採用担当者はどこを見ている?
エンジニア転職「成功の仕様書」売り手市場が続くエンジニアだけれど、希望の企業の内定を得られるかどうかは別の話。そこでこの連載では、転職者・採用担当者双方の視点から“理想の転職”を成功させる極意を探る
採用担当者はどこを見ている?
エンジニア転職「成功の仕様書」売り手市場が続くエンジニアだけれど、希望の企業の内定を得られるかどうかは別の話。そこでこの連載では、転職者・採用担当者双方の視点から“理想の転職”を成功させる極意を探る
2017年6月に創業して4年半、2021年7月には総額15億円の資金調達に成功し、勢いを増すスタートアップ、10X。
10Xが手掛ける『Stailer(ステイラー)』は、小売りチェーンのECサイトの垂直立ち上げを実現するプラットフォームで、大手スーパーの『イトーヨーカドー』や『ライフ』などでも採用されている。
10Xでは『Stailer』の開発にあたって、サーバーサイドも含め開発言語を「Dart」一本に絞り、Googleのモバイルアプリ用フレームワーク「Flutter」を採用。以前エンジニアtypeでも取り上げた通り、全社で使用する言語を統一した経緯がある。
>>Flutter採用で“フルDart”体制へ。スタートアップ10Xが「全社で言語統一」を選ぶ理由
しかし、10Xのエンジニア採用では、Dartを使った開発やFlutterの経験は問われない。なぜなら、開発言語の経験値よりも「重視したいポイント」があるからだという。
同社CTOの石川洋資さんと、実際に10Xに「Dart・Flutter未経験」で入社したエンジニア杉浦楓太さんに、「内定を出したポイント」と「入社を決めたポイント」をそれぞれの立場から教えてもらった。
採用担当者の石川さんに聞いた「内定のポイント3つ」
(1)技術ドリブンでなく、イシュードリブンな思考ができる
(2)問題解決型でアクションプランを立案できる
(3)社内のメンバーを巻き込み、主体的に開発を進めた経験がある
――そもそも、杉浦さんが今回転職しようと思われたきっかけは?
杉浦:前の会社で働いている中で、会社の目指す方向性と自分のやりたいことにギャップを感じるようになったんです。前職はどちらかというと技術ドリブンな会社で、「今持っている技術アセットを使うとどんなサービスが作れるか」という考え方をすることが主でした。
そうしたやり方も一つだけど、僕は「誰かの課題を解決するためのサービス」を作りたくなってきて。
加えて前職は、スタートアップの中でもアーリーステージの会社だったこともあり、エンジニアリングとは関係のない事務仕事に追われて、開発業務に100%集中できないシーンも度々あったんです。
もう少し成熟した会社で、自分の持つ経験やスキルを最大限に生かしてプロダクトづくりにコミットしたい。そう思って、転職活動を始めました。
――新卒でアイスタイルに入社した後にメルカリ、前職と過去2回の転職経験がありますが、特に今回の転職活動ではどういったポイントを重視して会社選びをしていたのでしょうか。
杉浦:転職理由とも重なりますが、「ユーザーの課題に応えるプロダクトを作っていること」「プロダクト作りに集中できる環境」の二つをマストで見ていました。
プロダクトについては、ジャンルやtoB、toC、使っている技術、言語などにはこだわらず、どんな課題を解決しようとしているのかや、「他の会社ではできないこと」をやっているかどうかを重要視していましたね。
この辺りは外に出ている情報だけでは判断が付かない部分もあったので、カジュアル面談を通じて、サービスが生まれた背景や今後の展望を確認するようにしました。
環境面については、アーリーステージを抜けたミドルステージ以降の会社であることの他に、中で働くメンバーのことも見ていました。
10Xもそうですが、最近はメガベンチャーの立ち上げ期を経験した人たちがスタートアップをつくるケースが増えてきています。そういう、「2周目」の方が多くいる会社には多くの刺激がありそうだなと。
そうした視点で6~7社とカジュアル面談をした結果、最終的に10Xを含む2社で迷い、両社で一定期間トライアルで働いた末、10Xへの入社を決めました。
――決め手は何だったのでしょう。
杉浦:ひと言でいうと「ワクワク感」ですね。10Xは僕がこれまで働いてきた3社とも、転職活動中に見てきた他の会社とも一味違った感覚があったんです。
例えるなら、これまでに見た会社はいろいろな役割の人が集まって一つの目標に進む「ラグビー集団」のようなイメージ。それに比べて、10Xは「侍集団」みたいな感じで。
エンジニア一人一人が高いスキルと経験値を持っていて、いろんな役回りを果たせる。そういう人たちがチームで開発して、臨機応変に協力し合っている、みたいな。自律したエンジニアが集まって、それで組織が成り立っているような雰囲気があったんですよね。
石川:実際に10Xでは「自律する」「背中を合わせる」というバリューを会社として掲げていますし、どのエンジニアも役割を決めず必要に応じてマルチスキルで働いています。
石川:チームの中で誰もがフロントエンドにもなれるし、サーバーサイドにもなれる。4~5人のチームの中でどこか足りない役回りがあっても、誰かがスライドしてチームが成り立つ。そういう、個人個人のスキルや胆力に支えられている組織だと思います。
杉浦:そうした体制に強く惹かれた反面で、自分自身はこれまでそういう働き方をしたことがなかったので、この「強い人たち」の中で成果が出せるかというのは心配ではありましたが(笑)
――エンジニアの役割を明確に定めていないという話がありましたが、当時のエンジニア採用では、候補者に何を特に求めていましたか?
