法林浩之@jusがお届け!
UNIXエンジニア温故知新UNIXが生まれてから半世紀。脈々とソフトウエアの進化を支えてきた技術は、どのようにして今に至るのか? そこから学べるものとは? 日本UNIXユーザ会「jus」の法林浩之さんが、イベントレポートを中心に「UNIXの今」をお届けします!
法林浩之@jusがお届け!
UNIXエンジニア温故知新UNIXが生まれてから半世紀。脈々とソフトウエアの進化を支えてきた技術は、どのようにして今に至るのか? そこから学べるものとは? 日本UNIXユーザ会「jus」の法林浩之さんが、イベントレポートを中心に「UNIXの今」をお届けします!
日本UNIXユーザ会(jus)の法林です。この連載では、jusの活動報告を通して、IT関連のさまざまな話題をお届けしていきます。お楽しみください。
今回は、2021年11月に開催したjus研究会より、クラウドコラボレーションサーバ『Collabora Online』に関する発表をレポートします。
セッション概要
・タイトル:クラウドコラボレーションサーバ「Collabora Online」で共同編集してみた
・講師:榎真治(日本UNIXユーザ会)
・日時:2021年11月13日(土) 11:00-11:50
・会場:オンライン
研究会は、関西圏のITコミュニティーが集うイベント・関西オープンフォーラム(KOF)の中で行いました。
jus幹事の榎さんに講師をお願いし、『Collabora Online』を使った文書の共同編集、具体的にはjusの機関誌である『/etc/wall』の制作事例を紹介いただきました。
はじめにCollabora Onlineを使うことになった経緯の説明がありました。
『/etc/wall』の制作には長年にわたりTeXが使われてきましたが、現在ではjusの事務作業においてTeXを使用する機会がこの時しかなく、年1回しか使わないため環境のメンテナンスが行き届かないとか、jus幹事もTeXの環境や記法に慣れている人が少ないという問題が起きていました。
そこで、制作ツールを他のものに置き換えることが計画されました。
文書作成ツールとしてもっとも普及しているのはおそらくMicrosoft Officeですが、ライセンスを持っていない人もいるためOSSのものが望ましいことと、Googleドキュメントのようにオンラインで共同編集できるものが良いだろうということで、榎さんが利用経験のある『Collabora Online』を使って制作してみることになったそうです。
次に『Collabora Online』の概要が紹介されました。
『Collabora Online』はOSSのクラウドオフィスソフトウェア。自分でサーバを構築して使用するほかに、ホスティングベンダーもあるようです。
自分でサーバを構築する際には、『Collabora Online』にはファイル管理機能がないので、Nextcloudなどのファイル管理ソフトウェアと組み合わせて使う必要があります。
内部の仕組みとしては、サーバ側のバックエンドはデスクトップ版のCollabora Officeで描画し、レンダリング結果を画像化してタイルに分割してクライアント(ブラウザ)に送信。クライアント側はJavaScriptやHTMLなどで実装されています。
『Collabora Online』を使うメリットとしては、共同編集ができることの他に、自分たちが持つデータをGoogleなどのサービスに取られないことや、デスクトップ版(Collabora Office)との互換性が高く、両者でレイアウトがずれないという点が大きいです。
『Collabora Online』のサーバを自分で構築する際は、Collabora OnlineDevelopment Edition(CODE)を使用します。
構築方法は、Nextcloudのビルトインとして用意されているrichdocumentscodeを使う方法、debやrpmパッケージを利用する方法、Dockerイメージを利用する方法などがあります。
(ただし榎さんが試した範囲では、日本語のフォントが表示されないなどうまくいかないケースもあり、これに関しては調査中なのだそう)
そして、『Collabora Online』を使った共同編集の例として、実際に『/etc/wall』の制作に使ってみたときの様子が紹介されました。
『/etc/wall』はjusの活動報告をまとめたもので、掲載している記事はイベントレポートと事務局からの報告に大別されます。
イベントレポートはjusが会員向けに発行しているニュースレター(メールマガジン)で流したものの再録です。事務局からの報告は新規に原稿を作成しますが、報告事項は毎年似通っているので、前年の記事をもとに編集して作成することが多いです。
今回の制作過程としては、事前に榎さんが『Collabora Online』のサーバを構築し、『/etc/wall』用のテンプレートを用意しました。
テンプレートは見出しや本文などのスタイルを適切な状態に作り込んであります。記事を編集するjus幹事たちには、どのようにスタイルを適用してほしいかを榎さんから伝達されました。
あとは各々が原稿を流し込んでルール通りにスタイルを適用していきます。
イベント当日は、実際に5名ほどで同時編集を行いました。動作そのものはやや遅いながらもなんとかなりましたが、他の人が原稿の編集(特にテキストの流し込み)を行うと、それに連動して画面がスクロールするので編集しづらいという難点がありました。
対策として、原稿を『Collabora Online』に流し込む前に段落内の改行を削るなど整形しておくことで、スクロール回数を削減していました。
また、他のブラウザから『Collabora Online』に直接貼り付けると余計な書式が付いてしまうので、いったんエディタに貼り付けてプレーンテキストにしたものを流し込むようにするなどの工夫が必要です。
なお、書式の設定は原則としてスタイルを利用し、テキストに直接設定しないようにしました。
また、目次は『Collabora Online』が生成してくれますが、自動更新ではないので手動で更新ボタンを押す必要がありますし、たまに記事が自動保存されていないこともあるのでブラウザを閉じる前に確認した方が良い、など細かな注意点もいくつかあります。
その他、作業中に発生したトラブルとしては、スタイルをサイドバーから選択できなくなる(メニューバーでは選択可能)、書式を選択できないことがある(いったん他の箇所の書式を見ると選択できるようになる)といったものがありました。
特に原稿の量が増えると動作が重くなるのか、こういった現象が生じやすくなる印象があります。なお、動作が重いときは、ブラウザでページをリロードすると改善されることがありました。
このように、いくつか課題もありますが、同時編集で文書を作れるとかレイアウトが崩れにくいなどの大きな利点があり、『/etc/wall』の編集にも耐えられたので、jusでは今後も『Collabora Online』を利用する方向です。
そして、今回の発表は実際に使ってみた感触や構築方法の詳細な解説、動作のデモなどもあり、内容の濃いものでした。
また、単にOSSだから良いという原理主義的な主張ではなく、データ主権などの考え方も踏まえて、状況に応じてソフトウェアやサービスを選択すればよいという主張はとても共感できるものでした。
榎さんは、「開発コミュニティもさかんなのでぜひ参加してほしい」とのこと。関心のある方は参加してみてください。
法林浩之さん(@hourin)
大阪大学大学院修士課程修了後、1992年、ソニーに入社。社内ネットワークの管理などを担当。同時に、日本UNIX ユーザ会の中心メンバーとして勉強会・イベントの運営に携わった。ソニー退社後、インターネット総合研究所を経て、2008年に独立。現在は、フリーランスエンジニアとしての活動と並行して、多彩なITイベントの企画・運営も行っている
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