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「丸裸の評価システム」を活用するAppBrewに聞く、“評価者スキル”が若手エンジニアにもたらすもの

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四半期の最終月となる9月は、評価の時期でもある。若手エンジニアの中には、会社からの評価や給与査定額に納得がいかず、不満を抱いている人もいるかもしれない。

そういったモチベーション低下を防ぎ、「実力がある人が集中できる環境づくり」のために思い切った評価制度を採用しているのが、コスメのコミュニティアプリ『LIPS』を運営するAppbrew。

同社ではバリューの一つ「OPEN」に基づき、360度評価の内容や給与額を全て公開している。同期の評価も上司の給与も見放題だ。

一方で、たとえ若手であろうと評価者の役割を担うことになる。そして評価項目の一つには「今この人が自社にいないとして、新規で採用するならいくらまで出すか」という悩ましいものも。

自分や周囲のメンバーの評価を知り、同時に自身も評価者となることで何が得られるのか。取り組み内容を聞く中で、エンジニアが“評価者スキル”を持つ重要性が見えてきた。

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株式会社AppBrew 代表取締役 深澤雄太さん(@YFuka86

1994年生まれ。中学時代に独学でプログラミングを習得。東京大学に入学した2013年に、友人らと共に「東大無料塾」を立ち上げた後、大学を休学しfreeeで1年間インターンを経験する。スタートアップでのシステム開発などを行うフリーランスを経て、16年2月にAppBrewを設立。コスメのコミュニティーアプリ『LIPS』を17年1月にリリース。アジアの各分野で活躍中の30歳未満の人材を選出する「Forbes 30 Under 30 Asia」に選出されている

評価に納得感が持てれば、不当に貢献欲求をつぶす事態は防げる

――評価内容も給与額もフルオープン。大胆な取り組みですが、この評価制度はいつから行っているのですか?

2018年の夏に試験的に始めました。システムを入れて本格的に開始してからは、約2年がたちます。

――制度を導入した背景は?

「実力がある人が集中できる環境をつくりたい」という思いがベースにありました。プロダクトを開発する上で、価値が出せる人をきちんと評価したい。階層構造を抜きに全員が対等の立場で評価できるようにしたいと考えた結果、「給与を公開してしまおう」と。

――「実力者を正当に評価するために給与をオープンにする」という発想が起点なんですね。

そうですね。時代的にも説明責任が求められるようになり、情報公開をする方向に動いていると思っていて。そういう意味では自然な発想でした。グレードで区切って数十万円単位で給与額が分かるようにしている企業も結構ありますしね。

詳細な数値まで出す企業は珍しいですけど、会社規模が大きくなるほど公開するのは難しくなる。一度公開されたものを隠すのは簡単ですし、それなら社員数が少ないうちにやってみようと思いました。

給与が公開されて数字が見えればだいたいの給与相場をみんなが理解できます。360度評価がワークするだろうと考えて制度を設計し、そのための評価システムは自分で作りました。

――周囲のメンバーと比較をした上で、自分の評価がどうなのか判断できる。納得感はありそうですね。

ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』には、モチベーションには外発的なもの(2.0)と内発的なもの(3.0)があると書かれています。

お金は外発的なモチベーションを生み出しますが、それが正当かつ適切なものでない場合、内発的なモチベーションをつぶしてしまうケースは結構あると思っていて。評価に納得感が持てれば、そうした事態は防げるのではないでしょうか。

AppBrew

「誰が誰をどう評価したか」全てを見ることができる

――評価フローについて教えてください。

評価はクオーターごと。振り返りを自分で書き、それを基にシステム上で評価リクエストを送ります。

評価リクエストを送る相手は、直近の上長とチームの人、できれば違う部署で関わりがある人など、3〜5人ぐらい。誰が誰を評価するかを決めてしまうと本当の意味での360度評価ではなくなってしまうので、評価者は自分で選んでもらっています。

評価リクエストを受け取った人は振り返りシートを見て、評価入力フォームに入力。行動指針に基づいた定性評価、アウトプットやプロセスの定量評価、その人を採用する際のオファー金額の大きく三つの評価項目があり、アンケート感覚で回答できるようになっています。

AppBrew

実際の評価入力画面。AppBrewの行動指針「OPEN」「LEAN」「OWNERSHIP」「USERFIRST」のそれぞれに即した行動ができているかや事業貢献、採用貢献にまつわる項目を5段階+コメントで評価する

AppBrew

「給料について」の項目。「今この人が会社にいないとして、採用するとしたらいくらまで出せると思うか」という質問内容に年収で回答する。シビアで自由度が高すぎる一面があり、基準を明確にした上でグレード・段階式での評価に変更する方向で進めているとのこと

評価結果はシステム上で行列演算で影響度を元に重み付け(PICSY)られ、正規化した上で計算されます。そして、それを基に査定を付けています。細かいレギュレーションはありますが、これが基本の流れですね。

——評価や給与額に納得がいかない場合は?

