■齊藤氏の「プロダクトマネジメント道具箱」■
・Outlook
・PowerPoint(特にSmartArt機能)
・Excel
・SiteCatalyst
・社内の計測ツール
18年間プロダクトマネジメントを生業にして来た男を支える「5%の光」とは~楽天トラベル齊藤満氏の流儀【及川卓也のプロダクトマネジャー探訪】
【よく使うツール】PowerPointのSmartArtで「問題の核」を探し続ける
及川 ここからは、齊藤さんが日常的に使っているツールの話を聞かせてください。仕事をする上で、これだけは欠かせないという道具はありますか?
齊藤 多分一番使ってるのは、OutlookとPowerPointですね。特にPowerPointは、考えをまとめる時や、物事を人に伝える時にも使っていますから、一番活用しているツールだと思います。
及川 具体的にはどんな風に?
齊藤 PowerPointの中に、『SmartArt』というテンプレートがあるじゃないですか?一般的にはキレイな図を描くためのツールだと思われているんですが、私にとってはアレが自分の考えをまとめるためのフレームワークなんです。
その時々で私が問題だと思ってることを、図解しながら分析するのに合いそうなSmartArtを選んで、ボックスに情報を当てはめながら考えていくんです。
このやり方の良いところは、途中でしっくりこなかったら、別のSmartArtに情報ごと置き替えられること。特によく使っているフレームワークはコレですね。(中心と上下左右にボックスがあるSmartArtをPCに表示しながら説明を続ける)使い方としては、コアな問題だと当たりを付けた情報を中心に入れて、その周りに周辺情報を入れていきます。
記入してみて違和感があれば、コアな問題ではないという判断して、しっくり来るまで情報を入れ替えたり書き換えたりしてみます。
及川 要は、「そもそも何が問題なのか?」を把握するために図解を駆使すると?
齊藤 あ、そうかもしれません。問題さえ分かればその先の一手が打ちやすくなりますし、自分の考えに確信が持てたらPDMの仕事の半分は終わりだと思うんですよ。
及川 さきほど、PRDはエンジニア抜きで作成するとおっしゃっていましたが、それができるのも「問題のコアは何か?」をしっかり把握しているからでしょうね。
齊藤 まさに。おっしゃる通りです。
及川 僕も似たようなやり方として、よくマンデラアートを使ったりしています。その他、データ抽出や解析の時は何を使っていますか?
齊藤 自分でSQLのコマンドラインを叩いてデータを取得して、Excelに入れていますね。解析では、Adobe Systemsさんのアクセス解析ソリューション『SiteCatalyst』を使ったりもしています。
及川 基本的にはMicrosoft製のツールが多いですね。古巣だけに(笑)。
齊藤 いろいろ便利なツールは出ていますが、私としては一番使い慣れているモノでやり続けている感じです(笑)。
【スキルを伸ばす方法】「95%の大変なタスク」をやり続けるには楽観性と謙虚さが大事
及川 齊藤さんのキャリアが面白い点は、Microsoftと楽天という日米の会社と、OSとWebサービスという異なる分野の開発を経験されている点です。PDMとして、それぞれの環境で普遍的に活かせたスキルと、ゼロから学ぶ必要があったスキルがあった思いますが、その辺はいかがですか?
齊藤 メンタリティーの部分では違いがけっこうありますね。例えば「Webは常にβ版」であるという考え方がありますよね? とりあえず動くものを出して、ABテストを繰り返して成長させるというのがWebのダイナミズムの源泉だと。
これ、頭では分かっているのですが、Windowsを作っていた時は「お前がベストだと思うものを出せ!」と言われ続けてきたので……いまだにこの違いの間で葛藤することがあります。
逆に、開発する対象が変わっても普遍的に使えると感じたのは、UIやUXに関するスキルですね。シンプルさとか、流れるような目線の動きを実現するためにはどうすべきかとか、そういう部分はOSもWebも変わらないのではないかと思います。
及川 異なる開発チームの中でPDMをしてこられて、結局齊藤さんの強みって何だと考えていますか?
齊藤 イシューが分かれば必ずソリューションを導き出せることが、私の強みのような気がします。そう思えるようになったのは、ひとえに経験のおかげでしょうが。
及川 では、経験がなかった若いころは、何を強みにされていたんですか?
齊藤 Microsoftに入って、プログラムマネジャーとして駆け出しだったころは、スキルがない分、もう働く時間でカバーするしかなかったです。
及川 量が質を凌駕する、と?
