のエンジニアのテクニカルスキルは、シリコンバレーに負けていません。あとは英語。それから度胸。「自分はこう思うから、このアプローチが絶対いい」と言える自信があると、日本のエンジニアのみなさんもシリコンバレーで活躍できると思います。
安間:自信は大切ですね。遠慮は日本人の美徳ではありますが、仕事においてはもはや美徳ではありません。先ほども言ったとおり、日本のITは優秀です。われわれから世界へ発信し、一緒に日本を盛り上げましょう。
文/古屋 江美子
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