自分の適正な評価や金額を自薦他薦問わず申告できるフォームがあり、それを基に査定も見直します。物価や株価と同じで完璧な評価はないと思っているので、メンバー全員にとって大きな違和感がないことが大事だという考え方でやっていますね。

なので、情報は基本的に全てオープンです。振り返りシートや評価の内容、給与は全員が見られます。

AppBrew

評価結果から換算したスコアや想定給与など、社員全員の評価内容がシステム上で公開される

また不当な評価だと感じた場合、クローズドなフォームから異議申し立ても可能です。過去に1、2回使われたことがありますね。

――評価者として、誰が誰を指名したかも公開されるんですね。
AppBrew

評価者リクエストが一覧表示される

そう。なので、「甘そうな人だけにリクエストしているな」というのは分かってしまいます。

――期初に「この人に評価してもらおう」と決めて、その人に対して態度を良くして評価を上げることもできる……?

できると思いますけど、「自分の評価に関わる人に良い顔をする」といったことは社会全体で起きていますよね。少なくとも、上長だけが評価するよりも、立場の違う複数人が評価する方がそういうことが起きにくい分、本質的だと考えています。

あとは評価リクエストを受け取っていなくても自由に評価を付けられる『お節介評価』もできるので、恣意的な態度にはツッコミがはいります。

AppBrew

任意で自分から好きな人を評価することも可能

――アピール上手な人が評価されやすくなりそうな気もしますが。

評価に限らず会社や事業に関する情報も全部公開されていて、みんなの働きぶりが分かるのでうそはバレます。その前提であれば、自分の功績や反省点を正確に伝えられる人の方が仕事もできることが多いと思いますし、評価が高いのは妥当かなと。

評価し、評価される中でビジネス視点は身に付く

――一方で、たとえ若手であっても評価者の役割も担うわけですよね。「今この人がいないとして、採用するならいくらまで出すか」という項目、入力するのは難しくありませんか?

相場が分からない場合は転職サイトを見るなど、相場感をキャッチアップするところから始まります。他の職種の相場を知ることは一見業務に関係なさそうですけど、採用活動の際にプラスに働くんですよ。

最近のスタートアップでは全員採用を思想として掲げる会社も多いですが、他のメンバーの給与額を理解していることで「どのくらいの給与レンジの人を採用するか」という視点の解像度が上がる効果もあると感じています。

――できる人が正当に評価されるのは良いことですが、給与や評価がフルオープンって相当シビアでは?

そうですね。実力や自信がある人にとっては良いですが、仕事がちゃんとできないと逃げ場がない面は正直あります。そこは課題でもありますし、会社規模に応じて評価の公開範囲・評価項目・計算方法などは順次調整していこうと思っています。今がベストとは全く思っていません。

また、たとえ当社で成果が出せなくても、それはその時点でオファーした役割とうまくマッチしなかっただけで、決して「=ダメな人」ではありません。早期に合う、合わないが分かれば、業務プロセスや役割の見直し、社内異動や転職など、キャリアを見直すことだってできるはず。日本の雇用は安定・継続が前提ですけど、マッチングの確認をスピーディーにできるのはメリットだと思っています。

AppBrew
――エンジニアにとって、評価し、評価されることのメリットはありますか?

二つあって、一つはスキルの価値の目線合わせができること。うちには優秀なエンジニアが集まっていますが、彼らと自分のスキルを相対で見比べ、常に過不足を調整しながらスキルを伸ばすことができます。

当社の場合、例えばサーバーサイドエンジニアがモバイル開発をするなど、新しい技術を学んだりスキル幅を増やしたりすることを歓迎していますが、他の人の評価が新しい領域に手を出す際のベンチマークにもなっています。

――もう一つは?

エンジニアリング以外の視野が広がることです。僕自身エンジニアとして『LIPS』リリース時のコードの7割ぐらいを書いていましたが、技術や専門性だけがお金になることはあまりないと思っていて。

むしろ社会で働く上で大事なのは、技術を用いていかに課題解決を行い、ビジネスとして通じるようにコンバートしていくか。

その際に、「事業課題に対して解決ができているのか」「チームで課題解決をするためにどういう人が必要で、人件費はどのくらい掛かるのか」といった感覚が必要とされますが、それは評価されたり評価したりする中で身に付きます。

――つい自分の成長にベクトルが向きがちですが、会社や事業に目を向ける重要性はどういうところにあるんでしょうか?