齊藤 ええ。でも、この記事を読んでいる方々は、そんな答えは期待してないですよね、たぶん(笑)。そうですね……思い当たることがあるとしたら、誰にも物怖じせずコミニュニケーションができることが、最初の強みだったように思います。
及川 具体的に教えてください。
齊藤 私がマイクロソフトの日本法人で仕事をしていた2000年代初頭は、WindowsのOEMにおいて世界有数の技術力を持ったデバイスメーカーや通信会社が山ほどありました。そこに気軽に出かけていって、「分からないので教えてください」と素直に言えたことが、結果的に良かったのだと思います。
そういう率直なコミュニケーションができたので、取引先の日本人には「お前、アホやな。教えたるわ」とかわいがってもらえたんじゃないかと思います。そして、そうやって培ったコネクションがあったから、アメリカに移った時も「Saitoは世界最先端の技術に詳しいから」と信用してもらえたんだと。
及川 齊藤さんが持っているような“楽観力”って、意外と大事ですよ。結果が出せる自信がない人はプロダクトを作れないし、チームも引っ張れないですから。後は謙虚さも大事。この2つが表裏一体になることで、プロダクトマネジャーは育っていくんだなと、お話を聞いて改めてそう思いました。
齊藤 まとめていただき、ありがとうございます(笑)。
及川 もし周りに「これからPDMになりたい」という若者がいたとしたら、どんなアドバイスされますか? 例えば、齊藤さんの推薦図書のようなものとか。
齊藤 まぁ、何冊かはあります。
例えば戦略的思考とは何かを学ぶには『Critical Thinking Skills For Dummies』がオススメですね。
ロジカルシンキングやクリティカルシンキングについて学ぶのだと、『An Introduction to Critical Thinking and Creativity: Think More, Think Better』や『Handbook of Research on Advancing Critical Thinking in Higher Education』などが良書だと思います。
ただし、及川さんもよくご存知のように、プロダクトマネジメントは非常に複雑な事象を紐解きながら打ち手を考え続けなければいけない仕事なので、本を読んで「これで全て分かった!」となるような代物じゃないですよね。
及川 おっしゃる通りです。では、質問を変えて、「こんな人はPDMに向いている」という傾向のようなものはありますか?
齊藤 何かあるかな……。あ、そういえば、私がPDMの採用インタビューをする時に必ず聞いていることがあります。
及川 どんな質問を?
齊藤 「PDMは、常に能力の制限、物理的な制限、リソースの制限と向き合わなければなりません。コミュニケーションの中心にいることもあって、95%は、すごくキツいタスクです。でも、手掛けたサービスやプロダクトを通して、世界中の人たちのお役に立てる。私はその5%の光で、95%の大変なタスクに耐えられるのですが、あなたにも同じことができそうですか?」という質問です。
及川さんの問いに対して直接の答えになっていないですが、それが「ある」と本気で思える人には、PDMとして成長していく可能性があると思っています。
及川 でも、採用インタビューだと、よく考えずに「あります!」と答える人もいそうですね(笑)。齊藤さんはどこで適性を見分けますか?
齊藤 その方が「楽しめる」とおっしゃった理由を、具体的なエピソードを交えてお話してもらいます。そこまで突き詰めて聞くと、言葉に詰まる人が多いんですよ。実は「楽しさ」というのはそんなに浅い話じゃないということなんです。
「ロジカルシンキングが得意」だとか、「答えを出すまで考え抜けるかどうか」といった、テクニカルな素養は、その後に見るべきものだと思っています。
及川 ありがとうございます。それでは最後の質問です。今日はエンジニアtypeの取材なのであえて伺いますが、プログラマーやエンジニアがPDMとして成功することは可能でしょうか?
齊藤 もちろん、成功する人はいると思います。でも、個人的には「何を作るのかを考える人」と「どのように作るかを考える人」の能力は別だと思っています。
及川 前者がPDMの役割だとしたら、後者はプログラマー向き、ということですか?
齊藤 一般論としては、そうだと思っています。優秀なプログラマーだから、エンジニアとしての実績が素晴らしいからといって、必ずしもPDMとして成功するとは言い切れない。
及川 確かに、テクノロジーをよく知るがゆえに、心の中でブレーキをかけてしまうことはあり得ますね。かといって、能力が低いプログラマーやエンジニアができる仕事でもありません。
齊藤 PDMに限ったことではないでしょうが、何かを諦めた人が容易に選ぶべき職業ではないと思うんですよ。
及川 私のところにも「私も年齢が年齢なので、そろそろプログラマーを卒業してPDMになろうと思います」っていう人が時々来られますが、そんな時はやんわりと「向いていないですよ」ってお伝えするようにしています(笑)。
自分が限界だからといってそこを目指すというのは、そもそもその職業をやってる人に対して失礼だし、そういうものではないんですからね。
齊藤 そう思います。
及川 ただ、齊藤さんはおっしゃいませんでしたが、エンジニアにもいろんなタイプがいます。アルコリズムの改良が得意だったり、実装能力に長けていたりする人もいれば、プロダクトマネジャー的な発想でUXを考えているエンジニアもいます。
後者のタイプなら、仕事の延長線上にPDMのキャリアがあってもおかしくないですよね。
齊藤 そうですね。エンジニアとしての指向が後者であれば、十分に可能性はあると思います。
及川 今日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました! これからのご活躍に期待しています。
>> 及川氏が作成した、Incrementsにおけるプロダクトマネジャーのジョブディスクリプション(GitHubページ)はこちら
>> 楽天トラベルにおけるプロダクトマネジャーのジョブディスクリプション(採用ページ)はこちら
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取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)
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