石川:当社のエンジニア採用ではSRE、テスト、QA、PM以外はざっくり「ソフトウエアエンジニア」というロールで募集をしています。10Xには今、僕を含めて15人のエンジニアがいるのですが、みんなマルチスキルを持った人たちです。
採用においても、これまでは個人に一定の幅広さを求めていました。ただ、これからは事業と組織の拡大にあわせて「目的に合わせて多様な手段を選択できること」をより高いレベルで実現していきたいので、特定の領域に強みを持つメンバーも迎えていきたいと考えています。
あとは、イシュードリブンで物事を考えて仕事を進めてきた経験や、その素質があること。
杉浦さんの面談の際も、「目的を達成するためにチャレンジができるか」や、「問題解決に本気で向き合えるか」、「意思決定を自分自身でしてきたか」などを確認させてもらいました。
──DartやFlutterの経験についてはいかがでしょう。
石川:技術スタックはもともとそこまで重要視していなかったですね。そこがアドバンテージになるのって、最初の1週間からせいぜい3カ月くらいまでで、長い目で価値を発揮できるかどうかは課題に対するアプローチの仕方や問題解決力、それまで積み重ねてきた経験の方だと考えているので。
杉浦:そういえば採用要項にもFlutterやDartの経験については書かれていなかったですよね。僕自身も10Xには、特定の技術や手段ではなく「ユーザーに何を届けるか」や「課題を解けるかどうか」を重視している印象を持っていたので、自然と「Flutterができなければいけない」とは考えていなかったです。
──その上で、杉浦さんの印象は?
石川:杉浦さんとは古巣が同じということもあり、実際に会ったことはなかったものの、人づてにお話を聞いたことがあったんです。それで「ユーザー目線が強く、プロダクトが好きな人」という印象はもともと持っていて。
面談で話してみて、そのイメージは間違っていなかったなと思いました。例えば技術の話一つとっても、「会社やユーザーにとってどういう意義があるのか」を常に気にしていて。プロダクト開発の目的をしっかり把握しようとするところが好印象でしたね。
これまでに新規事業のプロダクト開発に関わった経験も豊富で、ユースケースを大事にする姿勢も良く、10Xに合うだろうなと選考の早い段階で感じました。
──面接では、具体的にどんなことを確認しましたか?
石川:杉浦さんの面接に限りませんが、自分でプロジェクトを引っ張ってきた経験があるか、チームを率いてきた経験があるかについてはエピソードベースで詳しく聞くようにしています。これは、ある課題があったときに、本人がそれをどうとらえて、どういう変化を実現したのかを探る意図です。
杉浦さんの場合は開発を推進してきた経験を聞いてみても、彼自身の問題意識の強さがよく表れていました。
──最終的に、杉浦さんの採用を決めたポイントは?