その人がアドバイスをするだけで価値があるレベルの専門性を持つ人って、おそらく1000人に1人とか、かなり限られるはず。本当に自信がある人以外は、少しでもビジネス視点を業務の中に取り入れていかなければ、給与や成長が頭打ちになってしまう危険性があります。ビジネスのコンテキストを踏まえた上で、アウトプットを会社や事業の価値に変換する方法を考えなければいけません。

若いうちは特定のスキルに強みがあったり、複数の言語やプラットフォームが使えたり、一定のトラフィックがさばけたりといった指標だけでも価値になります。ただ、「コンテキストを理解した上で何をするか」という視点は、いずれ必ず求められる。技術とビジネス視点の比率が変わるタイミングは絶対にくると思います。

本来エンジニアは専門職ですから、技術力を見て明確に評価されます。それは素晴らしいし、正当なことですけど、それ以外のファジーな部分も社会で生きていく上では付きまとう。その視点は持った方がいいのではないでしょうか。

評価者スキルが身に付く鍵は「情報公開」と「意見の主張」

――ほとんどの企業では、若手エンジニアが評価者になることはありません。そうした中で評価者スキルを身に付けるためのアドバイスはありますか?

まずは会社や事業全体に対する、自分の仕事の立ち位置や役割を把握すること。

どういう課題に向き合っていて、それが事業にどのような影響を与えるのか。既存事業の「やれば伸びる部分」を頑張っているのか、新しい試みや課題に向けて走っているのか。

与えられている仕事をただ回すだけではなく、事業上のコンテキストを把握した上で、どのくらい自分が役に立てているのかを考える。他のチームメンバーやステークホルダーがそこにどう関わっているのかまで理解し、動くように意識するといいと思います。

その際の土台となるのが、情報公開です。全ての会社が給与を公開すべきとは思わないですけど、ある程度目安の給与レンジや基準の公開は必要です。会社や事業全体を理解するために必要な情報もそう。

仮にそういった情報が公開されていないのであれば、僕は転職した方がいいと思います。自分の評価ができないですし、市場での自分の価値が分からないことは、人材の流動性が高まる中でリスクですから。

AppBrew

一方で、情報公開がされている環境でなら、ある程度評価者スキルは身に付けられると思います。その際に重要なのが、自分からコミュニケーションを取ること。

特に評価に納得感がないのなら、直接話すのが一番です。ただの説明不足というケースは多いと思います。日本企業は階層構造がしっかりしている分、自分から発言したり明確な意見を言ったりする人が少ないけれど、そこは自分で主張する姿勢が必要なのかなと。

そもそも違和感を放置して、勝手に良くなることってあまりないじゃないですか。終身雇用だったらそれでもお金を得られ続けられますが、そうでない今はうまくいかないことを放っておくと、状況はどんどん悪化してしまいます。

――違和感を解消するためにコミュニケーションを取って、それでも納得がいかなければ転職すればいい?

そうですね。転職活動をすれば他者の評価軸や世の中の評価の相場がよく分かります。情報収集をした上でやっぱり評価がおかしいのであれば転職すればいいし、逆に自己評価が高すぎただけで、会社の評価が適切だったと気付くこともあると思います。

――自社内、業界内、世の中全体と、あらゆる角度から自分を客観的に評価できる人が増えると、いずれ企業や採用市場にも変化が起こりそうですね。

マネジメントには二つの軸があるという記事を、最近Twitterでシェアしました。

一つは意思決定で、合議型かトップダウンか。もう一つが権威性で、階層型かフラットか。これに当てはめると、中国とアメリカは意思決定がトップダウン寄りで、権威性は中国が階層型、アメリカはフラット寄りの文化です。一方の日本は、意思決定が合議型で権威性が階層型。

スタートアップ的にスピーディーにビジネスを変化させていくこれからの時代には、トップダウンでフラットな方が競争力が高まります。そういう意味では、会社や事業の状況を把握して、自分を客観的に評価し、適切なスタンスを取って自ら意思決定できる人が増えると、いずれ国際競争力も高まるのではないでしょうか。

あとはシンプルに、悪い商品が良い商品よりも高い金額で売られている状況は、市場としても非効率。長く持続はしません。

自分自身を商品と考えたとき、良い商品を値切ってきたり、「金さえ出せばいい」と思っていたりするようなお客さんよりも、適切な価格を付けてくれるお客さんに気持ちよく売った方がいいですよね。その判断をするためにも、適切な評価スキルを身に付けることは重要だと思います。

取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)

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