石川:10Xでは選考の最後に1日以上実際に一緒に働く「トライアル」というステップを設けているのですが、そこで一緒に働いた時に、イシューへのアプローチの仕方がすごく魅力的だったんですよ。
トライアルの内容は、NotionやSlack、GitHubなど実際に入社するのとほぼ同様な環境を用意し、情報を提供した上で、『Stailer』がさらに成長する上での課題を提示してもらい、一定の期間でその解決に向けてアプローチしてもらう、というもの。
短い期間で解くべき課題の範囲を特定して、やるべきことやできることをどれだけ見極められるか。あとは、自分一人では解けない問題も多い中で、自分より詳しい人やスキルに長けた人に聞いたりディスカッションしたりしながら、自律して問題を解決していけるかも大事だと思っています。
エンジニアって結局は「どうやって目の前の困りごとを解決するか」っていうHowの仕事じゃないですか。短期間だったらとりあえずAPI連携するとか、短期的な成果を出そうと思えばそれもできるわけですよ。
でも、杉浦さんはちゃんと一つ一つの課題の背景を深掘った上で「この機能を実装するとして、どのような形で組み込むのが最適なんだっけ」というところまでブレイクダウンして考えていただいたのが良かったですね。
やっぱり大切なのは、会社としてそのHowに取り組むことで、最終的にユーザーに何を提供できるか、ということなので。
──絶賛ですね。杉浦さんはどんなふうにしてトライアル期間の仕事に臨まれたのでしょう。
杉浦:Notionのアカウントをもらった後、重箱の隅をつつくような感じでプロダクトの中身やチケットを隅々まで見ていきました。
すると、お客様へのN1インタビュー(ユーザー一人一人へのヒアリング調査)のログが大量にあるのを見つけて、片っ端から読みました。それを元に、課題を洗い出していったんです。
トライアル期間とはいえ、プロダクトの内側を見せてもらえるのはとても貴重な機会。だからこそ、見つけたイシューに対しては「やっつけ」な解決方法で済ませるのではなく、解決に至る道のりをしっかり提案しようと思いました。
──石川さんも「楽しようと思えばできてしまう」と仰っていましたが、杉浦さんが「やっつけ仕事」をしなかった理由は?
杉浦:もともと課題を解くのが好きなタイプなので。見つけた疑問は徹底的に消化したいし、自分に分からないことがあればキャッチアップしたい。そういう性分なんです。
石川:採用側からすると、その愚直さがすごく良かったんですよね。
何かのイシューがあったときに「そのイシューが解決したら本当にうれしいのか」を考え、最適な手段を選び、ゴールへの差分を適切な道筋で埋めていく。そういう人が10Xでは必要とされているので。
──実際に入社してみていかがですか?
杉浦:めちゃくちゃ楽しいです。面談やトライアルで受けた印象通りの会社でしたね。
今は、開発チームのメンバーと一緒に「デカいイシュー」をどうやって解くか、毎日考えてます。
自社のバリューに「自律」を掲げているだけあって、重要な意思決定も任せてもらえて、責任の重さとやりがいの両方を感じますね。
入社して1カ月くらいは、10Xの文化やルール、DartやFlutterのキャッチアップが必要でしたが、早く成果を出したいという気持ちが勝って辛さは全然なかったです。
──DartやFlutterを使うのは初めてとのことでしたが、問題はありませんでしたか?
杉浦:何とか……! ただ、入社して少し経った頃に、開発に行き詰まったことはありました。「ここから先はちゃんと勉強しないと、次のタスクがこなせないぞ」と痛感した瞬間でしたね。
それで、誰にも言わずに3日くらい、サンプルコードを読みまくって勉強しました(笑)
石川:そうだったんだ。知らなかった(笑)
──陰ながら努力されていたんですね。
石川:10Xのエンジニアに関しては、入社した後の言語習得は基本的に本人の学習に任せているんですよね。そもそも採用時点で「困ったことにぶち当たっても、自分で意思決定して解決していける人」を採用しているので。
特にDartはGoogleが開発した言語ということもあり、公式のドキュメントや教材が充実しているので、学習コストが低いんです。全社でフルDart体制でいくと決めたのも、他の言語と比べて誰もが習得しやすいと思ったからでした。
杉浦:たしかにDart未経験の身からすると、ドキュメントの充実はありがたかったですね。とりあえずドキュメントを読んで本番に実装してみると、ある程度キャッチアップできますし、実際のコードのイメージも分かります。
その上で、僕は先輩にコードレビューをしてもらって、理解不足だったことを補っていきました。ひと言でいうとOJTになるのかもしれないけど、「学び➝実践➝レビュー」のサイクルを回すことで、短期間でDartを書けるようになった手応えがありました。
──石川さんは、入社後の杉浦さんをどう見ていますか?
石川:8月に入社して3カ月が過ぎましたが、最近かなりギアが入ってきたなと思いますね。
目の前の仕事を着実にこなしつつ、中期的に解決しなきゃいけない問題や、改善すべき機能についても考えてくれていますし、「これをやりたい!」という意志があるのも伝わってきます。
面談やトライアルで抱いた印象からブレることなく活躍してくれている印象ですね。
──杉浦さんの目標は?
杉浦:10Xで目指していることに向けて最速で駆け抜けることです。将来的には「人口の8割がネットスーパーを使っている世界」をつくることができたら最高だと思っていますが、そのためにはやらなければいけないことが山積みです。当面は一つ一つの目の前の課題を解いていくことに全力で向き合っていきたいですね。
取材・文/石川香苗子 撮影/吉永和久 編集/河西ことみ(編集部)
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